「社会学講座」アーカイブ(競馬学関連・2)

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講義一覧

4/27 競馬学特論「G1予想・天皇賞(春)」
4/20 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(11)
4/13 競馬学特論「G1予想・皐月賞編」
4/6  競馬学特論「G1予想・桜花賞編」
3/30 競馬学基礎論「緊急企画〜検証・新賭式(馬単・三連複)馬券」
3/23 競馬学特論「G1予想・高松宮記念編」
3/17
 競馬学概論「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(10)
3/9  競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(9)
3/2  競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(8)
2/26 
労働経済特論「競馬騎手の収入格差から見た、競馬社会のあり方に関する考察」
2/23 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(7)
2/16
 競馬学特論「G1直前予想・フェブラリーS編」
2/9  競馬学概論「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(6)
2/5  競馬学概論「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(5)
2/2 
 競馬学特殊講義「女性のための競馬場デートガイダンス(前編)」「女性のための競馬場デートガイダンス(後編)」 (特別講師:栗藤珠美)

 

4月27日(土) 競馬学特論
「G1予想・天皇賞(春)」

◆天皇賞(春) 予定調和と裏切りの中で◆

 あれはいつだったろうか。研究室で珠美ちゃんがこんな事を言っていた。

 「春の天皇賞って、良いですよね。馬券は獲りやすいし、レースそのものも、大抵はハッピーエンドで終わるじゃないですか。良いレースが観られて、少しだけでもお金が増えるなんて、“ささやかな幸せ”って感じで良いと思いません?」

 珠美ちゃんが競馬を見始めたのは高校に入学した1996年の春からだが、当時は完全な初心者で、レースの印象どころじゃないはずだから、彼女が話の前提としているのは翌97年以降のレースだと考えていいと思う。
 確かに97年以降の天皇賞(春)の成績を見てみると、珠美ちゃんの言う通り、馬券的に平穏で、レースも見応えがあって、なおかつハッピーエンド的結末というレースが続いている。シルクジャスティスが凡走した98年だけが例外と言えなくともないが、それでも当時中・長距離で最強と言われたメジロブライトが勝っているところを考えると、許容範囲内と考える方が自然だろう。

 では、僕も珠美ちゃんと同じ考えかというと、実はそうでもない。この天皇賞(春)というレースで僕は、ハッピーエンドとほぼ同じ数だけのバッドエンドを見せられている。96年のナリタブライアン−マヤノトップガン不発の時なんて、精神的にも経済的にも大いにダメージを受けたものだ。当時の僕は、量産型・福沢諭吉の肖像画を馬券販売機に突っ込んでしまう青臭いガキだったのだ。
 そう、僕にとっての天皇賞(春)は、予定調和と裏切りがアンバランスなハーモニーを奏でる、どうにもこうにも複雑なG1レースなのである。

 それにしても、このイビツなハーモニーはどこに根源があるのだろうか。とりあえずはその理由を探るため、少しばかりこのレースの分析を試みてみたい。

 過去10年の天皇賞(春)を振り返ってみると、各年度のメンバー構成によって、10のレースが大きく分けて4つのパターンに分類される事に気が付いた。

 (1) 1頭の馬に人気が集中している“一本被り”
 (2) 2頭の馬が人気を分け合う“一騎討ち”
 (3) 3頭の有力馬による“三つ巴”
 (4) 有力馬不在による“群雄割拠”

 普通のレースでは、“卍どもえ(4頭で接戦)”や“実力伯仲(今年の皐月賞のような大接戦)”というパターンも見受けられるが、少頭数で個々の出走馬間の実力差が比較的大きい天皇賞(春)では、なかなかお目にかかれないようだ。

 まず、(1)の“一本被り”パターンに当てはまるのが、93年(1番人気:メジロマックイーン)、94年(同:ビワハヤヒデ)、01年(同:テイエムオペラオー)の3回で、これらは3度とも平穏な結果に終わっている。即ち、1番人気馬の2勝2着1回、平均馬連配当443円である。

