「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

5/30 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(5月第5週分)
5/29 社会経済学「有名人の骨がネットオークションに」(2)
5/28 社会経済学「有名人の骨がネットオークションに」(1)
5/27 現代社会学特論「椎名林檎、高らかに現役復帰!(16・最終回)」
5/26 競馬学特論「G1プレイバック・東京優駿(日本ダービー)編」
5/25 競馬学特論(短縮授業)「G1予想・東京優駿(日本ダービー)編」
5/23 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(5月第4週分)
5/22 特別演習「徹底検証! 世界漫画愛読者大賞」(3・終)
5/21 特別演習「徹底検証! 世界漫画愛読者大賞」(2)
5/20 特別演習「徹底検証! 世界漫画愛読者大賞」(1)

5/19 
現代社会学特論「椎名林檎、高らかに現役復帰!(15)」
5/18 
競馬学特論「G1予想・優駿牝馬(オークス)編」
5/16 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(5月第3週分)

 

 

5月30日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(5月第5週分)

 今日は“ちゆインパクト”後、初めてのゼミになりますので、新しい受講生の方たちのために改めてこのゼミについての説明をさせて頂きます。

 このゼミ・「現代マンガ時評」はその名の通り、新しく発表されたマンガについてのレビューを行う講義です。新人マンガ賞受賞者など、ニュース系の話題もお送りしますが、こちらは補助的なものと思ってください。

 現在は、駒木1人だけでゼミを担当しているため、「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年サンデー」の2誌を中心に、他誌の注目作を若干扱うのみに留まっていますが、将来的には非常勤講師をお招きして他誌のレビューも実施する計画です。
 レビュー対象作品は、読み切り作品、新連載作品です。また新連載作品は、その後の編集部内の方針が決定すると言われる第3回にも再レビューを行います。また、前・後編の読み切りは原則として後編掲載後に2週分をまとめてレビューします。

 また、レビューの最後にはA+からCまで7段階の評価を付記しています。評価の基準はこちらを参照して頂ければと思いますが、端的に言えば、Bで「可も不可もなく」、B+で「マンガ好きにお薦め」、A−で「一般人にもお薦め」、Aで「文句なしの傑作」……となります。A+は10年に1度出ればいいレヴェルと考えてください。
 ちなみに、駒木のレビューと評価はストーリーや設定の整合性重視です。

 ……と、いったところでしょうか。それではゼミの本題へと移りたいと思います。

 まずは情報系の話題から。

 もうインターネット業界では既報も良いところなんですが、元「週刊少年ジャンプ」連載作家・しんがぎん氏が急逝されました。29歳の若さでした。死因等については、病死という以外に確定情報がありませんので、記述を控えることにします。

 このニュースは、例の「徹底検証! 世界漫画愛読者大賞」の講義と相前後して飛び込んで来まして、何とも言えない気持ちにさせられました。
 確かにストーリーテラーとしての才能には疑問符の付く作家さんでしたが、絵を描くのに関しては群を抜いた力を持っていらっしゃった人でもありました。いずれ原作者付きでメジャーシーンに復帰するか、とも思っていたのですが、残念な事です……。
 しかし今回の訃報に関しては、しんがぎん氏が同人や大学のサークル等で活発に活動されていたために、ネットニュースと言う形で多くの人に知られるという形になりましたが、よく考えてみれば、元「ジャンプ」連載作家さんの中で消息不明になっている──所謂「消えたマンガ家」になっている──人は随分いらっしゃるはずですよね。そういう方たちの中にも既に亡くなっている方もいるんだろうなぁ……などと考えると、ちょっとブルーになってしまいますね。マンガ家というのも大変な職業だと痛感させられます。

 しんがぎん氏の冥福をお祈り致します。

 

 それでは今週のレビューの方へと移らせて頂きます。今週のレビュー対象作品は、ちょっと寂しくて「ジャンプ」からの2作品のみ、と言う事になります。もう少し時間的に余裕が有れば、他誌からも1〜2作品紹介したかったのですが……。
 

☆「週刊少年ジャンプ」2002年25号☆ 

 ◎新連載(連載再開)『ヒカルの碁』作:ほったゆみ/画:小畑健

 「佐為編」の最終回で予告された通り、6回の読み切り番外編を挟んで、連載が再開されました。今回がその第1回となります。

 もうすっかり完成された感のある作品ですので、改めてレビューするのもどうかという話なのですが、気後れせずに頑張ってみたいと思います。

 まずはですが、もうコレは文句のつけようがありませんよね。これだけの高いレヴェルや密度の作品を週刊ペースで発表できるというだけで驚異的でしょう。

 …と、それだけでは芸が無いので、今回改めてジックリと読んでみて気になった点を1つ。
 これは小畑さんとほったさん、どちらの意向か分かりませんが、この作品では、エキストラ的なキャラの表情が大胆に省略されているんですよね。中にはノッペラボウ状態の顔も見受けられます。
 でもこれは手抜きじゃないんです。表現上、凄く良い効果になっているんです。本当に強調したい主要キャラの表情がとても際立って見えるようになるんですよ。
 中でも特筆すべきなのが、「ジャンプ」本誌32ページ最終コマです。本誌をお持ちの方は是非開いて見てみて下さい。(予算不足のため、駒木研究室にはスキャナが無いのです。ご了承を)
 このコマには和谷を含めて7〜8人の人物が描かれているのですが、実際に表情が細かく描かれているのは川崎三段(ヒカルの対戦相手)1人だけ。そしてその表情が怯えを含んだ厳しい表情であるところから、瞬時に「ヒカル優勢、川崎三段劣勢」が見て取れるように記号化されているのです。
 これは非常にさりげないのですが、理詰めで計算し尽くしていないと出来ない、非常に優れた表現方法。この1コマだけでこの作品のレヴェルの高さが窺い知れるというものです。

 …と、絵に関してはこれくらいにしておきまして、ストーリーに関しても少々述べさせてもらいます。

 ネーム担当のほったさんの素晴らしい所は、とにかく脚本力の豊かさなんですよね。できる限り説明的なセリフを排した流れるような会話文の構成、さらにセリフとモノローグの使い分けもほぼ完璧です。主に堅苦しい表現なんかはモノローグにするわけなんですが、これが出来そうで出来ないものなのです。
 一番のネックになりそうな、囲碁の専門用語を使った記述も凄いんですよねえ。囲碁が分からない人でも、「何だか分からないけど、どうやらそういう事らしい」ということが分かるようなセリフ回しがなされているんです。これも相当計算づくでないと難しいんです。普通は『月下の棋士』みたいに、「氷室、3六飛か!」みたいな感じで終わらせてしまうんですが、手抜きしませんねぇ。凄いですよ。

 とりあえずしばらくはヒカルの高い実力を見せつけるようなエピソードが続く事になりそうです。そして、それが終わり次第、「日中韓Jr.団体戦」の国内予選に突入していくのでしょう。

 さて、全編褒めまくりのレビューになりましたが、批判するところが無いのですから仕方ありません。評価は文句ナシのA。逆に言うと、次の連載入れ替え時には現・連載作品がどれか打ち切りになるわけで……。いやはや、戦々恐々ですね。

 
 ◎新連載第3回『プリティ フェイス』作画:叶恭弘《第1回掲載時の評価:B−

 さて、続いては『プリティフェイス』の3回目についてのレビューなんですが、叶さんの経歴について新たな事実が判明しましたので、そちらの報告から。

 先週号(25号)の巻末コメントに、叶さん本人から「連載は10年ぶりで──」という旨の発言がありました。これは、これまで知られていた「デビュー10年目にして初連載」という経歴と食い違うものです。
 叶さんは、今から10年前の平成4年に「ホップステップ賞」(天下一漫画賞の前身にあたる月例賞)で賞を受けて、受賞作『BLACK CITY』で増刊号デビューしています。で、これまではこの時がマンガ家デビューだと思われていたのですが、今回の叶さんの発言はそれを覆すものとなりました。
 確かに当時の絵柄を見ると、新人離れし過ぎており(何せ、賞の発表ページの絵だけでファンレターが届いたらしいですから)他誌で既にデビュー済みだった方が自然と言えるかも知れません。
 ただ、どの雑誌でいつ頃デビューし、連載を持っていたのかまでは全く掴めませんでした。この件に関しては、また新事実が入り次第、このゼミでお伝えする事とします。

 さて、では作品のレビューへ。

 3週間読んでみて、やっぱり思うのは「絵が上手いよなぁ」という事。叶さんは、何と言いますか、マンガ的表現に優れている作家さんなんですよね。表情のデフォルメ表現がとても激しいんですが、その割には不快感を感じさせないんです。余程自分の絵に自信を持っているんだろうなあ、という事が伝わってきます。
 あと、前回のレビューで「強引過ぎる」と異を唱えた設定面も、巧みに微調整が図られていて良い感じになって来ました。というか、今回の冒頭で主人公に「しかし案外バレないもんだな。そっちの方が逆に驚くぜ」と言われてしまえば、もう笑うしかありません
 この人は、大風呂敷を広げておいて、それを畳むのが上手い人なのでしょう。本来なら褒められた事じゃありませんが、それはそれで職人芸ですよね。
 実は、前回レビューからの2週間で、叶さんの短編集『BLACK CITY』を古本屋で入手して読んでみたんですが、強引な設定を作ってしまう癖は、ジャンプデビュー以来ずっと引きずってきたものみたいです。
 ただ、叶作品で興味深いところは、設定や話の展開が強引な一方で、その強引さを、卓越した画力とストーリー運びの勢いの良さでカモフラージュしてしまっている、という点です。良い意味で誤魔化しが上手いんですね。
 こういう作風は非常に珍しいと思いますが、それが味になれば、逆にマンガらしくて良いのかもしれません

 まぁ少なくとも、続きを読んでみたいな、という気分にはなって来ました。評価も上げたいと思います。前回はB寄りB−でしたが、今回はB+へ。1段階半の上昇です。現在厳しい生き残り合戦ですが、まとまった話になるところまで続いてくれればなぁ、と思います。

 

 ……と、以上でレビューは終了です。今回は作品が少なかった分だけ密度を濃くするように努めましたが、どうだったでしょうか?

 次回は「ジャンプ」「サンデー」の他、「世界漫画愛読者大賞」準グランプリ作『がきんちょ強』についても扱う予定です。お楽しみに。ではでは。

 


 

5月29日(水) 社会経済学
「有名人の骨がネットオークションに」(2)

 では、前回に引き続きいての実践編であります。前回をまだ未受講の方はこちらからレジュメの閲覧を。

  ……さて。
 インパクトの強いグッズを出品し、高額の落札金額が望め、さらにオークションそのものも盛り上がるようにするためにはどうすれば良いでしょうか?

