「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

9/15 社会経済学概論「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録」(12)
9/14 競馬学概論「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”」(18)
9/13 
歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(3)
9/12 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(9月第2週分)
9/11 社会経済学概論「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録」(11)
9/9  歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(2)
9/8  社会経済学概論「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録」(10)
9/7  
競馬学概論「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”」(17)
9/5  
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (9月第1週分)
9/4  歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(1)
9/3  基礎演習「2002年度後期カリキュラム及び『学校で教えたい世界史』についてのオリエンテーション」
9/2  社会経済学概論「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録」(9)
9/1  犯罪社会学「拝啓、駒木ハヤト様〜夏の困った贈り物」(2)

 

9月15日(日・祝) 社会経済学概論
「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録」(12)

 他のシリーズの話で恐縮ですが、またしても競馬学講義で単純かつ致命的なミスをやっちまいまして、自業自得的な落胆をしております、駒木です。
 情けない話、駒木はこの手のミスを繰り返すタイプでして、そのためにいつまで経っても社会的信用が得られないんですよね(苦笑)。もう絶対、脳味噌のどこかに接触不良がある筈なので、パーツ交換出来るものならしてみたいものなのですが…。
 その割には、たくさんの映画を扱うこのシリーズで、これまでに大きなボロが出ていないのが不思議ですよね(苦笑)。ひょっとしたら、アルバトロスのエエ加減さと駒木の脳味噌のフィーリングが合っているのかも知れません(笑)。

 ※前回までのレジュメはこちら↓
  第1回第2回(ここまでは競馬の話)第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回第11回

 ……いよいよ佳境に入りましたこのシリーズ。今日は2001年上半期のアルバトロス映画についてお話を進めていきましょう。

 1999年にヒット作を連発して調子に乗りすぎ、2000年に大コケを連発して大損害を被ったアルバトロスですが、この会社は、ここで戦略的撤退をするようなタマではありません。言ってみれば、「生理が止まってる」と彼女から聞かされて、「それやったら、どっちにしろもう妊娠せえへんから大丈夫やー」と、鋭意中出しに励むバカ男のような会社、それがアルバトロスなのです。

 2001年、新世紀を迎えたアルバトロスは、何を血迷ったか、6月までに月イチペースで5本の映画を次々と劇場公開にかけるという荒業を披露します。しかも、そのジャンルが余りにもバラバラだったために、アルバトロスの宣伝部が大パニックに陥るという惨事に発展してしまいました。
 ちなみに申し上げておきますと、アルバトロス株式会社の社員数は、買い付け専属担当の叶井氏を含めて7名この人数で“宣伝部”と言っても、それがどういう規模であるかは、想像に難くありません。これでは、たった1人の講師が毎日明け方までかかって週5〜6本の講義を実施している、どこぞの大学のインターネット通信課程と同じくらい無茶な話であります。

 それでは、2001年上半期にアルバトロスがどんな映画を上映していたのか、ここで簡単に紹介しておきましょう。

 まずトップバッターは2月公開の『デルフィーヌの場合』。フランス映画であります。前年に『日曜日の恋人たち』がコケたにも関わらず、1年も経たない内にもう一度フランス作品を持ってくる辺りにアルバトロスイズムが炸裂していますね。
 ストーリーを少し紹介しましょう。
 真面目な家庭で真面目に育った15歳の女子学生・デルフィーヌが、あるきっかけから不良少女と知り合うようになり、運命が大転換。その中でやがてロランという恋人が出来るのですが、2人で旅行に行こうと迫る彼女に彼は言い放ちます。
 「40日間、1日5人の客を取ってフェ○チオをしろ。そうすれば願いは叶うから」
 けなげにもそれに従うデルフィーヌですが、その間にもロランは、コッソリとトンズラする準備を整えようとしていたのです──

 …まるでソフトオンデマンドかV&Rプランニングのアダルトビデオ、もしくはベタなハード・エロマンガみたいなお話ですが、実はこれがセミ・ドキュメンタリー映画で、しかもフランス本国ではソコソコのヒットを記録したというから凄い話であります。こんな15歳の少女がいるなんて、羨ましいぞ! フランス人!

 この後、3月に公開されたのが、『ザ・クリミナル』
 売れないミュージシャンが、突然陰謀に巻き込まれて、警察と地下組織から追われてゆく……という、漫画に喩えれば、「週刊コミックバンチ」で連載されるも、2ch掲示板のコミックバンチスレッドで「栗」という略称で呼ばれつつ、「栗ってヒッチコックのパクリじゃん。こんなの連載するくらいなら、かじめ焼き復活しる!」…とか書かれそうな、ベタベタのサスペンス作品でありました。
 で、この映画、強引な展開ながらストーリー運びに勢いがある…と、コアな映画通の間ではマズマズの評価は得られましたが、「こんなの、わざわざ単館上映系で観なくても」…と、一般層には受け入れられずに大コケしてしまいました。広告で推薦文を書いた著名人の方たちが余りにもナニだった事も影響したのかも知れません。

 次は5月。ここでようやくいかにもアルバトロスらしいスプラッタ映画が登場します。その名も『ザ・コンヴェント』。
 …しかしこの映画、スプラッタ映画でありながら、「技術面は学生の8ミリ映画に毛の生えたようなものだが、コメディとしては一級品」などと言われてしまう、お笑いの舞台よりも「筋肉番付」の方が似合っている芸人・なかやまきんに君のような超低予算B級スプラッタ映画でありました。
 勿論、こういう映画が好きな人もいる事はいるのですが、そんな、「天下一品」でトンカツ定食・ラーメンこってり大盛ニンニク・ネギ大盛を注文する人くらいに嗜好の偏った映画ファンなど、そうはいないわけでして、この映画でもヒットには至りませんでした。
 余談ですがこの映画、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」に出展された際、こんな不健康な映画を朝の10時台という健康的な時間帯に上映開始される屈辱を味わっています。

 …と、ここまで3本の映画がヒットに至らず、更にムキになったのか、アルバトロスは翌6月に一挙に2本の映画を劇場公開するという、エヴァンゲリオン初号機のような暴走を開始します。

 1本目は、2年前に公開され、スマッシュヒットを達成したイタリアンエロス映画・『肉屋』のティント・ブラス監督による作品『郵便屋』。この映画も『肉屋』の時と同様に、大した宣伝もしないまま、熟年&老年男性が日頃は縁の無い単館上映系映画館に大挙集結。比較的好評を得る事に成功しました。
 2本目は、一転してアルバトロスっぽくない感動系チルドレン・ムービー・『僕が天使になった日』
 監督が、著書で霊界との交信について書くなど“西洋の丹波哲郎”の名を欲しいままにする(?)女優・シャーリー=マクレーンだった事が、叶井氏が買い付けた動機であったのだと推測できます
。が、その思惑に反して“そっち系”の話は、主人公の少年が交通事故に遭った際、臨死体験で天使と出会うシーンくらいしかありませんでした。まぁ、無かったら無かったで良いんですけれど。

 ……こうして月イチペースでジャンルバラバラの映画5本を劇場公開するという、怒涛の半年間を終えたアルバトロス。この時点で、7人の社員たちは1つの考えを共有するに至りました

 

やっぱ、月イチは無理。

 

 ……というわけで彼らは、下半期には、社運を賭ける程の予算を費やして買い付け&広報活動を行った2本の大作映画に力を注ぐ事に決めました。「人生ゲーム」で言えば、資金10倍か貧乏農場行きかの大博打であります。
 そしてまず9月、アルバトロスにしては破格の予算をかけて綿密かつ大掛かりに広報活動を展開し、2本の大作映画の内の1本目が公開されました。その名も……、

 

『クィーン・コング』

 

 …嗚呼、何だか『深海からの物体X』と同じようなキナ臭さが漂います。しかし、アルバトロスの人たちはその事にまだ気付いていません。まさに「志村、後ろ! 後ろ!」状態どうなるのか、アルバトロス! その運命や如何に──?次回へ続く

 


 

9月14日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”」(18)
1990年有馬記念/1着馬:オグリキャップ

駒木:「今日でこの講義も18回目なんだけど、『90年代名勝負プレイバック』と謳っておきながら、今まで肝心なレースを採り上げてなかったね(苦笑)。いつかやろうとは思っていたんだけど、延び延びになってしまってた」
珠美:「オグリキャップが奇跡の復活を果たした引退レースですね。1990年の12月23日ということは……わー、もう今から12年前になるんですか。私が小学4年生の時です(苦笑)」
駒木:「今となっては伝説のようなレースだよね。『キャリアの浅い競馬ファンの方にレースがあった当時の雰囲気を伝える』…というこの講義の趣旨には、まさにピッタリだ。何で今まで採り上げなかったんだろう?(苦笑)
 …ちなみにこの時、オグリキャップに乗って優勝した武豊騎手当時21歳今の珠美ちゃんより年下だよ(笑)。もうその時には、既に若手を通り越してJRAを代表する騎手になってたけどね。
 そして、このレースで更に武豊騎手の地位と名誉に箔がつく事になる。何しろ、このレースはあらゆるメディアで採り上げられたからね。武騎手はオグリキャップには2回しか乗ってないのに、このレースのせいで、まるで主戦騎手みたいになってしまった(笑)」
珠美:「当時10歳の私でも、何となくオグリキャップに跨っている武豊騎手の記憶が残ってますからね。このレースのインパクトは絶大だったと思います」
駒木:「そうだよね。まさに『事実は小説より奇なり』を地で行くようなレースだった。競馬マンガや競馬小説で、こんなレースの結末を描いたら、『いくらなんでも出来過ぎ』とか、『先が簡単に読めてつまらなかった』とか散々な評価をされるはずだよ(苦笑)」
珠美:「言ってしまえば、魔王にさらわれたお姫様を、白馬に乗った王子様が助けに来るようなお話ですものね(苦笑)」
駒木:「まったく。でも、実際に起こってしまうと全く陳腐じゃないんだよなぁ。これが虚構と現実の差なんだろうね。
 ……さぁ、それじゃこのレースの出馬表を紹介しようか。色んな意味で歴史を感じさせる出馬表だよ」

第35回有馬記念 中山・2500・芝

馬  名 騎 手
オースミシャダイ 松永昌
ヤエノムテキ 岡部
オサイチジョージ 丸山
ランニングフリー 菅原
メジロライアン 横山典
サンドピアリス
メジロアルダン 河内
オグリキャップ 武豊
キョウエイタップ 柴田善
10 ミスターシクレノン 松永幹
11 リアルバースデー 大崎
12 エイシンサニー 田島良
13 ホワイトストーン 佐藤哲
14 ゴーサイン 南井
15 カチウマホーク 的場
16 ラケットボール 坂井

珠美:「確かに、今となっては種牡馬とか繁殖牝馬としての方が馴染みのある馬ばかりですね」
駒木:「騎手の方もそうだよね。今日現在で、16人中7人が現役を退いてる。敢えて詳しくは述べないけれど、この後に競馬界から追われる形で姿を消した騎手もいて、何だか哀愁の漂うメンバーになってるんだよね」
珠美:「……それでは、有馬記念の概要と、このレースの有力馬の紹介をしていきたいと思います。
 有馬記念は1956年に創設されたんですが、その時のレース名は『中山グランプリ』でした。
 1956年当時、秋・冬の中山開催では大きな目玉となるレースが少なく、ダービーのある春の東京開催と比べると華やかさに欠けるのは否めないところでした」

駒木:「当時の目玉は中山大障害だったんだよね。確かに面白いレースではあるんだけど、やっぱり障害じゃ、盛り上がりにも限界があるよね。少なくとも、障害レースにボーナス全額勝負なんて出来ないし(笑)」
珠美:「…そんな現状を憂いていた当時の中央競馬界理事長・有馬頼寧氏は、この年に中山競馬場の新スタンドが竣工したのを記念して、ダービーに匹敵するようなグレードの高いレース──ファン投票で出走馬を決定するオールスター戦──を創設する事に決めました。これが『中山グランプリ』でした。そして翌1957年1月、このレースの創設者である有馬理事長が亡くなったことを受け、その年の第2回から有馬氏の功績を称える意味で『有馬記念』と改称され、現在に至っています
 出走に関する条件は、3歳(旧4歳)以上のオープン馬で、ファン投票による選出馬10頭及び、内規による優先順位上位の馬6頭以内ということになっています。以前は内規ではなくて、会議による推薦制度を採用していましたが、現在は廃止されています。
 また、1995年からは“特に優秀な成績を挙げた”地方競馬所属馬が、2000年からは当該年度のジャパンカップで優勝した外国調教馬にも出走権が与えられるようになりました。ただし、この規定による有資格馬は今のところ出ていません。
 距離は第10回までは芝の2600m、それ以降は2500mで施行されています。コースは第1回からずっと中山競馬場が使用されていますね」

