「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

9/30 歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(8)
9/29 映像文化論「アニメ『ドラえもん』大幅リニューアルの是非」(1)
9/28 
競馬学特論「G1予想・スプリンターズS編」
9/27 
歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(7)
9/26 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(9月第4週分)

9/25 社会経済学概論「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録」(15・最終回)
9/23 歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(6)
9/22 社会経済学概論「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録」(14)
9/21 競馬学概論 「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”」(19)
9/20 歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(5)
9/19 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(9月第3週分)
9/18 
社会経済学概論「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録」(13)
9/16 歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(4)

 

9月30日(月) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(8)
第2章:オリエント(2)〜
古代バビロニア王国

※過去の講義のレジュメはこちら
 →第1回第2回第3回第4回(以上第1章)/第5回第6回(以上インターミッション1)/第7回

 前回は、メソポタミア文明の誕生からウル第3王朝滅亡までの歴史と、その当時の人たちの生活実態についてお話しました。今日はその続きという事になります。

 最後のシュメール統一国家であるウル第3王朝の滅亡後、メソポタミアは一種の戦国時代となります。
 この時代の主役となったのは、ウル王朝を滅ぼした勢力の1つであるセム系民族の一派・アムル人。彼らはメソポタミアに定着した後、各地の都市国家を支配下に置いて行きました。
 その都市国家の中でも、メソポタミア南部のイシンやラルサが有力となりましたが、この2つの国によるメソポタミアの再統一はなかなか果たせませんでした。その間のメソポタミアは、大小20以上にも及ぶ国々が乱立し、いつの間にか200年の月日が流れて行ったのでありました。

 しかし、この膠着した状況の中で密かに力を蓄え、新しい時代の担い手となるべく表舞台にその姿を現した1つの国がありました。それがあの古代バビロニア王国であります。
 このバビロニアの建国は、紀元前1894年頃。初めは首都バビロンを中心とするごく狭い領土しか持たない都市国家だったようです。それからは、有力な国家の隙を突く形で徐々にその領土を広げて行きますが、お世辞にもメソポタミアを統一する有力候補と言えるような規模ではありませんでした。
 ところが紀元前1792年(異説あり)、バビロニア王国にハンムラビという名の王が即位すると、それまでのムードが一変します。
 ハンムラビは、慎重さと大胆さを兼ね備えた有能な王でありました。まず彼は、即位後30年もの間、ほぼ内政に専念して国力を充実させる事だけ考えたのです。しかしそれから外征に転じるや、それまでのスローペースからは信じられないようなハイペースで、次々とメソポタミア中の国々を飲み込んでゆきました。
 何しろ、それまで200年以上分裂状態が続いていたメソポタミア南部を統一するまで僅かに2年。その後も休む事無く北へ北へと侵攻し、更に3年後にはメソポタミア地方の大半を勢力下に置いてしまったのです。まさに電光石火の早業とはこの事でありましょう。
 こうしてバビロニア王国は、メソポタミア地方で久々に現れた統一王朝となったのでありました。その後もハンムラビがこの世を去るまでの間、彼の綿密な計算に基づいた的確な統治によって、王国は大いに栄えることになります。

 そのハンムラビ王の統治については、大量に残された当時の文献資料によって、かなり細かい部分まで窺い知る事が出来ます
 普通、1人で“天下統一”を果たすような王と聞けば、我々は玉座にふんぞり返って威張り散らしている乱暴な王様…という印象を抱きがちであります。が、ことハンムラビに関しては、そんな貧困な発想をしてしまった自分に恥じ入ってしまいそうなほど、きめ細やかで行き届いた政治を行っていたようであります。
 論より証拠、ハンムラビ王が直接部下に発した命令文をいくつかご覧頂きましょう。

 まずは1つ目。今で言う民事訴訟に関する命令書であります。

 ハンムラビは、シン=イディンナム(駒木注:地方長官の名前)に以下のように命ずる。

 賦役負担者のラルムという者が次のように訴えて来た。
 「金融業者がある土地の権利を主張してきました。しかしその土地は、私が以前から所有しているものなのです。それにも関わらずこの業者はその土地の大麦を刈り取ってしまいました」

 このような訴えがあったので、宮殿内の記録を探させたところ、「2イク(駒木注:土地の広さの単位)の土地をラルムへ」と記された粘土板が今見つかった。
 もしも金融業者がラルムから借金の抵当として土地の権利を主張しているのならば、土地をラルムに返し与えるように命ぜよ。そしてその金融業者を処罰せよ。

 この命令書から少なくとも2つの事が分かります。
 まず、今で言う裁判所が設けられ、その裁判所の最高責任者はハンムラビ王本人である事
 そしてもう1つは、この頃には土地台帳のようなものが既に作成され、宮殿内で専門の係員によって管理されていたという事
 ちなみに、この命令書では金融業者を罰するようにとなっていますが、それは「賦役負担者(公共事業に従事する一種の公務員)に国から与えられた土地は、借金の抵当に入れることは出来ない」という法律がハンムラビ法典38条に定められているからです。このハンムラビ法典については後に詳しく説明します。

 次に挙げるのは、役人の不祥事についての2枚の命令書です。

 ハンムラビは、シン=イディンナムに以下のように命ずる。

 シュラマン=ラ=イル(駒木注:役人の名前)は、次のように報告して来た。
 「収賄事件が発生しました。つきましては、収賄した本人と、これらの事件について知識のある証人の身柄を確保しています」

 この報告に基づき、今からお前のもとに、このシュラマン=ラ=イルと何人かの役人を派遣するので、この粘土板を読み次第、直ちに調査を開始せよ。
 もし、収賄の事実が明らかであるならば、賄賂として贈られた銀や物品に刻印をしてこちらに届けるように。また、収賄をした本人と証人を連行せよ。

 

 ハンムラビは、シン=イディンナムに以下のように命ずる。

 商人のイリシュ=イビが次のように訴えて来た。
 「30グルの大麦を代官のシン=マギルにお貸しし、借用書も取り交わしたのですが、3年間催促しているにも関わらず、返済して頂けません」

 私はこの訴えの際に彼が提出した粘土板を検討した。その結果、シン=マギルには借りた大麦とその利息を払う義務があると判断するに至った。
 そういうわけなので、お前は返済すべき大麦をイリシュ=イビに立て替えて支払っておけ。

 役人の不始末は、為政者にとっては4000年前でも頭を痛める問題であった事だったようであります。
 それにしても、収賄をした者の取調べから滞納した借財の肩代わりまで、王という仕事も楽ではないようです。
 ちなみに、この不祥事を起こした役人の名前は、これ以降の行政文書からは一切出て来なくなるようです。彼らの運命はどうなったのか……いやいや、考えたくもありませんね。

 最後にもう1通。こんな命令書もあります。

 ハンムラビは、シン=イディンナムに以下のように命ずる。

 ダナヌム運河の近くに土地を保有する者たちを集めて、ダナヌム運河を清掃させるように。なお、この清掃は今月中に終わらせる事。

 ここまで来ると、王の仕事ではなくて町内会長の仕事であります。
 それにしてもいつも命ぜられてばかりの地方長官、相当な多忙さが目に付きます。このポジション、今で言えば知事や市長にあたるポジションなのでしょうが、この地位に就く人は相当の激務を強いられた事でありましょう。思わず過労死の心配をしてしまいます

 ……とまぁこのように、ハンムラビ王時代のバビロニア王国は、極めて安定した状態でメソポタミアに君臨していたようでありますが、やはりこの時代の行政の充実振りを示す材料として忘れてはならないのは、『ハンムラビ法典』でありましょう。
 この『ハンムラビ法典』、皆さんはまず真っ先に「目には目を、歯には歯を」という言葉で知られる“復讐法”の原則を思い浮かべられると思います。また、高校で世界史を選択された方などは、「加害者と被害者の身分差によって刑罰が違う」という事などもご存知かも知れません。これは確かに事実でありまして、傷害罪の罪は被害者に負わせた怪我と同程度の傷を負うと規定されていますし、貴族が奴隷を殺害しても罰金刑に処せられるだけであります。
 ただ、この2つのポイントだけに囚われてしまいますと、「なんだ、『ハンムラビ法典』って随分な法律だな」…などと思ってしまうのですが、これは大きな誤解であります。『ハンムラビ法典』は、当時の常識に沿った形で制定された、非常に整備された法律書なのです。一見乱暴な規定も、当時の常識が現代社会と違うだけでありまして、これは責めるに値しません。
 『ハンムラビ法典』がよく整備された法律書であるという事は、この法典の第1条から第5条までが訴訟法である事からもよく分かります。その条文によると、「殺人罪(死刑相当)の虚偽告訴をした者は死刑に処せられる」とあり、極めて厳しい法運用を国民に求めている国側の姿勢が見てとれます。決して“野蛮な原始人が作った乱暴な法律”では無い事を理解するべきであります。
 第一、加害者と被害者で刑罰の軽重が違うのは今の日本でも同じ事であります。同じ殺人でも、幼子とその母親を殺せば間違いなく死刑か無期懲役でありますが、“善良な”一般市民がヤクザを2〜3人殺した場合なら、最悪でも10年程度で出て来れます。

 …さて、この他、『ハンムラビ法典』に収録された法律を大雑把に挙げて見ますと、殺人・傷害・窃盗・誘拐・強盗に関する刑法の他、結婚と持参金・離婚と財産分与・相続・養子縁組と廃嫡・姦通などについて定めた民法に相当するもの兵士の権利と義務についての法律土地の譲渡・賃借についての法律金銭の債務・債権についての法律、賃金の規定を定めた労働基準法的なもの奴隷に関する法律など、まさに微に入り細に入り、であります。
 そんな300条近くに及ぶ法律の中でも、特に興味をそそられるのは「酒場に関する法律」というものであります。
 しかもこの法律が極めて厳しい酒場の店主が酒を水で薄めて売った事が判明すれば水死刑犯罪者をかくまったりした場合は焚刑であります。また、女性聖職者が酒場に立ち入った場合も焚刑に処されます。
 …どうしてこんなに厳しい法律ばかりなのかと言いますと、この酒場が極めて特殊な施設であったからであります。
 この施設では、酒を呑むだけでなく娼婦を買うことも出来、しかも交渉次第では娼婦に子を産ませることも出来たのです。言わば、代理母斡旋センターであります。
 法典に拠れば、非嫡出子でも相続権は嫡出子と同等のものと規定されてありますので、娼婦に産ませた子であっても後継ぎにするのに何ら支障はありません。恐らく、今で言うところの不妊カップルは酒場で後継ぎを確保したのでありましょう。常識が違うとはいえ、田嶋陽子センセイが聞いたら脳卒中で昏倒しそうな話であります。

 まぁ、何はともあれ、こうして古代バビロニア王国は優秀な王に支えられて繁栄を謳歌していたわけであります。
 そして、繁栄し、成熟した国家では学問や芸術などが発展するもの。それはバビロニアでも例外ではありませんでした。
 まず、この時代に大きく発達したのが天文学でありました。天文学は、当時の宗教を支えた占星術の発達の他、正確な暦の発明にも繋がり、また現代に至って歴史の年代を特定する際にも大きく役立っています。バビロニア王国の成立やハンムラビ王の即位年が細かく分かっているのも、その当時の星の動きが詳細に記録されているからであります。
 また、このバビロニアの天文学と占星術が、およそ1800年の時を超えてキリスト教の誕生に大きく関わる事になるのでありますが、それはその時のお話としておきましょう。