 そのヒント前回の講義から探ってみますと──

 ◎ミル=マスカラスのマスクのように、有名人の品ならインパクトも強いし、盛り上がること間違い無し。
 ◎いっそのこと体の一部分(パーツ)なら、レア度が高く、さらに高値が期待できる。
 ◎価値の有る物でも、いくつも出すと神通力が半減する。短期決戦がベスト。

 ……といったところでしょうか。
 これらの材料から出品グッズなどを決めていくわけですが、まず難しいのが人選であります。
 昨今、これだけ情報が多様化してきますと、幅広い世代に知られ、なおかつ好感度の高い有名人となるとかなり限られてくるものです。
 例えば、日本で最も知名度の高いタレントと言えばタモリですが、じゃあタモリでどうかというと、それもまた疑問符が付いてしまいます。確かに
 「タモリの植えた毛、出品!」
……というのはインパクトが大きいですが、その一方で「だからどう?」というマジツッコミが入りそうです。
 そう考えますと、やはり有名人であっても体のパーツに需要があるような人を選ばなくてはいけないでしょう。特に若くてヴィジュアルで目を惹く人が良いですね。体のパーツですから特にそうなります。

 男性タレントなら、やっぱりキムタクでしょうか。彼の体のパーツならいくらでも買い手がつきそうです。何せ、最強の消費者・F1層(19〜29歳の女性)がついているのですから。
 彼女たちは、この不況の中でも貯め込んだ可処分所得をせっせと次ぎ込んでくれるでしょう。髪の毛から始まって、最後は腎臓、肝臓、心臓に至るまで、まるでオトシマエをつける為にフィリピンに連れて行かれたヤクザのようにキムタクを剥いてしまう事は必至であります。

 ただこの場合、マスカラスのマスクではありませんが、出品内容が全て「キムタクの○○」となってしまいますので、オークションが進むごとにマンネリ化するのは否めません。それに、キムタク自身も子持ちの妻帯者になってしまいましたので、往年のカリスマ的な人気と比べると、やや色褪せた感もあります。ですので、とりあえずキムタクの臓器を売るのはしばらく保留としておきましょう。

 それでは女性タレントではどうでしょうか?
 案外、世間には気付かれていませんが、F1層に対してM1層(19〜29歳の男性)も高い購買力を持っています。女性のように派手な買い物はしませんが、ここぞと言う時にはドカンと大きな買い物をするのがM1層の特徴。それが大変顕著になった例が、約5年前の『新世紀エヴァンゲリオン』ブームでありました。 
 あの頃『エヴァ』に魅せられた人たちは、リリースされたCD、ビデオ、グッズを買い漁りました。さらにはビールをアサヒスーパードライから劇中で登場したエビスビールに切り替え、その一方で、キャラクターがプリントされたUCCコーヒー飲料用と保存用の2セット揃えて果敢なフードバトルを挑んでいったのでした。
 その往時の爆発的な購買力を再現できれば、オークションは一気に盛り上がります。1人でも多くのM1層を惹きつける女性タレントは誰が適任でしょうか?

 ……まぁこれには皆さんも色々と意見があるでしょう。巨乳好きな人、微乳好きな人、美人タイプが好みの人、可愛い系が好みの人、ヴァーチャルな“ぺったんこ・ほそい・うすい”18歳の幼女しか愛せない人、様々でしょう。
 しかしそれでも、様々な諸条件を考慮に入れ、さらに購買層のニーズの最大公約数を集約すると、モーニング娘。の皆さんに落ち着くのではないかと思います。今や国民的アイドルと言って良いくらいに各年代ごとの好感度も高く、さらに何といっても人数が多いのがオークション向きであります。同じ商品を出品するにしてもキムタクの13倍というのは、やはり魅力でありましょう。
 というわけで、これからモー娘。を起用したオークションの可能性について、しばし述べていきたいと思います。

 ※「徹底検証! 世界漫画愛読者大賞」をご覧になって初めて受講されている方に一応申し上げておきますが、この講義はシャレですので、その辺りを把握の上、ご覧下さい。硬軟取り混ぜた講義を提供するのが、この社会学講座なのです。

 ……さて、オークションを仕掛けるにあたって最大の問題となって来るのは、やはり“商品”選びであります。レア度が高く、M1層の購買力をそそるようなモノでなくてはなりません。
 ですから、絶対数が少なく、さらに普段はお目にかかれないレアなモノを用意しなくてはなりません。加えて、「なぜ、チャリティオークションに体の一部?」という疑問に答えるだけの理論武装が可能なモノにする必要もあるでしょう。落札した人につきまとう、ある種の後ろめたさを払拭してあげる配慮をしなければなりません。

 例えばこういう話があります。かつてフジTV系で放送されていた人気番組『ハンマープライス』で、アイドルの唇で型を作り、それをグミキャンデーにしたモノが競売に出され、たかがグミキャンデーにも関わらず数十万円の高値で落札された事がありました。
 その時点では、とても幸せそうな顔をTV画面に映し出しながら、数十万円のグミキャンデーを受け取っていた落札者ですが、悲劇はその放送後に待っていました。
 その放送を観た落札者の周囲の人たちの反応が一変したのです。
 家族からは罵詈雑言を浴びせられ、友人からは呆れられ、さらには会社の上司からは「経済感覚と常識に欠けた馬鹿者」というレッテルを貼られてイビられ、ついには失業してしまったとの事。
 状況を考えると致し方無しとも思われますが、それにしても悲惨な末路であります。

 ですから、今回のオークションも第二の悲劇を生み出さないようにしなければならないのです。

 モー娘。というモデル、レアな体のパーツ、そして理論武装可能なモノ………。

 これだけ限定されてしまうと、なかなか適するモノを見つけ出すのは難しいのではありますが、ただ1つ、ただ1つだけ条件をクリアするモノが存在していました。
 そう、それは我が国では遥か昔から、「コレを財布に忍ばせておけば、もしくは煎じて飲めば勝負事で負け無し」と言われた縁起物であります。
 ──もう、お分かりですね?

 

 そう、それは陰毛であります。

 

 …「モー娘。の陰毛」という言葉の響き、レア度、そして大義名分、全ての条件を兼ね備えた、まさに理想的な一品です。どーですか、お客さん?

 まぁ、中には「まだ生ぬるい!」などとおっしゃる方もいらっしゃるかも知れませんが、そこは売上金を受け取る立場になって考えてあげましょう。
 
「あの子、保田圭の尿を売ったお金で大学行ったのよ」
 ……などと陰口を叩かれるに至っては、勉学意欲も萎えてしまう事でしょう。それに、「よりによって保田のねぇ……」と言われてしまう保田圭本人も可哀相ではありませんか。

 しかし、いくら大義名分を確保したとは言え、このままでは女性団体から「女性の性の商品化だ」などといった非難が浴びせられる事は必至であります。辻元清美みたいなクソババオバサマの集団を相手にするのかと想像するだけで気が滅入ってしまいます。
 その非難を避けるためには、それ相応の予防線を張らなくてはいけません。やはりここではプロデューサーのつんく♂氏に文字通り一肌脱いで頂きましょう。

 「モー娘。の陰毛&つんく♂の陰毛セット」

 まさに男女同権。こうすればヨシでしょう。何かの弾みでモー娘。のとつんく♂のとが混ざってしまえば、「うおぉぉぉぉぉ!」と咆哮しながら悶絶する事間違いナシの、危険な香りの漂う商品に仕上がりました。

 が。

 ここで大問題が降って沸いてまいります。
 オークションにあたって、商品が本物であるかどうかを証明しなくてはならないのです。

 そもそも以前から、このようなアイドル関連のグッズ等には疑惑が付いて回っています。
 例えば、1994年に行われたミスタードーナツの懸賞として実現した、高橋由美子が手作り弁当を手渡しでプレゼントするという企画。その弁当が本当に本人が作ったのかどうかという事もさることながら、圧倒的な数の男性応募者を抑えて、14歳の少女が当選したという事に疑惑が集中しました。手渡ししなくてはならないので、初めから男は抽選から除外されていたのではないか、と疑われたのです。
 その他、当時人気絶頂だった華原朋美が、ファン3名と温泉に入るという企画でも、選ばれたのが結局3人とも女性であったことで「出来過ぎと違うのか?」と囁かれたりしました。本人は「混浴だ〜」などと、ラリった頭で言ってたそうですが……。

 とまぁ、そういうわけで、今回のオークションをするにあたり、それが本物だということを証明しなくてはなりません財産全てを処分してまで購入したモノが、適当に男子便所から拾ってきた毛であってはならないのです。
 ですので、この際、「毛が本物であると証明する役」を先立ってオークションに出してしまうのはどうでしょうか? そう、現物を採取する現場に立ち会える権利であります。全国のモーヲタが得体の知れない液体を体中から分泌しながら妄想していた情景が現実になるのです! これは文句無し、超ド級のレアさであります。ついでにつんく♂の毛を引き抜く現場を見なければならないのがアレですが、野良犬に噛まれたと思って諦めれば何てこと無いと思います。

 ……と、下衆な提案をするだけしたところで時間が尽きてまいりました。こんな講義をする事もありますが、新受講生の皆さん、これからもどうかよろしくお願いします。(この項終わり)

 


 

5月28日(火) 社会経済学
「有名人の骨がネットオークションに」(1)

 いやはや、大混乱の社会学講座であります。
 28日深夜は受講生の方が殺到してサーバーが混乱満足な環境を提供できなくなってしまいまして、誠に申し訳ありませんでした。突発的なディープインパクトでしたので、如何ともし難かったのです。せっかく紹介していただいた『最後通牒』さん『ちゆ12歳』さんにも大変申し訳ないことをしてしまいました。
 おまけに、その混乱のためか、疲労の蓄積か、どうも体調まで優れなくなってしまい、講義の実施が遅れてしまいました重ねて謝罪申し上げます。

 しかし、せっかくたくさんの受講生に恵まれている今、講義を実施しないというのも勿体無い話ですので、疲れた体に鞭打って講義を開始します。物理的事情もありますので、今回の講義は今日付・明日付2回に分けてお送りする事になります。
 で、色々な事があって妙にテンションが高いせいか、今回は下衆な講義をしたい気持ちで一杯です。題名と裏腹に下品な講義になると予想されますので、少しだけ覚悟しておいて下さい。

 では、早速本題へ。

 まずはこちらのニュースをご覧頂きましょう。

 イチローの同僚、ジェフ・ネルソン投手が10日に受けた右ひじの手術で摘出した骨片を、ネットオークション・サイトの「eBay」に出品したところ、2万3600ドル(約306万円)もの高値がついた。

 ところが、「人体の一部を売ってはいけない」という規則に抵触。入札は24時間で打ち切られたが、抜け道があるもの。今度はそうしたルールのない、地元ラジオ局のホームページで再度、オークションにかけられることになったのだ。

 ご丁寧にも「世界中で話題になった、ネルソンの骨が帰ってきた」というコピー付きだった。

(※中略)

 マ軍のリック・グリフィン・チーフトレーナーは「ネルソンに執刀したチーム担当医が持ち出したんじゃないか。僕はイチローの(左ひざを縫った)糸を持っているから、それを売ろうかな」と苦笑する。

 

(※中略)


 万が一にもイチローが承諾していたら、糸くず欲しさに何百万円もの大金が飛び交う狂乱騒ぎになっていたはずだ。

 ちなみに、ネルソンの骨に興味がある方は「http://www.kjram.com/」で米西部時間の23日午後12時45分まで入札中なのでチェックしてみては?