駒木:「中山競馬場以外で有馬記念はありえないって事だろうね。改修工事なんかも有馬記念の時期を避けて行われているわけだし。けど、京都とか阪神の大レースは結構無頓着なんだよな。なんか、扱いが違うぞ(苦笑)」
珠美:「…それでは人気馬を紹介しますね。でもこのレース、主役となるオグリキャップは4番人気だったんですね」
駒木:「メンバーが比較的小粒だった割には、確かに人気が低い気がするよね。
 でも、後でも説明するけれど、この時のオグリキャップは、ハッキリ言って4番人気でも人気し過ぎなくらいだったからね」
珠美:「そういうわけで、このレースの1番人気は(旧)4歳のホワイトストーンでした。ここまでG1レースは未勝利ながら、G2のセントライト記念を1着し、ダービー3着、菊花賞2着とクラシック戦線でも活躍していました。前走のジャパンカップでは、日本馬最先着の4着。これが人気の決め手になったようでした」
駒木:「この馬は(旧)8歳まで現役を続けたんだけど、最後までG1には縁が無いままだったね。そして引退するまで人気先行型の馬でもあった。そのくせ、人気が下がった時に爆走する穴馬タイプでもあったんだけど。本当、馬券を買う立場からしたらたまったもんじゃない馬だったよなぁ(苦笑)。
 ちなみに、この頃は『いつかG1を勝つだろう』って感じで人気してて、晩年は『何とか勝ってほしい』って人気していた感じだったかな」
珠美:「2番人気はメジロアルダン。この時(旧)6歳で、故障がちな脚を抱えつつも、ダービー2着、G2の高松宮杯1着などの良績を挙げて来ました。前走は天皇賞(秋)をヤエノムテキの2着。古馬の大将格という存在でした」
駒木:「ごめん。この馬に関しては僕もほとんどリアルタイムの知識が無い。ただ、成績表を見てみると、このレースまでは9戦4勝2着2回3着2回と、本当に堅実。そりゃあ人気するよなぁって感じだね」
珠美:「3番人気はメジロライアンです。クラシック戦線では、前哨戦の弥生賞と京都新聞杯では1着したものの、本番では皐月賞3着、ダービー2着、菊花賞3着と涙を呑んでいます。前走はその3着になった菊花賞でした」
駒木:「杉本清アナウンサーの名文句・『メジロはメジロでもマックイーンの方だー!』の、マックイーンじゃない方だね(苦笑)。ダービーと菊花賞では1番人気。人気を背負ってG1を勝てないもどかしさならホワイトストーン以上の存在だよね。後方待機から良い脚で差してくるんだけど届かず惜敗…っていうのが“お得意”のパターンだった。で、このレースでもそうなる(苦笑)」
珠美:「そして4番人気にオグリキャップです。公営の笠松競馬場でデビューして、(旧)4歳1月まで8連勝を含む12戦10勝2着2回という成績を挙げてJRAへ移籍。
 JRAでは、クラシックレースへの登録が無かったために、いわゆる“裏街道”を歩むことになりますが、天皇賞・秋でタマモクロスに敗れるまで重賞を6連勝。その後は有馬記念、マイルチャンピオンシップ、安田記念を制してG1を3勝(2着4回)しています
 また、成績だけではなく、スーパークリークとイナリワンとの“3強”ストーリーや、89年秋には“天皇賞・秋→マイルCS→ジャパンC→有馬記念”という強行軍スケジュールを歩んだことなど、話題に事欠かない馬でした。
 しかし、公営競馬出身のスーパーホースとして、絶大な人気と好パフォーマンスを維持してきたこの馬も、この90年の秋シーズンでは天皇賞・秋6着、ジャパンカップ11着と大不振。『オグリキャップ限界説』が囁かれる中、この有馬記念を引退レースとして選んで来ました」

駒木:「JRAに移籍してから2回しか連を外していなかった馬が、突然6着と11着だからねぇ。しかも前走のジャパンカップは“後方まま”で、レース振りも酷すぎた。有馬記念までの調教でも変わり身は見えて来ないし、『もうダメだろうなぁ』っていうのが、大多数の意見だったんじゃないかな。競馬新聞の印も、◎や○じゃなくて、×印くらいがせいぜいだった。若手記者が◎なんて付けようものなら、『お前、プロが情にほだされてどうすんだ』って、デスクのカミナリを喰らったくらいの惨状だったんだよ。
 でも、単勝オッズは5倍台の4番人気なんだよね。これは、オグリキャップファンによる願掛けと『これまでありがとう』の気持ちだったと思う。いわゆる心情馬券って奴。
 競馬に詳しい人ほど、『とてもオグリキャップは勝てる状態じゃない』って言ってた。もし僕が10年早く生まれてても同じ事を言ってたと思う。比較的メンバーが軽い事を計算に入れても、ギリギリの押さえが精一杯だったね」
珠美:「だからこその“奇跡の復活”なんですよね。本当に、ドラマティックなお話ですね。
 最後に5番人気の馬を紹介しておきますね。オサイチジョージです。(旧)4歳時からG3を中心に重賞戦線で活躍してきましたが、本格化したのは(旧)5歳となった90年の春シーズンでした。G3を2連勝、産経大阪杯2着、安田記念3着と着実にステップアップを遂げてゆき、遂に宝塚記念でオグリキャップを破ってG1ホースの仲間入りを果たしました。
 秋シーズンは天皇賞4着、ジャパンカップ13着と今ひとつの成績でしたが、先行した時の粘り強さなどを買われたのでしょうか、5番人気となりました」

駒木:「何度も言ってるように、比較的小粒なメンバー構成だったからね。G1ホースが、オグリキャップの他にはこの馬と、6番人気のヤエノムテキ(90年天皇賞・秋)しかいなかった。ヤエノムテキは2500mという距離に不安を抱えていたし、この馬が5番人気に推されるのは当たり前と言えば当たり前だったんじゃないかな(注:このセリフは大間違いでした。詳しくは講義最後の『追記』を)
珠美:「……なるほど、分かりました。それでは実際に映像を観ながら、このレースを振り返ってみましょう。
 …スタートは各馬まずまず揃っていたんですが、徹底的な逃げ馬が不在のメンバー構成ということで、各馬牽制気味の序盤戦。その中で、徐々にオサイチジョージが押し出されて先頭に立ちました。2番手にヤエノムテキ、そのすぐ後ろにメジロアルダン、さらにはホワイトストーンです。オグリキャップは、中団からやや後方で一旦メジロライアンと併走する形になりましたが、1周目のホームストレッチで先行集団に取り付いて行きます」

駒木:「逃げ馬不在ってことで、当時としては珍しい超スローペースの展開だね。前半の1000mで63秒程度だから、馬場が荒れがちな冬の中山という事を考えても遅すぎる。
 だから、武豊騎手が思い切って前に出て行ったのも、それを見越しての作戦だろうね。馬(オグリ)の状態が瞬発力勝負が出来るレヴェルじゃないし、当時の武騎手は今みたいに追い込みが得意な騎手でもなかったから、少しスタミナを浪費してでも、最後を泥仕合に持ち込んで勝ちを拾おうとしたんじゃないのかな。しかし、さりげなくゾッとするような事をするね、この人。とても当時21歳とは思えないよ」
珠美:「バックストレッチに入ってからもしばらくはスローペースだったのですが、残り1200mを切ってから急にペースが上がり始めます。まず中団にいたミスターシクレノンが仕掛けて先頭に並びかけていって、次いでメジロアルダン、オグリキャップ、リアルバースデーも上がって行きます。メジロライアンも徐々に差を詰めました。
 2周目の3〜4コーナーで、早くもヤエノムテキが失速。ミスターシクレノンも脚色が悪くなって、先頭にオサイチ、アルダン、バースデー、オグリと4頭雁行状態のまま直線を迎えます。メジロライアンとホワイトストーンはそのすぐ後ろから追撃体制です。
 最後の直線に入って、まずメジロアルダンとリアルバースデーが失速。代わって最内を突いてホワイトストーンが差を詰めて来て、オグリキャップ、オサイチジョージとの3頭での競り合いに。そこへ外からメジロライアンが差を詰めて来て激しい競り合いになります」

駒木:「超スローペースとはいえ、直線勝負じゃなくて残り1200mからのロングスパート合戦。これで、オグリキャップにとって唯一の活路だった、馬のスタミナと気力の勝負になった。本当に全ての条件が奇跡に向けて動き始めていたんだよねぇ。
 気の遠くなるような競り合いに、超満員の中山競馬場のボルテージは最高潮だったね。テレビ桟敷にも、故・大川慶次郎さんの『ライアン! ライアン!』の絶叫が実況マイクにまで届いて、現場の興奮が嫌が応にも伝わって来たりもした(笑)」
珠美:「前3頭の競り合いからは、残り50mでオグリキャップが抜け出します。外からメジロライアンが懸命に脚を伸ばしますが、3/4馬身届かず2着まで。遂にオグリキャップ、奇跡の復活、そして現役生活を最高のハッピーエンドで全うすることになりました!
 以下、3着ホワイトストーン、4着オサイチジョージ、5着には後方から追い込んだオースミシャダイが健闘してします。」

駒木:「途中から急に上がったペースが、最後の200mだけガクンと落ちてるんだよね。ロングスパートの影響で、もう全部の馬がバテてるんだ。メジロライアンの伸び脚が今ひとつだったのもそのせいだね、きっと。
 勝ち時計は2分34秒2と、同日同条件の900万下(現1000万下)条件の特別レースより遅かったんだけど、急激なペースアップから始まったロングスパート合戦の過酷さを考えると、そんなに楽なレースだったとは思えない。確かに“速さ”は感じられないレースだったかも知れないけど、“強さ”は充分に伝わってくるレースだったよ」
珠美:「『勝てるはずが無い』と思われていたオグリキャップの勝因を挙げるとすると、どうなりますか?
駒木:「まず、メンバーに恵まれた事メジロアルダンが凡走した事。これが大きいね。ここに1頭でも勢いのあるG1ホースがいたら、まず無理だった。
 あとは、やっぱり展開が向いた事と、武豊騎手の好判断。そして競り合いになって、オグリキャップ自身の闘争心が土壇場で蘇った事なんだろうね。いわゆる“火事場のクソ力”状態だったんだと思う。
 …でも、このレースに関しては、あんまり野暮な事は言いたくないよね。『オグリが勝った!』…それだけでいいじゃないかって、思うんだよね」
珠美:「同感です(微笑)。では最後に、このレースの後の各馬の行く末について、博士にお話して頂きましょう」
駒木:「オグリキャップはこのレースを最後に種牡馬入り。非常に期待はされたんだけど、初年度にオグリワンがクラシックに出走したのがやっとで、あとは急速に尻すぼみ。一説によると、劣性遺伝の影響か、脚が曲がって生まれる仔馬が多かったらしいんだ。今ではもう、オグリキャップ産駒の姿を見る事すら珍しくなってしまった。
 対照的なのがメジロライアンだね。この翌年に宝塚記念を制して念願のG1ホースの仲間入りを果たすけれども、これが現役生活唯一の勲章になってしまった。最後は屈腱炎に悩まされつつ引退してしまう。ただ、この馬の真価が発揮されたのは種牡馬入りしてからだったね。メジロブライト、メジロドーベルといった、一流のG1ホースを立て続けに輩出して、未だに内国産種牡馬のエース級として活躍中だよ。
 3着のホワイトストーンは結局G1ホースになれず引退。でも、人気もあったし馬主さんの理解もあって、この馬も種牡馬になっている。産駒の方はあまり期待できないけどね。でも、これは仕方が無い。
 4着のオサイチジョージ、そして10着に惨敗したメジロアルダンも種牡馬入りしている。特にメジロアルダンは中国に輸出された事で有名だね。残念ながら、今年に亡くなったとのニュースが日本に届いたけれど。
 ……まぁ、幸福になったと言えるのはメジロライアンくらいだろうけど、その他の馬も不幸にはなっていないってところかな」
珠美:「……ハイ、ありがとうございました」
駒木:「それでは、また来週だね。皆さんも珠美ちゃんもご苦労様」
珠美:「ハイ、お疲れ様でしたー♪」