 次に(2)の“一騎討ち”パターン。これは92年(メジロマックイーンVSトウカイテイオー)、96年(ナリタブライアンVSマヤノトップガン)、98年(メジロブライトVSシルクジャスティス)の3回。
 こちらは対照的に人気馬の成績が悪い。人気2頭の成績を挙げていくと、92年は1着-5着、96年は2着-5着、98年は1着-4着で、マッチレースの実現は一度もない。平均馬連配当は2517円。3ケタ配当の多いこのレースでは破格と言える高額配当が続いている。

 (3)の“三つ巴”はどうだろうか? こちらは97年(マヤノトップガン、サクラローレル、マーベラスサンデー)、99年(スペシャルウィーク、メジロブライト、セイウンスカイ)、00年(テイエムオペラオー、ラスカルスズカ、ナリタトップロード)が該当する。00年に関しては(1)パターンに足を半分突っ込んでいるが、人気馬の成績などを考慮すると、こちらの方に入れた方が良いと判断した。
 これらの3つのレースの結果はと言うと、なんと全てのレースで人気上位3頭が上位3着を独占している。平均馬連配当は387円。
 人気3頭による名勝負が繰り広げられ、馬券も平穏。どうやら珠美ちゃんの天皇賞(春)に対する認識は、ここから来ていると見て間違い無さそうだ。彼女が観てきた5回のレースの内、3度がこのパターンである。

 最後の(4)、“群雄割拠”パターンは95年。レース直前にナリタブライアンが戦線離脱をして、一気に混迷の度を深めたレースである。今に比べて最強馬クラスの故障が多かった当時には時折見られる光景であった。
 この年の結果は、1着に古豪・ライスシャワー、2着には2年前の菊花賞2着馬・ステージチャンプが滑り込んだ。4番人気と6番人気の組み合わせとなって、馬連は4090円。やはり天皇賞(春)にしてはかなりの高額である。

 人気通り収まったのは(1)と(3)のパターンで10年間に6度。荒れるのは(2)と(4)のパターンで4度。見事なまでに“イビツなハーモニー”といったところだろう。
 特に、戦前の期待が高まりやすい(2)のパターンが全て不完全燃焼に終わっているのが印象深い。これではバッドエンドがより目立ってしまうのは仕方がない話だ。

 一騎討ちが成立しないとしては、ただ単に「2頭とも凡走しない確率が低い」という理由の他に、人気馬の騎手が相手を潰しにかかるからでもあるのだろう。騎手は己が勝つことが最優先。客がどんな馬券を握ってようが関係無いのである。
 対して、三つ巴がことごとく成立する理由としては、1頭で他の有力馬2頭を同時に潰す事が出来ないため、自然と正々堂々とした実力勝負になってレースの紛れが少なくなるのだろう。

 …というわけで、僕がこのレースに抱く印象は、おそらく(2)のパターンが大きく影を落としていると言えるのではないかと思う。
 まさに予定調和と裏切りの繰り返し。まるで人生模様を見ているか……いや、ここは競馬界の偉大な先輩に倣って、「予定調和と裏切りの繰り返しだなんて、人生は競馬に似ているなぁ」と言うべきなのだろう。

 さて。では今年の天皇賞(春)はどうか。
 各馬の実績や単勝オッズを見る限り、どうやら(3)のパターンに当てはまると見て良さそうだ。となると、今年も過去の例に従って、人気上位3頭による名勝負が繰り広げられるのであろうか。

 まずマンハッタンカフェは、年明け緒戦となった前走の日経賞で、自身を除けばオープン特別のようなメンバー相手に不可解な惨敗を喫した。
 レース中に蛯名騎手が後ろを振り返るなどしたため、一時は「故障か?」とも思われたが、どうやら荒れた馬場に足を滑らせたというのが真相のようだ。
 それにしてもこの馬、以前にも競馬学特論で述べたが、非常に騎手泣かせの“異議申し立ての多い馬”である。3コーナーから4コーナーでの脚の使い方が非常に難しく、ここでヘソを曲げるとどうしようもない。しかしながら、このポイントを上手に切り抜けられた時の瞬発力は菊花賞と有馬記念で発揮した通りで、どんな相手やペースだろうが問答無用の末脚を見せつける。
 信じられないような惨敗と目の覚めるような好走を繰り返すタイプとしてはマヤノトップガンがいた。菊花賞と有馬記念を制しているところまで、この馬とよく似ている。血統は全く違うが、“他人の空似”にしては非常に面白い2頭の関係とも言える。