 もちろん、転売して利益が出るかは一切保証できません。
(夕刊フジより)

 ……なんと、有名スポーツ選手が手術で摘出した体のパーツまで競売に出してしまおうという、ある意味とんでもない試みについてのニュースでした。

 しかし、スポーツ選手が自分の“お宝グッズ”を市場に放出し、その売上金をチャリティーに寄付するという試みは、かなり以前から現在に至るまで頻繁に行われています。

 特に駒木にとって想い出深いその手のオークションと言えば、もう10年以上前に消滅してしまったプロレス団体・ユニバーサルプロレスで行われたグッズオークションでした。これは、日本一マイナーなプロレスマンガとして名高い『最狂超プロレスファン列伝』でも紹介されていた話ですので、ご存知の方も若干いらっしゃるかもしれませんが……

 このユニバーサルプロレスという団体は、日本で初めてメキシコ式プロレス・ルチャリブレを専門としたプロレス団体でして、現在活躍している多くのプロレスラー(メキシコ式に言えばルチャドール)を輩出した事で知られています。
 ただ、今は消滅してしまった事でもお分かりのように、この団体は経済的基盤が弱い上に放漫経営という、避妊しないくせに早漏の男みたいなタチの悪い団体でありました。団体が潰れた理由も、選手へのギャラ未払いなどの金銭的な理由が発端でした。選手達はそういう状況下で日々の生活費に困った挙句、ギャラが貰えないなら自分でギャラを稼ぐしかないと新団体を設立。これが現在の「みちのくプロレス」であります。

 ……とまぁ、こんな団体が実施するオークションでありますから、オークションそのものも至ってエエカゲンなモノでした。そもそも、日々の運営費にも事欠く団体がチャリティーオークションをやる事そのものが間違っています。そんなもの昨年度の源泉徴収票記載金額が630,720円である駒木が、恵まれない人のための募金を決行するようなものです。──えぇ、桁は6ケタで合ってますよアダルトビデオ借りる時も、“1泊2日”で100円増の最新作など贅沢すぎて手が出せません。

 …まぁしかし、その時会場に詰め掛けたファンは、そういう事情を清濁併せ呑んでオークションに参加しているわけですので、イベントそのものは極めて和やかなムードで進展していきました。
 オークションはまず、団体の所属選手の日用品などから始まり、それから試合用コスチューム覆面などレア度の高い物が次々と出品されていきました。
 この手のイベントに参加した事のある方ならお分かり頂けると思いますが、こういう場では、雰囲気に酔って島本和彦マンガのように熱く燃え上がってしまう人が何人かいらっしゃって、信じられないくらいに値を吊り上げていくものです。
 この日もそういう猛者が複数現れて、次々と出展品を高値で落札していきました。会場の雰囲気も自ずと盛り上がり、10万円以上の落札者に対しては、観客一同から「おっ金っ持ち! おっ金っ持ち!」コールの大合唱。その内に「おっ金っ持ち!」コールを浴びたいがために、欲しくも無いグッズに大枚をはたく者まで現れて、オークションは文字通りの大盛況になっていきました。
 さぁ、まさに宴もたけなわ。残るグッズも数少なくなっていきました。リングで司会役を務める団体代表が叫びます。

 「さぁ、いよいよ、ミル=マスカラスのマスクです!」

 おおーぅ! と、どよめく観衆。
 それもそのはず、ミル=マスカラスと言えば、かつては全日本プロレスで活躍し、ザ・デストロイヤー“覆面レスラー世界一決定戦”を戦った、そしてデストロイヤー相手に得意技のフライングボディアタックを仕掛けた時、股間からデストロイヤーの頭にアタックしてしまい、日本プロレス史上最も壮絶なマジ自爆を喫した事でも知られる、日本一有名なメキシコ人レスラーです。そのマスカラスのマスクが出品されるとあっては、会場に詰め掛けたファンも盛り上がらずにはいられません。場はまるで、男子高校の修学旅行バスに10代の新人ガイドが乗り込んだ瞬間のような様相となりました。
 ……そうです。「しつも〜ん! ガイドさんは運転手さんとヤってるんですか〜!?」という野次が炸裂してガイドさんを赤面させるや、最前列に座っていた体育教員の担任「何を失礼な事言うとるか、バカモーン!」と怒鳴り散らし、しかし実は彼もその心中で「本当にヤってるんですか?」と訊きたくて仕方ないという、正にあの状況であります。いやはや、本当のところはどうなんでしょうね? さすがの駒木も、塾の先生の中に時々生徒とヤってる人がいる事は知ってますが、バス業界の事は知りません。

 と、閑話休題。
 そんなボルテージが最高潮の状態ですから、当然値段も跳ね上がります「ここで落札せんと、いつどこで何を落とすんや!」と、ダニエル=カールも昔に帰って関西弁でまくし立てそうな場面であります。
 その結果、グングンと値段は跳ね上がり、10万円をはるかに超える高額でマスクは落札。会場中から割れんばかりの「おっ金っ持ち!」コールが吹き荒れます。

 と、落札者も決まり、これ以上レアな商品も望めない状況になりました。ここで当然オークションもお開きか、と誰しもが思っていたところ、司会の団体代表は更にグッズを取り出しました。

 「では、続いてマスカラスのマスクで〜す!」

 場内ドバー、であります。これが吉本新喜劇ならば数百人が一斉にズッコケる壮観な場面が展開されるところでありました。
 が、一瞬は「おいおい、それはアリか?」と思った観客も、すぐにもう1回チャンスが巡ってきた事を素直に喜び、またしても激しいセリが展開されました。これも当然10万円を超える攻防でした。そしてまた響き渡る「おっ金っ持ち!」コールまさに大団円というに相応しい温かいムードとなりました。

 が、しかし。

 リング上の団体代表は三たび、グッズが入っていた大きな紙袋に手を突っ込むではありませんか。

 嫌な予感が漂い始めました。そして……

 「は〜い、これもマスカラスのマスクで〜す!」

 ……後ろの穴を許すかどうかで全裸のまま揉め始めたカップルのような寒い雰囲気の中、3枚目のマスクは驚くほど安値で落札されたとのことでした。

 ──などというケースもあり、オークションというものは1つ間違えると大失敗に終わってしまう“水物”です。
 が、出品するグッズや落札価格の目安を綿密に計算すれば、大変意義深いイベントになる、これも確かです。特にチャリティーの役割も果たす事も出来るわけですから、開催自体に二の足を踏む事はありません。イベントの内容次第では、タレントが前もってマネージャーを銀行に走らせて1000円札を1円玉に両替し、ペットボトルに詰め込んで持参するチャリティーイベント「24時間テレビ」を凌ぐビッグプロジェクトにする事も可能です。

 では、どんなイベントを実施すれば良いのでしょうか? 明日の講義にはその辺りを更に下衆に迫ってみたいと思います。(次回へ続く

 


 

5月27日(月) 現代社会学特論
「椎名林檎、高らかに現役復帰!(16・最終回)

 およそ2ヶ月前、3月19日から16回にわたってお送りして来ましたこの現代社会学特論も、いよいよ今日で最終回という事になりました。
 奇しくも、林檎さんの復帰第1作カヴァーアルバム・『唄い手冥利〜其の壱〜』の発売日当日に講義終了という事で、良い感じに幕が引けそうなのは嬉しい限りであります。受講生の皆さんには、最後までどうかご清聴頂けるよう、お願い申し上げます。

 ↓過去の講義のレジュメ一覧
第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回(事故で消失しました)第9回第10回第11回第12回第13回第14回第15回

 前回は、急遽入って来た「椎名林檎、離婚していた!」のニュースについて扱った“番外編”でしたので、講義の本筋は、前々回の第14回からの続きになります。
 その第14回では、2000年に入ってから林檎さんの発表する歌の感触が、徐々に“手加減抜き”のモノに変わって来て……というところで“次回に続く”となったのでした。2週間以上の間隔が空いていますので、詳しい事は過去の講義のレジュメを参照して思い出して頂ければ、と思います。

 

 2000年3月31日、まさに年度末ギリギリというこの時期に発売された林檎さんの2ndアルバム『勝訴ストリップ』は、店頭に並ぶや瞬く間に店頭からレジを経由して消費者のカバンやCDプレイヤーの中へと消えていきました。
 その売れ方たるや、オリコンの週間アルバムランキングで初の1位となる爆発的なもので、最終的にはセールスは233万枚以上に達しました。この記録は、今でも林檎さんの生涯No.1のものとなっています。普通の演歌歌手なら100人が一生かけても売れ尽くせ無いくらい大量プレスされた初回限定の紙ジャケ版も、発売から1ヶ月経たない内に完売『新世紀エヴァンゲリオン』初回限定フィギュア同梱版を未だに持て余す全国の大型書店が、それこそ泣いて羨ましがりそうな光景でありました。

 前作『無罪モラトリアム』を遥かに凌ぐこの売れ行きに、どれ位の倒産間近なレコード屋さんがトイチへの返済資金を確保できたか分かりません。もしも受講生の皆さんの住まいの近くに2000年5月前後に閉店したレコード・CD店があったとしたら、それは多分、林檎さんのCDのおかげで命が1月ほど伸びたお店です。
 …まぁ、そんな事を知っても、今となってはどうにもなりませんが、潰れた店のオーナーが、今でもせめてペリカを巡ってチンチロリンに励んでいる事でも祈っておきましょう。

 ……と、こうして『勝訴ストリップ』は多くの人が聴くところとなったのですが、発売からしばらくすると、周囲からはチラホラとこんな声が聞こえてくるようになりました

 「こんなの、私が好きな林檎さんの曲じゃない!」

 ──それは、前作『無罪モラトリアム』で椎名林檎ファンになった、比較的ライトなリスナーからの“拒否反応”でした。

 確かに『勝訴ストリップ』の収録曲は、一言で表現すると“アクの強い”楽曲のオンパレード。まさに全編“手加減抜き”の椎名林檎といった具合でありました。何せ、あの看護婦コスプレ&巻き舌炸裂の『本能』が普通の歌すぎて浮いているくらいです。
 そういうわけですので、ライトリスナーにとっての『勝訴ストリップ』とは、それまでコンビニの雑誌棚の一番左端にある「アクションカメラ」でドキドキしていた高校生が、それ系の専門店に足を踏み入れて「SMスナイパー」を見つけてしまったようなもの。「凄い!」という以前に面食らって引いてしまった、というわけだったのです。

 もっともこの『勝訴ストリップ』コアな林檎ファンにとっては非常に満足いく作品であった事も、また事実であります。ライト層にはキツい楽曲も、コアなファンには心地良く、それどころか心の支えにもなり得る作品だったのです。
 例えば、これは駒木の個人的な話になるのですが……