 追記:このレースの中のG1ウイナーに、牝馬G1ウイナーが3頭いた事を瞬間的に失念しておりました。エイシンサニー、サンドピアリス、キョウエイタップのファンの方及び関係者の皆さんに御迷惑をおかけしました事をお詫び申し上げます。

 


 

9月13日(金) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(3)
第1章:先史時代(3)〜原人から新人まで

 ※過去の講義のレジュメはこちら→第1回第2回

 前回はサルからヒトになったばかりの人類である猿人についてお話をしました。今回はその続き、原人から我々の直接の祖先である現生人類(=新人)までの事についてお話をしてゆきたいと思います。

 ……前回の講義の最後で、今から約150万年前にアフリカ大陸東部でホモ=エレクトゥスという、原人の祖先にあたる人類が誕生した事をお話しました。

 この新しいタイプの人類は、従来の猿人よりも脳容量が大きく猿人の500cc前後に対して800〜1000cc)体格も一回り以上大きかったと推定されています。その容姿はと言えば、頭蓋骨の形は未だ類人猿的だったものの、下半身の形は驚くほど現代人的であったようです。
 また一説によると、この原人の祖先は、猿人の中で最も進化していたホモ=ハビリスから進化した姿ではないか…とも言われています。その場合は原人の起源は180万年前くらいまで遡る事になるそうですが、詳しい事は分かっていません。
 
 さて、原人の最大の特徴は、やはり脳容量に比例して発達した知能だったと思われます。
 石器にしても、猿人時代は簡単な礫石器を作るのがせいぜいだったのに対し、原人はそこから更に細工を加えた握斧(ハンドアックス)と呼ばれる石斧や、握斧を作る時に出来た石の破片を利用した剥片石器を作り、利用したと言われています。
 特に剥片石器は、削る・穴を開ける・切る・刻む・突き刺す…など様々な用途に使えるため、彼らの行動のバリエーションを広げるのに大きく貢献したのは間違いないでしょう。
 また、原人の脳容量は、現代人の幼児の脳容量と遜色ないレヴェルに達しており、それを考えると言語(喋り言葉)を操っていたのも間違いないとされています。もっとも、文字として遺されていない言語の存在などに確証は得られないのでありますが……。

 こうして猿人に比べて大きなアドバンテージを得た原人は、あっという間にそのテリトリーを広げて行きます。これも確証は持てませんが、原人の登場からしばらくして猿人がアフリカから姿を消したのは、この原人が猿人たちを片っ端から駆逐して行ったのではないか…という説もかなり有力です。
 もし原人と猿人が戦ったとするならば、現代人で言えば中学生と小学校低学年が殺し合いをするようなものですので、猿人がコテンパンに負かされてしまうのは必然とも言えるでしょう。
 そうする内に、やがて原人たちはアフリカ大陸を飛び出して、何十万年もかけて世界中に散らばって行きます。逆に言えば、アフリカ以外の土地にも適応できるくらいに進化が進んだとも言えますね。

 現在のところ、原人の人骨化石が発見されている地域は、アフリカ以外では西ヨーロッパと東および東南アジアに偏っています。特に有名なのは、中国の北京原人インドネシアはジャワ島のジャワ原人、そして原人としてはかなり進化したタイプと言われているドイツのハイデルベルク人で、いずれも約70万年〜40万年前に存在していた人類ではないかと推定されています。東南アジアの島から人骨化石が発見されるというのは不思議に思われるかも分かりませんが、ジャワ原人がいた頃のジャワ島は大陸と地続きだったんですね。
 ちなみに我が日本でも、数十万年前に原人がいたのではないか…などと言われていたのですが、人骨化石の年代特定が進んだり、認められていた遺跡が捏造されたものだと判明したり(あの“ゴッドハンド”藤村氏の事件です)で、今ではそれを示す物証は皆無になってしまいました。“明石原人”と呼ばれていた人骨化石も、今ではもっと後の時代のものであろうと言われています。

 原人の頃の人類の生活実態を知る上において、最も参考になるのは、中国東部の周口店で発見された北京原人が暮らしていたと思われる洞窟の遺跡です。
 他の地域の原人は草食傾向が強かったようですが、北京原人の遺跡からは様々な動物の骨が残っています。しかも彼らは道具や言葉だけでなく火の使用も習得していたようで、遺跡には焚き火の跡があり、肉を焼くなど簡単な調理をして食事をしていた事が分かっています。しかもご丁寧に骨髄まで道具で掻き出していたと言いますから、相当なグルメであったようです。
 …あと、これはちょっと余談になるのですが、北京原人の遺跡からは、他の動物と同じように食された北京原人の頭蓋骨が発見されています。この食人の風習を“野蛮な”ものとするか、一種の儀式的なものであるとするかで識者の意見が分かれているようです。駒木が偉い学者先生に混じって意見するのは僭越に過ぎますが、それでも敢えて意見をさせてもらえるなら、「腹減って死にそうになったら、そりゃ食ったんじゃないの?」…と言いたいところではありますが。

 …で、この原人たちの消息は、約30万年前を最後に杳として知れなくなります。恐らく猿人の時と同じように、原人のまま滅亡していったり、更に進化を続けていったりしたものだと思われます。
 進化を続けていった人類の方は約20万年前になって、やがてまた新しいタイプの人類となってその姿を現します。これが旧人です。
 旧人も原人と同じように様々なタイプがありますが、特に有名なのは、ヨーロッパから中央アジアまで幅広く分布していたネアンデルタール人です。

 ネアンデルタール人は、容姿などに現代人と多くの類似性を持ちます筋肉が著しく発達し、脳容量も現生人類とほぼ同じかそれ以上になるまで発達しています。もう完全に“人間”と呼ぶに相応しい存在と言えるでしょう。
 ネアンデルタール人の使用した石器は、原人時代に比べてさらに精密さを増し、弓矢の矢尻に使われるような、先のとがった石器(尖頭器)なども作られるようになりました。これらが彼らの狩猟・採集技術の向上に役立った事は言うまでもありません。
 このネアンデルタール人の風習の中で特筆すべきものが、死者の埋葬です。どうやらこの頃には、死者を弔うという発想が完成されていたのではないかと思われます。宗教の原型のようなものが、既にこの時点で形成されていたという事になりますね

 さて。
 こうしてネアンデルタール人ら旧人が、ユーラシア大陸中でそれぞれの生活をしていた約10万年前、人類発祥の大陸・アフリカの西北部から、旧人同様に高度な進化を遂げた、それでいて旧人と全く違う種の人類が現れて、やがてユーラシア大陸に足を踏み入れます。これがホモ=サピエンス=サピエンス。我々現生人類の祖先となる人類──いわゆる新人ということになります。
 彼らの容姿について多くを説明する必要はないでしょう。何しろ、彼らは我々そのものなのですから。勿論、現代人ほど大柄ではなかったでしょうし、未発達な部分も多々残されているでしょう。しかし、確かに彼らは我々と全く同じ種の人類だったのです。

 彼ら新人は、ユーラシア大陸に進出するや、瞬く間にそのテリトリーを広げて行きます。それまでの住人であった、ネアンデルタール人ら旧人は、新人に駆逐されたり、または混血して、“吸収合併”される形で姿を消してしまいます約4万年前には、地球上の人類は全て現生人類に占められるようになっていました。ここに現生人類による“天下統一”が成ったのでありました──。

 ……さて、ここから我々の祖先である新人たちについて述べてゆく所でありますが、今日は残念ながらここで時間となりました。
 次回は、この新人たちによる進歩の歴史──旧石器時代から新石器時代における農耕・牧畜の発明、そして文明の発生までを述べてゆきたいと思います。それではまた、次回をお楽しみに。(次回へ続く

 


 

9月12日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(9月第2週分)

 さて、今週もゼミを始めたいと思います。
 今週はレビュー対象作が「ジャンプ」の代原読み切り1本だけで、ボリューム的にはアレなのですが、「チェックポイント」などで、ある程度のボリュームを確保したいと思います。

 まず初めに情報系の話題から。
 今週は「週刊少年ジャンプ」の月例新人賞・「天下一漫画賞」7月期結果発表がありましたので、受賞者を紹介しておきましょう。

第72回ジャンプ天下一漫画賞(02年7月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作なし
 審査員(冨樫義博)特別賞=1編
  ・『Stepping Stone』
   大西智貴(19歳・東京)
 最終候補(選外佳作)=6編
  ・『Vanilla Syndrome(バニラシンドローム)』
   井上昌紀(22歳・岡山)
  ・『トラベルウェーブ』
   阿部国之(22歳・東京)
  ・『高天が原(たかまがはら)の人』
   後藤真(19歳・東京)
  ・『怨霊英雄物語』
   新井正道(19歳・栃木) 
  ・『DARK SIDE WALKER 』
   森田将文(22歳・愛知)
  ・『世界は全部オレの敵だ!』
   岩本直輝(16歳・秋田) 

 今月は審査員特別賞が出ただけで、佳作以上の受賞者はありませんでした。しかし、マンガについては一家言ある冨樫義博さんが審査員ですから、それも仕方ないか…という気がしますね(苦笑)。今月はその分、審査員特別賞に価値が有りそうですね。受賞者の大西さんには今後も注目したいと思います。
 あと気になるところでは、最終候補に残った森田将文さんですね。このゼミが開講されてから3回目の最終候補(止まり)となりました。結果云々は別にして、この意欲は買いたいと思いますね。そこまでプロ志向ならば、いっその事上京してアシスタントをしながら腕を磨いても良いと思うのですが……。

 あと、新連載&読み切り攻勢が一段落ついたばかりの「週刊少年サンデー」ですが、来週にもう1本新連載が始まります
 連載が始まるのは、今年の「サンデー」本誌12号で読み切り『葵DESTRUCTION!』を発表し、(特に一部の層に)好評を得た若手作家・井上和郎さんの正統派(?)ラブコメ・『美鳥(みどり)の日々』です
 井上さんは『からくりサーカス』の藤田和日郎さんの元・チーフアシスタントという経歴があり、その経験で培われた実力には定評があるだけに、楽しみです。
 …しかし、ライバル誌の「マガジン」では、立て続けにラブコメが2本始まり、さらに赤松健さんがラブコメを企画中と噂される中での、この新連載。まさにこれは、元祖ラブコメ雑誌「サンデー」が、意地とメンツにかけて「マガジン」に真っ向勝負を挑む形となりました。果たして軍配はどちらに上がるでしょうか……。コラ、そこ、「既に『サンデー』の不戦勝」とか言わない!(苦笑)

 最後にもう1つ。この秋から選考が開始される「小学館漫画賞」読者による作品の推薦が、今回からウェブ上で出来るようになりました。(詳しくはこちらのサイトへ)
 まぁ、いくら良い作品を推薦したからといっても、“大人の事情”のために、他の出版社の作品が反映される可能性は少ないんでしょうが、興味がある方は是非。
 ちなみに、児童部門少年部門では、小学館の雑誌だけでなくて「週刊少年ジャンプ」の作品からも、“大人の事情”抜きで受賞作が出ますので、お気に入りの作品があればどうぞ。
 ちなみに駒木の予想では、『金色のガッシュ !!』あたりが次の“順番”のような気がしますけど、果たしてどうなるでしょうか…?(これで『ピューと吹く! ジャガー』とかだったら笑えますが)