 次はナリタトップロード。いやはや、それにしてもナリタトップロード、である。
 京都記念→阪神大賞典を快勝という、2年前にテイエムオペラオーが通過してきた轍を踏みしめて来たというのに、この馬から滲み出てくる“大物感の無さ”は何なのだろう。「一応はこの馬だってG1馬なのに……」と、G1実績を語る際には何故か“一応”と付けてしまうのがこのナリタトップロードという馬なのである。
 この馬に付き纏う頼りなさの原因は、やはりG1レースでの成績にあるのだろう。
 10戦して1勝、2着1回で、3着がなんと4回。さらに生涯3度ある6着以下の惨敗が、3度とも最も注目の高い有馬記念である辺りに、この馬の得体の知れぬダメッぷりが凝縮されているように見えてならない。今回の当面の相手であるマンハッタンカフェとジャングルポケットにも、それぞれ1度ずつ完敗を喫している。地力の面で考慮すると、この馬が3強の中で3番手である事は否定できまい。阪神大賞典の快勝も、使った馬の強みがあったからだと言う事もできる。
 しかし、困った事に(敢えてこう書く)今シーズンにおいて一番チャンピオンらしいレースをしているのは、紛れも無くこの馬なのである。さらに、今回ではスローペースの絶好位を追走できる強みもある。考えれば考えるほど、この馬が有利なのである。問題は、果たしてこの有利さが成績に繋がっていくかどうか。これまでチャンスを幾度と無く潰してきただけに、容易に信用ならないのである。遅咲きの王者誕生か、やっぱりナリタトップロードなのか、事の顛末を見届けさせてもらう事にする。

 さて、3強最後の1頭はジャングルポケット
 ダービーを勝ち、ジャパンカップではテイエムオペラオーを完封。文句のつけようの無いパフォーマンスで年度代表馬にも輝いたこの馬だが、意外とみっともない敗戦も多いのが気にかかる。
 特に気がかりなのは、2度の3000m戦での不甲斐なさである。いずれも直線で伸びあぐねて土壇場で失速。2400mでの強さと父トニービンという血統から、これまで「3000m級でも安心」と、根拠薄弱な思い込みをしてきたが、ひょっとするとこの距離では実力が発揮できないのではないかと疑うようになって来た。
 下馬評では「乗り替わりの武豊騎手に期待」とする声もあるが、前走の鞍上・小牧太騎手は武豊騎手と遜色ない実力の持ち主であり、もっと言えば、前走のように手応えが悪くて伸びあぐねる馬を強引に押し上げていく技量というのは、パワー優先の地方競馬で活躍している小牧太騎手に一日の長があるとも言える。乗り替わりによって生じるプラス要素は決して大きくは無い。
 今回はマンハッタンカフェをマークしながらの差し・追い込み作戦か。菊花賞で末脚勝負に敗れた相手にこの舞台で挽回なるかは微妙なところ。陣営にしてみれば、真っ向勝負で勝ちたい反面、完敗するくらいなら他力本願(相手の凡走待ち)ででも勝てれば御の字という気持ちも強いだろう。

 

 ところで、三つ巴の枠外に置かれた8頭はどう扱えば良いだろうか。
 これまでの例によれば、三つ巴になった場合、4番人気以下の馬に出番が巡ってくる可能性は、確かに著しく低い。
 だが、今回の3強は、どうも例年の三つ巴に比べると、各馬とも死角が多すぎるような気がしてならないのだ。ひょっとすると、今回のパターンは(3)の三つ巴ではなく、変形の(4)、“群雄割拠”ではないかとも思えるのである。
 そうなると、当然人気中〜下位の馬にもチャンスが巡ってくる。
 今回の人気中〜下位の馬の特徴として、中・長距離の前哨戦、またはその更に前哨戦を勝って来ている馬が多いという事が挙げられる。ここでは、各馬が勝ったレースの過去の勝ち馬の傾向から、今回のレースにおける展望を行ってみたいと思う。