 そしてこの時代で特筆すべき物がもう1つ。ジッグラトと呼ばれる、塔のようなピラミッドのような宗教建造物であります。
 ここまで触れる機会を得てきませんでしたが、メソポタミア文明の社会では、各都市や各国家に守護神が定められており、それを祀る宗教や神殿が存在していました。ジッグラトとは、その神殿の役割を果たす建造物であります。
 ジッグラト自体は、シュメール国家の時代から建造されていましたが、特にこのバビロニア王国で建築されたジッグラトは立派なものだったと伝えられています。昔話で『バベルの塔』のお話(神様に会いに行くために高い塔を建設するが、神の怒りに触れて失敗する…という筋書き)がありますが、このバベルの塔のモデルになったのが、実はこの古代バビロニアのジッグラトだったのではないか…と思われています。どうやら、後になって荒れ果ててしまった所まで、『バベルの塔』の話とソックリなようでありますが……。

 ──さて、いつもながら冗長に話し過ぎたようであります。ハンムラビ王の時代に別れを告げて、時計の針を進めることにしましょう。

 こうしてハンムラビ王の下で大いに栄えた古代バビロニア王国でありましたが、ハンムラビの死後間もなくして、早くも王国には衰退の兆しが見て取れるようになります。またしても外部からの異民族侵入と、内政の混乱に伴う反乱の勃発であります。
 それでも、ハンムラビ王が次代の王たちに残した“遺産”が大きかったのか、王国はハンムラビ王の死んだ(紀元前1750年)後、およそ150年間その命脈を保ちますが、やがて、紀元前2000年頃からアナトリア半島に成立していたヒッタイト王国の侵攻を受けて滅亡してしまいます。
 不可解な事にバビロニアの滅亡後間もなくしてヒッタイトは本国に引き上げてしまうのですが、“空き家”となったバビロニアには、その東方の山脈で暮らしていたカッシート人が侵入し、独自の国を建国します。
 この後は、そのヒッタイトカッシートに、メソポタミア中部に侵入してきたミタンニを加えた、3つの民族による“三強時代”が訪れる事になるのですが、それはまた次の機会のお話とします。

 さて、次回はちょっと舞台を南の方へ移しまして、エジプト文明の成立についてお話をしてゆきたいと思います。(次回に続く

 


 

9月29日(日) 映像文化論
「アニメ『ドラえもん』大幅リニューアルの是非」(1)

 講義の実施が遅れてしまい申し訳有りません。準備していた題材を最終段階まで来てボツにしてしまったので、こういう事態になってしまいました。

 ちなみにボツになった題材は、『林家いっ平真打ち昇進に伴う、海老名家の地殻変動』でありました。
 その内容はと言えば、史上最年少の真打ち昇進の栄光も今や昔、「ヘイ、ニッキ!」と叫んだり、ヒロミに虐待されたりする場面しか印象に残らない落語家ならぬ落伍家林家こぶ平支障師匠”について触れつつ、そこから例によって話をすっ飛ばして落語界最凶の名を欲しいままにする立川流の過酷な昇進システムについてお話する講義でありました。
 …しかしこの講義、「『赤マルジャンプ』に2回掲載されたきりで消えてしまった若手マンガ家(28歳)のその後の人生」並に、マイナーな上に湿っぽい話しか出てこない事に気がつき、敢え無くお蔵入りになってしまったのでした。
 何しろ、滞納した上納金の残り132万円を貯めるために2年以上も街頭バイオリン漫談で小銭を稼いでいる元前座と、同じ元前座でも、三遊亭円楽一門に弟子入りし直したら2年で真打ちになっちゃった人との対比など、涙無しではお話できません。

 ……というわけで、結局今回の講義のテーマとなりましたのが、表題の通り、アニメ『ドラえもん』のリニューアルについてのお話でありました。
 まずはこちらのニュースをご覧下さい。

 アニメ「ドラえもん」改造計画 ミニドラ出演で人気回復だ

 来年放送25年目を迎えるABC系「ドラえもん」(金曜後7・00)が視聴率悪化に苦しんでいる。局側は「新たなファンの獲得を」と、オープニング曲をリニューアルするなどの改造計画を進めている。四次元ポケットのように即解決となるか―。

 番組は1973年に一時、読売テレビ系で放送された後、79年4月から現在の形でABC系でスタートした。80年代に30%を超える高視聴率(ビデオリサーチ調べ)を記録するなど、大人気となった。
 しかし、最近は少子化の影響などで大苦戦。毎年春休みの映画もこの2、3年の興行収入は減少傾向にある。そこで制作サイドは”新ドラえもん”づくりに乗り出した。その第1弾が、9月20日、10月4日、18日の放送分での「ミニドラ」出演。ミニドラは3匹の小型ロボットで、ちょこまかした愛らしいキャラクター。
 6月放送したドラえもんの妹「ドラミ」主演作が好評だったのを受けての企画。ドラミ同様、女性に人気のサブキャラだが、あまり登場していなかった。
 また10月4日からは「こんなこといいな〜」のオープニング曲がアップテンポのロック調になり、歌詞も3番の歌詞にかわる。エンディングは声優・大山のぶ代の歌から、人気フォークデュオ「ゆず」の新曲に交代するという。
 さらに今年大みそかのスペシャル番組を”25周年”の本格スタートに位置付け、さまざまな企画が進行中という。(スポーツニッポンより)

 一時期は平均視聴率が20%を遥かに超え、久米宏がゴネだす前の「ニュースステーション」と共にテレビ朝日の屋台骨を支えたアニメ『ドラえもん』の視聴率が低迷した……というショッキングなお話、そして懸命に巻き返しを図るテレ朝の意気込みについて採り上げたニュースでありました。

 確かにテレビ朝日さんの気持ちは分かります。何しろ、ここ最近のテレ朝は視聴率低迷に喘いでいるのです。
 最近の各時間帯の平均視聴率では日テレ、フジテレビ、TBSといった主要民放各局とは水を開けられ、かつては“業界のお荷物”などと言われたテレビ東京ともドッコイドッコイという始末。そんな時に看板番組の視聴率まで低迷されては、そりゃたまったものではありません。

 しかし、このリニューアル作戦はどうでしょう?

 ハッキリ言って「いかがなものか」と、……いや、「どういうこっちゃねん!」と、……いやいや「『逮捕しちゃうぞ』ドラマ化する前にお前ら逮捕監禁されてしまえ! ファンをナメとるのか、あのドラマ!」と、全然『ドラえもん』と関係無い怒りまでぶつけてしまいそうなリニューアル策ではないでしょうか。

 まず、「女性層を意識した」とされる“ミニドラ”の採用でありますが……。
 真面目な話、このプランどんなもんでしょうか? 
 これはまぁ、確かに「とりあえず若い女に媚び売っときゃ、(視聴)率上がって、スポンサーもついてウハウハよ」…的な、テレビ業界にありがちな話ではあるのです。しかし、『ドラえもん』に限っては実効性は薄いように思うのです。
 何しろ『ドラえもん』は金曜日の19時という時間帯であります。このプランでのターゲットとなるべきOL層にとってみれば、TVなんか観ている暇は無い時間帯のはずです。
 よく考えてみて下さい。残業サボってまで観たいと思いますか、『ドラえもん』。「今日の合コンに坂口憲二似のイケメンが来る」と聞いても、ミニドラ目当てで自宅に直帰しますか、OLの皆さん?
 ……この辺り、テレ朝サイドの認識の甘さが見え隠れしているような気がしてなりません。若い女性たちは忙しいのです。日曜早朝の『セーラームーン』の再放送を観るために、土・日だけ早寝早起きするアレな人たちとは訳が違うのであります。

 ……そして、それ以上に大問題なのがテーマ曲問題であります。
 まずエンディングは、駒木が初見の際にテツandトモと間違えてしまった事で知られる“ゆず”。更に、今回の記事には載っていませんでしたが、“アップテンポのロック調”の主題歌を唄うのは、なんと被り物系コミック演歌デュオの東京プリンであるというショッキングなニュースが入っています。
 いや、別に“ゆず”がどうとか、東京プリンがどうとか言いたいのではありません。
 「何故、『ドラえもん』の主題歌を唄うのが彼らなのか?」
 ……というのが問題なのであります。人気回復のためのテコ入れならば、もっとそれっぽい人選があって然るべきでしょう。
 別に、宇多田浜崎を連れて来いとは言いません。椎名林檎さんに巻き舌で『ドラえもん』唄われても困ります。ましてや、「映画版の主題歌唄った事あるから」…といって武田鉄也を起用されたら、駒木はハンガー片手に決闘を挑むことでしょう。
 それでも、もっと『ドラえもん』のイメージに合った人選は出来ないものでありましょうか? 少なくとも今回の人選は、経済閣僚に共産党の議員を起用するようなミスマッチであります。このままでは新規視聴者の開拓どころか、余計に『ドラえもん』離れが進むような気がしてならないのですが……。

 と、このように、今回の『ドラえもん』リニューアル策は、BBS荒らしのように“?”マークが羅列されるくらい疑問を抱かせるものでありました。
 …しかしそれにしても、もっと効果的なアニメ『ドラえもん』のテコ入れ策は無いものでしょうか?

 そういうわけで、次回の講義では、当講座の考案した『ドラえもん』リニューアル案を提示してみたいと思います。どうぞご期待下さい。(次回へ続く

 


 

9月28日(土) 競馬学特論
「G1予想・スプリンターズS編」

珠美:「いよいよ秋のG1シリーズが始まりましたね♪」
駒木:「そうだね。でも、まだ何だか9月からG1レースっていうのは違和感が残って仕方が無いんだけれどさ(苦笑)」
珠美:「そうですねー。どうしてもG1レースは10月後半から始まるものだっていう感覚が抜けきらないですよね。
 でも。予想の方は違和感が無いようによろしくお願いしますね(笑)」

駒木:「はいはい(苦笑)。でもねぇ、馬場状態が違和感ありまくりだから困ったモンだよね。まぁ一応、馬場状態が悪くなる事を考慮して印は打ってあるんだけれどね」
珠美:「新潟競馬場の芝コースは、今日(土曜)の最終レースの時点で稍重でした。ただ、その時も雨が降っていましたし、それからさらに馬場状態が悪化した事も考えられます
 また、明日(日曜日)のお天気ですが、新潟競馬場近辺のお天気は曇り一時小雨ということになっています。まとまった雨は降らないでしょうが、晴れ間が覗く事も考え難いようです」

駒木:「微妙だなぁ……(苦笑)。今回のレースは、良馬場だったら、とても予想が簡単なんだけれど、このままいくと、そう簡単には行かないだろうねぇ。馬場が勝負の綾になる可能性もあるしね」
珠美:「馬場が悪い時は、どのような点に気をつけて予想をすれば良いでしょうか? やっぱり展開面にも影響が出て来るものなんですか?」
駒木:「芝コースの場合なら、余程悪くならない限りは展開に与える影響は少ないんじゃないのかな。一応、馬場が渋ると逃げが有利になっては来るんだけどね。
 それよりも、個々の馬の道悪に対する適性を考慮した方が良いね。馬の中には、良馬場でも馬場が荒れ気味だと全然走らない馬だっているくらいだから」
珠美:「なるほど、分かりました。では、出走表に従って、博士に1頭ずつ解説をして頂きますね」