 …というわけで、情報系の話題は以上。それでは、今週分のレビューに移りましょう。
 今週は新連載の谷間という事で、対象作は「週刊少年ジャンプ」の代原読み切り1本のみ。どうやら「チェックポイント」中心のレビューということになりそうですね。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年41号☆

 ◎読み切り『なるほど納得てんこもり !!  おバカちん研究所』作画:日の丸ひろし

 先々週・8月29日付ゼミ「赤マルジャンプ」完全レビューで紹介した、日の丸ひろしさん『おバカちん研究所』が、今度は『たけし』の代原として本誌に登場です。

 今回も題名が同じとあって、「赤マルジャンプ」の掲載作と同じノリの作品です。絵柄や作風にも変化は無く、その辺りの比較検討は必要ないと思います。

 で、今回の内容なんですが、C評価をつけてしまった「赤マル」の時と比べると、今回はページ数に余裕があるせいか、前作よりは酷い作品になっていないような気はします。ダイナミックなコマ割りをした方がギャグが活きて来る気がしますね。
 ただ、日の丸さんは自分のギャグに自信が無いせいなのか、いちいちギャグの笑い所を解説してしまうんですよね。これが蛇足もいいところなのです。ギャグというのは、送り手から受け手への一方通行だから成立するのであって、それをいちいち説明されては興醒めなのです。(漫才なんかで例外はありますが、それはそのポイントを逆手に取った“反則技”なんですよね)

 ですから、今度は「一人ごっつ」みたいに受け手を突き放すくらいのギャグを連発してみてはどうでしょうか?
 ……まぁ問題は、そんなマンガのネームを認めるくらい度量の広い編集者が「ジャンプ」にいるかどうかなんですが(苦笑)。

 今回の評価はB寄りB−としておきましょう。とりあえず、前回のレビューで述べた、『将来性に期待できず』という部分は撤回しておきたいと思います。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『ヒカルの碁』作:ほったゆみ/画:小畑健《再開後第3回掲載時の評価:A

 当面のヒカルのライバルと思われていた、関西棋院の社初段は、なんと北斗杯予選限定のライバルという事が判明
 ……なんなんでしょう、この贅沢なストーリー展開は…。本当にほったさんは妥協しませんねぇ。凄すぎ
 凄すぎと言えば、巻末コメントも凄すぎ
 「子供2人が『おもしろいよ』と言っていた“千と千尋の神隠し”を先日ビデオで見ました。んー、私は“ナウシカ”が一番好きです
 ……ナニゲにスゲエ皮肉! まぁ、確かに『ナウシカ』は、ストーリーテラー・宮崎駿の真髄が現れている作品だと思いますので、ほったさんが好きそうではあるんですけれどもね。

 ◎『SWORD BREAKER』作画:梅澤春人《第3回掲載時の評価:B−

 巷の噂では、本来なら打ち切り確定なくらいアンケート順位が低迷していると言われているこの作品ですが、余りにも分かりやすいテコ入れをして来ましたね。さすがは梅澤氏(笑)。でも、これが人気上昇の決め手になるとは思えないんですが…。
 しかし、裸の女の子が格闘するシーン、まるで永井豪さんの『けっこう仮面』みたいなんですけど、いいのかなぁ(笑)。

 ◎『こちら葛飾区亀有公園前派出所』作画:秋元治《開講前に連載開始のため、評価未了》

 食パンを嫌がるレモンの表情を見るにつけ、「ああ、作風が完璧に変わっちゃったんだなぁ」と思ってしまいました。あ、「ちょっと可愛い」とも思いましたが(笑)
 しかし、これだけ長期連載を続けながら、徐々に自分の作風を変えていけるという柔軟さは凄いと思いますね。普通、これだけ同じマンガをやっていたら確実に“世代ボケ”してしまうものなんですが。

 ◎『ROOKIES』作画:森田まさのり《開講前に連載開始のため、評価未了》

 今回のハイライトとなったクロスプレーは、本当ならセーフなんだそうで。でもまぁ、「マンガ史上に残る世紀の大誤審」ってことで良いんじゃないですか(苦笑)。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年41号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『史上最強の弟子 ケンイチ』作画:松江名俊《第3回掲載時の評価:

 大量の登場人物もどうやらこなれて来たのか、やや良化の兆し。やっぱり主人公がソコソコ強くならないと面白くないですね、こういう作品は。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ《第3回掲載時の評価:A−

 やっぱりこの人、可愛い女の子を描く才能がありますね。それを前面に出さないところが、また味があって良いんですよね。

 

 ……さて、今日のゼミは以上です。いつもより短めの講義となりましたが、これ以上長くなると追加振替講義&翌日休講になってしまうので、どうかご容赦を。

 それでは、また来週。

 


 

9月11日(水) 社会経済学概論
「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録」(11)

 本来なら、『アメリカ同時多発テロ1周年特別企画』とか言って、アメリカとイスラム社会の因縁について講義をしなくちゃいけないところなんでしょうが、それは現在進行中の「学校で教えたい世界史」の中で徐々に語ってゆく事にしまして、今日も今日とて平常講義であります。

 ※前回までのレジュメはこちら↓
  第1回第2回(ここまでは競馬の話)第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回

 前回はアルバトロス映画の中でも指折りのスカタン映画に数えられる『深海からの物体X』のストーリー解説だけで時間を潰してしまいましたが、今日は『深海──』以後の2000年のアルバトロス史全般についてお話を進めたいと思います。

 1月に『深海──』で大コケをカマしてしまったアルバトロスですが、この後も反省の色無くたくましくB級映画路線を継続させていきます。他の配給会社では見向きもされない映画を発掘したり、色々なイベントを企画・運営したりしていました。勿論、その間の小銭稼ぎとして洋物ポルノのビデオ販売をしていたのは言うまでもありません。

 そんなアルバトロスが『深海──』の次に劇場公開に踏み切った映画は、4月公開の『日曜日の恋人たち』というフランス映画でした。
 題名だけ聞けば、まるでフジテレビの“月9”「SMAP×SMAP」とタッグを組んで、『私立探偵濱マイク』の視聴率を奈落の底に叩き落しそうなテイスト溢れる、極めて爽やかな内容を想起させそうではありますが、しかしそこはアルバトロス映画題名だけの印象で試写会や劇場に訪れた観客をどん底に叩き落してくれます
 ストーリーを詳しく説明するのは冗長に過ぎるので控えますが、簡単な設定と冒頭だけ話せばこの映画が何たるかが分かって頂けると思います。

 この映画の主人公は、生きる事に対する気力を失い、乱交やハードSMから僅かな活力を得て日々を暮らす男・ベン。職業は検死官であります。
 そしてヒロインは19歳の不良少女・テレーザしかし物語が始まった時点で彼女は既に死亡していて、ベンの勤務先にある解剖室に運び込まれ、そこでベンと“出会い”、そして結ばれます

 …………………え?

 ハイ。そういう映画なのでした。
 ベンに犯されたテレーザではありますが、その時のショックで息を吹き返します(!)。そして、この事件のせいで一家離散の憂き目に遭ったベンを命の恩人として付きまとい、彼の心を救い出そうとし、更に彼と一緒に落ちる所まで落ちてゆく…そんなストーリーで話は進んでいきます。

 …と、話は内容こそ歪んではいますが、筋自体は単純なもの。しかし、これがまたフランス映画の悪い所ばかり出た映画だったようで、観た人の大半に映画の内容が伝わって来ないという困った映画になってしまいました。
 結局、この映画もヒットには至らず。公開にあたって「私が今一番観たい映画」…とコメントを発表していた広末涼子のイタさ加減ばかりが目立つという、様々な方面に迷惑千万な映画となってしまいました。

 立て続けの失敗にも関わらず、アルバトロスの無鉄砲さは影を潜めるどころか、更に勢いを増します
 この2000年6月、なんとアルバトロス映画ばかりの映画祭・「ALBTROS FILM EXXXPO 3000 !!」を開催します。1ヶ月間劇場を借り切って、アルバトロスのスカタン・ムービーを垂れ流すという、まさに世紀末的な試みでありました。
 公開された映画のラインナップは以下の通りでした。(上映プログラム順)

 『ドイツチェーンソー大量虐殺』
 『キラーコンドーム』
 『ユナイテッド・トラッシュ』
 『スウィーニー・トッド』
 『テロ2000年集中治療室』
 『肉屋』
 『深海からの物体X』
 『死の王』
 『魔処女』
(初公開)
 『奇人たちの晩餐会』
 『グッバイ20世紀』
(初公開)

 しかし、何と言う並びでしょうか、この上映順

 鬼畜スプラッタ→スプラッタ風B級刑事物→不条理アクション→人肉パイ販売映画→支離滅裂スプラッタ→イタリアン・エロス→Z級スカタン・アクション→自殺奨励映画…

 まさにケンカを売ってるとしか思えない並びであります。まだ『ザ・キャッチャー』が入ってなかっただけマシかもしれませんが……。

 ちなみにこの時初公開された映画についてお話しておきますと、『魔処女』バンパイアの少女が主人公の、『ポリスアカデミー』みたいなノリのコメディ映画。試写段階では好評を博していたにも関わらず、土壇場でお蔵入りになってしまった…という、これまたアルバトロスらしい経緯を辿った映画でした。
 そして『グッバイ20世紀』は、「『ストーカー』と『スターウォーズ』と『時計仕掛けのオレンジ』をミックスした映画」という映画評が雑誌に掲載された、不条理ホラー・アクション映画でありました。『グッバイ──』については、駒木は映画の詳しい内容を存じあげないのですが、『グッバイ20世紀』と謳っておいて、舞台が1999年であるところからして、そういう映画なんだと思います。

 ……こんな感じで2000年上半期が終わりましたが、まだまだアルバトロスの挑戦は終わりません。下半期に入ると、今度はいきなりインドやイランなどのアジア・ムービーに手を染め始めます。
 
 まず7月、ヒロインとその家族がとことん虐待・虐殺された挙句に、その屈辱をそっくりそのままお返しするという、インド発の“激辛・リベンジ・ムービー”『アシュラ』を公開しますが、超大コケアルバトロスの最低動員記録を更新します。
 簡単に“最低記録”と言いますが、アルバトロスの最低記録という事は、グッズの売上よりもチケットが売れなかった『深海からの物体X』よりも不入りだったわけですから強烈です。斉藤清六がさらに歌が下手になったとか、Mr.オクレが更に痩せたとか、そんなレヴェルのお話であります。

 これにもメゲずに(いい加減メゲて欲しいですが)12月に公開に踏み切ったのが、イラン映画『サイレンス』“本国で上映禁止処分!”というのが売り文句にされました。
 恐らく買い付け担当の叶井さんも、その“上映禁止”を決め手にして買い付けてきたのでしょうが、実は、映画の途中で女性がただ踊っているシーンがあり、それが「イスラムの教えにそぐわない」という理由で上映禁止になっただけ。内容そのものは、アルバトロスらしくない、盲目の少年が主人公の芸術的作品でありました。
 「なんや、人が音も立てずに殺されていく映画と違うんかい」と気が付いた時には後の祭り。芸術的作品にありがちな、“とことん映画好きな人には絶賛されるが、一般受けしない”という評判に留まり、これもヒットに至りませんでした。

 こうして散々な興業成績のまま、アルバトロスは2000年を終えます。
 これでさすがにアルバトロスも懲りただろう…と考えた貴方、甘いです。
 翌2001年、アルバトロスは気が触れたかのように月イチのペースで劇場公開に走り始めます。この怒涛の劇場公開攻勢の中で、アルバトロスは地獄を垣間見、そして天国へと召される事になるわけなのですが、これはまた次回以降の話としたいと思います。いよいよこのシリーズも佳境に突入です。お楽しみに。(次回へ続く

 


 

9月9日(月) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(2)
第1章:先史時代(2)〜人類誕生

 ※過去の講義のレジュメはこちら→第1回

 前回は思い切って“歴史のスタートライン”を7000万年前まで下げ、霊長類が地球上に登場してから、現在のアフリカ大陸で人類が誕生するまでの歴史を述べてゆきました。
 そして今日からは、そうしてヒトと呼ばれるようになった、直立二足歩行をする知能の発達したサルが、我々の直接の祖先である現生人類になるまでを追いかけてゆきたいと思います。