 阪神大賞典はナリタトップロードが勝っているので詳しくは割愛するが、天皇賞(春)への影響度はダントツであるとだけ述べておこう。

 阪神大賞典と並ぶ、天皇賞(春)のステップレース・日経賞を勝ちあがったのはアクティブバイオ。条件馬の身分から、大金星を挙げた形である。
 ここ10年の日経賞勝ち馬から2頭の天皇賞馬が出ている。阪神大賞典組の5頭には及ばないものの、なかなかの成績といえるだろう。
 ただし、日経賞1着経由で天皇賞を勝った2頭はいずれも1番人気で日経賞を勝った馬。穴を開けて勝った馬は軒並み討ち死にしている。
 もともと日経賞は、有馬記念と同じでコーナーのやたら多い中山の2500mを舞台としているせいか、やたらと波乱が多い。紛れに乗じて身分不相応な実績を挙げてしまった馬にとって、淀の3200mという舞台は少々荷が重過ぎるのであろう。

 もう1つのステップレースとされている大阪杯。これを勝ったのはサンライズペガサス。1番人気での快勝の上に、エアシャカールを破ったという付加価値も大きい。
 しかしこの大阪杯は、やたらと天皇賞(春)との相性が悪い。安田記念や宝塚記念などへの別路線を歩む馬が多い事もあるが、過去10年間の大阪杯勝ち馬から天皇賞馬は出ていない。93年メジロマックイーンの2着が唯一の連対例だ。
 競馬界には時々、このようなジンクスがつきまとう。特に有名なのは天皇賞(秋)の1番人気が勝てないジンクスだったが、他にもNHKマイルCの前身、ダービートライアル・NHK杯勝ち馬が、本番で10年以上勝てないままだったというものがあった。
 どのような怪しげなジンクスでも、10年以上続くという事は、何らかのデジタルな要因があると考えた方が自然であり、恐らく大阪杯から天皇賞(春)というローテーションは、一気の距離延長や詰まったレース間隔などが微妙に馬の調子を狂わせてしまうのだろう。
 そう言う意味では、このサンライズペガサスは新たな“犠牲者”になってしまう可能性が高いと言わざるを得ない。昨年の菊花賞で惨敗しているのも悲観材料の1つに挙げられよう。
 だが競馬とはおかしなもので、そのように理詰めで考えると、どうしても実力が1枚足りない馬に限って、いざレースになるとスルスルと抜け出してしまったりするものなのである。この馬には最後まで頭を悩ませられそうだ。

 貴重な3200mの重賞レース・ダイヤモンドSを勝ったのはキングザファクト
 このダイヤモンドSの勝ち馬には、マチカネタンホイザ、センゴクシルバー、エアダブリン、ユウセンショウ、ユーセイトップランなど、阪神大賞典や天皇賞(春)で人気の一角を占めた馬が多数名を連ねるが、その割には成績がイマイチである。結局は二線級によるハンデ戦という条件が、いわゆる“お山の大将”を生み出してしまうのだろうか。

 現在、日本の平地レースでは最長距離のレース・ステイヤーズSを勝ったのはエリモブライアン
 このレースでは、97年にメジロブライトが大差勝ちを飾って、翌年の天皇賞制覇に繋げた例が挙げられるものの、他の勝ち馬はダイヤモンドSと似たり寄ったり。最近ではむしろG1で実績を残している3歳馬が苦渋を舐めさせられるレースになってしまっている。天皇賞へ繋がるレースというよりも、独立した特殊なレースという性格が強いのかもしれない。

 変わったところではオープン特別の万葉S。今年の勝ち馬はアドマイヤロードだが、かつてラスカルスズカが圧倒的人気に応え、後の天皇賞2着に繋げたケースもあり、全く無視は出来ないであろう。
 しかし、この馬はその後がいけない。ダイヤモンドS、阪神大賞典と完敗を喫していては頭打ちと判断されても文句は言えないだろう。

 さらに変わったところでは、ダービー4着が勲章というボーンキング
 過去のダービー4着馬で主だったところを羅列すると、マチカネタンホイザ、ホッカイルソー、ロイヤルタッチ、エリモダンディー、オースミブライト、トーホウシデンといった、非常に味のあるメンバーが揃っている。セイウンスカイもいるが、この馬は前後の成績を考えると別格と考えて良さそうだ。
 ダービー4着馬は、G2上位、G1出走の常連が揃っていながら、イマイチ存在感が薄い連中の集まり、といったところだろうか。中途半端な進学校の同窓会みたいな、これまた微妙なむず痒さが走ってしまう。