 他人のプライベートが絡んでくるので詳しくは述べられないのですが、駒木の周りでカップル成立や結婚の報告が相次いだ事がありました。
 もちろん、それは大変喜ばしい事です。駒木も心から「おめでとう」を言いたい気分です。ですが、ふと自分の身を振り返ってみると、幸せになった人たちとの余りのギャップに愕然としてしまったりもするのです。まぁ要は、「彼女がもう5年以上いねえ、こんな自分どうよ?」という気分になったわけですね。
 で、更に研究室で珠美ちゃんに、「いやぁ、みんな幸せになってくねぇ。それに引きかえ、俺たちは毎晩研究室にこもってさ。これってどうなんだろうね?」……などと、苦笑交じりに言ったところ、彼女から、
 「それは、博士がもう少し早く講義を終えられて、常識的な時間で仕事が終わるならば、どうにかなると思うんですけど。ええ、
少なくとも私は

 …などと、痛烈な皮肉を言い放たれ、どうしようもない陰鬱な気分になったりしたのです。
 これはイカンと思った駒木は、自宅に帰った後、気分でも紛らわそうと適当にCDを放り込んで再生ボタンを押しました。
 しかし、その適当に放り込んだCDはザ・ブリリアントグリーンの『愛の 愛の星』。ヴォーカル・川瀬智子の歌う切なげなラブソングが部屋中一杯に響き渡るに至って、ますます精神状態がヤバくなってしまいました。
 うあぁ、これはイカンとCDを交換して再び再生ボタンを押すと、今度は島谷ひとみの『やさしいキスの見つけ方』が流れて来てしまいました。「♪こんな小さなSサイズに君は入っちゃうんだね〜」という歌詞が耳に飛び込むや、これまで駒木の前を通り過ぎていったSサイズの女性たちが、脳裏の右から左へと横切って行きました自我が映画『グラン・ブルー』よろしく深海へと沈み込んでゆきます。加えて、「どうして俺はこんなラブソング(のCD)ばかり持ってるんだ」と、自分で自分を呪い殺したくなってしまいました。
 もうダメです。後は林檎さんに救ってもらうしかありません。今度は慎重に『勝訴ストリップ』を探し出し、CDプレイヤーにぶち込みます。ブルーな心に染み込むベースの音が流れてきました。アルバムの1曲目、『虚言症』のイントロです。
 元々は10代の頃に知人を励ますために作られた『大丈夫』が原曲ながら、林檎さんが「歌で心が癒されるなんて嘘っぱち」と考えて『虚言症』に改題されたこの歌が、何故か駒木の心に染み込んでいきます。虚言ですら心を癒されてしまう自分はどうかと思いながら、さすがは林檎さんだとも思ったりしました。
 サビが聴こえてきます。
 
♪線路上に寝転んでみたりしないで大丈夫〜
 そうだ! 大丈夫なんだ! 特急に轢かれなくても大丈夫──!

 ……と、コアなファンにとって、『勝訴ストリップ』はこんな風に心の支えになってくれる、素晴らしい1枚なわけです。まさに真の林檎ファンかどうか見極める分水嶺とも言うべき作品でありました。

 それにしても、何故に林檎さんはここまでライトなファンを切り捨てるような行為に走ったのでしょうか?

 誰もが認める一流アーティストになったとは言え、林檎さんはまだデビュー2年に満たない新人『勝訴ストリップ』も、まだ2枚目のアルバムです。もう少し『無罪モラトリアム』のようなライト・リスナー寄りの路線で実績を積み重ねても良いのではないか、という声も聞かれました。
 しかし、それには林檎さんが自分で決めた深い深い事情がありました。彼女にしてみれば、2枚目のアルバムは『勝訴ストリップ』のように“手加減抜き”の楽曲の掻き集めでなければならなかったのです。

 実は、林檎さんはデビューからしばらくした後から、人知れず大きな苦悩を抱えながら音楽活動を続けていたのです。
 それは、こういう事情でした。 
 デビュー前に“英国逃亡騒動”があったこともあり、林檎さんのメジャーデビューは19歳も半ばを過ぎてからでした。もちろん、これは標準から考えると十分すぎるほど早いデビューではあるのですが、ここで思い返してもらいたいのは林檎さんの音楽的な早熟さについてです。
 彼女は幼少の頃からピアノを始め、中学生時代にはバンドデビュー。さらに高校を中退してからはプロ活動を念頭に置いた本格的な音楽活動を続けて来ました。それはヴォーカルやバンドプレイだけではなく、作詞・作曲活動においても言える事でした。
 メジャーデビューが決まった時点で山ほどのデモテープを持ち込んだというエピソードが示す通り、“作詞・作曲椎名林檎”のクレジットが付く楽曲の多くは、林檎さんが10代の頃に作ったものです。中には中学生の頃に作った曲(『あおぞら』など)もあり、その早熟な才能にはただただ脱帽モノではあるのですが、実はこの早熟さに林檎さんの苦悩が内包されてもいたのです。

 年を重ねて20代になったメジャーアーティスト・椎名林檎は、当然の事ながら自分の歌を唄います。ただ、それは今の彼女の歌ではなく、10代の頃の自分を投影させた歌がほとんどです。
 自分が歌を唄う。多くの人が評価してくれる。でもそれは、今の自分を唄ったものではなくて、まだ福岡で夢に胸を弾ませていた頃の自分を唄ったモノなのです。そこには克服不能な大きなギャップがありました。
 自分と自分との間にギャップを感じる事の恐ろしさなど、凡庸な駒木には全く想像のしようがありませんが、ただ確かに1つ言える事、それはこのギャップで林檎さんがとても苦しんでいたと言う事です。

 そんな状況の中、林檎さんは1つの決心をしました。
 「椎名林檎名義のオリジナルアルバムを3枚出したら、椎名林檎は活動を終了する」
 林檎さんの中での“椎名林檎”とは、少女と女性の間で揺れ動く10代の頃の自分であり、20代の自分ではない。少なくとも20代以降の自分を表現するのに“椎名林檎”という名義は使ってはいけない。もちろん、今もこれからも10代の頃の自分を演じる事は出来るが、それだけはやってはいけない──
 ……これが彼女が出した結論でした。
 一時期、“椎名林檎引退? いや改名して椎名蜜柑?”……などと言われたりしましたが、事の真相はそういうわけだったのです。
 ただ、ファンの方は安心してください。林檎さんは、ソロとして活動を終了した後も色々なバンドの一員として活動する事も明言しています。非常に珍しい(逆ならよく聞きますが)ソロアーティストからのバンドメンバーへの転身を果たした後の彼女の活躍もまた、非常に楽しみであると言えましょう。

 そして、2枚目のアルバムで早くも路線変更を決断した理由は、他でもなく「アルバムを3枚しか出さないのに、悠長な事など言ってられない」というわけなのでした。1枚目のアルバムは“売れなければ、注目を浴びなければ話にならないアルバム”でした。だから『無罪モラトリアム』だったのです。
 しかし、その時期はもう終わりました。“椎名林檎”は生き急がなくてはなりません。そして、自分やファンにウソをついてまで音楽活動を続けてはいけないのです。

 そんな林檎さんの“手加減抜き”の活動は、まだまだ続きます。流通形態はアルバム扱いながら、“8cmシングル3枚組”という形式のため、オリジナルアルバムとしてはノーカウントとなった作品集『絶頂集』が、2000年9月13日に発売されました。
 この、まるで“プロレスのフォールカウント2.9”みたいな事実上の3rdアルバム『絶頂集』は、林檎さんがこれまでの多彩な活動の中で結成した3つのバンドが各シングル1枚・3曲を担当したもので、一種の競作集と言えるものでした。
 都合9曲収録された楽曲は、どれもこれも“手加減抜き”で自我剥き出しになった林檎さんそのもの。特にこの作品集は、これまでになく現在、つまり20代の林檎さんのエッセンスが滲み出ていて、彼女のリリースしたCDの中でも非常に特異な存在となっています。
 そのためでしょうか、この『絶頂集』は発売第1週こそオリコンの週間アルバムランキング1位を獲得したものの、林檎さんのCDにしては珍しく数週間でセールスが激減。約43万枚の売上に留まってしまいました。これは、この年の春に発売されたシングル『罪と罰』の54万枚を下回るもので、事実上、ファンが林檎さんに叩きつけた不信任票といえるシビアな結果でありました。
 「林檎さんは聴く立場になって音楽を作っていない」
 …そういう無言の抗議が数字に表れたとみて良いのではないでしょうか?

 正直、この頃の駒木は、林檎さんのこれからについて強い危惧を抱いていました。このままだと林檎さんは、“ソロアーティスト・椎名林檎”を全うする前に潰れてしまうのではないか──? そう、思ったのでした。

 しかし、それは当然の事ながら杞憂に終わりました。

 椎名林檎という人は、アーティストとして以上に、エンターテイナーとしての才能を持った人です。そうでなければ、ライブやコンサートで観客を魅了するようなパフォーマンスを見せつけたりすることなど出来ません。
 …そんな林檎さんが、ひとたび音楽の中にエンターテイメント性を含ませようとすれば、たちまち素晴らしい、聴く人の方を向いた歌が出来上がるのでした。
 2001年3月28日、妊娠発覚の直後に発売された8thシングル『真夜中は純潔』は、折からのCD不況の影響と“宇多田VSあゆ・アルバム戦争”と正面衝突したために売上こそ36万枚と伸び悩みましたが、東京スカパラダイスオーケストラや、アコーディオン奏者のcobaなどの大物をバックバンドに従えて、非常にレヴェルの高い楽曲をリスナーの耳に焼付けました
 また、このシングルは、プロモーションビデオが全編アニメーションだった事でも注目を集めました。もっとも、これは林檎さんが妊娠中で無茶が出来ず、元々実写用に仕上げられた絵コンテをアニメに転用したものだそうですが。今となっては、ヘリコプターアクションをする妊婦・椎名林檎を観てみたかったりもしますが…。

 駒木が個人的に圧巻だったのが、3曲目・カップリングとして収録された『愛妻家の朝食』でした。
 冒頭でまず、「昼過ぎに珍しくテレビをちょっとだけ観たわ/果物がタバコの害を少し防ぐと言うの」という、みのイズム溢れる唄い出しで攻めて、それから貞淑な妻を連想させる歌詞が延々と続きます。
 で、このまま終わるかと思ったら2回目のサビで、
 「処でこんな情景をどう思われますか?/差し詰め勝手気儘(きまま)な嘘を云いました」
 などと、急転直下の“妄想オチ”。とどめには、
 「だから右手に強く握る光など既に見えない…/『もう何も要りません』」
 と、右手に握った“光(=ナイフ)”で自分を一突きという“自殺フィニッシュ”でシメて、美しいアコーディオンの調べが葬送曲のように流れて終了。