 ……さて、前回の講義の中で「人類が誕生した年代を特定するのは、未だ難しい」と述べました。これは、人類誕生の年代が考古学上の発見とその検証結果に大きく左右されるためであります。
 事実、今から10〜20年前の学校の歴史教科書には、
 「今から約200万年前から猿人が地球上に現れ──」
 …などと書かれていたりします。

 実は20年前には既に、300万年以上前のものと推測される人骨化石が発見されていましたが、その発見から間が余りなかった事(当時で発見後10年弱だった)や、日本では教科書に最新の学説が反映されるのが極めて遅いという事などから、このような話になってしまったのでした。
 余談ですが、最新の学説が教科書に反映されるまで時間がかかるのは社会科・歴史学だけの話ではないようです。駒木の予備校生時代の話ですが、大学教員もしている英語の先生から、
 「最新の解釈が辞書に反映されるまでに5年から10年、そしてそれが教科書に反映されるまでにまた5年から10年。
 せやから、今の君らは、自分が生まれる前の英語を勉強しとる事になるんやで」
 ……などと話してもらったのを思い出します。まぁこれもある意味詮無き事ではありますが、学校で教えてもらった事をそのまま正しい事だと認識していると、大恥をかくことになり兼ねないという事だけは知っておいてもらいたいと思います当講座で習う歴史学もまた、「脚色付のノンフィクション・大河ドラマ」みたいなものだと認識しておけば間違いないでしょう。

 閑話休題。
 ……そういうわけで、人類の誕生については、まだ曖昧な部分が多い事は否めませんが、その希少な史料を拠り所にして、講義を続けてゆく事にします。

 受講生の皆さんも、恐らく中学・高校で学習したように、人類は進化の段階によって4つに分けて語られます。即ち、時代の古い方から“猿人”、“原人”、“旧人”、“新人”…とされる分類であります。この講義でも、この4分類に沿ってお話を進めて行きたいと思います。

 まず初めに“猿人”文字通り、類人猿に近い人類というわけですね。このタイプの人類についてお話をしてゆきましょう。
 猿人はこれから述べますように、様々なタイプが存在した事が分かっていますが、どのタイプにも共通しているのは、全体的な体格や頭部がサルに近い一方で、下半身の骨格は極めて人間的という事。そのため、知能は未発達でありますが、立ち姿や歩き方に人間らしさを漂わせている…まぁ、こんな感じでありましょうか。
 「おいおい、そんなの人間って言えるのか?」…という疑問はもっともではありますが、「ヒトとは、直立二足歩行が可能な、類人猿から進化した動物である」という定義に則ると、猿人もまた人類…とまぁこうなるわけなのです。まぁ、おすぎとピーコも男である、みたいなものでありましょうか。

 …さて、件の700万年前の物と思しき“猿人化石と言われている霊長類の化石”など、未だ検証中のモノはとりあえず扱いを保留して考えますと、現在発見されている中で最も古い人骨化石は約450万年前の物であります。
 この450万年前の人類は、化石が発見された現地(エチオピア)の言葉で「根(=ルーツ)」を意味する言葉「ラミダス」から、ラミダス猿人と命名されています。身長120cm前後、頭部や歯は人間よりチンパンジーに近いものの、骨格上の特徴から人類の絶対条件である直立二足歩行を行っていた事は間違いなく、極めて原始的な人類として認められるものでした。そのため、このラミダス人は、人類と類人猿との進化の枝分かれの直後に誕生したものではないか…などとも言われています。

 さすがに400万年以上前の人骨化石となると、ラミダス猿人の他に人類と確証の持てるものは発見されていませんが、これ以降の年代のものとなると、これはかなりの種類が発掘されています
 発掘された場所は、いずれもアフリカ大陸南部からアフリカ大陸東部。最近になって、猿人と原人の境界線上にあるような人類がアフリカの外に出ていた…とする発見がありましたが、少なくとも人類はアフリカで誕生し、約200万年前くらいまではアフリカにのみで生活していたと思われます。
 ちなみに、最も早く発掘された猿人の化石は、南アフリカのタウングで解剖学者のレイモンド=ダート(鬼籍に入った研究者は呼び捨てで記すのが業界内のルールだそうです)が1920年代に発見したもので、ダートが“タウングの子供”と呼んだ子供の人骨化石です。そして、この人骨化石を学会で発表する際に命名された学名がアウストラロピテクス・アフリカヌス(直訳すると、「アフリカの南のサル」)。そう、我々が中学・高校時代にバカの一つ覚えのように暗誦させられた、猿人全体を表す言葉・「アウストラロピテクス」の名称はここから生まれたというわけです。

 …で、この猿人たちなのですが、どうやらこの猿人たちは1つの種としてまとまっていたわけではなくて、それぞれ各地で異なる種の猿人が独自の進化を遂げつつ代を重ねていったようです。つまり、進化の枝分かれは人類になってからも続いていて、猿人の中には猿人のままで滅亡していった種も多数あったという事になります。
 そうして数百万年に及ぶ、気の遠くなるような猿人同士の進化競争が繰り広げられ、やがて約200万年前になって、猿人の中でも画期的な種が現れます。ホモ=ハビリスです。化石が発掘された場所から、今のタンザニアやケニアの辺りで誕生し、やがて北へ北へと移動していったものと推測されています。(注:「世界史B用語集」には400万年前の種と書かれていますが、誤りです)
 このホモ=ハビリスは、これまでの猿人に比べて脳容量が大きい(約500cc)のが特徴とされ、それ相応の知能の発達が認められています。
 ホモ=ハビリスが猿人の中でも画期的とされる最大の理由は、この猿人が石器を作って使用していた事が分かっているからです。ホモ=ハビリスとは、「器用なヒト」という意味。名は体を表すという典型例であります。
 ただ、石器と言いましても、サルに毛の生えたような脳しか持たない猿人でありますから、複雑な物は無理であります。その石器は、手ごろな石英質の石ころを互いにぶつけ合って石の一端を打ち欠き、そうやって鋭利な刃をつけさせた…という簡単な物でした。これを「礫石器」と言います。ですから、学校で習う「猿人は簡単な石器を作り云々…」という部分は、このホモ=ハビリスについて述べたものであると考えて良いでしょう。

 こうして人類はゆっくりとした歩みながらも、確実に進化を続け、より人間っぽい動物へと変わってゆきました
 そして今から約150万年前、まだ猿人たちが多数生活するアフリカの東部で、明らかにこれまでとはタイプの違う人類が登場しました。
 150万年の時を経て、ホモ=エレクトゥスと呼ばれることになるこの新しい人類こそ、猿人から次の段階へ進化した、原人の祖先にあたる人類だったのです──。

 ……と、今日は猿人の歴史だけで時間を費やしてしまいましたが、次回は少しペースを上げて、原人から新人までの歴史をお話してゆきたいと思います。(次回へ続く

 


 

9月8日(日) 社会経済学概論
「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録」(10)

 このシリーズもついに大台の10回目となりました。
 当社会学講座の最長シリーズは、正確に言えば続き物ではない競馬学概論を除くと、椎名林檎さん関連の講義(3/19〜5/27、計16回)なんですが、下手をするとこれを破ってしまいそうな勢いになってしまいました(苦笑)。
 それはいかがなものか…とは思いつつも、
 「そういえば、ジャイアント馬場さんのPWFヘビー級王座防衛記録を終わらせたのは、後に『流血は血糊使わせてくれ。カミソリで額を切るのは嫌だ』と言って干されたキラー・トーア・カマタだったよな」
 と、考えると、「それもまた良し」と思えたりするから不思議ですが。

 ※前回までのレジュメはこちら↓
  第1回第2回(ここまでは競馬の話)第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回(第3回以降は外国映画買い付けの話で、段々変な方向へ流れていきます)

 今日は前回のラストで予告した通り、題名からして「侍魂」に対する「痔根」のような存在になる事を甘受しているような諦念漂う作品・『深海からの物体X』を紹介するところから始めたいと思います。

 まずこの作品、ビデオパッケージからして既に迷作確定であります。
 裏側には、『7分に一度の10大ショックシーン!』という過激な見出しの下に、浜村淳真っ青の全編にわたるネタバレが記され、その上、

「全国劇場大ヒット作品」

 …という、「ケンちゃんラーメン、新発売!」並の詐称コピーが踊っています。さすがに「全米No.1ヒット」とは書けなかったようですが、これでも大概です。
 念のために解説しますが、アルバトロスは単館上映向け映画の配給会社です。アルバトロスの映画が全国の劇場で大ヒットするという事は、アストロ球団がワールドシリーズで優勝するようなものなのであります。

 …と、パッケージを見た瞬間に脱力しそうな、この『深海からの物体X』でありますが、ビデオをデッキに挿入して再生ボタンを押すと、その脱力感は更に増大すること間違いナシであります。ストーリーを紹介しましょう。

 主な登場人物は、主人公マイクと、そのフィアンセであるマーガレス、そして友人のボビー(♂)、ジュディー(♀)、ドロシー(♀)の若者5人です。

 舞台はイタリア。人気の無い夕暮れの海辺で戯れる5人のシーンから始まります。
 人気が無いのはエキストラを雇う金が無かったためと推測されます。それを証拠に、この後どんどん日が暮れて辺りが暗くなってゆくにも関わらず、照明が焚かれないために登場人物が確認できなくなって来ます
 どうやら照明のバッテリーも買う余裕が無かった
ようです。「タモリ倶楽部」でも、もうちょっとはマシだと思いますが、これがラテンの血の為せる業なのでありましょうか。

 …その後、何故かゴムボートで沖に出かけることにした5人ですが、あっという間に嵐にも遭ってしまい、遭難の危機となります。
 実は彼ら、エンジンを動かすガソリンどころか、ボートを漕ぐオールすら積まずに出掛けておりました。この時点で、主役級の5人は、揃いも揃ってデビューしたての釈由美子のような連中である事が判明するというわけで、これがこの後の頭の悪い展開への大きな伏線となります。そしてまた、登場人物が航海を続ける中、映画を観ている人は激しく後悔し始めるのもこの頃です。
 嵐の中、ゴムボートを手で漕いで航海を続けるという、麦わらのルフィも真っ青の操船術を駆使した5人は、遂に一艘の漂流船を発見し、そこに乗り込むことに成功します。

 しかし、必死の思いで辿り着いたその船内は、異様な雰囲気に包まれておりました。
 まず一行が紛れ込んだのは、これから仮面ライダーでも作り出そうかというような実験室。その内部には、不気味な魚の標本謎の液体・粉末などが展示されています。で、この怪しい粉末をボビーがいきなり舐めたりするのですが、これもデビューしたての釈由美子がやる事だと考えれば納得せざるを得ません
 …かと思えば、実験室から一歩出れば食堂やバーがあって食料に酒類も豊富で、シャワー室はご丁寧にも音声解説付という豪華な造り。この豪華設備を気に入ったボビーは「こりゃいい。この船、俺たちに名義変更しちまおうぜ!」…などと暴言を吐きますが、これも釈(以下略)。
 この時点で、映画を観ている立場からすると「誰かマトモな奴はおらんのか!」…と叫びたい気分なのですが、ンバー中随一の知性派である主人公マイクが、TVゲーム(用コンピューター)に触れた経験を活かして、実験室のコンピューターをハッキングしようとするような奴ですので、処置無しです。『3×3EYE'S』を『ボボボーボ・ボーボボ』のノリでやってるような映画だと諦めるしかありません。

 その後、船内唯一の生存者である、実験室付の博士(狂ってて役に立たず)を発見したり、ボビーが船内から麻薬を発見して大騒ぎするなどありましたが、キリが無いので端折ります。

 それは船内探索が一段落着いてからの事でした。突如、ドロシーが腹痛を訴えて嘔吐します。そして、そのゲロの中からは何故かクワガタが数匹……
 ドロシーは「口から虫が出てきたのよ! 研究室にあった虫だわ!」…と叫ぶのですが、研究室には虫はいませんでした。どうしたドロシー! ボビーから早速麻薬でももらったのか!
 事実この後、ドロシーは急に発狂し、大暴れした挙句、急に気絶します。覚せい剤とヘロインでも併用していたのでしょう。存在しなかったクワガタを吐くくらいですから、実験室で密かに覚せい剤を精製したり、中国産のアヘンからヘロインを抽出することくらい屁でもないと思われます。

 …で、ここに至って一連の怪現象の理由を突き止めようと実験室のコンピューターに向かうマイクですが、当然のごとく思うようにいきません。恐らくインターネットを始めた初日にエロサイトでダイヤルQ2に繋げてしまいそうな彼ですから、一晩経っても何も分からず終いです。
 しかし結局は、様子を見に来たマーガレスが間違えて押したボタンで全てが解決し、船内での怪現象の理由が数億年前の化石でしか確認されていない、何千年もの昔の古代魚」の仕業である事が判明します。
 いや、ここはまだツッコむ場所ではありません。この数億年前に生息した数千年前の古代魚、肉食でしかも水中以外でも生息でき、空さえ飛びますスーパーマリオでこんな敵キャラいたよな、と思わず懐かしくなりますね。
 そして、この魚に放射能で汚染されたプランクトンを与える研究をしていたのがこの船だった…という事も分かります。このプランクトンを食べた魚は、人間の女性の裸や性の営みに反応して凶暴化するように突然変異するのです。で、この船の乗組員はそんな魚に食われたり、逆にその魚を食って放射能にヤラれて死んだりして全滅したとのこと。恐ろしいですね。
 ……しかし、これだけの事実が判っても、ドロシーがクワガタを吐いたり発狂したりした理由が全く解明されていない事の方がもっと恐ろしいと思うのは駒木だけでしょうか?