 結局、3強への挑戦権を獲得出来そうなのはサンライズペガサスだけ、ということになるのではないか。本来はエリモブライアンも圏内に入れなければならないのだろうが、あまりにも臨戦過程が悪すぎる。調教で走れない馬が、3200mのレースで番狂わせを演じるだなんて、ちょっと虫が良すぎる話だ。

 さて、ちょっと長々と文章を書き連ねすぎた。そろそろまとめに入ろう。

天皇賞 京都・3200・芝外

馬  名 騎 手
    トシザブイ 池添
  × ボーンキング デムーロ
    ホワイトハピネス 小原
マンハッタンカフェ 蛯名
ナリタトップロード 渡辺
    アクティブバイオ 四位
ジャングルポケット 武豊
    キングザファクト 後藤
サンライズペガサス 安藤勝
    10 エリモブライアン 藤田
    11 アドマイヤロード 須貝

 結局、本命は地力の最大値を買ってマンハッタンカフェとした。しかし、もちろん他の3強の2頭と差は無い。
 馬券的にはサンライズペガサスからが勝負になるか。儲け優先で考えるなら、9番から流し馬券というのも一考だろう。しかし、僕自身は正攻法で4.5.7のBOXと4-9とする。

 珠美ちゃんは珠美ちゃんなりのハッピーエンドを思い浮かべているようだ。それもまた、良し。
 4.5.7のBOXは僕と同じだが、7-9と2-7の2点にフトコロのハッピーエンドを賭けているところが微笑ましく思える。

 貴方のハッピーエンドは、もう浮かんでいるのだろうか? 

 


 

4月20日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(11)
1993年宝塚記念/1着馬:メジロマックイーン

駒木:「ほぼ1ヶ月ぶりになるのかな、この競馬学概論講義は……?」
珠美:「そうですね…。最近は競馬学特論の方も多いですから。
 あら、今日はメジロマックイーンの宝塚記念が題材なんですね。93年の6月というと、私が中学1年生の時ですねー(苦笑)。残念ですけど、ビデオでしか知りません」