 …どうですか? 他のアーティストは真似しない、真似できない、真似したくも無いこの楽曲。これこそが椎名林檎の真骨頂であります。

 こうして、「椎名林檎、健在!」をアピールした林檎さんは、お腹の中の新しい命のために1年間の休養に入りました。
 激動するJ-popシーンにおいて1年のブランクは、本来なら引退同然の痛手になります。しかし、そこは我らの椎名林檎さん。高らかに現役復帰を宣言するや、今日この日発売された、復帰作となるカヴァーアルバム『唄い手冥利〜其の壱〜』で、衰えるどころか益々冴えを増した才能を遺憾なく発揮してくれました。(ちなみに、『唄い手──』はカヴァーなので、『終了までの3枚』にはノーカウントです。何だか往年の『アントニオ猪木引退カウントダウン』の様相を呈してきました)
 カヴァーしたのは全部で18曲。そのジャンルはクラシックからジャズ、ロック、ポップス、歌謡曲、そして「みんなのうた」に至るまで多岐に渡っています。まさにアーティスト・椎名林檎のルーツを探るような選曲の数々であります。
 しかも1曲たりとも原曲の原型を留めないほど加えられたアレンジによって、カヴァーと言うよりも、椎名林檎オリジナルといっても過言ではない独創性に富んだ仕上がりになっています。そのため、カヴァーアルバム特有の物足りなさが一切感じられません
 更には、宇多田ヒカルとの東芝EMIガールズ再結成を始めとした、中にはレコード会社の壁をも破った豪華メンバーとのデュエットの数々。ここに来て東芝EMIの売らんかな主義が作品のクオリティにも好影響を与えるようになって来ました。

 こうして、ますます順風満帆な状況の下、ソロ活動としてのラストスパートを開始した林檎さん。恐らく2〜3枚のシングルと、『唄い手冥利』の続編、そして活動の集大成となる3枚目のアルバムが、彼女に残された活動の余地となると思われます。
 これまでも我々をあの手この手で翻弄し続けた彼女の事ですから、これからも音楽シーンをビックリさせるようなパフォーマンスを展開してくれる事と思います。そしてそれを、心待ちにして日々を過ごしたいと、駒木はそう思っています。

 ──さて、最後はかなり蛇行と駆け足の繰り返しになってしまったこの講義ですが、とりあえずはこれで終了します。次はいつになるか分かりませんが、またこの講義で林檎さんの事を採り上げる事が出来れば、と思っています。長らくの受講、どうもありがとうございました。(この項終わり)

 


 

5月26日(日) 競馬学特論
「G1プレイバック・東京優駿(日本ダービー)編」

駒木:「さてここからは、珠美ちゃんと一緒にダービーの結果を受けてのレース回顧を始めたいと思います。それじゃ、よろしく」
珠美:「ハイ。こちらこそよろしくお願いします」
駒木:「ところで今日の府中競馬場は、小泉首相が来場して、内閣総理大臣賞を自ら授与したとかで盛り上がったみたい。そういやちょうど1年前、小泉さんは両国国技館で『感動した!』をやったんだよね
 去年は相撲で今年は競馬。何やら馬券も当たったとかでご満悦だったらしいね」
珠美:「誕生日が1月8日で1-8、そして今日が26日だから2-6ですって。それを馬連と枠連で5000円ずつ。そうしたら枠連が的中したとかで……。
 もう私、そんな買い方した人に負けちゃうなんて、悔しくって悔しくって(苦笑)。『私が一生懸命予想したものは一体なんだったのー!』って感じです」

駒木:「(笑)。でも悔しいよね、そういうのって。こちらは真面目に頭を痛めて予想してるわけだからさ。
 ……けど、よく考えてみたら、デタラメに買ってる割には、馬連と枠連の1-8、2-6って、どれも全くの的外れじゃないんだよね。むしろ本命サイドに近いくらい。やっぱりこの人は何か豪運を持ってるんだよ(苦笑)。一緒に麻雀だけはしたくないタイプの人だ(笑)」
珠美:「(笑)。確かにいつの間にかコテンパンにやられちゃいそうな気がしますものね」
駒木:「まったくね。……おっと、雑談はこれくらいにして、早速レース回顧に移ろうか。珠美ちゃん、結果一覧表をお願い」
珠美:「ハイ。それでは、本日行われましたダービーの全着順と私たちの予想印を一覧表にして振り返ってみましょう。では、以下の表をご覧下さい」

東京優駿(日本ダービー) 結果
着順 馬番 駒木 珠美

馬 名

騎 手
× タニノギムレット 武豊
11 × シンボリクリスエス 岡部
× マチカネアカツキ デザーモ
10     メガスターダム 松永
18     ゴールドアリュール 上村
×   アドマイヤドン 藤田
15   バランスオブゲーム 田中勝
ノーリーズン 蛯名
  × ヤマノブリザード 柴田善
10 17 タイガーカフェ 四位
11   × テレグノシス 勝浦
12 16     バンブーユベントス 村田
13     ダイタクフラッグ 江田照
14     モノポライザー 後藤
15     ファストタテヤマ 安田
16 12     チアズシュタルク 石崎隆
17 14     サスガ 安藤勝
18 13     サンヴァレー 田中剛

駒木:「詳しい事は後に話すとして、それにしても武豊騎手はオイシイところを持って行くよねぇ(苦笑)。せっかくの穴狙いだったのに、一番安めの的中になっちゃったよ。まぁ、当たっただけでも儲けモノの当たり方だったから、滅多な事は言えないんだけどさ。
 んで、武豊騎手はこれで史上初になる3度目の日本ダービー制覇か。……そう言えば武豊騎手のダービー勝ちは、今回も含めて全部、皐月賞1番人気敗退からのリベンジなんだよね。まったく、ドラマティック過ぎるよこの人は!(苦笑)」
珠美:「さっきから言ってますけど、もう私は悔しくて悔しくて……。後から考えれば考えるほど、『どうしてこの組み合わせ買ってなかったのかしら?』っていう決着ですし、仁経大関係の知り合いからは『今日の馬券は獲れたでしょ?』とか言われちゃうしで、もうホント散々です(苦笑)」
駒木:「気持ちは分かるよ。僕も以前はそういう事がよくあった。いや、今もあるか(笑)。まぁ、これを反省の糧にして今後に繋げるんだね。
 …それじゃ、そういうわけで本題に行こうか」
珠美:「ハイ。今日はみっちり勉強させていただきます(苦笑)。それじゃいつも通りに、まずは上位5着までの馬を振り返っていただきますね。では初めに第69代ダービー馬になりました、1着馬・タニノギムレットからお願いします」
駒木:「競馬で勝つ時っていうのは大概そういうものなんだけど、今日は危惧していた不安材料が全く出て来なかったよね。レース前に展開予想してて、『ひょっとしたら最後方に置かれるかも』とも思ったんだけれど、中団でレースする馬が何頭か後手を踏んでくれたおかげで理想の位置が取れたし、前走(NHKマイルC)みたいな致命的な不利もなかった。連戦の疲れは無かったとは言えないだろうけど、レースに直接影響が出るほどのダメージは無かったみたいだし。
 武豊騎手の作戦も地味だけど光ったね。駆け引きよりもタニノギムレットの能力を引き出す事にウェイトを置いたのが良かった。コンディションが整っていて自分のレースが出来れば、おのずと結果も付いてくると思ってたんじゃないかな。そして、コンディションが整わなかったら何やってもダメだとも思ってたはず。だから半分開き直りみたいなレースが出来たんだよね」
珠美:「中2週続きでG1を3走するなど、タニノギムレットは詰まり気味のローテーションが心配されていたんですが、これはどうだったんでしょうか? 特にNHKマイルCは前身のNHK杯時代からダービーとの相性が悪かったですよね?」
駒木:「確かにそうなんだけどさ。でもこの馬は結局、NHKマイルCじゃ脚を余して3着になってるよね。もし、これがギリギリの勝負をして1、2着になっていたならどうか分からなかったと思うよ。ダービーに持っていける余力に差が出たと思うから。
 それと、これはスペシャルウィークが天皇賞・秋、ジャパンC、有馬記念で2勝2着1回獲ったり、テイエムオペラオーが同じローテーションで3連勝したりした頃から薄々と感じていたんだけど、ここ数年で競走馬のコンディション調整に関する技術が、ググッと一気に向上したような気がするんだよ。そろそろ昔の常識を捨てる時期に来ているのかもしれないね」
珠美:「なるほど、そういう見方もあるんですね。
 ……ところで博士、タニノギムレットの今後についてはどうお考えですか?」

駒木:「秋には更に飛躍する可能性のある楽しみな素材だと思っているよ。血統的にも期待できそうだしね。少なくとも、菊花賞に向けて距離不安云々って事は無いと思う。あとはこれから出てくる新勢力との兼ね合いだね」
珠美:「つまりは期待大、ということですね。ありがとうございました。
 ……では、次に2着のシンボリクリスエスについてお願いします。この馬は博士の本命馬でした」

駒木:「そうだね。何とか過分な期待に応えてくれたってところだろうか(苦笑)。脚質の自在性と気性の良さ、それと確実に高水準の末脚を繰り出してくれる安定感がこの馬の武器だったんだけど、うん、それ相応の力は示してくれたみたいだね。岡部騎手の我慢を強いる手綱捌きにも、ほとんど嫌がらず応えてくれたみたいだし、中位から脚をギリギリまで貯めて、ゴール前に目標を交わす競馬を見事にやり遂げたのは立派だったよ。
 ただ、今日の競馬で弱点も見つかった。この馬、全てにおいて優等生過ぎる。ソツが無さ過ぎるから爆発力が無いんだよ。何だか、ナリタブライアン世代のエアダブリンを髣髴とさせる感じ。いつもキッチリ伸びては来るんだけど、G1には届かないっていうね(苦笑)。これからは、“差して届かず3着”が増えそうな予感がするなぁ。もちろん、ひと夏越して大化けすれば別だけどね」
珠美:「ハイ。では次に3着のマチカネアカツキをお願いします」
駒木:「好位からのイン強襲。いかにも外国人騎手がテン乗りでやりそうな事だよね。もちろん、ぼくもそれを期待して▲に抜擢したんだけど。
 ひょっとしたら実力以上と言ってもいいような良いレースはしてたんだけどなぁ。でもまぁ、この馬より明らかに強い馬が2頭いたってことじゃないのかな。
 今回は勝ち負け争っての3着だったけど、これはやや人気薄の馬が奇襲戦法だからこそ出来たものだと認識して欲しいな。マトモに行ってもちょっと力が足りない馬だよね」
珠美:「…4、5着には、メガスターダムやゴールドアリュールといった人気薄の馬が滑り込みました。2着馬とはそう差の無い健闘が光ったんですが、こちらはどうでしたでしょうか?」
駒木:「メガスターダムは、道中ちょっと引っ掛かってバタついてこの結果だもんね。地味で目立たないけど、能力は相当のモンだよ。重賞をあと2つ3つ獲ってもおかしくない。ただ、G1獲れるかとなると、かなり微妙な感じがするけどね
 ゴールドアリュールダート馬だけどスピードタイプだから芝でも通用するよ。言い方は凄く悪いけど、クロフネを劣化コピーしたような馬って言ったらいいかな。芝でも重賞でやれるだけの実力はあるだろうけど、秋シーズンはダート競馬で活躍するところを見てみたい気がするなぁ」
珠美:「……と、以上が上位5着に入着した馬についての回顧でした。それでは次に、着外に沈んだ有力馬&注目馬の回顧に移りますね。
 まずは博士が“大穴”と指名した、6着のアドマイヤドンから。2歳チャンピオンは結局、春シーズンでは大きな見せ場が作れずに終わってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?」