スプリンターズS 新潟・1200・芝

馬  名 騎 手
×   サニングデール 福永
    ディヴァインライト 田中勝
    ゴールデンロドリゴ 岡部
ビリーヴ 武豊
    サイキョウサンデー 四位
トロットスター 蛯名
    サーガノヴェル 吉田
    リキアイタイカン 武幸
アドマイヤコジーン 後藤
    10 シベリアンメドウ 柴田善
11 ショウナンカンプ 藤田

駒木:「頭数自体は寂しいけれど、上位どころの馬は粒が揃ったね。またここに来て生粋のスプリンターの数が増えてきたし、面白いレースが期待できそうだね」
珠美:「それでは、枠番ごとに解説していただきますね。まずは1枠1番のサニングデールからお願いします。前売りでは単勝3番人気に支持されています」
駒木:「あれ? この馬3番人気なんだ。随分と競馬新聞で厚い印が打たれているなぁ…とは思っていたんだけど、そこまで人気するのかぁ。
 …う〜ん、確かに現在絶好調で、道悪実績もあって(オープン特別1着)、前走の函館スプリントSでショウナンカンプを負かして…って感じで、勢いは感じられるんだけどね。でも函館のレースはショウナンカンプがマトモに走ってないレースだからねぇ。他の負かした馬は二線級ばっかりだし、持ち時計も1分8秒9じゃあね。いくら3歳馬だとしても、G1を勝とうって馬にしては実績が乏し過ぎる感じがするなぁ。今回は斤量が3キロ増えるってハンデもあるし。
 道悪が残って他の有力馬が1〜2頭凡走したら出番が回ってくるかもしれないけれど、普通に考えたら3連複の3着要員ってところかな」
珠美:「意外と厳し目な博士のジャッジでした。…次は2枠2番のディヴァインライトをお願いします」
駒木:「一応、高松宮記念2着の実績がある馬だし、今年もそれほど大負けしてるわけじゃないんだけれども、『やっぱ、でもなぁ…』って言いたくなっちゃうね(苦笑)。
 まずこの馬、本質的には1200mは向かないんだよ。器用な馬なんで、ソコソコはこなしているけど、ベスト距離はマイルから中距離のはず。で、高松宮記念2着の時は、人気薄に乗じてインを掬った形だった。実力勝負だと今一歩足りないんだよね。
 あと、更に言えば今回休養明けで、ちょっと急仕上げ気味かなって印象があるね。大穴開ける可能性も無いわけじゃないけど、劣勢は否めないってところかな」
珠美:「3枠3番のゴールデンロドリゴはどうでしょう?」
駒木:「2連勝で勢いには乗っているんだけどねぇ……。でも、今回は相手がこれまでとは違いすぎるよね」
珠美:「ちょっと厳しいですか……。では、次に4枠4番のビリーヴを。この馬が単勝1番人気です」
駒木:「この夏一番の昇り馬だね。しかも勢いだけじゃなくて、実力の高さが伝わって来るレースをしているのが強みと言えそうだ。
 今回もデビュー以来絶好調と言えるデキで、しかも展開も絶好。鞍上も帰国以来絶好調の武豊騎手とくれば、1番人気もうなずけるところじゃないのかな。
 ただこの馬、条件馬時代に不良馬場で4着に負けてるんだよね。その時は走り辛そうだったっていうから、今回みたいな、荒れてる上に道悪の馬場は大きくマイナスだ。地力で圧勝する可能性も十分なんだけど、道悪のせいで馬群に沈む可能性もある。この馬から馬券を買うのは、まさにギャンブルって言えそうだね(苦笑)」
珠美:「なるほど……。ちょっと不安が残る感じですねー。私の◎なんですけど、また嫌な予感が…(苦笑)。
 …さて、次は5枠5番のサイキョウサンデーですが、いかがでしょう?」

駒木:「う〜ん、叩き2走目で上向いてはいるみたいだけど、この馬は実力の最大値が割れてしまっているからねぇ。このメンバーじゃ、恵まれても掲示板かな」
珠美:「…それでは、次は6枠。ここから1枠につき2頭になります。6番のトロットスター、7番のサーガノヴェルの解説をお願いします」
駒木:「トロットスターは今年絶不調なんだけど、どうしちゃったんだろうねぇ。まぁ1200m専門の馬ってことで京王杯SCと安田記念は度外視できるんだけど、それでもキャリアを考えたら寂しい成績だよね。
 でも調教の様子を見る限り、年齢的な衰えとかそういう感じも見えないし、結局は展開と馬の気合一つだと思うんだよ。休養明けの絶不調でアッサリ勝ってしまった一昨年のこのレースの例もあるし、全く無視は出来ないと思うよ。
 サーガノヴェルは、この春の2戦が圧巻だったんだけど、ちょっと夏から調子を崩してしまったみたいだね。しかもその不調がまだ尾を引いてる感じで、どうにも旗色が良くないね。個人的にはジックリと立て直してから再チャレンジして欲しいって感じ」
珠美:「さぁ、時間もありませんし、どんどん行きましょう。7枠の2頭、8番のリキアイタイカン9番のアドマイヤコジーンをお願いします。アドマイヤコジーンは単勝2番人気ですね」
駒木:「リキアイタイカンは追い込み一辺倒の馬。足を貯めて末脚に賭ければ、高松宮記念4着みたいに健闘するケースもあるかもしれない。ただ、今回は体調が万全じゃないみたいだね。
 アドマイヤコジーンは今年絶好調だね。6歳になってようやく本来の力が発揮できるようになったって感じかな。休み明けに走る馬でもあるし、道悪も不良馬場でも気にしない。セールスポイントは一杯あるよね。
 ただ、今回気になるのは、調教を見たトラックマンが、『走るフォームが縮こまって見える』って言うんだよね。走り方が本物じゃないらしいんだよ。これが果たしてレースになってどう出るかがカギになるんじゃないのかな。この馬もビリーヴと同じように好走するか凡走するか極端に分かれそうだ」
珠美:「あのー、そんな両極端な馬2頭に◎と○を打ってる私はどうすれば良いんでしょう?(苦笑)」
駒木:「ご愁傷様(苦笑)。」
珠美:「わ、もう外れる事前提で話してませんか、それ?(苦笑)……もういいです。私は武豊騎手を信じますから(笑)。
 では、最後に8枠の2頭をお願いします。10番シベリアンメドウと、11番3番人気・ショウナンカンプです」

駒木:「シベリアンメドウ陣営が『道悪だったらウチの馬でも勝負になるよ』って言ってるみたいだね。でも、道悪になったら道悪になったで、この馬より強い馬がゴマンといるはずなんだけどなぁ。どう考えても実力が足りないよ
 ショウナンカンプはどうやら復調ムードに入ったみたいだね。そうなると、またスピードの絶対値にモノを言わせて逃げ切りを図る事になるんだろう。展開も随分楽そうだし、春の再現も十分だよ。
 ただこの馬の場合、やっぱり気になるのは道悪だろうなぁ。確かにスピードタイプって気はするし。けど、まだ判断材料が少ないし、余り悲観しすぎるのも問題と思うんだよね。
 ……まぁ今回のレースはこの馬に限らず、とにかくどの有力馬にも全幅の信頼が置けないのが問題だよね。これはもう走ってみないと分からない。ただ1つ言える事は、あまり大金賭けちゃいけないよって事かな(笑)」
珠美:「なるほど(笑)。…では、最後に馬券の買い目の方をよろしくお願いします」
駒木:「印は5頭に打ったけど、馬券は11、4、6の馬連3頭BOXと3連複1点。ただ、状況によっては6と9を入れ替える事があるかもしれないけどね」
珠美:「私は4-9、4-11、9-11、4-6の馬連4点ですね。夏の馬券学講座を踏まえて、私も買い目を絞ることにしました」
駒木:「それじゃ、講義を終わろうか。良いレースを期待したいね」
珠美:「そうですね。では、お疲れさまでした」


スプリンターズS 結果(5着まで)
1着 ビリーヴ
2着 アドマイヤコジーン
3着 11 ショウナンカンプ
4着 ディヴァインライト
5着 ゴールデンロドリゴ

 ※駒木博士の“敗戦の弁”
 結果的には惜しい1着−3着なんだけれど、反省点だらけの予想になってしまったなぁ…。もしも駒木の予想を参考にしていらっしゃった方がいたなら、心からお詫びを申し上げます。
 まず、馬場状態の読み違え。新潟競馬場って、乾きと水はけが良いんだなあ…。まるで甲子園球場みたいだ(苦笑)。
 次にアドマイヤコジーンの取捨選択と展開の読み違え。まさかあそこまで積極的に行った上で2着に粘りきるとは思ってなかった。それにアドマイヤを差す予定だったトロットスターが凡走したのも痛かった。まぁ、何にしろチグハグな予想をやっちゃいました。せっかく良いレースだったのに勿体無い事しました。本当に反省です。出直してきます。

 ※栗藤珠美の“喜びの声”
 本命サイドの決着でしたけど、3連単でも的中していたかと思うと、本当に嬉しいです! やっぱり駒木博士より武豊騎手を信じてて良かったと思います(笑)。
 ……あ、でも「ビリーヴが3着の方が配当金が高いから、それでお願い!」って一瞬考えちゃったのは内緒ですよ(笑)

 


 

9月27日(金) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(7)
第2章:オリエント(1)〜メソポタミア文明の誕生

※過去の講義のレジュメはこちら→第1回第2回第3回第4回(以上第1章)/第5回第6回(以上インターミッション1)


 それでは今回から、古代から順に追って地域別の歴史を述べていくことになります。
 この大長編の大河ドラマみたいなお話をどう扱うか、こちらとしても迷うところではありますが、ここは「どの順番で話しても、結局ヤヤコシイ」と開き直りまして、せめて参考書ベースで混乱しないように、「世界史B用語集」の目次に従ってお話してゆきたいと思います。

 よって、今日からお話するのは古代オリエント史。ここから講義を始めてゆくことにしましょう。

 …さて、この“オリエント”とは、古代ローマ人が使っていた言葉で“日の昇る方向”、つまり東方世界という意味であります。現代で言えばトルコを含む西アジアとエジプト古代の四大文明でなぞらえれば、メソポタミア文明とエジプト文明の地域を合体させたものになるでしょうか。
 現代では、豊富な資源に恵まれながらも世界の中心からはやや外れた印象のあるこの地域ですが、少なくとも古代においては世界を代表する先進地域でありました。現在とは全く趣の異なった当時の雰囲気を、少しでも感じ取って頂けると幸いです。

 では、その古代オリエント史の中でも最も古い歴史を持つ、メソポタミア地方からお話をしてゆくことにします。そう、歴史の授業でまず真っ先にティグリスユーフラテスという2つの川の名前を覚えさせられる羽目になるあのメソポタミア文明があった地域です。
 中には学生時代、「なんでメソポタミアだけ川が2つなんだよ!」…などと唸った事のある方もいらっしゃるかも知れませんが、実は“メソポタミア”という言葉には「(2つ)の川の間の地域」という意味がありまして川が2つあるのはむしろ当たり前なのであります。つまり、メソポタミア文明とは、「ティグリス川とユーフラテス川に挟まれた地域の文明」…ということになりますね。
 この2つの川は、現在のイラクにあるペルシア湾に流れ込む川で、上流に遡るに従ってやや東西に広がってゆき、最後はシリアを経てトルコ領内まで辿る事のできる大河であります。よってメソポタミア文明のエリアは、ペルシア湾からトルコのあるアナトリア半島(別名:小アジア)まで広がる地域となります。日本の九州と本州がスッポリ収まるほどの範囲ですね。
 ただ、厳密に言えば“メソポタミア”ではありませんが、現在のシリア〜イスラエル(パレスティナ)〜ヨルダンなどの地中海東岸地域一帯にも古代文明が誕生・発展したため、この地域もメソポタミア文明に併せて扱うのが普通です。少し複雑ですが、よく覚えておいて下さい。