 ……さぁ、こういう展開になって来ると、もう後の展開は読めたも同然であります。

 こんな状況下にも関わらず、ボビーとジュディーがHし始めまして、そこへ古代魚が乱入。哀れにもボビーは魚と融合して半魚人になってしまいます。しかしもっと哀れなのは、その半魚人相手に生本番を展開していたジュディーでありました。ジュディーは卒倒し、その行為中の記憶を失ってしまいます。
 半魚人・ボビーを発見したマイクは水中銃で彼を射殺しようとしますが、隙を見て半魚人は人間・ボビーの姿に変身。この場をとりあえず丸く収めます

 ……ちょっとこれ以上ストーリーを解説していると、駒木の頭までおかしくなりそうなので、例によってここからはペースを上げてお話します。辻褄の合わない部分が多数あると思いますが、そういう映画ですから諦めてください。

 翌朝、マーガレスが起きだして洗面所の蛇口をひねると、半魚人・ボビー(密かに洗面所を支配下に置いていたらしい)の体が変形したタコの足が出てきて、彼女の首を締め付けたりします。

 それが解決したと思ったら、昨晩汚染された魚を食ってしまっていたドロシーの背中から魚(蟹のハサミ付で歯は入れ歯)が出現。しかし、鉄の意志を持ったドロシーは変身した自らと戦い、死んでゆきます。勿論、宿主を失った魚も死にます。

 この時点で、船を爆破して脱出する事に決定。

 突然、ジュディーが魚の卵を産卵して死にます。

 マーガレスも半魚人になりかけ、自分の運命を悟って自殺します。

 船内に放射能が漏れ始めます。

 結局狂いっ放しだった博士が、半魚人・ボビーに戦いを挑みますが、小川直也に挑んだガファリのように秒殺されます。

 半魚人が博士を食ってる間にマイクは逃亡。船は2代目引田天功の大脱出のような手加減の入った爆破で沈没。最後にマイクが絶叫。

 「二度とこんな目に遭ってたまるかー!」

 スクリーンやブラウン管の向こうで、鑑賞者が「その言葉、そっくりそのまま返したらぁ!」と怒り狂う中、物語はようやく終わってゆくのでした……。

 ………

 さて、この映画、先程ビデオパッケージには「全国劇場大ヒット作品」と書かれていたと言いましたが、実は全国どころか単館でも歴史的な不入りでありました。
 なんと、映画のチケット売上総額よりも、関連グッズの売上総額の方が上だったという、日本映画史上に残る大コケをかまして、『キラーコンドーム』の儲けを吐き出してしまったのでありました。

 このように、浮き沈みが激しすぎるアルバトロスでありますが、これもまだ、その後に続くエピソードからすればまだ序章に過ぎません。その続きに関しては、また次回以降のお楽しみという事で、今日はとりあえずこれで終わりたいと思います。(次回へ続く

 


 

9月7日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”」(17)
1993年阪神大賞典/1着馬:メジロパーマー

珠美:「この講座でG1レースではないレースを扱うのは珍しいですね」
駒木:「最初の2回と園田のアラブ優駿は違うけどね。あ、ドバイワールドCもその時はノン・グレードか。
……まぁ、どうしても知名度の高い馬とレースを探したりしてると、どうしてもこういう事になっちゃうよね。でも、今日はハッキリ言って趣味に走らせてもらったよ(笑)」
珠美:「今から9年前の阪神大賞典ですね。私は例によって中学生の頃ですからリアルタイムで観てませんし、あまり一般的にも有名なレースじゃありませんよね」
駒木:「そうなんだよなぁ…。確かに、阪神大賞典にしてはメンバーは地味だったんだけれどもね。でも、レースそのものとしてはメチャクチャ迫力があって面白いレース。なんて言ったって、フジキセキの弥生賞に並ぶ、“90年代二大差し返し”の1つなんだからね」
珠美:「“二大差し返し”って、そんな言葉ありましたっけ?」
駒木:「僕が作った(笑)」
珠美:「ぷっ、なんですか、それー(爆笑)」
駒木:「しかしだね、普通、競走馬っていうのは一度交わされると闘争心が萎えてズルズル下がってしまうものなんだよ。ダビスタ(特に初期の)じゃ差し返しが必殺技みたいなもんだけれど、本物の競馬じゃあ、なかなか観られるものじゃないんだよ、差し返しって
珠美:「あー…、そういえばそうですねー」
駒木:「差し返しのレースが実現するためには2つ条件がある。1つは実力の有る逃げ・先行馬で、もう1つは究極のジリ脚を持った差し馬
珠美:「究極のジリ脚(笑)。今日の博士、面白いです(笑)」
駒木:「いつもは面白くない、みたいな事を言わないでくれ(笑)。
 …で、さっき挙げた弥生賞の時には、果てしなく強い先行馬のフジキセキと、果てしないジリ脚を持ったホッカイルソーがいたんだよね」
珠美:「今度は果てしないジリ脚ですか(笑)」
駒木:「そう。ネバーエンディング・ジリ脚。アイツが菊花賞でトウカイパレス交わしていたら……と、そんな事をいってる場合じゃない(笑)」
珠美:「駒木博士の伝説的な“1着−3着4着5着6着7着8着”馬券でしたっけ、その菊花賞(笑)」
駒木:「そうそう。今なら絶対にしないような買い方だけれども(苦笑)。あの時、残り1ハロンで急にヘタれたホッカイルソーの姿が未だに忘れられない(苦笑)
 …でだ。今回採り上げる阪神大賞典には、芸術的な大逃げを打つグランプリ2冠馬・メジロパーマーと、芸術的なジリ脚で日本中の競馬ファンを魅了したナイスネイチャがいた。個性的な2頭が繰り広げた名勝負ってわけだね、うん。
 このメジロパーマーって馬は、実績の割にはそれほど評価されていないんだけど、この93年春シーズンのメジロパーマーは本当に強かった。4年半の現役生活の中で特に光り輝いていた3ヶ月間だったんだ。
 …だから、このレースは本当に奇跡的なタイミングの良さで実現した名レースなんだ。そういう意味でも貴重なレースと言えるよね」
珠美:「…なるほど。そこまで熱く語られると、何だか楽しみになって来ました(笑)。…では、出馬表をご覧頂きましょうか」
駒木:「このレースはメンバー構成も味があるんだ。是非注目してもらいたいね」

第41回阪神大賞典 阪神・3000・芝

馬  名 騎 手
マミーグレイス 内田浩
タケノベルベット 武豊
カゲマル 田面木
ダッシュフドー 谷中
メジロパーマー 山田泰
エイシンカーリッジ 村本
ナイスネイチャ 南井
スバルボーイ 小島貞
エリモパサー 猿橋
10 マンジュデンカブト 山田広
11 レッツゴーターキン 大崎

珠美:「G1ホースが3頭いるんですね」
駒木:「そう。しかも3頭とも10番人気以下でG1を勝って、万馬券の立役者になった事のある馬ばかりなんだよね(笑)。だから、このレースでも1番人気はナイスネイチャに譲ってるんだよね。
 まぁ、そのへんも含めて珠美ちゃんに紹介してもらおうかな」
珠美:「…ハイ、分かりました。阪神大賞典の概要については、このシリーズの第1回・1月5日付レジュメを参照して下さい。ナリタブライアンとマヤノトップガンのマッチレースについて扱った講義です。
 …それでは次に人気上位馬の紹介をさせてもらいますね。まずは単勝1.9倍と、ダントツの1番人気だったのはナイスネイチャでした。
 ナイスネイチャは、(旧)3歳〜4歳初頭こそ1勝のみと伸び悩みますが、5ヵ月半の休養を挟んで夏に復帰してからは一気に本格化。500万特別、900万(現1000万)特別、小倉記念、京都新聞杯と、重賞2勝を含む4連勝をマークします。2番人気で臨んだ菊花賞は4着に終わりますが、その後も鳴尾記念1着、有馬記念3着と古馬に混じってもその存在感をアピールしました。
 しかし、その後9ヵ月半の休養を挟んで(旧)5歳秋に復帰してから2着1回、3着3回、4着1回と急に勝ち鞍に恵まれなくなってしまいます。この阪神大賞典の前走は日経新春杯2着。(旧)5歳牝馬のエルカーサリバーにクビ差惜敗という成績でした」

駒木:「(旧)4歳の時に、一度天下を獲ろうかという位強かった…というのが、普通のジリ脚馬と違うところだね。一見似たようなタイプにホワイトストーンがいるんだけど、これはジリ脚というよりムラ脚…つまり、好不調の差が激しい馬だったからねぇ。
 この時期も、勝ち星から遠のいていたとは言え、まだ強かった時期の威光が少しくらいは残っていた時期なんだ。その前の年の有馬記念も一応は3着だったしね。更に、このレースの相手だったG1馬3頭にしても、タケノベルベットには日経新春杯で先着してるし、他の2頭は有馬記念からブランクがあった。だから過去の実績+叩いた強みで競馬新聞で◎に推されて、その結果1番人気になったんじゃないかな、と思う。今から考えたら、ナイスネイチャで単勝1倍台なんて信じられないんだけれどね(笑)」
珠美:「ナイスネイチャの1番人気にはそういう理由があったんですねー。
 …では次に2番人気。こちらは(旧)5歳牝馬のタケノベルベットです。
 タケノベルベットは準オープン・17番人気の身で参戦した、(旧)4歳秋のエリザベス女王杯(当時は現在の秋華賞に相当)でアッと驚く大駆けを見せてG1ホースの仲間入りを果たした、シンデレラ・ガールです。
 その後も鳴尾記念1着、日経新春杯3着と、古馬・牡馬に混じって遜色の無い成績を挙げて、堂々の古馬長距離G1戦線に参戦してきました」

駒木:「この馬が勝った時のエリザベス女王杯は、確かに傑出馬不在の混戦模様だったんだけど、まさか休養明けの条件馬が激走するとは、ほとんどの人は考えもしなかった。もっと昔で言えばサンドピアレス、最近で言えばブゼンキャンドルってところだね。
 そして驚かされるのが、古馬に混じっての健闘振りだよね。今から考えたら、楽なメンバー相手に挙げた実績と言えなくも無いけど、それでも大したもんだ。2番人気に推されてもおかしくないのは確かだったね」
珠美:「そして3番人気には、このレースの主役となるメジロパーマー。下級条件クラスでの低迷、500万特別を勝った直後に重賞(ハンデ戦)制覇、障害戦への転向など、非常に珍しいキャリアを経ていますね。
 そして(旧)6歳で宝塚記念を制覇してG1ホースになるも、その年の秋は大不振に。ところが、シーズン最終戦の有馬記念で16頭中15番人気という低い評価にも関わらず、鮮やかな逃げ切りを見せてグランプリ春秋連覇を達成した…という、本当に個性的な成績の馬ですね」