駒木:「道中はタニノギムレットとノーリーズンのすぐ近くにいたね。そこから直線でも同じように差脚を伸ばしていった。ただ、ジリジリとは伸びたけど突き抜けるまでには至らなかったね。馬体減が影響してるのかもしれないけど、バランスオブゲームとかヤマノブリザードとか、この馬以外の朝日杯FS組を見る限り、アドマイヤドン自体がそうレヴェルの高いところにいないんじゃないかという気がしてきた。残念だけど、このままフェードアウトしてゆく公算が高いんじゃないかな」
珠美:「朝日杯組には少し辛口のコメントとなりました。では次は8着に終わった皐月賞馬・ノーリーズンですが──?」
駒木:「レース振りそのものは皐月賞と変わりないんだよね。直線では馬混みに突っ込んでいったけど、そう不利も無かったし。けれども直線では伸びを欠いたね。一旦は脚を伸ばしたんだけど、残り1ハロンで他の馬と脚色が一緒になっちゃった。
 理由はどうなんだろうねぇ。皐月賞が完全にフロックだったとは思えないんだけど。まぁ、差し馬によくある凡走グセだと考えるのが自然なのかもね。これは雑誌とかでコメントが出てからもう一度検討してみる価値がありそうだ。(追記:コメントによると、この馬、ひどく左にモタれる癖があるようです。今回はラチ沿いで内にササったのが重大な敗因だとか)
 あと、この馬は早熟タイプでも無さそうだから、能力面が足りるなら、秋以降も十分期待が出来るよ
珠美:「私の本命馬で、博士の予想でも対抗格だったタイガーカフェは10着惨敗になってしまいました…。博士、これは?」
駒木:「決め手の無い馬だからねぇ。道中もう少し前の方につけて、直線で一旦抜け出すような競馬をしないと、ちょっと難しかったかな。あ、いや、それでも今度は後ろから来る馬の目標になっちゃってたか
 ……今から考えると、ちょっとこの馬からは狙い難かったかもしれないね。デザーモ騎手みたいなレースをすれば分からなかったけれど、四位騎手はスマートに乗るタイプの騎手だから、テン乗りの馬で競り合ってまで先行グループに飛び込むことは避けたかったのかもしれないし。まぁ、弱い馬じゃないけど難しい馬だね」
珠美:「なるほど……。つくづくダメですね、私の予想って(苦笑)。
 ……それでは最後に11着のテレグノシスについてお願いします」

駒木:「この馬はNHKマイルCを勝ったわけだけど、あのレースは、やっぱり色んな恵まれが随分とあったよね。今回のメンバーと比べたら格段に楽だった事も確かだと思うし。つまりはこの馬、スプリングSで2着完敗するような馬って事なんだよ、結局はね」
珠美:「駒木博士のジャッジでは、テレグノシスはちょっと力不足、ということなんでしょうか。
 ……でも博士、結果はどうあれ、今年のダービーは面白いレースでしたよね?」

駒木:「そうだね。いかにも東京の芝2400mらしい迫力あるレースだったね。そして来週は安田記念。これも迫力のあるレースになる事が多いよね。今年はちょっと出走馬のレヴェルが今ひとつなんだけど、出来る限りの期待はしてみたいよね。
 …おっと、もうこんな時間か。じゃあ講義を終わろうかな。」
珠美:「ハイ。では博士、ありがとうございました」
駒木:「うん、珠美ちゃんもご苦労さま」

 


 

5月25日(土) 競馬学特論
「G1予想・東京優駿(日本ダービー)編」

 駒木ハヤトです。日誌でお伝えした通り、急遽講義を実施させて頂きます。

 時間もありませんので、内容は出馬表と予想印、簡単な解説のみとなります。

東京優駿(日本ダービー) 東京・2400・芝

馬  名 騎 手
  × ヤマノブリザード 柴田善
ノーリーズン 蛯名
× タニノギムレット 武豊
    ダイタクフラッグ 江田照
×   アドマイヤドン 藤田
  × テレグノシス 勝浦
    モノポライザー 後藤
× マチカネアカツキ デザーモ
    ファストタテヤマ 安田
    10 メガスターダム 松永
× 11 シンボリクリスエス 岡部
    12 チアズシュタルク 石崎隆
    13 サンヴァレー 田中剛
    14 サスガ 安藤勝
  15 バランスオブゲーム 田中勝
    16 バンブーユベントス 村田
17 タイガーカフェ 四位
    18 ゴールドアリュール 上村

 ※駒木ハヤトの見解※
 ゆったりとした平均ペースで、中団から後方がややゴチャつく流れになると見て、好位マーク勢中心のレースになると見ました。
 本命は4頭出しで万全の体制が整った藤沢和厩舎のシンボリクリスエスから。位置取りがどうなるか読めないのが不安ながら、自在性のある馬だけに臨機応変に馬群を捌いて台頭すると見ました。
 それに続くのは、好位勢からタイガーカフェマチカネアカツキ。懸命の粘りこみに活路を見出します。
 実績上位のノーリーズン、タニノギムレットは、若干調子落ちが窺える状況である上、隣の枠同士で牽制しあって後手を踏む可能性が高いと見て押さえに回しました。しかし、この2頭が上位を占めてもおかしくありません。
 大穴は復調気配の兆しが見えるアドマイヤドン。忘れた頃の一発がそろそろ怖い時期です。

 馬連 11-17 8-11 8-17 2-11 3-11 5-11

 ※栗藤珠美の見解※

 私も先行有利の流れと見て、タイガーカフェを本命に推しました。調子も絶好調みたいですし、タイミング良く抜け出せれば、府中の長い直線も克服できると思います。
 2、3番手にはノーリーズンタニノギムレットを。本当はタニノギムレットを強く推したいんですけど、やっぱりローテーションが気になりますよね。
 その他は、かつての実績馬の巻き返しに期待しました。大万馬券まで狙って手広くボックスで攻めたいと思います。

 馬連 1、2、3、15、17のBOX10点、6-17、8-17、11-17

 ……と、我々の見解はこういう事になりました。
 皆さんの御武運をお祈り申し上げます。では、講義を終わります。26日深夜の回顧編をお楽しみに。

 


 

5月23日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(5月第4週分)

 3日間の特別講義に引き続きまして、ここからはレギュラーのゼミを始めます。

 それではまず、情報系の話題から。
 「週刊コミックバンチ」31日発売号から相次いで「世界漫画愛読者大賞」受賞作が新連載となります。
 連載が開始されるのは、グランプリ受賞の『エンカウンター』の他、準グランプリ受賞作の『がきんちょ強』、最優秀4コマ漫画賞受賞の『熱血! 男盛り』の3作品。
 なお、この新連載攻勢に伴い、複数の作品が最終回を迎えることとなります。24日発売号ではマニア層を中心にコアなファンの多い『男たちの好日』が“第一部(青春編)・完”に。これに伴う反発がどこまで盛り上がるか、注目したいところです。

 ……今週、このゼミで扱わなくてはならない情報はこれくらいでしょうか。時間もありませんし、粛々とレビューの方を進行していきたいと思います。

 今週のレビュー対象作品は、「週刊少年ジャンプ」から1作品と、「週刊少年サンデー」から2作品の、計3作品となります。
 レビュー中の7段階評価についてはこちらをどうぞ。

 

☆「週刊少年ジャンプ」2002年25号☆ 

 ◎新連載『NUMBER10』作画:キユ

 さぁ、注目のキユさんの登場です。
 連載デビューとなった前作『ロケットでにつきぬけろ!』が異様に豪快な終わり方で10週打ち切りとなり、さらに巻末コメントで編集部批判ともとれるメッセージを残した事で話題になった人──と聞けば「ああ、あの人か」と思い出す方も多いと思います。そう、あの人です。
 初めての連載が打ち切りになった新人作家には厳しい「ジャンプ」、しかも編集部批判をぶつけた張本人とあって、前作から読み切り掲載を挟んで2年のブランクがありましたが、ここに晴れて連載復帰となりました。果たして、作品の出来の方はどうでしょうか?

 まず絵柄からですが、さすがにプロらしく無駄の無いスッキリとした線で描かれていますね。
 ただ、どうにも読んでて違和感が否めないものがあって、どうした事かと何度も読み返してみたのですが、どうやらいくつか問題点も浮き上がって来ました
 まず、キャラの描き分けが少し甘いんです。似たようなパーツを使って描き分けをしているので、微妙にどことなく雰囲気の似たキャラクターばっかりになってしまってるんですね。ジックリ見ないと気にならない程度のものなので、余計に違和感を感じるんだと思います。
 それは表情の描き分けでも言える事で、この人の絵は、顔の上半分だけで表情を描き分けています。よく見ると、どのキャラも口をパカッと開けているんです。手元に「ジャンプ」がある方は読み返してみて下さい。本当にアホみたいに口がパカパカ開いてますんで。
 で、さらにもう1つ。この人の絵は動きがある絵と無い絵の差が極端なんですよね。下手すると、同じコマの中に躍動的な絵と静止画像が同居してたりして、これがまた違和感。
 結局は、上達が中途半端な状態で絵柄が固まってしまって、どうにもならなくなってる…という事なのでしょう。ヘタウマならぬウマヘタと言いますか。それもまた魅力、と言い切ってしまえばそれまでですけどね。

 じゃあストーリーは、といいますと、これもソツなくまとまってはいます。読んでて不快になる事は無いですし、及第点以上ということは確かでしょう。
 ですが、これにも「だが、しかし」を入れなくてはなりません。
 この作品、どうしても既製のサッカーマンガで見た事あるようなシーンが連発されてるような気がしてならないんです。もっと言うと、オリジナリティが全く感じられないストーリーと言うか……。「ああ、ここは『ファンタジスタ』だ」とか、「あ、これは『俺フィー』ね」とか、「おいおい、これ『FW陣』じゃないか」とか。別に特定の作品のオマージュというわけでもないのに、そう感じてしまうんですね。
 恐らくこれは、既製の作品を超えるだけのインパクトが不足しているためだと思います。野球のピッチングで言えば「手投げになっている」状態というか……。

 悪くは無いけど、とびきり良い作品でもない。こういう作品が一番扱いに困るところですよね。しかも今の「ジャンプ」は、ここ最近で最も激しいサバイバル競争が展開されている時期ですし……。
 とりあえずの評価はB+寄りのB。とりあえず、あと2回はじっくり様子を見てみたいと思います。 

 