駒木:「うわー、そうなるのかぁ。珠美ちゃんが中1! …何だか物凄く新鮮に聞こえるのは気のせいだろうか(笑)。えーと、受講生のみんなに代わって訊いておこう。ちなみに当時の制服は何だったの?(笑)」
珠美:「(苦笑)。ブレザーでした。ちゃんとエンジ色のネクタイ付きの。…って、どうでもいいじゃないですか、そんな事は。何言わせるんですか(笑)」
駒木:「はいはい。……しかしそうだよな、当時は僕も高校生だったんだ。珠美ちゃんが中学生でも当たり前と言えば当たり前か。まぁその時の僕は、ちゃんと馬券握って阪神競馬場で生観戦してたんだけど(笑)
珠美:「(笑)」
駒木:「さて、今回のレースは『名勝負』というより、『名勝負になりきれなかったレース』と言った方が良いかもしれないね。それでも自分の中で妙に印象深いレースなので採り上げさせてもらう事にした。あんまり広く知られていないレースでもあるし、講義で扱うに足りるレースだとは思っているよ。
 それじゃ珠美ちゃん、レースの紹介をどうぞ」
珠美:「……ハイ。このレースが行われたのは1993年の6月13日でした。当時は6月の中京開催と阪神開催の順序が逆で、宝塚記念の開催が今より4週間ほど早かったんですよね。
 えーと、宝塚記念の概要については、この競馬学概論の第4回で紹介していますので、その時のレジュメを参照してください。
 では取り急ぎ有力馬の紹介から。
 このレースの出走馬は11頭。G1レースにしては少し寂しい頭数と言って良いんじゃないかと思います。ただ、これには複数の理由があったみたいです。また後で博士に詳しく説明して頂きましょう。
 このレースでは上位2頭の人気がずば抜けていて一騎討ちムードだったんですね。しかもその2頭とも、日本を代表する生産者馬主・メジロ牧場の馬でした。
 まず1番人気はメジロマックイーン。当時(旧)7歳ながら、中・長距離で1、2を争う最強クラスの名馬でした。この時までに菊花賞、天皇賞・春を2回と、G1を3回制覇していますし、スタート直後の進路妨害で18着降着になったものの、天皇賞・秋でも1位入線の経験があります。
 この93年は、1年ぶりに故障から復帰した4月の大阪杯で快勝したものの、天皇賞・春ではライスシャワーの前に3連覇ならず。この宝塚記念で巻き返しを誓っての出走となりました。
 2番人気はメジロパーマー。こちらもマックイーンと同じ(旧)7歳馬ですね。
 デビュー当時は地味な戦績で、初重賞は(旧)5歳の札幌記念(当時はハンデ戦G3)。500万下からの昇級&2段階格上挑戦ということで、斤量50kgの軽ハンデを活かしての快走でした。
 その後、成績が伸び悩んで障害レースを走った時期もありましたが、(旧)6歳の宝塚記念で驚きのG1初制覇。秋シーズンも一時は大スランプに陥りながらも、今度は有馬記念を逃げ切ってG1レース2勝目をマークしました。
 93年シリーズは阪神大賞典でナイスネイチャ、タケノベルベットらを相手に驚異的な“逃げ差し返し”で優勝。続く天皇賞・春でも逃げて3着と大善戦しました。この宝塚記念は、人気・実績で勝る僚友マックイーンに挑戦状を叩きつけた……という感じでしょうか?
 あと、他の有力馬については簡単に紹介しておきますね。
 まずは3番人気のニシノフラワー。前年の桜花賞とスプリンターズSを制した快速牝馬です。この93年もマイラーズC(G2)を快勝し、ますますスピードに磨きのかかったところを披露しています。ただ、前走の安田記念では弱点の気性難が影響して10着惨敗。この精神面の弱さと2200mという距離に課題を残したまま参戦することになりました。
 次にもう1頭の牝馬、イクノディクタス。(旧)3歳の夏から精力的に活動を続けた、ここまで重賞4勝の(旧)7歳牝馬です。これまでG1クラスのレースでは苦戦続きだったんですが、前走の安田記念で14番人気ながら2着と大健闘。そこで足がかりを作っての春の大一番挑戦となりました。
 他には2年前の皐月賞2着馬・シャコーグレイドや関東で人気上昇中だったステイヤー・アイルトンシンボリなどがいました。
 ……私からは以上です、博士」