 さて、このメソポタミアの地域的特徴としては、まず“雨が極端に少ないにも関わらず、灌漑農業に適した土地と水源に恵まれていた”ことが挙げられます。
 雨が少ないのに農業が栄えたのは、ティグリス・ユーフラテスをはじめとする大河のおかげです。川は養分をタップリ含んだ土を上流から運び、人々はそれをベースに畑を耕します。また、水源も川から確保できます。川から用水路を引いての灌漑農業です。これだと、中途半端に雨水に頼る行き当たりばったりの農業よりも、ずっと豊かな麦畑が出来上がるというわけです。
 前にもお話しましたように、灌漑農業は文明誕生に繋がる重要な要素の1つです。この農業の発達が大量の余剰食料を産み、それが文明の誕生に繋がったのは言うまでもありません
 そして、もう1つの地理的特徴としては、文明の中心地が天然の障害物の無い平野部中心であった”…ということも見逃せません。
 こういう土地は、人が住み易い代わりに外敵からの攻撃に弱く、そのため、この地域では頻繁に侵略戦争が繰り返される事になりました。この事は、これから歴史を追いかけていく内に嫌でも実感されると思います。

 ……さて、それでは地域の特徴について述べ終わったところで、いよいよ古代メソポタミアの歴史について述べていくことにしましょう。

 このメソポタミア地帯に人がまとまって住み始めたのは紀元前10000年前後と言いますから、まだ旧石器時代です。そこで人々は、野生の麦などの植物を採集したり、動物や川魚を捕まえて食料にしていたものと思われます。
 その内、どこでどうしたのか、紀元前7000年前後には灌漑以前の原始的な農耕や、動物を家畜にすることを覚え、それに応じて人の住む集落の規模が段々大きくなってきます。紀元前6000年前後には、場所によっては既に灌漑農業が始まっていたのではないかとも言われていて、この地域の“先進性”が窺えます。

 ちなみに、このメソポタミアの狩猟・採集〜原始農耕時代の遺跡が、各地で発見されています。特に有名なものとして、メソポタミア北部のジャルモ今のイスラエル・死海の北側にあるイェリコなどがあり、そのような遺跡では、鎌や石臼などの様々な石器土器などが発見されています。
 遺跡の中には、各時代ごとの遺構が時代ごとに層になっているものもあります。その地層ごとの分析を進めてみると、時代によって住人の文化が全く違う事から侵略戦争があった事が分かったり、土器の発達のプロセスなどが判明したりと、文字誕生以前の歴史を考察するための貴重な史料となっています。

 …ただ、この頃はまだ“文明以前”の状態であります。メソポタミア地方が文明化へ向かって大きく変革を始めるのは紀元前4000年以降、やはり灌漑農業がメソポタミア各地に普及し始めてからのことでありました。
 この灌漑農業の発達が人々の集住を促し、ついにメソポタミアのあちこちに都市国家と言えるものが完成するのが紀元前3000年代の終盤あたり。この頃には文字の使用も始まり、ここでいよいよ文明時代の到来となります。

 このメソポタミア文明の第一の主役となるのがシュメール人と呼ばれる民族です。普通、民族は使用している言語を基準にして大まかな分類をするのですが、このシュメール人に関しては詳しい事がまだ判っていません。また、シュメール人の前にメソポタミアに住んでいた先住民がいたのではないか…とも推測されています。
 で、このシュメール人が、メソポタミアの南部、ペルシア湾からおよそ300〜400km内陸に入った所に都市国家を築きました。年代はつい先程も述べましたが、紀元前3000年代の終盤です。
 この文明初期の都市国家としては、その栄えた順番にウルク、ウル、ラガシュの3都市が有名です。ウルクは世界最古の叙事詩文学『ギルガメッシュ叙事詩』の舞台として名を残し、またウルでは王の墓と見られる大規模な遺跡が発見されています。

 この頃はまだ多くの都市国家が乱立して、思い思いの発展を遂げていた時期でありますが、都市同士の交流も頻繁にあり、次第に剣を交えることも増えてゆきました。
 そして紀元前2400〜2350年頃には、ラガシュと近くにあったウンマという都市の間で大きな戦争が勃発し、最後はルーガルサゲジという王に率いられたラガシュが勝利します。また、この王は勢いに任せて周辺の主な都市国家を片っ端から占領し、遂にはメソポタミアの勢力図まで一変させてしまいました
 ルーガルサゲジが作ったのは、メソポタミア南部全域に広がる数十の都市からなる大きな国家で、このような複数の都市を含んだ国家の事を“領域国家”と言います。ちなみに規模の大小は違いますが、現代世界にある国も、バチカンやモナコなどのミニ国家を除いて、そのほとんどが領域国家であります。

 こうしてメソポタミアにはラガシュ統一王朝が完成した事になるのですが、この国は間もなくして滅んでしまいます他民族の侵略に遭ったのです。
 これ以後のメソポタミアでは、堰を切ったように侵略戦争と力ずくでの王朝交代が繰り返されます。まさにこれは、攻め易くて守り難いというメソポタミアの地理条件を証明するような出来事でありましょう。

 まず、このラガシュを滅ぼしたのは、サルゴン1世という名の王に率いられたアッカド人たちでした。
 このアッカド人は、メソポタミアのやや南、アラビア砂漠との間にある草原地帯を原住地とし、そこからメソポタミア北部に移住して来たセム系と呼ばれる民族集団の一派です。地域的な条件から考えるに、都市国家時代からシュメール人と交流があったのではないかと思われています。
 こうして樹立されたアッカド統一王朝は、有能な王・サルゴン一世に支えられて大いに繁栄します。旧ラガシュ国家の領土に加えてメソポタミア北部をも統一して領土を広げ、さらにはインドやアラビア半島東岸のオマーンからも交易船を迎えて貿易をしたと伝えられています。
 しかし、サルゴンの死後は領内で頻繁に反乱が発生し、徐々に政情が不安定になって来てしまいます。その後は「好戦的で野蛮な民族であった」と称されるグディ人の侵入が激しくなり、結局、アッカド王国は130年余りでその歴史に幕を閉じることになります
 このアッカドを滅ぼしたグディ人は、メソポタミア北部で大いに猛威を奮ったのでありますが、政治的に成熟していない民族だったようで、統一国家を作る事は出来ませんでした。それどころか、あまり混乱が生じなかったメソポタミア南部からは力を蓄えた都市国家が再び現れ、グディ人は数十年で駆逐されてしまいます。
 こうして文明が蘇ったメソポタミアでは、シュメール人の築いた古都・ウルから優れた王が相次いで現れ、再び統一王朝が成立することとなりました。これがウル第3王朝と呼ばれるものです。“第3”というのは、都市国家時代からのカウントで3番目の王朝という意味であります。
 このウル第3王朝は、あのハンムラビ法典のベースになった、世界最古クラスの法典・ウル・ナンム法典が著されるなど、非常に整った行政組織が完成されて大いに栄えたのでありますが、この地域の宿命とも言うべき外敵の侵入は防ぎようがありませんでした
 このウル王朝は、王朝成立から70年ほど経った頃から、北方からは都市国家・イシン、西方からはセム系民族の一派・アムル人、そして東方からはイラン高原に住む民族・エラム人という三方包囲に晒されて国力を失い、紀元前2004年頃に成立後約100年で滅亡します。

 この後しばらくのゴタゴタを経て、かの有名なバビロニア王国が成立するのでありますが、それは次回に譲ることにしましょう。
 ここでは、その代わりといってはナニですが、シュメール人の作り上げた古代文化の姿を紹介して、今日の講義の締めとさせて頂きます。

 …それでは文化についてですが、まずはシュメール人の生活を簡単にお話しておきましょう。

 初めに住居から。
 彼らの住居は、主に日干しレンガと呼ばれる、粘土をレンガ状に形を整えて天日で干しただけの物を材料にして建築されていました。
 勿論、粘土を固めただけですから、雨が降ると崩れてしまいます。よくそんなので平気だなぁ…と思われるかも知れませんが、この地域は雨がほとんど降らないので、これでも十分というわけです。
 ちなみにこの辺りは、現代でも日干し煉瓦造りの家が見られます。それだけこの地域に適したものであると言えますが、地震等の天災に弱いという致命的欠点を抱えています。今年イラクで発生した大地震では日干しレンガの家が多数倒壊し、多くの犠牲者を出してしまいました。

 さて、特筆すべきなのは食生活です。高度に発達した灌漑農業に支えられて、かなり豊かな生活をしていたと推定されています。

 何しろ、紀元前2300年代のラガシュ時代から遺された公式行政文書によると、大麦の収量倍率(種モミ1粒で収穫できるモミの数)76.1倍というのだから驚きであります。ちなみに、古代ローマや中世ヨーロッパでは6倍程度がせいぜいだったとされていますから、その差たるや絶大であります。
 この高収穫の秘密は、畑を耕す鍬をウシに引かせ、さらにその鍬にホースを通して効率良く種を撒く…という条播法にありました。この方法が欧米社会で導入されたのは近代に入ってからですから、どれだけこの文明の農業が高度に発達していたか、よく分かります。
 かつての学者の中には、この凄すぎる数字を認めない人もいます。「数千年前の人間がそんな事できるわけがない」という“常識”の抵抗に屈した人たちです。が、今では調査が進んでこの数字が正しかった事が証明されています。
 ただ、この高い収量倍率は、年を追うごとに下がっていってしまいます。これは、地中の塩分濃度が上がり、農作物の発育に悪影響を与えてしまう塩害のためで、最後にはこの地域も農業には適さない土地になってしまったと言います。

 しかし、この時代はまだ幸せな時代でした。高い収量倍率は、大量の麦の余剰を産み、この頃のメソポタミアでは世界初のビールブームが訪れます。公的文書によると、16種類の銘柄が記録されていると言いますから驚きです。当時のシュメール人の定番朝食メニューはパンとビールだったと聞いてしまうと、もはや羨ましい話とさえいえます。
 また、麦以外の食料も豊富でした。川からは魚が獲れましたし、ヒツジやウシなどの家畜から肉を得る事も出来ました。野菜や果物も豊富に出回っており、タマネギ、ニンニク、キャベツ、キュウリといった今の日本でもお馴染みのものや、アラビア特産の高栄養果物・ナツメヤシも食べていたようです。

 しかし、良い事ばかりでもありません
 というのも、メソポタミア文明を支える2つの大河はかなりきまぐれで、大洪水を起こして畑や家屋を押し流してしまったり、または肥沃な土と水を運ばずに凶作を招いてしまった事もよくあったようです。それ以外にも頻繁な戦争もありますし、シュメール人たちは、破滅と隣り合わせの束の間の豊かさを謳歌していた…というのが現実だったのかも知れませんね。