☆「週刊少年サンデー」2002年25号☆

 ◎新連載第3回『鳳ボンバー』作画:田中モトユキ《第1回掲載時の評価:A−

 それにしても、ホントに熱いですねぇ、この作品
 実力のある人が真っ向勝負でバカをやると、本当に面白いマンガになるんだと、つくづく思い知らされます。
 第2回なんか、キャッチボールだけで見せ場作って引っ張る力技セリフなんか「プロか! プロなのかぁ!」だけなのに、何故かマンガとして成立しているこの凄さ(笑)

 それに加えてテンポも良いですね。1つ1つのイベントをジックリと濃く描いていますが、イベントとイベントの間をどんどん省略していってるので、メリハリが利いてます。この辺は前作・『リベロ革命!』で培った感覚なのでしょうね。
 これからの課題は、シーズンに入るまでのキャンプとか一軍争いとかに時間を取られたり、シーズンに入って、試合シーンになってからのテンポが悪くなって冗長にならないかどうかですが、その辺の課題も前作で既に克服済みなので、期待できるんじゃないでしょうか。

 何はともあれ、安心して読めそうな作品が1つ増えました。惜しむらくは、これが新人作家さんの作品じゃないという事なんですが、まぁその辺りは「ジャンプ」とは違うってことで仕方ないんでしょうね。
 評価はA寄りA−で据え置きです。

 ◎読み切り(前後編)『ガクの詩』作画:藤崎聖人、詩:三代目魚武濱田成夫

 非常に珍しい、というか初めての試みと思われる、『即興ヒップホップバトルマンガ』(なんじゃそりゃ)の登場です。もう少し分かりやすく言うと、“詩のボクシング”をライブハウス版にして、それをマンガにしたものと思ってもらえればいいかと思います。
 作品の要となる詩には専門の作家を用意するという辺り、「サンデー」編集部の意気込みが感じられるのですが、果たして作品の出来はどうでしょうか──?

 作画担当の藤崎聖人さんは、以前「コミックGATTA」で『蟲』というホラー作品を連載し、ブレイク寸前までいった新進作家さんです。残念ながら掲載誌が休刊となり、全てが宙に浮いた形になってしまったのですが……。
 そう言えばこの方、新人時代には「マガジン」で『LUNA SEA物語』を描いてた事もあったそうです。なんだか、昔ゴーストライターやってた作家さん、みたいな話ですね、いやはや。

 では、作品のレビューへ。

 まずはから。他の雑誌で描いていた時はどうか分からないんですが、さすがに「週刊少年サンデー」執筆陣に混じると、見劣りは否めないかなという気はしますね。どっちかというと「マガジン」系の荒っぽい絵柄、という感じでしょうか。「サンデー」でこれからやっていくとなると、多少のモデルチェンジが必要になってくるのではないかと思います。

 そしてストーリーなんですが、これがどうにも判断が難しいんですね。
 というのもこの話、作中に登場する詩を読者がどう受け止めるかによって、評価が大きく違ってくると思うんです。「ああ、この詩は良い詩だな」と思える人は、作品全体の印象も良くなるでしょうし、逆の場合なら救いようの無い駄作に見えてしまうでしょう。シナリオのベース部分が、実にオーソドックスな(悪く言えばステレオタイプな)ものだけに、余計に詩が作品の評価に影響すると思うんですね。
 しかも詩というのは、人によって受け止め方が全然違うと思うんで、駒木が個人的な感想を述べても意味が無いのかなと、そういう気がします。だから評価は保留させてもらおうかなと思います。
 ただ、詩の語呂的に、「これって、ヒップホップなのかなあ?」って印象は受けましたが。いや、これも駒木は「俺たち、ヒップホップの自信過剰な歌詞が大嫌いー!
(c)桜玉吉&肉柱ミゲル」な人間なんで、強く言えない所が辛いんですけどね。

 先に述べた通り、評価は保留です。ただ、シナリオ的には平凡なものなので、B+を上回る事は無いような気がするのですが。

 

 ……と、ちょっと駆け足でバタバタしましたが、今週のゼミがここまでです。また来週をお楽しみに。では。

 


 

5月22日(水) 特別演習
「徹底検証! 世界漫画愛読者大賞」(3)

 いよいよ今回の特別演習も最終回となりました。前回までの講義レジュメはこちらから→第1回第2回

 さて今日は、今回の特別演習の題材である「世界漫画愛読者大賞」の改革試案を提示する、という内容でお送りします。

 それでは早速本題へ。まず、どこからお話すれば良いか迷うところではありますが、まずは現在はアンケート葉書の郵送のみで行っている、読者投票の手段・方法から改革案を提示してゆきましょう。

 現行のアンケート葉書郵送という方法は、コストが安く済んだり集計の手間がかからない…などの長所があります。また、全国各地からの投票を得ることができるという事もメリットでしょう。
 ただしこの方法では、発行部数に対して1%弱程度の投票総数しか稼げないという、システム上避けられない欠点があります。第1回の「世界漫画愛読者大賞」では、2回の投票で得られた得票総数は35000程度。個別人気票での不支持票は除外されていますから、実際は総数50000辺りでしょうか。これは10週分のアンケート葉書+10週連続購読者の自主投票によるものですから、やはり“投票率”は1%を切っているのではないでしょうか。
 これでは、いくら最高得票数を獲得したとしても、本当に読者の総意によって支持されたとは言い難いですし、第一、得票総数が少なければ大規模な組織票が可能であり、ごく一部のコアなファンによって、あるべき序列が歪められるケースも出てきます。
 例えば、数人〜十数人のグループが本気になって組織票工作に出れば、数百票くらいは平気で稼ぐ事ができるでしょう。今回の各作品の得票数を考えると、数百票という数字はかなりデカいです。本来4〜5位の作品が準グランプリやグランプリの圏内まで押し上げられるケースも考えられます。
 この点を考えると、何らかの方法で投票総数を増やす必要があるでしょう。
 都市部で街頭アンケートをしてもいいですし、あらかじめ必ず投票してくれるモニターを1万人程度確保しておくのも良いかもしれません。当然コストは跳ね上がりますので、これは予算との戦いになりますが、それでも“必ず客観的に投票してくれる人”をできるだけ多く獲得する努力は惜しむべきではないと思います。
(※追記:よく考えたら1万人もモニターを集めるのは現実的ではないですね^^;。 あと、ネット投票は2ch経由の組織票まがいが増えると思って言及しませんでしたが、よく考えてみれば、2ch住人は原則的には理に適ったシビアな投票行動をとってくれる方たちですので、多重投票を避ける方法を練れば、そちらの方が良いかもしれませんね)

 そして次が肝心の集計方法、そしてグランプリの選出方法です。いくら多くの客観的な投票を集めたところで、これが不味いものであれば、一切の価値を失ってしまいます。まさにこの企画の肝心要の部分です。

 改革すべきにあたっては、この特別演習の第1回で指摘した問題点を克服するようなものでなければなりません、すなわち……

 1.肯定意見だけでなく、否定意見も結果に反映させるようにすること。

 2.不公平感の否めなかった、個別人気票と総合人気票の票数格差の是正、および個別人気票の支持率と得票数のズレの是正を図ること。

 3.全く機能しなかった“信任投票”に替わる、得票第1位の作品がグランプリに相応しいかどうかを判断する新たなシステムを確立すること、つまり、グランプリまでの“ハードル”を高くし、支持率の低い作品がグランプリを獲ることを阻止するようにすること。

 ……という、以上3点のポイントを改革案に取り入れることが必要である事は言うまでもなく、改革案そのものも、当然その3点に沿ったものになります。


 それではまず、1のポイントに沿った改革案から。

 現行のシステムの問題点は、個別人気投票で支持票だけをカウントし、不支持票は一切カウントせずに結果へ何ら影響を及ぼさないというところです。大雑把に人気の動向をリサーチする通常のアンケートならいざしらず、厳格な審査を必要とする漫画賞でこれはやはり問題です。
 そこで改革案として、
 「個別人気投票で支持率が50%を割った作品は“足切り失格”とする」
 という条項を盛り込むのはどうでしょうか?
 つまり、過半数の支持を得られなかった作品は、総合人気投票の対象から除外され、その時点でグランプリ及び準グランプリの受賞資格を失うようにするのです。
 こうすれば、その作品をグランプリに推したい人、推したくない人が積極的に参加する事となり、投票総数の増加にも一役買いそうな気がするのですが。
 あと、総合人気投票で否定意見を活かす方法については、3のポイントで併せて提示します。

 では、続いて2のポイントに関しての改革案です。

 現行のシステムでは、個別人気投票がアンケート葉書返信総数によって左右され、支持率と得票数が連動しないという問題を抱えていました。また、システム上、総合人気投票の得票総数の方が多くなってしまい、結果的に個別人気投票が軽視されるような形になりました。改革案では、これらの点を克服するようなものでなかればなりません。そこで、
 「個別人気投票の得票数は、得票総数が総合人気投票の得票総数と同じになるよう、各作品の支持率に応じて配分する」
 というのはどうでしょうか? つまり、支持率によって個別人気投票の票数調整を行うということです。これならアンケートの返送枚数に結果が左右されませんし、支持率と得票数の逆転現象も回避できます。さらに、特定の作品に対する極端な組織票の効力をある程度削ぐことができるという“副産物”も付きます

 そして、いよいよ3のポイント。改革案の中でも最重要課題がこれです。

 今回の第1回「世界漫画愛読者大賞」の結果を受けての評判の中で、最も多かったものが、
 「『エンカウンター』が得票1位になるのはギリギリ納得できるが、この作品が賞金5000万&連載1年保証のグランプリを獲得した事は到底納得できない」
 というものでした。
 この声は、現行のシステムが、事実上得票1位の作品が自動的にグランプリを受賞してしまう──得票第1位作品の“実質信任率”(第1回講義参照)が低かったり、全体的なレヴェルが低調な時でも簡単にグランプリが出てしまうこと──という重大な欠陥を含んでいるという事を現しているのに他なりません。
 改革案では、当然、この欠陥を是正するようなシステムを作り上げなくてはなりません。

 そのために、ここでは複数の案を提示します。まず1つ目として、
 「総合人気投票に『グランプリ該当作なしを希望』という欄を設け、もし『該当作なし』票が総合人気投票第1位作品の得票数を上回った場合、自動的にグランプリおよび準グランプリは“該当作なし”とする」
 …これを是非、実現して頂きたいと思います。これによって、1のポイント「否定意見の反映」を取り入れた上に、グランプリ獲得までの“ハードル”を高くすることができるようにもなります。非常にメリットのあるアイデアだと思うのですが……

 次に、1つ目の案に関連した2つ目の案として、
 「グランプリを受賞するためには、総合人気投票の得票率が一定の値(総合人気投票の得票総数の1/4ないし1/3)を超えなければならない」
 …というルールも取り入れてはどうでしょうか? これを1つ目の案と併せて実施すれば、グランプリまでの高いハードルが設定でき、読者の多くが納得する受賞作品の選定が可能になるのではないかと思うのですが。