駒木:「はい、ご苦労様。そうだねえ、まずはやっぱり出走メンバーが寂しかった理由について話さなきゃいけないよね。
 …この年の宝塚記念はね、実はレース直前になって有力馬の故障が相次いでねぇ。トウカイテイオー、カミノクレッセ、ヒシマサルといったG1〜G2級の強豪が次々とリタイヤしてしまったんだ。それに加えて春の天皇賞馬・ライスシャワーが早々に欠場を発表していたし、メジロの2頭が強すぎるから、エントリー頭数も増えてこない。その結果、このレースはどうにも締まらないメンバーになってしまった。G1馬が3頭(マックイーン、パーマー、ニシノフラワー)いる他は、言っちゃ悪いけど皆、G2級の馬ばっかりだね。
 救いはメジロの2頭のマッチレースというドラマティックなサイドストーリーが出来て、一応は盛り上がりを見せたってところだろうか。確か2頭の馬連オッズが2倍ちょうどくらいだったんじゃないのかな。これでメジロの2頭で決まってたら、それなりにファンの記憶にも残る名勝負になっていたと思うんだけどね。でも。そんなに甘くないのが競馬なんだよね(苦笑)」
珠美:「当時の評判はどんな感じだったんですか? マックイーンが単勝オッズ1倍台で1番人気ですから、そっちの方が優勢だったのは分かるんですけど……」
駒木:「そうだねぇ。やっぱりマックイーンの方が格上っていう認識はあったよ。ライスシャワーには負けたけど、『それでも現役最強馬はマックイーンだ』って声は強かったし、実績だってダントツでマックイーンが上だからね。
 でもメジロパーマーも、この年の春シーズンは本当に強かったからね。阪神大賞典のレース振りは鳥肌が立つくらい強かったし、天皇賞の逃げ粘りも渋太かった。少なくともトップ・コンテンダーの資格は十分にあったし、このレースで逃げ切り、王者交代という事になったって、別におかしくなかったと思うよ」
珠美:「ニシノフラワーや他の馬についてはどうだったんですか?」
駒木:「う〜ん、どうだろ。ニシノフラワーはともかくとして、他の馬はちょっと力が足りないって認識だったと思うよ。余程の穴党じゃない限り手が出せないって感じかな。
 ただ、記憶では馬連オッズがかなり偏っていた気がするんだよ。メジロの2頭からでも4番人気以下の馬との組み合わせは軒並み20倍を超えてたからねえ。今から考えたら、馬券的に妙味のあるレースだったかもしれない」
珠美:「なるほど、わかりました」 
駒木:「それじゃあレース解説に移ろうか。ちょっと今回は資料不足なんで、若干大雑把な回顧になるけど、ご勘弁願いたい」
珠美:「ではスタートからなんですが、ロンシャンボーイがゲート入り完了後、スタート直前にゲートを突っ切って飛び出してしまいました
駒木:「あー、そうそう。これがあったね。どうもこれがレース全体に大きな影響を与えたっぽい。ロンシャンボーイはもちろん、気性に問題のあったニシノフラワーや、スタートに向けてテンションを高めていたメジロパーマー辺りが影響を受けてしまった感があった。これが無ければレースの結果は大きく変わっていたかもしれない。まったく、勝負は水物だよね」
珠美:「改めてゲート入りをやり直して、今度はちゃんとスタートが切られました。やはり逃げたのはメジロパーマー。メジロマックイーンはほぼ中団につけてレース全体を窺う構えです。ニシノフラワーは引っ掛かってしまって折り合いに苦しんでいたように見えました。
 この日の芝コースはかなり荒れていて、インコース側は土が丸見えの酷い状態でした。そのため、逃げていたメジロパーマーも含めて、ほとんどの馬は距離損を承知でコースの真ん中辺りに固まって走っていました。でも、ただ1頭、オースミロッチだけが内ラチ一杯を走っていました」

駒木:「コーナー曲がるたびに順位が一気に上がるんだよね、オースミロッチ(苦笑)。まぁこの辺りは人気薄の馬の特権って言うか、一種の冒険だよね。大体こういうレースになると、走りにくいのを承知でインコースに突っ込む馬が1頭必ずいる。それがこの時はオースミロッチだったわけ。
 オースミロッチって変な馬でね。勝った8つのレース全てが京都競馬場で挙げたものっていう、コース適性が極端な馬だった。だから『普通にやっても勝てない』って考えが鞍上の松本騎手の頭の中にあったのかも知れない。まぁ、これは推測だけど」
珠美:「レースは淡々と3コーナーまで進んで行くんですが、4コーナー手前でもうメジロパーマーにムチが入り始めます。もうアラアラ一杯という感じになって失速です」
駒木:「これが原因不明なんだよねぇ。さっき挙げたロンシャンボーイの一件が影響してたのか、逃げ馬らしくないラチに頼らないレースをしたために馬がパニクっちゃったのか……。まぁとにかく、ここでパーマーは終わっちゃった。ニシノフラワーも引っ掛かった影響で反応が鈍かったし、にわかに波乱ムードが広がってきたね」
珠美:「直線に入って、メジロパーマーは後退。代わってメジロマックイーンが進出を開始します」
駒木:「あー、その前にインを通っていたオースミロッチが先頭に立った(笑)。ビックリしたよ。僕はラスト300mくらいの地点で生観戦してたんだけど、そこに先頭でオースミロッチが通過していくんだもの(笑)。マックイーン×オースミロッチの馬券は持ってたけど、でも『このままオースミロッチが粘るのはどうかしてる』って未熟者ながら危惧したのを思い出すね(笑)。オースミロッチの関係者各位には申し訳ないけれども」
珠美:「そんな駒木少年の心配をよそに(笑)、メジロマックイーンはラスト200mの地点で先頭に立つや、後は差を広げる一方で、1馬身3/4差で堂々の優勝。そして2着争いは、走り辛いインコースでモタつくオースミロッチを交わして、イクノディクタスが大外強襲を決めて2着を確保しました。
 人気を裏切る結果になったメジロパーマーはブービーの10着、ニシノフラワーも8着に大敗しました」