 人々の生活についてはこれくらいにしておいて、次は文字についてお話しましょう。
 メソポタミア文明の文字は楔形文字。まだ紙が無く、代わりに粘土板を使用しなければならないという環境の中で生まれた文字で、粘土板にヘラのようなもので“▼”と“━”の形を刻み、その刻み方のパターンを変えて様々な種類の文字を表現します。
 素人目に見ても非常に複雑な字である事は明白で、当時の人たちはさぞかし苦労しただろうなぁ…と思わずにいられないのでありますが、このスタイルの文字は、後世の歴史家・考古学者にとって非常に有益なものでありました。
 何しろ、文字が刻まれた粘土板は、火事があっても消失しないのです。しかも焼き固められて余計に頑丈になるというわけで、メソポタミア文明の遺跡からは、この時代のものとしては膨大な量の文献資料が遺されています。先程の収量倍率についても、文献資料が元になっているわけです。
 ちなみに、膨大な文献のおかげで、メソポタミア文明の文字は完全に解読がされていますが、余りにも文献の数が膨大すぎて、その全てを解読するのには最低でもあと数十年かかると言われています。これぞまさにパラドックスでありますね。

 また、文字と共に数字も発明されています。ただ、メソポタミアの数字は変形60進法というべき複雑怪奇なもので、必ず計算間違いが起こると思えるほど煩雑です。
 何しろ、数字の単位が1、10、60、600、3600、36000……といった具合なのです。例えば10万を表現するためには、36000を現す数字を2つ、3600の数字を7つ、600の数字を4つ、60の数字を6つ、10の数字を4つ書く事になります。これでは四則演算すら覚束ないはずで、当然の事ながら、メソポタミア式数学は後世の文明には一切の影響を与えていません。

 この他には、この頃には既に太陰暦週7日制があったとされています。ただ、天文学についてはバビロニア王国時代に発達するものですので、そちらでお話することにしましょう。

 ……というわけで、最後はとりとめが無くなってしまいましたが、このような社会で人々は時には楽しみ、時には苦しみながら生活していたわけです。
 それでは今回はここまで。次回はバビロニア王国とハンムラビ王の治世を中心にして講義をしたいと思います。それでは、また次回に……。(次回へ続く

 


 

9月26日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(9月第4週分)

 9月最後の「現代マンガ時評」です。
 今週もレビュー対象作が少ないんですが、来週から「ジャンプ」と「サンデー」で新連載が開始されるので、“嵐の前の静けさ”という感じでしょうか。
 …とはいえ、ただじっと大人しくしておくのもアレですので、今週は「ジャンプ」「サンデー」以外の雑誌掲載作から1作品レビューを実施します。“ちゆインパクト”前から受講されている方には馴染みのある作品の後追いレビューです。どうぞご期待をば。

 …さて、それでは先に情報系の話題を手早くやってしまいましょう。

 まず、「週刊少年サンデー」系の月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」7月期の審査結果発表がありましたので、受賞者と受賞作を紹介しておきましょう。

少年サンデーまんがカレッジ
(02年7月期)

 入選=該当作なし
 佳作=2編
  
・『グリーン・グリーン』
   黒田高祥(22歳・東京)
  ・『アサシン』
   藤野君人(21歳・東京)
 努力賞=4編
  ・『Ghost fit』
   高崎大輔(26歳・兵庫)
  ・『ムササビが飛ぶ』
   椎名愛(19歳・宮城)
  ・『アレス』
   石黒友行(23歳・大阪)
  ・『稲荷山山奇劇』
   高倉マメ(20歳・福岡)
 あと一歩で賞(選外)=該当作なし

 今月は、“粒揃いながら大粒無し”…といった感じでしょうか。どうもこの賞は、「ジャンプ」の「天下一漫画賞」に比べると、リピーターの数が少ないのが気になるんですよね…。
 一応、最終審査まで残った人には担当が就くらしいんですが、果たしてどこまで本気で新人さんと付き合っているのか、ちょっと心配になったりします。まぁ、ベテラン作家中心の「サンデー」は、放任されても本気でやる気を見せる新人だけ育てれば良いと思っているのかも知れませんが……。

 続きまして、新連載の情報を。既に情報系サイトなどでは報じられている情報ばかりですが、復習の意味もこめてここで扱っておきます。

 まず、これは先週のゼミでも簡単にお話しましたが、次週から「週刊少年ジャンプ」・秋の新連載シリーズが始まります。ただし、今回も2作品の“小規模改造”です。
 次号44号(10/1発売号)では道元宗紀さん『A・O・N』が、そして45号(10/8発売号)では鈴木央さん『Ultra Red』がスタートします。共に扱いが難しい格闘系の作品だけに、作家さんの腕の見せ所と言えそうです。

 そして「週刊少年サンデー」では、次号44号(10/2発売号)から、皆川亮二さん『D-LIVE』がスタートします。『ARMS』を円満終了させて以来の連載復帰というわけで、また骨太の作品で「サンデー」に彩りを添えてくれそうです。
 しかしこの作品、どうも設定とか見てると「バンチ」の『エンカウンター』と似ているような似てないような…なんですよね(笑)。なんだか、最近の「サンデー」って攻撃的ですね。他誌で伸び悩んでる作品と同じタイプのものをぶつけて潰しにかかってるというか……(苦笑)。

 では、今週のレビューへ。今週は「週刊少年ジャンプ」から読み切りを1本そして「ジャンプ」「サンデー」以外の他誌から1本計2本をお送りします。勿論、“チェックポイント”もお送りします。
 レビュー中の7段階評価の表はこちらをどうぞ。

 

☆「週刊少年ジャンプ」2002年43号☆

 ◎読み切り『暗闇にドッキリ』作画:加地君也

 今週も「ジャンプ」では中編読み切りが掲載されました。連載未経験ながら、キャリアだけなら既に中堅という微妙な位置にいる(笑)、加地君也さんの作品です。
 加地さんは、1997年3月の「天下一漫画賞」で佳作を受賞し、その受賞作『天翔騎馬』で、97年夏の「赤マルジャンプ」においてデビューを果たしています。 
 しかしその後の活動は散発的で、99年春の「赤マル」で原作付の読み切りを、そして本誌00年18号でも読み切りを発表しただけに終わっています。今号の巻末コメントにもありましたが、今回の作品が実に2年ぶりの「ジャンプ」登場ということになりますね。

 それでは作品レビューへ。

 まず。偉そうな言い方で恐縮ですが、ギリギリのところで「プロとして人前でお見せする絵」のレヴェルには達しているのではないかと思います。キャリアの長い作家さんですし、完成度の面で言えば平均点以上でしょう。
 ただ、何と言ったら良いのか、絵柄が与える印象が妙にアマチュア臭いんですよね。喩えて言うなら、高校・大学の漫画研究会チックというか……。妙にマンガ的な表現ばかり手慣れていて、本格的な絵の稽古が不足している…と言えばお分かりになるでしょうか? 
 そのため、場面ごとの絵のタッチにメリハリが効いているようで効いていないんです。だから、緊迫感を持たさなきゃならないシーンで今ひとつ迫力が沸いて来ない。すると、作品全体のインパクトも弱くなってしまうんです。
 今更、絵柄の大改造と言っても難しいかも知れませんが、本気で連載作家を目指すなら、修正しておかないといけない点だと思います。 

 次にストーリーですが、こちらも話の筋立て自体は及第点をあげられるレヴェルには達しています。テンポも良くて、マンガと言うよりライトノベルを読んでいるような軽い感触が楽しめます。ただ、余りにも話の展開がセオリー通りなので、ヘヴィーな読者には物足りないかも知れませんが……。
 ただ、それより気になったのが主役キャラの個性が弱すぎる点です。
 この作品の主役級キャラ2人は、ハッキリ言ってしまえば、同系統の別作品(マンガ、ライトノベル問わず)で頻繁に見受けられるパターンのキャラクターです。特に女陰陽師の道満みたいな“傲慢で守銭奴”キャラなんて、それこそ掃いて捨てるほどいるんですよ。
 ですから、こういうキャラクターを使う以上は、他の作品のキャラと差別化を図らないといけません。生い立ちでも良いですし、いわゆる“萌え”要素でも構いません。とにかく目立たなくちゃダメなんです。そうしないと、オリジナルのキャラではなく「『○○』の△△っぽいキャラ」としてしか認識してもらえなくなるんです。
 そして、このマンガに出てくるキャラは、まさにこの「〜っぽい」キャラばかりなんですよね。そのために、ただでさえステレオタイプな話が余計に類型的に見えてしまっています。キメ台詞も空虚に聞こえてしまうし、読者がキャラクターに感情移入出来なくなってしまうんです。

 駒木は、「キャラクターさえ立てば何とかなる」という昨今の風潮には大反対です。しかし、よほど凝ったミステリでもない限り、魅力的で個性的なキャラクターのいない話が良い話になるわけが無い…とも思います。どうすれば、読者が満足する話になるのか、加地さんにはその辺りをもう一度熟慮して頂きたいところです。

 評価はB寄りB−。この人が果たしてここから“化ける”ことが出来るのか、今しばらく様子を見てみたいと思います。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『ヒカルの碁』作:ほったゆみ/画:小畑健《再開後第3回掲載時の評価:A

 ヒカル×社戦のモデルになった対局が判明しました。なんとTV東京の「新鋭早碁トーナメント」で放送された対局だったらしいです。いやー、観たかったなあ。
 黒番と白番、どちらが勝ったか分かってしまうんで言えませんが、敢えて少しだけヒント(ネタバレ防止の為、隠してます。ドラッグして反転させてください)
 「うん、もったいないな。コイツ、これだけ打てるのに結局選手にはなれないわけか──」
 標準語を話す人(つまり東京・日本棋院側)が“コイツ”呼ばわりするのは、ヒカルと社、どちらだと思いますか?
 恐ろしく奥が深いですよね。鳥肌立ちます。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介《第6回掲載時の評価:A−

 回を追うごとに話作りが手慣れていきます。今回はインターミッションをやりながら、決してわざとらしくなく基本的なルール説明をやっています。そして、この基本的なルールを説明しないままに、違和感無く1試合描ききっているという点も見逃せません。
 あと1ヶ月くらいこのクオリティが維持できたら評価をAに上げます。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年43号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『きみのカケラ』作画:高橋しん《評価は保留中》

 何だか、主役よりも少佐(エリザベス)の方がキャラ立っちゃってません?(笑)。確固としたモデルが存在する分だけ、キャラが立ちやすいのかも知れませんが、これは良いんだか悪いんだか……。

 ◎『365歩のユウキ!!!』作画:西条真二《第3回掲載時の評価:

 見事なまでの打ち切り最終回でした(笑)。
 ああいう最終回と言えば、「ジャンプ」の『武士沢レシーブ』作画:うすた京介)の“打ち切り最終回パロディ”を思い出してしまうんですが、これはギャグなのか、それとも天然なのか……。
 しかし、あの最終ページに書かれた後日談ですが、あれを全部マンガで描くとなると10年以上掛かるような気がするんですけどね(笑)。

 

《その他、今週の注目作》

 ◎連載第18回『キメラ』(「スーパージャンプ」2002年20号掲載/作画:緒方てい《第3回までの暫定評価:B+

 ※このレビューには、例外的に駒木の私情が入っています。客観性を欠いた部分があると思いますが、いつものレビューとは別物としてご覧頂けると幸いです。

 『キメラ』のレビューは実に久しぶり、実に7ヶ月ぶりということになりました。それというのも、「次に取り上げる時は、『キメラ』が大化けした時です」…という事を皆さんにお約束したからでした。それは逆に言うなら、『キメラ』が大化けしない限り、二度とこのレビューで取り上げる事が出来ない…という事でもあったのです。長い空白の理由は、つまりそういう事です。
 この7ヶ月の間というもの、駒木は『キメラ』を読むたびに失望の繰り返しでありました。なにしろこの作品には、過剰に説明的なセリフ、仰々しい割には中身の無い設定、一本調子なストーリー展開…といった、典型的な三流ファンタジーの要素を網羅してしまっていたのです。
 駒木は、この『キメラ』と、荒削りな中に強烈な表現力が光り輝いていた緒方さんのデビュー作・『キカイ仕掛けの小町』との落差を見るにつけ、「どうしてこんな事になってしまったんだろう」…などと、落ち込んだものでありました。傲慢かも知れませんが、「自分の目は節穴だったのだろうか」…と悩んだりもしました。