駒木:「強いのか、弱いのかサッパリ解らない馬だったねぇ、このレースまでは。勝った2つのG1にしても、正直言って展開に恵まれたからこそだったし、当時現役最強馬のメジロマックイーンが休養中という事もあったからねぇ……。
 だから3番人気という評価も、困惑の現れといった感じじゃなかったかな(苦笑)。G1を2勝した馬で3番人気ってのは過小評価なんだけど、惨敗したレースを思い出すともっと下でも良い位だしね。まぁ、一言で言うと“どう扱って良いのか分からない馬”ってところだね」
珠美:「そんな馬がこのレースで大化けするんですから、競馬は本当、分からないですねー。
 最後に4番人気のレッツゴーターキンを紹介しておきましょう。この馬も条件クラスでの停滞があったり、オープン入り後もG3で頭打ちだったりしたんですが、(旧)6歳秋の天皇賞で、トウカイテイオーらを相手に大波乱を巻き起こしました。その後も有馬記念で4着と健闘し、年明け緒戦にこのレースを選択してきました」

駒木:「この馬が勝った天皇賞は変なレースでねぇ。ダイタクヘリオスとメジロパーマーに引っ張られる形でトウカイテイオーが暴走しちゃったんだよね。前半1000mのラップタイムが57秒5。これじゃあどんな馬でも保たない。
 そんな中、展開がズッポリとハマったのがレッツゴーターキンだったわけ。この年12戦目、前走は福島のオープン特別だからね。どれだけ期待されていなかったかが良く分かる(苦笑)。失礼ながら、こういう馬でもG1獲れたりしてしまうから、競馬は因果だよね
 ……まぁ、有馬記念4着を見ても分かるように、この時期には一応G1入着級の実力があったのは確か。単勝14.3倍の4番人気は妥当だったんじゃないかと思うよ。他の馬は明らかに格下だったし」
珠美:「…なるほど、分かりました。それではいよいよレースを振り返ってみましょう。博士、解説よろしくお願いしますね」
駒木:「了解」
珠美:「ゲートが開いて早々、メジロパーマーがハナに立ちます。手綱をしごいて、あっという間に2馬身くらいのリードを取るんですが、実況の杉本清アナウンサーは『抑え気味かな?』なんて言ってますね(笑)」
駒木:「この馬にしてみたら、5馬身10馬身は当たり前だからね。普通の逃げだったら『あれ? 今日は調子悪いのかな?』って感じだった。普通は大逃げで『おいおい、そんなに飛ばして保つのか?』みたいな感じだけれど」
珠美:「2番手がエリモパサーがいて、そこからさらに数馬身後ろにレッツゴーターキンのいる3、4番手グループ。ナイスネイチャはそこからさらに5馬身くらい離された中位グループの先頭を走っていて、これの2馬身後方でタケノベルベットです。
 …タケノベルベットはナイスネイチャを徹底マーク、ということですか?」

駒木:「そうだろうね。タケノベルベットの武豊騎手にしてみれば、『道中脚を溜めて、ナイスネイチャさえ最後に競り落とせれば何とかなる』だったんじゃないかな。まぁ、常識的な作戦だと思うよ。まさかメジロパーマーが粘りこむとは思ってなかったんじゃないのかな」
珠美:「なるほど…。結果だけ先に見ると分からないことですね。
 …レースに話を戻しましょう。メジロパーマーの逃げは1周目のホームストレッチで10馬身弱ほどのリードに。やっとここで“大逃げ”という感じになりましたね。
 バックストレッチに入りますと、メジロパーマーのリードは再び5馬身ほどに。その後ろでは、徐々に2〜5番手までの馬が固まって好位グループを形成。タケノベルベットのいる中位〜後方集団とはさらに5馬身ほどの差が開きました。
 私なんかが見たら、『これで届くのかなー』って感じなんですけれど…」

駒木:「微妙なペースの関係で差が開いちゃったんだけど、差し馬がここからロングスパートかけるわけにはいかないからね。とりあえずここは我慢のしどころだよ」
珠美:「レースが動き始めたのは3コーナーからでした。まず、中位・後方グループのタケノベルベットがスパートを開始して、それに押し出されるようにして好位グループも追い上げを開始します。それでも4コーナーでメジロパーマーのリードは2馬身ほど残っています。
 直線入口、ついにナイスネイチャがメジロパーマーに並びかけます。その後ろではタケノベルベットも馬場の外目を通って追撃開始。他の馬は後ろに置かれて、完全に三つ巴の戦いになりました。
 ここからナイスネイチャがメジロパーマーを追い詰めて、一旦はわずかに先頭に立ったかという感じなんですが、メジロパーマーが猛烈に抵抗します」

駒木:「ここが見せ場! この2頭が100m以上ビッシリ馬体を併せて叩き合うんだけど、ここからメジロパーマーがもう一度伸びるんだよ。粘るというより伸びてる。その伸び脚に、ジリ脚の上に勝負所で脚を使わされたナイスネイチャが対抗できない。残り100mを切ったところで遂に力尽きちゃった」
珠美:「……というわけで、メジロパーマーが本当に強いレースで1着。タケノベルベットは、最後の最後に目標だったナイスネイチャを交わして2着に飛び込みます。ナイスネイチャは結局、2着からクビ差の3着に敗れました」
駒木:「ナイスネイチャの負けっぷりも鮮やかだよね(笑)。今風に言えば鮮烈のジャスト・ブロンズ(笑)。こんな芸術的な3着はこれ以後見た事がないもの(笑)。馬券買ってた人にしてみれば『コノヤロー!』だろうけどね(苦笑)」
珠美:「杉本アナウンサーの実況も熱いですものね、このレース。メジロパーマーが再び先頭に立ったところでの『もう一度出た、出た、出た、また出たぞー!』という絶叫が印象的でした。
 ……では最後に、上位3頭の馬のその後について簡単に触れて頂けますか?」

駒木:「メジロパーマーについては以前の講義でも触れてるけれども、改めてお話しようか。
 この次に出走した天皇賞・春では、ライスシャワー・メジロマックイーンのマッチレースに最後まで食い込んでいって大健闘の3着。先に言ったように、阪神大賞典とその天皇賞がメジロパーマーの全盛期だったね。その後は再びスランプに陥ってしまうんだけど、翌年の日経新春杯で60.5kgを背負ってムッシュシェクル(後の阪神大賞典勝ち馬&天皇賞・春3着馬)の2着に逃げ粘って、往年の力の片鱗を見せつけた。ただ、このレースで脚を痛めてしまって、結果的にこれが引退レースになってしまった。現在は種牡馬として活動中だね。
 2着のタケノベルベットも、この後に天皇賞に挑戦して5番人気に推されるんだけど、残念ながら一流牡馬の壁は高くて、10着に惨敗してるよ。その天皇賞を最後に引退して、現在は繁殖牝馬だね。
 3着のナイスネイチャは、この後も芸術的なジリ脚でファンに複勝の的中馬券を供給し続けた(笑)。ワイドとか3連複がある今なら、もっと良かったんだけどね(笑)。
 この翌年の高松宮杯(当時)で1着になった時は、表彰式でG1並の騒ぎだったというから、人気の程が窺えるね。
 結局、(旧)9歳まで現役を続行した後、種牡馬入り。マイナーな存在だけど、地方競馬を中心に産駒を輩出していると聞いている。幸せな馬生を送っていると言えそうだね」
珠美:「……ハイ、ありがとうございました。来週もこの競馬学概論ですか?」
駒木:「うん、そのつもりでいるけどね。まぁ、それはまた追ってお知らせするということで。それでは講義を終わります。皆さん、珠美ちゃんご苦労様でした」
珠美:「ハイ、お疲れさまでした♪」

 


 

9月5日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(9月第1週分)

 さて、新学期1回目のマンガ時評です。
 しかし、27にもなって「新学期」という言葉が出てくるのも、職業柄というか何と言うか…(苦笑)。

 今週は特に紹介する情報系の話題がありませんので、いきなりレビューとチェックポイントに行きたいと思います。
 今週のレビュー対象作は、「週刊少年ジャンプ」から読み切りが1本、そして「週刊少年サンデー」から新連載第3回の後追いレビューが1本、都合、計2本となります。 

☆「週刊少年ジャンプ」2002年40号☆

 ◎読み切り『DAI-TEN-GU』作画:鈴木新

 今週はいわゆる代原ではなく、若手作家さんの中編(45p)読み切りが登場しました。
 作者の鈴木新(あらた)さんは、2000年春の「赤マルジャンプ」でデビュー。その後、2001年冬の「赤マルジャンプ」にも作品が掲載されていますが、本誌は初登場とのこと。
 本誌に掲載されていたプロフィールを見ると、どうやら学生との兼業作家さんという事で、作品の掲載ペースが遅いのはその辺りにありそうです。

 それではいつも通り、絵とストーリーに分けてレビューをしていきましょう。
 まずなんですが、若い作家さんが描いた割には随分と古臭いなぁ…というのが第一印象です。目鼻立ちのデフォルメ具合とか、線の太さとかに80年代以前の香りが漂います。これが良い意味での個性になっていれば良いのですが、画力が水準まで届いていないせいか、ただ古臭さだけが目立ってしまっているという感じです。もう少し垢抜けて来れば、児童〜少年マンガとしては適した画風になるのだと思いますが……。
 次にストーリーですが、こちらも問題点が山積みです。
 全体の印象を一言で表しますと、ストーリー全体が作者に都合が良すぎます。自分が描きたい見せ場を全て描き切る事が第一に来てしまっていて、それぞれの見せ場を繋ぐ因果関係と説得力が弱すぎるのです。
 特にそれが顕著なのが、この話の根幹となる主人公の天狗の子供が人間に対する認識を変える部分。これがどうにも弱いんですよね。この部分を中心にしてこの作品のあらすじを書くとこうなります。

 「中途半端に人間を憎んでいる主人公が、ひょんな事から人間の一番醜い部分を見せ付けられる。その時に父親の『人間を憎んではならない』という遺言を思い出して、良い人間(というより、自分と似た境遇の人間)は憎まずに悪い人間だけ憎むようになる」

 …書き方が意地悪かも知れませんが、どうですか? どうにも違和感が拭えませんよね。

 あと、ヒロインの描写も随分と都合が良すぎます
 何の脈絡も無くいきなり過労で倒れたり、車に乗っていたのに徒歩で道なき道を逃げ始めたり、ピストルで撃たれたのに銃創1つ無くベラベラ喋ったり。まるでアルバトロス配給のC級映画のような支離滅裂ぶりです。

 もう1つ、セリフ回しの稚拙さ。特に、後半に集中して出て来る、異様に説明的なセリフが気になって仕方ありません。上手い作家さんならば前半でさりげなく伏線を張る部分が全く説明できていないため、後半で一気にゼロから説明しなければならない羽目に陥ってしまったのでしょう。それを考えると、セリフ回し以上に構成力に問題があるのかもしれませんね。

 評価はC寄りB−。ラストシーンを見ると、この作品は連載を前提にしたお話のようですが、今の状態でこの作品を連載にしてしまうのは、文字通り百害あって一利なしであるような気がしてなりません。  

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介《第3回掲載時の評価:B+

 2週連続の登場です。今週はやけに勿体ぶって引っ張るなぁと思ったら、どうやら次回で1回戦が決着すると、単行本1巻でそこまでキッチリ収まる計算なのだとか。何と細かい計算!(笑)。
 おっと、今週もただ引っ張っているだけではありません。セナのダッシュ力を表現する構図が抜群に上手いですし、スパイクじゃなくて運動靴を履いてしまっているという所でさりげなく伏線を張っているのが素晴らしいです。
 これが「運動靴で凄いパフォーマンス→スパイクならどうなんだろう?→2回戦以降で強敵相手に100%の才能披露」という流れに繋がっていくんですね。そうすることで無理の無い能力のインフレが可能になるわけです。
 まだ巷の評価は目立ってませんが、個人的には今年の「ジャンプ」新作中一番の作品に化けたと思います。…というわけで、今週から評価をA寄りA−に修正させてもらいます。次回以降に激しく期待です。
 