 ただ、この2つの案だけでは、“優れた複数の作品が票を食い合って、グランプリ受賞レヴェルにある作品が除外される”という事態も予想されます。そこで第3の案として、
 「第1回投票で得票率の基準値を超える作品が無かった場合、上位3作品を対象に再度投票を実施し、そこで得票1位となった作品がグランプリ受賞となる。回答欄には『該当作なし』も入れることとし、ここでも基準値を超える作品が現れなかった場合はグランプリは“該当作なし”とする」
 …という“決選投票制度”を提案します。非常に手間のかかる作業になりますが、読者投票で全てを決しようとするならば、ここまでする必要があるのではないでしょうか。
 また、決選投票の際には、応募作と同時に提出されている連載3回分のネームを付録小冊子にして公開するのも面白いかもしれません。これで「海賊杯」
以来の懸念材料であった、“連載作品として読みたい作品を選ぶ難しさ”の克服も期待できますし……。

 

 ――駒木が提案する改革案は以上です。
 果たして皆さんは、この案をどう受け止められたでしょうか? 「現実感の無い理想論だ」という意見があるかも分かりません。それも正論でしょう。しかし、この「世界漫画愛読者大賞」を、本当に充実した完成度の高いイベントにするためには、今回提案したようなものを取り入れていかなければならない、これもまた正論だと駒木は確信しています。

 「世界漫画愛読者大賞」は、既に第2回の募集が始まっています。第1回の評判の悪さから考えると、早くも正念場を迎えたといって良いでしょう。このままズルズルと失敗を重ね、かつての「海賊杯」の二の舞に陥ってしまうのか、それとも優れたエントリー作に恵まれて非常に意義深いイベントとなるのか、それはまだ分かりません。
 そんな混沌とした状況の中ですが、今はただ、この大胆な試みがマンガ界にとって良い影響を与えるものになることを祈りたいと思います──と、いったところで今回の講義を終わらせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。(この項終わり)

 


 

5月21日(火) 特別演習
「徹底検証! 世界漫画愛読者大賞」(2)

 さて、昨日に引き続き、「週刊コミックバンチ」の「世界漫画愛読者大賞」についての講義を行います。前回の講義レジュメはこちらから。

 
 ……では今日の講義へ。
 今日は「世界漫画愛読者大賞」の前身と言うべき企画、「週刊少年ジャンプ」主催「ジャンプ新人海賊杯(以下海賊杯と略)と、この企画の失敗についてのお話をしたいと思います。

 この「海賊杯」は、正式名称を「黄金の女神像争奪ジャンプ新人海賊杯」といい、文字通りジャンプ系新人作家による新作マンガのコンペテイション・イベントとして、1994年と95年の2回実施されたものでした。
 そんな「海賊杯」のルールは以下の通りです。

新人作家の読み切り作品(4〜6作品)を「海賊杯」エントリー作品として、週代わりで1つずつ掲載する。

エントリー作品は雑誌綴じ込みのアンケート葉書において、通常の読者投票(速報値用)とは別枠で、「このマンガを支持するかどうか?」という内容の設問で読者の審判を仰ぐ。「支持」の回答1つにつき得票1を獲得。

◎全エントリー作の中で最高得票を獲得した作品が“黄金の女神像”を獲得し、その作品は週刊連載が保証される

 なにぶん7〜8年前のイベントでもあり、「海賊杯」関連の資料がネット上でほとんど検索できませんでした。そのため、ひょっとしたら細かい点で誤りがあるかもしれませんが、大方はこの通りであると思います。
 また、タテマエ上は「優勝作品のみ連載」という事になっていましたが、得票数2位や3位の作品も、通常の読者投票で反応が良かったのか、ある種なし崩し的に連載を獲得するケースがまま見受けられました。いかにもジャンプらしい便宜主義だと思います。

 …要するにこの「海賊杯」は、「世界漫画愛読者大賞」で言うところの個別人気投票だけで白黒つけてしまおうという、今から考えるとかなり乱暴な企画でありました。また、「世界漫画愛読者大賞」のような高額賞金は無く、公募制でもありません。あくまで「ジャンプ」が抱えている新人から“使えそうな人”を選抜するためのイベントだったのです。

 …というわけで、前回の講義であれほど制度上の欠陥を指摘した「世界漫画愛読者大賞」を、さらに簡略化というか杜撰にした企画・「海賊杯」。このイベントは「世界漫画愛読者大賞」と同様、編集部サイドの肝煎りで開催されたは良いものの、やはりと言うか当然と言うかたちまち問題点が噴出。その結果、この「海賊杯」は、ちょうどその頃「ジャンプ」の部数低迷を受けて人事異動と編集方針の変更が行われた事もあり、わずか2回で廃止の憂き目に遭ってしまいました。

 それでは、どのような経緯でこの「海賊杯」が失敗に終わったのか、これから述べていきたいと思います。

 
 まずは第1回「海賊杯」。1994年秋に7作品のエントリーで実施されました。エントリー作品は次の通りです。

 『快心少年エム!!』作画:佐藤央樹
 『MIND ASSASSIN』作画:かずはじめ
 『モートゥルコマンドーGUY』作画:坂本眞一
 『ふわふら』作画:八神健
 『into the blue』作画:櫻森和駿
 『Dies Irea』作画:大河原遁
 『幸せの探し方』作画:本田晶人
《※以上、掲載順》

 そしてこの第1回「海賊杯」で第1位に輝き、見事に連載権を獲得したのは『MIND ASSASSIN』でした。
 どこまで駒木の主観的な意見を反映させるか迷うところですが、これは順当な結果だったのではないかと思います。かずはじめさんがこれまで発表した作品の中でも最高傑作と言っても良いような素晴らしい内容でした。
 この結果を受けて、『MIND ASSASSIN』同年52号から週刊連載が開始されました。読者の多数支持を受けての鳴り物入りの連載開始。多くの人が成功を確信したと思われます。しかし──

 『MIND ASSASSIN』は、そのようにして連載が開始されたものの、「海賊杯」当時よりも内容的に伸び悩みの傾向が見られ、当初から人気が低迷。懸命にテコ入れが図られましたが事態は好転せず、とうとう翌95年29号までの約30回で打ち切り終了となってしまいました。
 鳴り物入りのスタートこの落差。一体、どうしてこんな事になったのでしょうか──?
 理由は幾つかあるでしょうが、中でも要因として大きかったのは、読み切りと連載とでページ数が大きく違うという事だったでしょう。
 『MIND ASSASSIN』は、原則として一話完結型のエピソードを集めた作品です。となると、ページ数が多い方がエピソードの内容に深みが出て面白くなるのは必然。約40ページの読み切りと20ページ弱の週刊連載ではクオリティに大きな差が出てしまったのでした。

 そして、こういう現象は『MIND ASSASSIN』だけではなく、以前からジャンプの連載作品で見受けられるものでした。
 「週刊少年ジャンプ」では、本誌に掲載した読み切りの中でアンケート結果の良かったものを、ほぼ同じ設定&題名のままで連載作品にするケースがよくあります。有名どころでは『ONE PIECE』もこのパターンから生まれた連載作品です。
 ただ、このパターンで連載が開始された作品は失敗する場合が多く、有り体に言えば“10回打ち切りの温床”になってしまっているのです。

 ──この事は、ある意味「海賊杯」の限界を示すものでもありました。
 いくら優れた読み切り作品を選び出す事が出来ても、それはあくまで“優れた読み切り作品”であって、“優れた連載作品”ではないのです。これでは「読み切り作品から連載用の作品を選抜する」という「海賊杯」の意義は既に失われたも同然です。

 さて、この回の「海賊杯」で露呈した問題は、実はまだ他にもありました。

 『MIND ASSASSIN』の終了直後、この作品に入れ替わるようにして、「海賊杯」第2位に入賞した『モートゥルコマンドーGUY』の連載が開始されました。
 この作品は、作者・坂本眞一さんの卓越した、エントリー作品中で断トツの画力が決め手となって2位という好結果に繋がったのでした。しかし、その緻密な絵柄とは対照的に、ストーリーは参考文献丸写しに近い“サバイバル&格闘術マニュアル”的なもので、正直言って、高く評価できるものではありませんでした。
 そのため、この作品は連載開始直後からストーリー構成力の弱さがモロに露呈して、これまた人気が低迷わずか13回で打ち切りの憂き目に遭うこととなってしまいました。

 こういう事が起こった一方で、「海賊杯」3位の『ふわふら』を描いた八神健さんは、この作品を大幅リニューアルした『密・リターンズ!』の連載を開始。
 こちらはかつてのライバル作品が伸び悩む中、人気順位でも比較的健闘し、約60回の連載を全うして無事完結に至りました。
 ──つまり、順位が下であった作品とその作家さんが成功してしまうという、一種の逆転現象が起こったのです。

 ……これらの事を総合すると、この「海賊杯」での読者の投票行動には、「ストーリーよりも絵柄の綺麗な作品を評価する」という傾向が見られることが分かります。
 その一方で、比較的インパクトの薄い“ストーリーも絵柄もソツなく”という佳作(例えば『ふわふら』のような)が埋没してしまう……というケースが多く発生してしまうわけです。
 これでは新たな才能を発掘するどころか、可能性のある作品を埋没させてしまう事になってしまい、企画としては逆効果とも言えます。

 ……というわけで、「海賊杯」は第1回にして大きな壁にブチ当たってしまったのです。

 が、しかし。
 このような問題点に目が向けられる事は無いまま、翌95年にも第2回「海賊杯」が実施されました。
 第1回の惨憺たる結果を鑑みるに、これは失敗必至の無謀な試みでありました。そして事実、この第2回「海賊杯」は、第1回で露呈した問題をことごとくまで再発生させてしまい、見るも無残な結果に終わってしまいます。
 では、その惨憺たる第2回「海賊杯」の状況を述べていく事にしましょう。

 …第2回「海賊杯」は、昨年に比べて規模が縮小され、4作品での実施となりました。エントリー作は以下の通りです。

『抜繪道士』(作画:山川かおり)
『かおす寒鰤屋』(作画:大河原遁)
『心理捜査官 三島清人』(作画:月島薫)
『鬼が来たりて』(作画:しんがぎん)
《※以上、掲載順》

 そして昨年同様の読者投票の末、1位は『鬼が来たりて』が獲得して連載権を獲得。以下、2位『心理捜査官三島清人』、3位『かおす寒鰤屋』、4位『抜繪道士』という結果になりました。

 本来ならば、この結果に従って、まずは『鬼が来たりて』の連載が始まるところですが、なぜかそれより先に3位の『かおす寒鰤屋』の連載が開始されます。
 どうして投票結果下位の作品に連載のGOサインが出たかは皆目不明ですが、この『かおす寒鰤屋』、やはりと言うか人気は当初から低迷。なんとわずか9回で打ち切りとなってしまいます。

 その後、ようやく第1位作品『鬼が来たりて』の連載が開始されます。しかしこの作品は、第1回の『モートゥルコマンドーGUY』と同様に、ストーリーよりも絵柄の評価に