 が、そんな7ヶ月間の駒木の苦悩を吹き飛ばしてくれたのが、この『キメラ』連載第18回でした。そこには、かつて駒木が見た“輝き”がありました。
 読者がページをめくった時の視覚効果まで意識したページ割りや、文学作品を映像化したかのように巧みな場面構成力、更には、無駄なセリフを極力排した中で、ここぞという所で効果的に働く決めゼリフ。これまでの『キメラ』に見え隠れした陳腐さは、もうどこにもありません。埋もれかけていた緒方さんの才能が、今ようやく、その姿を現したのでした

 勿論、今回1回だけで、これまでの“負債”が解消されたとは言えないでしょう。それでも、緒方さんの実力の最大値を再確認できただけでも大きな収穫と言えると思います。

 作品全体の評価はB+のまま。ただし、この回だけに関して言えば、A評価としても良いと思います。

 
 
 ……ちょっと最後のレビューは、お見苦しい点があったかもしれませんが、どうかご容赦を。
 次回は新連載2本に加えて、後追いレビューや「ジャンプ」代原レビューと盛りだくさんの内容になりそうです。どうぞお楽しみに。では、また来週。

 


 

9月25日(水) 社会経済学概論
「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録」(15・最終回)

 気が付けば、当社会学講座開講以来、屈指の長期シリーズになってしまった(しかもシリーズ開始当初とは題名すら違う)この「アルバトロス風雲録」ですが、いよいよ今回が最終回となりました。
 ただ、前回までの『クィーンコング』→『アメリ』というコンボが余りにも強烈過ぎますので、その後のエピソードについては、打ち切りマンガのエピローグみたいにやや駆け足で追いかけてみたいと思います。

 ……しかし、「タモリ倶楽部」大コケ映画特集に、我らがアルバトロスも『クィーンコング』で参戦していましたねぇ。まず初っ端に出て来た“主な配給作品”に、『人肉饅頭』、『ネクロマンティック』、『キラーコンドーム』とあったのがいきなり笑えました。まぁ、『アメリ』は別扱いでネタになってましたから他に書きようなかったんでしょうが(笑)。
 番組で話されていた内容は、当講座で既に紹介したエピソードが中心だったんですが、それでも実際に関係者から話を聞くと生々しいものですね。
 あ、そう言えば番組内では「『クィーンコング』にかけた費用は合計で1億ほど」…となってましたが、叶井氏の雑誌コラム「数億の赤字を被った」みたいな事が書かれてましたので、当講座ではそちらを採用したわけです。どうぞご了承下さい。

前回までのレジュメはこちら↓
  第1回第2回(ここまでは競馬の話)第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回第11回第12回第13回第14回


 …『アメリ』の超大ヒットで、会社存続の危機から一転、法人税対策のためか銀座の一等地にビルを買ってしまったアルバトロス。その後は、まるで売れた後のグラビアアイドルが水着写真集を封印するかのように、汚れた過去を事実上無かった事にしてハートフル映画路線に挑んで行きました。

 しかし、これがなかなか上手くいきません。『アメリ』以後に公開されたアルバトロスの映画は、まるで2001年上半期に戻ったかのように大コケを連発します。
 それもそのはず、“普通の映画”に対する感覚を全く持ち合わせていない叶井氏は、感動系ストーリーの映画を買って来たつもりでも、世間的には“ただのエロ映画”としか映らないモノを買い付けてしまうのです。

 まず3月、「プライベートレッスン・青い体験」という、ミニスカート姿のメイドを梯子に上らせて、それをエロ主人が下から覗くイタリア映画のような題名の韓国映画を公開します。が、その内容があまりにも過激すぎたため、女性向けの映画だったにも関わらず、R-18(成人映画)指定を受けてしまい、見向きもされずに終わります。
 そして4月、“『アメリ』から始まった新生アルバトロスの銀座OL、主婦の客獲得展開の第2弾”(叶井氏のコラムより)というフランス映画「翼をください」を公開しますが、こちらもエロ風味が強すぎて撃沈。連日の不入りに“グッズ付き割引当日券発売”というテコ入れまでしますがそれも空しく、公開開始からわずか5週間で上映打ち切りの憂き目に。

 ……と、いうわけで“新生”アルバトロスは、AV女優を廃業して歌手になったは良いが、箸にも棒にもかからずにストリップ嬢へ逆戻りした桜木ルイのような逆噴射振りを披露。せっかくの“『アメリ』貯金”をどんどん吐き出してしまう結果になってしまいました。

 そして、この頓挫で開き直ったのか、それともただの逆切れなのか、アルバトロスはこの2本の映画をハズしたあたりから、ハートフル路線と同時進行の形で、再びかつての“エロ・グロ・ナンセンス”路線も歩み始めますアルバトロスの二重人格化です。

 まず未公開映画のDVD販売部門では、有名アメリカンコミック作品の世界観をゴチャ混ぜにしたような映画・『ファウスト』や、観た人を必ず不快にさせると評判の『ファニーゲーム』、さらには映画の題名にちなんで天本英世氏に推薦コメントを求めるも、「出せるかこんなモンに!」と担当者が怒鳴りつけられたという作品・『死神博士』などを続々とリリースします。また、過激映画専門レーベル“アルバトロス・コア”も創設し、マニア層へのアピールも怠りません。
 そして劇場用映画でも、25年前の究極アメリカン・バカ・エロ映画『ケンタッキーフライドムービー』を、“字幕監修・みうらじゅん”という一点だけをウリにしてロードショー公開。単館のレイトショーのみ1日1回上映にも関わらず、新聞に全面広告を打つという荒業も披露しました。
 ちなみにこの映画、公開初日が雨天の上にW杯の3位決定戦当日というハンデにも関わらず、なんと大入り満員を記録し、関係者を驚愕させます。しかし、その翌日以降は観客10数人になり、やっぱりコケてしまったとか。どこまでも素で笑わせてくれます、アルバトロス

 ……しかし、この真面目路線とバカ路線の融合、何だか当社会学講座とダブって見えてしまい、頭が痛いですね(苦笑)。
 今だって、本格的な世界史の講義とこんなバカ講座を隔日で実施していますし、以前などは「徹底検証! 世界漫画愛読者大賞」『アメリ』並の大ヒットをかました数日後に「モー娘。の陰毛をネットオークションで売ってみろ」なんて趣旨の講義をやって顰蹙を買った事もありましたしねぇ……。
 しかも、最近になって真面目路線に傾いている所までソックリ。もう何だか、親近感すら沸きますね、まったく(苦笑)。

 ……と、感慨にふけるのはこれくらいにして、話を元に戻しましょう。

 こうしてアルバトロスは、2つの顔を使い分けて映画業界を渡り歩いていく道を選びました。
 この秋なども、『少女首狩事件』などという90年代前半のアルバトロスに立ち戻ったかのような映画のDVDをリリースする一方で、なんと宮崎駿氏の絶賛を受けて“スタジオジブリ・第1回洋画出資作品”となった、チェコの大作戦争映画・『ダークブルー』を公開予定です。何と分かりやすい両面作戦でしょうか!

 そして来年以降も、劇場用映画では真面目路線をアピールする予定のようです。
 新レーベル・“アルバトロス・キッズ”(!)第1作となる予定のフランスの大ヒット感動ムービー・『バティニョールおじさん』や、中国の文化大革命時代を舞台にした大作映画・『小さな中国のお針子』、そしてベッカム好きの少女が主人公のハートフルストーリー・『BEND IT LIKE BECKHAM』などを続々公開予定です。

 しかも喜ばしい事に、こういう真面目路線を歩んでいても、アルバトロスらしさが全く消えているわけではありません

 まず『バティニョール──』は、子役が全く可愛くない映画で、しかも叶井氏が「お薦めは動物の解剖シーンと言ってしまったため、日本ではコケる可能性十分
 また、『小さな──』に至っては、邦題に“お針子”という放送禁止用語が入っているためにマスコミを使っての宣伝活動が全く出来ないという大ハンデを背負い込んでしまいました。
 そして「2003年の5月にもなって、今更ベッカムかよ!」…というツッコミが入ること間違い無しの『BEND IT ──』大コケする可能性は言わずもがなであります。この映画、数百万ドルというメジャー映画並の買い付け価格だったらしいので、ひょっとしたら『クィーンコング』の再現も有るかも知れません

 まさに戦々恐々の映画業界を体現する配給会社・アルバトロスですが、どれだけ大コケをかまそうと、彼らの姿はいつでもポジティブです。だからこそ、扱っている映画がドロドロしていても、その姿が清々しいのです。
 このシリーズでは結構失礼な事を述べ続けましたが、これも駒木流のエールであります。これからもアルバトロスには、どんどん話題作・意欲作を配給し続けていって欲しいと思います。

 それでは最後は「知ってるつもり !?」風に、叶井氏が雑誌のコラムで発表したコメントを聞きながら、このシリーズを締めくくりましょう。どうもご清聴、有難うございました。

 今回のオレのカンヌ滞在は12日間という長丁場。前半3日間は例の巨乳中国モデル主演の『小さな中国のお針子』の監督、女優、男優のインタビュー。で後半でいつものごとく、変態映画探し!ってあるのか?そんなの。と、思うでしょ?ところがちゃんとあるんだよ!っていうか見つけたんだよ。もの凄い映画を!オレの買い付けする映画の基準は想像を絶するもの。まさにこの作品はそれに相応しい。それはエビ・ボクサーもの!どうよ?エビだよ、エビ!全然意味不明でしょ!しかもこの映画、高いんだよ!30万ドル!どーなの?この値段設定は?って感じなので、まだ買えてないんだよ。まさに交渉の真っ最中!それにしてもエビ・ボクサー、ヴィジュアルはエビの手にボクシンググローブがはまってるだけ!なんの映画かまったくわかりません!こういう映画こそアルバトロスのためにある作品なんだよ。 

  …………やっぱりダメか、この会社。

 (この項終わり)

 


 

9月23日(月・祝) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(6)
インターミッション1
偉大なる発見者たちの苦悩(後編)

 ※過去の講義のレジュメはこちら→第1回第2回第3回第4回(以上第1章)/第5回

 今日も前回に引き続き、非常に貴重な考古学上の発見に携わりながらも、学会から正当な評価がされずに不遇をかこった人たちの話をお送りします。

 さて、今回お話するのは、旧石器時代の洞窟壁画にまつわるエピソードです。洞窟壁画といえば、本編ではごく簡単に、「アルタミラやラスコーといった遺跡に、現代人顔負けのリアルな絵画が描かれ──」…といった感じで述べていただけだったと思います。
 その時は、話の流れ上致し方なかったのでありますが、せっかくこうしてわざわざ時間を割いたのでありますから、ここで少しばかり、洞窟壁画そのものについての解説をしておきましょう。