☆「週刊少年サンデー」2002年40号☆

 ◎新連載第3回『きみのカケラ』作画:高橋しん《第1回掲載時の評価:B+

 さて、第3回の後追いレビューなのですが、作品の方向性が定まっていないためか、レビューの論旨もなかなか定まりません(苦笑)。幸い、“チェックポイント”のコーナーも新設されましたし、今回はここまでの印象を半ば箇条書き的に述べてゆく事にし、作品全体の評価はまた後の機会に回す事にしましょう

 まず、深刻なシナリオと背景の割に、妙に雰囲気が能天気でコメディータッチであるのに違和感が拭えないんですよね。
 まぁ、「深刻なシナリオでコメディ」というのは、高橋しんさんの作品で共通する点ではあるのですが、今回は少年誌作品という事で高橋さんの意図するところが違うのか、ちょっとコメディに針が振れ過ぎているような気がします。悪役の女リーダーなんて、まるっきり『ナディア』のグランディス(これも『タイムボカン』シリーズのパロディなのですが)の設定ですものねぇ。
 それが悪い…というわけでは無いのですが、どうも現状ではバランスを欠いている気がしてなりません。次第に慣れが来るのかも知れませんけどね。

 次に、主人公の1人であるシロのキャラクター像が未だにボヤけているために、読者がなかなか感情移入出来ないのも問題点のような気がします。記憶喪失のまま暴走する主人公なんて、ちょっと規格外です。

 あとは“設定説明役”及び“場の雰囲気弛緩させ役”のクロ、これはハッキリ言って余計です。こういう便利キャラを使わないで全てを表現してこそマンガ家の本道という気がするのですが……。
 どうも高橋さんは「少年マンガでは、深刻でダークな部分は描いちゃいけない」と思っているのかも知れませんが、だからと言ってそれを1つのキャラクターで誤魔化してしまうのは反則だと思います。

 ……で、さらに問題なのは、これだけの懸念を抱えながらも、並の作品以上に“読ませて”しまう所なんですよね(苦笑)。まさに第1回のレビューでも述べた、「打球はどう考えても凡フライのそれなのに、力に任せてスタンドインでホームラン」状態なんです。

 ……まぁこの『きみのカケラ』、相当にスケールの大きな作品である事は間違いないですし、今後しばらく経つ内に抜群に面白くなっていく可能性もあります(長期連載主体の「サンデー」では、そういうケースがままあるのです)。勿論その反対になる可能性も充分なんですが(苦笑)、しばらく暖かい目で見てみようという気持ちになっています。

 で、今回の時点での暫定評価なんですが、とりあえず問題点が山積していますし、一応1段階減点してB寄りB+に。正確な評価が下せる段階になったら「チェックポイント」で採り上げます。


◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『名探偵コナン』作画:青山剛昌《開講前に連載開始のため、評価未了》

 事件のプロローグというよりは、高木&佐藤刑事とその他大勢によるラブコメみたいになってますが(笑)、こういう遊び心とキチンとした仕事が両立できているのがさすがですよね。
 それにしても、佐藤刑事の恋愛モードと仕事モードの描き分け方がさりげなく上手ですよねぇ。何だか、『コナン』のような理屈っぽい推理モノよりも、もっと単純なラブコメ物とか読んでみたくなりました。どこかで外伝でも描いてくれないものでしょうか。


 ……以上で今週のレビューとチェックポイントを終わります。
 さて、今日のゼミの後半は、「赤マルジャンプ」全作品レビューの後編です。今回は最後に簡単な総評を付け加える事にします。

◆「赤マルジャンプ」完全レビュー(後編)◆ 

 ◎読み切り『モモ・一文字』作画:海和雅実

 2001年夏の「赤マルジャンプ」でデビュー以来、今回が2回目の登場となる海和雅実さんの新作です。

 に関しては、プロとして最低限ギリギリのレヴェルまで漕ぎ付けている…という印象ですね。まだ荒削りな部分、洗練されていない部分が残っています。週刊本誌で連載するには、まだ足りないものが残っているはずです。
 特に今回の話では、ヒロイン(?)が化粧をしたら、誰もが振り向く美人でないといけないんですが、それが誰にも納得出来るものだったかどうかも、やや疑問ですしね。
 ストーリーは、一応コメディ的な時代劇としての体裁は整っていると思います。少しご都合主義的な展開が否めませんが、これもギリギリ許容範囲でしょう。
 ただ、“覇王の剣”の設定は蛇足でしたし、敵役が雑魚に毛の生えたような小物だったために、話全体のスケールがいかにも小さくなってしまったのが残念でした。
 評価は「読んでみたら、なかなか面白い」作品にはなっていますが、「続きがもっと読んでみたい面白い」作品にはなり切っていないようです。連載作家への狭き門を潜り抜けられるよう、健闘を祈ります。

 
 ◎読み切り『MAP’s』作画:森本尚司) 

 今回が「ジャンプ」系雑誌初掲載となる、新人・森本尚司さんの作品です。この秋23歳、マンガを描き始めてまだ3年…との事ですので、恐らく今回がプロデビューか、それに近い作家さんということになると思われます。

 に関しては、一見細かくて綺麗に見える絵柄なんですが、よく見てみると細かいミスが随所にあって、まだまだ未熟さが窺えます。特に動的表現が出来ていなくて、アクションシーンが止め絵に見えてしまうというのは、プロとしては致命傷に近いと思われます。
 また、使っているペンが、線に強弱が出ないタイプのもの(何て名称でしたっけ? ど忘れしました)であるのも、絵の未熟さを目立たせてしまう一因にもなっていますね。現時点では素直にGペン(線の強弱が出易いペン先)を使った方が良いような気がします。
 ストーリーは、設定を細かい所まで練り上げていますが、それに独り善がり的な嫌らしさが感じられ難いのは良いと思います。一応はまとまった勧善懲悪モノのお話にはなっていますしね。
 が、いくら主人公のマッピング能力等の設定を提示するためとは言え、札付きの悪人が、わざわざ邪魔者を拉致・監禁・拘束までしておいて、体を痛めつけるでもなく樹海に放置するだけで帰って行く(しかも目印消さないままで)というのは間抜け過ぎではありませんか? それに、悪人の子分が丸腰というのもよく考えたら不自然ですね。1対3のガン・ファイトなら、もっと迫力のあるバトル・シーンになったと思うのですが……。
 評価はB寄りB−

 
 ◎読み切り『ヤマネコクロト』作画:船津創

 こちらも今回が「ジャンプ」系初登場。新人・船津創さんの作品です。今年26歳ということで、少年誌のマンガ家デビューとしてはかなり遅い方なのですが、どうやら浅美裕子さんの『ワイルド・ハーフ』のアシスタントを務め、今でも矢吹健太朗さんの非常勤アシスタントをしているとのこと。背景やトーンの処理などが手慣れているのが印象的だったのですが、さもありなんです。
 絵柄については先程も述べましたが、背景やトーン処理など、普通はアシスタントが担当する部分に関しては上手く出来ていますが、その分だけ人物描写の垢抜けなさが目立っている感じがします。特に表情が硬く見えてしまう辺りが最大の課題と言えるでしょう。
 ストーリーは、新人がチョイスしがちな勧善懲悪モノではなく、地味ながらも一本筋の通った“日常生活・ハートウォーミング物”でした。
 こういう作品はどうしても小じんまりした地味な話になってしまうのですが、ある程度の技量がないと作品そのものが成立しないため、作品の出来以上に作家さんの力が評価できたりするものだったりします。
 今回の『ヤマネコクロト』も、キッチリと起承転結のメリハリがついており、なかなか好感の持てる作品ではありました。今後は、この話作りの才能を活かして、如何に派手で突き抜けた作品を創る事が出来るかがカギになって来るでしょうね。そのためには画力の向上も必要でしょうし、期待と心配が半々だったりするのですが。
 この作品に関しての評価はギリギリでB+といったところではないでしょうか。

 
 ◎読み切り『竜巻戦法帖』作画:はちもりよしえ

 昨年秋発売のギャグ増刊で「ジャンプ」系デビューを果たした若手作家・はちもりよしえさんの登場です。プロフィールによると、北海道から上京し、アルバイトしながらマンガ家を目指す26歳…とのことで、少なくとも修行歴は相当の長さに及んでいる事が想像出来ますね。
 に関しては、マンガ家全体としてはともかくとして、ギャグ作家としては充分なレヴェルには達していますね。むしろ、これ以上垢抜けたらギャグマンガらしくないような気もしますし。
 ギャグに関しては、全体的には“あと一歩”のレヴェルを超えてはいないのですが、ボケ役2人とツッコミ役1人のキャラがしっかり出来上がっており、この辺りにはセンスを感じさせるものがあります。今回のキャラを使って、もっとド派手で違和感充分でインパクトのあるギャグが繰り出せるようになれば、連載も見えて来るのではないかと思います。
 評価はBですが、近い将来が楽しみな作家さんが登場した…という印象ですね。


 ◎読み切り『とどろきJET』作画:つじいこうじ

 第63回回手塚賞(02年上期)の準入選受賞作・『とどろきJET』の登場です。作者のつじいこうじさんは25歳。マンガ家を志して5年目のデビューという事で、念願叶って…というところでしょうか。
 に関しては問題ないでしょう。ただ、シリアスな絵のデッサンが上手くないのと、顔の形のバリエーションが少ないために、キャラが増えると苦労しそうだ…という懸念は残っていますが。
 ストーリーは、確かに新人らしい勢いがあって好感が持てるのですが、読者に対して分かりやすく提示しておかなければならない場面を非常に分かり難いように描いていているのが気になります。伏線はちゃんと伏線として見せておかないと、それがいざとなって効いて来ないんですが、どうやらその辺りがまだお分かりになっていないようです。
 また、いくら好きとは言え、そこまでプロレスと学園ドラマを融合させる事に意味があるのかどうかも疑問です。プロレス部分を強調するのであれば、もっと派手で知名度のある技や人物を出すべきだと思いますしね。
 評価はB寄りB−としておきましょうか。


 ◎読み切り『K−1』作画:松本宗二郎

 最後は第56回赤塚賞(02年上期)準入選受賞作の登場です。作者の松本宗二郎さんは弱冠19歳。本格的にマンガを描き始めて半年での受賞という事で、将来性溢れる新人さんですね。
 に関しては、まだまだ改善の余地がありますが、ギャグマンガでもありますし、あと少し丁寧に描けるようになればO.K.でしょう。
 ギャグそのものに関してもまだ荒削りな面が否めませんが、色々なパターンのギャグを入れてゆこうという意欲は窺えます。この後、描き慣れていくにつれて、もっと良い作品が描ける作家さんになれるのではないか…と思います。(勿論、本人にその気が無ければアレですが)
 今回の評価はBということにしておきます。

 ◇総評◇
 今回はB+評価が最高で、A−以上の評価が出来る作品が全く出なかったのは残念でした。低調だったと申し上げて良いでしょう。
 気になったのは、ストーリー物の大半が安易な勧善懲悪モノに走ってしまっている点ですね。善玉らしい善玉が、自分の仲間を守るために悪役らしい悪役(しかも小物)が対決する……というパターンばかり見せられてしまったような気がします。 
 この手の勧善懲悪モノは、話作りが非常に簡単ではあるのですが、だからといって「良い話が作り易い」というわけではありません。使い古されたパターンですから、基本的な話作りのテクニックを身につけた上で何らかのプラスαが無いと、ただの凡作で終わってしまいます。そして今回は、そんな凡作だらけでした。
 ストーリー作家を目指すマンガ家の卵の方には、本当に話作りの大切さを認識してもらいたいです。絵もキャラ造型も大事ですが、最後に勝つのはストーリーが上手い作家さんですからね。

 ……と、いうわけで、少し