 この洞窟壁画は、西ヨーロッパ──特に現在のフランス南部からスペイン南部──で多数発見されており、人々が文字を持たなかった時代の貴重な文化遺産として、大変高い評価を受けています。
 これらの洞窟絵画は、文字通り洞窟の、それも普段は人が住んでいなかったような奥深いエリアに描かれているケースが多く、また、その題材には動物がよく選ばれていました
 そのため、洞窟壁画はただの芸術ではなく、何らかの儀式的・呪術的な意味合いを持っていたはずである…とする説が優勢です。題材に選ばれている動物が、狩猟の対象になっていたウシやシカである事もまた、その説の信頼性を高めさせています。つまり、「今年はウシやシカがよく獲れますように…」という願掛けをするためのモノだというわけですね。いかにも、不安定な食糧事情を強いられていた旧石器時代らしい話だと言えそうであります。

 …では知識も深まったところで、話を“洞窟壁画の発見”の方に移しましょう。
 しかし先に述べましたように、これらの絵画というのは普段人目につかない所に描かれているのが常でありまして、なかなか発見できるものではありません。特に、「人目につかない所に(洞窟壁画が)ある」という事実すら知られていなかった頃などは、計画的な探索と発見などはほぼ不可能であります。
 そのため、洞窟壁画は偶然に発見されるケースが非常に多いです。まさにヒョウタンから駒、洞窟から壁画といったところでありましょうか。
 …そして、世界で初めて発見された旧石器時代の洞窟絵画もまた、全くの偶然から発見されたものでありました。

 ──時は1879年、場所はスペインのアルタミラ。同国の北部に小さな領地を持つ田舎貴族・ドン=マルセリノ=デ=サウトゥオラ子爵は、5歳になる娘を伴って、領地内にある洞窟を訪れていました。
 …と、ここで、どうして貴族であるサウトゥオラが洞窟などに足を踏み入れているのか疑問に思われた方もいらっしゃるでしょう。
 実は彼、前年のパリ万国博覧会で旧石器時代の石器や骨角器を見て以来、すっかり旧石器時代オタクになってしまっていたのです。で、石器を眺めている内に自分も石器を掘り出してみたくなり、遂には自分の領内から洞窟を探し出し、暇を見つけては石器を発掘しに出かけるようになったという次第。日曜大工ならぬ日曜考古学者といったところでしょうか。

 その日の探索は先に言いましたように、子供を連れての家族サービスの一貫だったわけですが、自分の興味の有る事に没頭し始めると子供の事なんてそっちのけになってしまうのが世の父親の常。気がつけば娘は、一心不乱に石器を探す父親の側から離れ、好き勝手に洞窟内を走り回るようになりました。
 やがて、どれくらいの時間が経ったでしょうか、突然娘が父親を呼びつけました。

 「パパ! パパ! こんな所にウシさんがいるよ!」

 勿論、洞窟にウシなどいるはずがありません。サウトゥオラ子爵は、娘を適当にあしらいながら石器探しを続けます。
 しかし、娘はしきりに父親を呼んでききません。

 「パパ! 本当よ! ウシさんがいるんだってば!」

 その娘の余りのしつこさに根負けした子爵は、やれやれと腰を上げて娘の側へ向かい、娘が「ここ! ここ!」と指さす方向へランプを掲げました。すると──

 そこには、確かにウシがいました洞窟の天井いっぱいに写実的なウシの絵が描かれていたのです。しかも色鮮やかなカラー彩色で。

 これこそが、史上最年少の“考古学者”によって見つけられた遺跡・アルタミラの洞窟壁画でありました。

 ……ところで、洞窟壁画の発見は、この例に限らず子供によるものが多いのが特徴です。好奇心旺盛な子供たちが、大人が入ろうとしなかった洞窟に紛れ込んで大発見をしてしまう…というわけです。
 実は、受験参考書などでアルタミラと並んで紹介される事の多いラスコーの洞窟壁画も、発見者は4人の少年たちでした。

 さて、5歳の子供によるアルタミラ洞窟壁画の大発見です。
 ……この出来事、これは確かに微笑ましい出来事ではありました。が、学会はあくまでもシビアに判断を下します。それを発見したのが誰であろうと、疑問を挟む余地が有るならば容赦なく指摘をぶつけて来ます。それは、このアルタミラ遺跡も例外ではありませんでした

 この遺跡に対して、学者たちが大きな疑問を抱いたのは、洞窟に描かれた壁画の完成度が余りにも高かった事でした。
 何しろ、この手の旧石器時代の絵画が見つかったのは、これが初めての事でありましたので、この洞窟壁画を判断する確固たる基準が存在しないのです。手探り状態の中で決め手になるのは、その時代なりの“常識”でありました。そう、ネアンデルタール人やジャワ原人を闇に葬り去ろうとした、あの“常識”であります。

 アルタミラの洞窟壁画について学会の下した結論は、「旧石器時代の人間に、こんな高度な絵など描けるはずが無い」…というものでした。単刀直入に言いますと、現代人がイタズラで描いたニセモノだというわけです。
 しかも遺跡の“共同発見者”であるサウトゥオラ子爵にとって都合の悪い事は(逆に学会にとっては都合の良い事は)、子爵の家にお抱えの画家が住み込んでいたことでした。しかもその画家は言語障害で口がきけない人間で、どんな秘密を抱えていようと決して他人に口を割る事は無かったのです。

 余りにも揃いすぎた不利な材料。サウトゥオラ子爵は、一転して窮地に追い込まれました──。

 ここで、この哀れな地方領主の名誉の為に弁解しておきますと、件の画家は完全な“シロ”でありました。
 何しろ、彼が言語障害に至ったのは、幼い頃に洞窟で生き埋め事故に遭って、大きな精神的ショックを負った為だったのです。そんな彼が洞窟に足繁く通って、精微な絵を描く事など出来るはずがありません

 ただし、彼はこの騒動が持ち上がってから、「自分が描いたと噂されている絵とはどんなものだろう?」…と思い、勇気を振り絞って問題の洞窟に足を運んでいます。そして壁画を見るや、その絵の素晴らしさに驚愕し、
 「これは上手い! 壁の凹凸を巧みに利用しているぞ。なんて素晴らしいんだ!」
 …と、無意識のまま絶叫し、弾みで言語障害が治ってしまったという、壁画の発見以上に信じ難いエピソードが残されています。 

 しかしそんな事など顧みられる事も無く、結局、サウトゥオラ子爵は、学会やマスコミから猛烈なバッシングを受ける事になってしまいました
 そんな子爵の名誉が回復されたのは20年余り後1900年代に入ってからアルタミラと同様の洞窟壁画遺跡が続々と発見されたのが決め手になりました。当時の研究者たちは、その時になってようやく20年前の己の無知を恥じたと言いますが、最早、詫びなくてはならない相手は、とうの昔に天に召された後でありました……。

 
 ……さて、世界史の陰に隠れた“悲劇”の数々、いかがだったでしょうか? 
 ちょっとスッキリしない話ばかりで恐縮ですが、普段何気なく参考書等で目にしている歴史用語に、実は色々な人の人生模様が内包されているんだという事を知って頂けると幸いです。

 それでは、次回からは再び本編に戻って歴史の講義を続けます。
 その次回は、メソポタミア文明の発祥について色々な話をしてみようと思います。(次回へ続く

 


 

9月22日(日) 社会経済学概論
「映画業界の異端児・アルバトロス風雲録」(14)

 ※前回までのレジュメはこちら↓
  第1回第2回(ここまでは競馬の話)第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回第11回第12回第13回

 前回は、アルバトロス史のみならず、日本映画業界史上に残る大コケをぶちかました『クィーンコング』についてお話しました。それはもう、笑いどころと呆れどころ満載の超絶バカ映画でありました。

 しかし、この映画で全く笑えない人もいました。そう、アルバトロスの関係者たちです。

 何しろアルバトロスは、ここ数年の興行成績の不振を打破するため、この『クィーンコング』に数億もの予算を注ぎ込んでいました。
 つまりは一発逆転のホームランを狙ったわけなのですが、しかし物理的にバットに当てられないようなクソボールではどうしようもありませんでした。『ドカベン』の岩鬼のような“悪球打ち”を誇るアルバトロスであっても、二塁への牽制球は打てっこありません

 …前にも述べたと思いますが、アルバトロスは社員総数7名の零細企業資本金は当然のように1000万円であります。そんな会社が数億の損失を出したわけですから、そのダメージの深さは甚大でした。
 恐らくこの時、アルバトロスの販売担当の方たちは、
 「ああ、これから損失をカバーするために、何本の『ザ・キャッチャー』や『深海からの物体X』みたいなビデオを売り歩かなければいけないんだろう……」
 …などといった陰鬱な気持ちに沈み込んでいたと思われます。この時期、アルバトロスの社内では『クィーンコング』「ク」「ィ」「ン」「コ」「グ」の字が禁句であった事は想像に難くありません。社内で誰かが
 「ちょっと銀行行って来ます」
 ……だなんて口を滑らせますと、社長さんが
 「何だ? 『クィーンコング』がどうしたァ!」
 と、叫び出し、たちまちオフィスで湯飲み茶碗がパリーンと割れる音がしたり、「社長ォ! お気を確かに〜!」などといった悲鳴が響き渡る事になったに違いありません。
 
 …ですがアルバトロスには、まだ1本の未だ公開されていない劇場用フィルムが残されていました。それは、たった1人でアルバトロスの社運を翻弄する男・買い付け担当の叶井俊太郎氏が、これまた多額の予算をかけて買い付けてきたフランス映画。このフィルムが、またしてもアルバトロスを大騒動に巻き込むことになります。ただし、今度は全く逆の意味においてでしたが──

 
 ここで話を『クィーンコング』の失敗前に遡らせます

 アルバトロスの映画買い付け担当・同社プロデューサーの叶井俊太郎氏は、来る日も来る日も新たなバカ映画・エロ映画・グロ映画・ナンセンス映画を発掘するために、エコノミー席で不味い機内食を喰らいながら、世界中の映画祭を飛び回っていました。特にその時期は、2001年下半期の興行に向けて、多額の予算を携えて大作映画を捜し求めていた頃とあって、叶井氏の意気込みはいつにも増して高かった事でしょう。その意気込みが『クィーンコング』に繋がってしまったのかと思うと頭が痛くなりますが、今はその事には触れません。
 …ある日、叶井氏は某所にて、とあるフランス映画の存在を知るところとなりました
 その映画とは、『エイリアン4』の監督を務めた鬼才・ジャン=ピエール=ジュネが、故国フランスに戻ってメガホンを取った新作映画。しかもキャリアの浅い若手女優を主役に抜擢した意欲作でありました。

 「おお、これは──」

 その映画についての簡単な資料を見るなり、叶井氏の脳ミソに内蔵された、阪神タイガースのスカウト担当の感性並に歪んだアンテナがビビビと反応しました。…といいますのも、この映画の監督であるジュネ氏の過去作品が、いかにも叶井氏好みのする映画ばかりだったのです。

 ジュネ氏の実質デビュー作となった作品は、1991年のフランス映画・『デリカテッセン』。近未来のパリを舞台にしたストーリーでした。
 賢明な受講生の皆さんなら、「近未来」「『デリカテッセン』(=高級惣菜)」「叶井氏好み」というキーワードを聞いただけで、おおよその内容は分かってしまうと思われますが、まさにそのご想像の通りと申し上げておきましょう。簡単なあらすじを紹介します。

 映画の舞台となった世界では、大戦争のために極度の食糧難になり、人々は食料を求めて日々バトルロワイヤルに挑んでいました。
 そんな状況下のパリへ、1人の男が職を求めてやって来ます。彼の名はルイソン。そして、彼が住み込みで就職したのは(ご期待通り)精肉店のアパートでした。
 彼はその店の主人の娘・ジュリーと恋に落ちますが、実はルイソンは店の従業員としてではなく、材料として“確保”されていたのでした。しかし、ルイソンを愛するジュリーは恋人の命を救うために彼を逃がし、肉食に反対する地下組織・『地底人』に助けを求めるのでした……

  …アルバトロス配給ならば『人肉集合住宅』とかいう題名で公開されていたはずのこの映画、辛くも他の配給会社に目をつけられていたために、無事、日本でもまともな評価をしてもらう事ができました。

 そして、この4年後に公開されたジュネ監督の第2作『ロスト・チルドレン』も、一風どころか四風も五風も変わった映画でした。
 お話のベースは、勇気ある1人の少女を主人公にした冒険モノなのですが、出て来るキャラクターが異色過ぎるのです。
 それは、出来損ないのクローン人間、脳髄人間、双子老婆の窃盗団、一つ目人間教団、殺人版ノミのサーカスetc──
 …この、不思議な世界観で繰り広げられる異色冒険ストーリーは映画を観た人の多くを魅了し、“知る人ぞ知る名作”としての地位を確立しました。ここで得た名声が、『エイリアン』シリーズの監督という、名誉ある仕事へと繋がっていくわけです。

 で、その『エイリアン4』においても、ジュネ氏の手腕が遺憾なく発揮されました。
 この映画が公開されるにあたっては、「1作目から20年も経ってるねんし、もう『エイリアン』は作らんでエエやんけ」…といった構造的な逆風が吹き荒れていたのですが、そんな中でも、ジュネ流の“美しきグロテスク”に魅せられた多くの人から“合格点”の評価を引き出したのでした。

 ──そんなジュネ監督の新作映画が、自らの手で日本公開できるかも知れない。

 それを知った叶井氏は、思わず生唾を飲み込んだ事でしょう。
 その上、叶井氏は主役が無名の若手女優という点にも目をつけていました彼は、手に持った資料に載っていた、大きな目が印象的なキュート系女優・オドレィ=トトゥの写真を見て、こう思ったのです。

 「おお、この女が、人を食ったり化物と絡んだりするのか! …なんてウチの会社に向いた映画なんだ !!」

 ──こうして、アルバトロスの社運を賭ける事になる映画フィルムは、“パッケージ買い”で叶井氏、そしてアルバトロスの手に渡ったのでした。

 しかしそれにしても、とんでもない社運の賭け方も有ったもんであります。もし将来、「週刊少年マガジン」で『叶井俊太郎物語』が描かれるならば、このシーンが如何に歪曲・捏造されるのか、今から楽しみでなりません。あ、作者は『魁! クロマティ高校』野中英次氏で是非

 …ところが、ホクホク顔で契約を済ませた叶井氏、実際に映画を試写してみると、ビックリ仰天。その映画、ジュネ氏の監督作品にも関わらず、人肉を食べる少女も、1つ目の怪物も、死骸の腹を食い破って襲いかかって来るエイリアンも出て来ないではないですか! 
 それどころか、主人公の女の子は偶然拾った宝箱を持ち主に届けたりして、人々を幸せにしたりしてしまいます。勿論、突然クワガタ入りのゲロを吐き出して悶絶したり、殺人キャッチャーと野球をやったりもしません。
 観る人を恐怖のどん底に突き落としたり、全国1万人の死体愛好者を喜ばせたりするために買った映画だったのに、何故だか知りませんが、観た人を幸せにしてしまうような気がしてなりません

 その危惧(?)は的中します。公開直前の完成試写会では、なんとスタンディング・オベイションまで起きてしまったのです! これまで、試写会の途中で気分悪くなってゲロを吐く客はいましたが、笑顔で拍手をした客なんていませんでした
 鳴り止まない拍手を聞きながら、ただ1人席を立たずに歓喜する観客たちを眺めつつ、叶井氏は思いました。

 「とんでもない映画買っちゃったよなぁ…。こんな映画、ウチのカラーと違う……」

 この、邦題を『アメリ』という映画、実は世界各地の映画祭でグランプリ受賞やオープニング&クロージング作品の名誉を受けた大人気映画で、2001年アカデミー賞の外国語映画賞部門フランス代表にまで選ばれていたのでした(翌年には改めてアカデミー賞の5部門にノミネート
 本国フランスでは国を挙げての大フィーバーとなり、大統領や首相まで映画館に足を運ぶと言う異例の事態にまで発展していたのです。
 …ですから、この映画は本来ならアルバトロスみたいな“人畜有害”配給会社ではなく、もっと大手の配給会社が買い付けるようなものでありました。しかし、監督があのジュネ氏であること、そして何よりアルバトロスの叶井氏が目の色を変えて買い付けに走ったという情報が入って来たのが大きかったようです。
 その結果、同業他社の買い付け担当者は、
 「うわ、叶井が欲しがるようなジュネの映画か! だったらきっと、主役の女の子がえげつない人殺しとかして、その肉を食っちゃうんだ!」
 ……と、誤解し、早々に手を引いてしまったのが真相でした。
 叶井氏が『アメリ』に関して行った事は、客観的に観て全て間違っていたのですが、それが巡り巡って最高の結果が勝手に飛び込んで来たわけです。本当に世の中、何が起こるか分かりません。

 結局、この『アメリ』は、単館上映系の映画館でロードショー公開されるや、話題が話題を呼んで映画館は連日大入り超満員。しかも主な客層は、これまでアルバトロス映画とは一番縁遠かったはずのF1(19〜29歳女性)です。
 人気がピークに達した頃になると、週末の上映館前では、映画館のスタッフが慌しそうに「『アメリ』のチケット、今日の分は完売しました〜!」とメガホンを持って走り回る姿が見受けられるようになりました。
 当初1館のみだった上映館数は、最終的には170以上にまで達しました。興行収入は15億円を突破し、全国の単館上映系映画館で興行収入の新記録を次々と塗り替えてしまうという、一軍に定着したての頃のイチローみたいな状態に。当然、追って発売されたDVDの売上げも莫大なものとなりました。

 この記録的な大成功で、アルバトロスは『クィーンコング』の赤字解消どころか、自社ビルまで建てようかという大儲け。まるで『こち亀』のオチ一歩手前みたいな状態です。
 当然、社員の待遇も変わります。これまでエコノミー席だった叶井氏の映画買い付け貧乏旅行は、一転してファーストクラス&スイートルーム大名旅行にグレードアップ。まさに、暗闇の中で靴を探すために万札でも燃やそうかという勢いの成金ぶりでありました。

 …しかし、そんな飛ぶ鳥を落として焼いて食ってしまいそうな勢いのアルバトロスや叶井氏にも、新たな悩みが発生していました。
 『アメリ』の成功で、これまで見向きもされなかった一般マスコミで大きく扱われるようになったのは良いのですが、『アメリ』以外に一般向けに話題が出来る映画が無いのです。

雑誌記者:「え〜と、叶井さんがこれまで買い付けた映画で、『これ!』というのはありますか?」
叶井氏:「『キラーコンドーム』かな」
雑誌記者:「え?」
叶井氏:「だから、『キラーコンドーム』。コンドームが牙を生やしてキ○タマとか食う映画です」
雑誌記者:「……今回の企画は『アメリ』一本で行きましょう!」

 ……アルバトロスに課された新たなるテーマ、それは『アメリ』と同じ路線でもう1回ヒット作を出す事でありました。
 しかし、バスケットボールでは英雄だったマイケル=ジョーダンも、野球では二流のマイナーリーガーが精一杯だったように、叶井氏がマトモでヒットしそうな映画を探してくるのは、『クィーンコング』を探してコケさせるよりも難しい至難の業だったのです。

 アルバトロスと叶井氏の苦悩が、また始まりました。次回へ続く

 


 

9月21日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”」(19)
1994年クリスタルC/1着馬:ヒシアマゾン

駒木:「さて、今週は時間も詰まってるのでショートバージョン。何頭もの一流馬同士が凌ぎを削った名勝負じゃなくて、1頭の馬の強さが際立っていたレースを1つ紹介しようと思うんだ。詳しく語る馬の数が減る分だけ、時間も節約できるというわけ(笑)」
珠美:「それでヒシアマゾンが勝ったクリスタルCというわけなんですね。確かに博士のおっしゃる通りのレースですよね」
駒木:「コアな競馬ファンの間では、未だに語り草になっているレースみたいだね。まぁメンバー全体のレヴェルはさておいて、見応えという面では確かに群を抜いていると思うよ。
 …まぁ詳しい話はこれからやっていくとして、とりあえず出走メンバーの紹介をよろしく」
珠美:「ハイ。それではさっそく出馬表をご覧いただきましょう」

第8回クリスタルC 中山・1200・芝

馬  名 騎 手
フジミケアンズ 的場
ミスターヘルプ 清山
インターイメージ 谷中
バンブーユージン 植野
ユーワマーブル 藤原
ヒシアマゾン 中館
フィールドボンバー 柴田善
タイキウルフ 岡部
ファイブナカヤマ 吉永
10 ガイドブック 田中勝
11 アイランドブルース 柴田政
12 トウショウルーイ 江田
13 ボディガード 松永幹
14 ミツルマサル 蛯名

駒木:「当時のクリスタルCは、G1に直結しないG3レースということでメンバーも地味になるケースが多かったんだけど、この年は比較的メンバーが揃っていた方なんじゃないかな。酷い年になると、後から見たらとても重賞レースとは思えないような時もあるし。
 …それじゃ、珠美ちゃんにレースと人気馬の紹介をしてもらおうかな」
珠美:「ハイ。最近はずっと言い忘れていたんですけど、このレースが行われた日も紹介しておきますね。1994年の4月16日です。……あら、当時は皐月賞ウィークの土曜日に施行されていたんですね。それじゃ、メンバーが揃わないのも仕方ありませんよね(苦笑)。
 ……さて、このクリスタルCは1987年に創設された、3歳限定の短距離G3レースです。今も昔も春の3歳短距離重賞戦線のトップを飾るレースということは変わり有りませんが、現在はニュージーランドトロフィーからNHKマイルCに繋がるG1戦線のステップレースとしての意味合いが強いようです。
 施行条件は、原則的に中山競馬場の1200m。ただし第2回の88年は、中山競馬場が改装中のために東京の1400mで争われました。施行時期に関しては、先に述べましたように、以前は皐月賞ウィークに行われていましたが、現在では4週間繰り上げられ、3月第2週に実施されています。これは、ニュージーランドトロフィーとのローテーションを意識してのものだと思われます。
 ……では、このレースの人気上位馬を紹介してゆきましょう。まずは1番人気にしてこのレースの主役となりますのがヒシアマゾン。ここまでG1・阪神3歳牝馬S(現:阪神ジュベナイルフィリーズ)勝ちを含む、6戦3勝2着3回という好成績。前走のクイーンCで重賞2勝目を挙げての参戦です。このレースはあくまで通過点といったところでしょうか。
 2番人気はフィールドボンバー。前年の朝日杯3歳S(現:朝日杯フューチュリティS)をナリタブライアンの2着するなど、ここまで7戦3勝2着2回の成績。前走でクリスタルCと同一条件のオープン特別・菜の花Sを完勝しての参戦です。
 3番人気はトウショウルーイ。この年の1月に