駒木:「結局、凡走した2頭の有力馬を除けば、当時の力量関係の通りだったって気がするね。それでも、3頭の有力馬の内、2頭が凡走したんだから、レースそのものは酷く締まらないものになってしまったんだけど……」
珠美:「その辺りがこの年の宝塚記念の認知度が低い理由なんでしょうか。……では、最後にこのレースに出た馬たちのその後について簡単に触れて頂きましょう」
駒木:「メジロマックイーンは、秋の京都大賞典で、(旧)7歳秋という年齢ながら生涯最高のパフォーマンスを示して圧勝するも、直後に故障を起こして無念の引退。G1レース4勝の実績を手土産に種牡馬入りを果たした。その後の活躍は、現在の競馬新聞を見ての通りだね。
 メジロパーマーはその後、またスランプに陥って勝ち鞍に恵まれなかった。でも、(旧)8歳1月の日経新春杯で、60kgを超えるハンデでムッシュシェクルの2着に粘って、現役生活の最後で貫禄を示した。この馬も今は種牡馬になってるね。
 イクノディクタスはその後もコツコツと賞金を稼いだりして、一時は歴代賞金獲得ナンバーワン牝馬の地位を得たりもした。その後、繁殖入りしたんだけど、初年度の相手はメジロマックイーンだったんじゃなかったかな。因縁深いと言うか何と言うか……。
 ニシノフラワーもその後はG1タイトルには恵まれず。主馬場が苦手だったのに、レース直前に大雨が降って、馬場状態が良から一気に不良になってしまう不運に見舞われたりもしたしね。引退後はもちろん繁殖牝馬。クラシック候補を輩出したり、なかなかの名牝振りを披露しているよ。
 そうそう、オースミロッチも引退後は種牡馬入りしているね」
珠美:「ありがとうございました。ちなみにこのレース、博士の馬券は?」
駒木:「それが、未だに信じられないんだけど○▲で的中。2370円の配当を200円か300円持ってたのかな。今より太い勝負してるよな、高校生のくせに(笑)」
珠美:「(笑)」
駒木:「それじゃ、講義を終わろうか。来週の競馬学は天皇賞の直前予想。お楽しみにね」
珠美:「では、また来週お会いしましょう♪」

 


 

4月13日(土) 競馬学特論
「G1予想・皐月賞編」

駒木:「今週も競馬学はG1予想。明日の皐月賞について、例によって珠美ちゃんと話をしてゆくよ」
珠美:「よろしくお願いします♪」
駒木:「さて、時間も無いし、早速予想に移ろうか」
珠美:「ハイ。……でも博士、今週の皐月賞は本当に予想が難しいですね」
駒木:「うん、確かにそうだ。先週の桜花賞も難しかったけど、あれは強い馬を探すのに苦労するレースだった。ところが今週は強い馬だらけで、今度は比較的力の劣る馬を絞り出す事が難しい。むしろ今週の方が難しい気がするね」
珠美:「…本当にそうですよね。どの馬も強そうに見えてしまって、予想を立てるのが本当に大変でした。もう、どれもこれも目移りしちゃって……」
駒木:「そうだよね。…でもさ、こういう時こそ、買い目は出来るだけ絞らなきゃダメなんだよ。難しいレースって事は、正直言って、的中する確率って高くないだろ? そういう時に『絞れないから』って言って、10点も15点も買うって言うのは大怪我の元。正直感心できないんだ」
珠美:「……(ぎくっ)」
駒木:「あらら、ひょっとして図星ついちゃったかな?(苦笑) あのね珠美ちゃん、こういう時って言うのはね、麻雀の勝負どころでの戦略によく似てるんだよ」
珠美:「……麻雀です…か?」
駒木:「そう。麻雀でね、こっちが思いっきり手を広げて役を作ってたら、いきなり親からリーチが入った。自分の手元には危険牌が山ほどある。しかもベタオリしない限り安全牌はゼロ。さぁどうしようか? ……こういう場面。
 ……で、こういう時はね、中途半端が一番いけない。ベタオリ…つまりもう勝負を投げてしまうか、1つ1つ危険牌を切っていくか、そのどちらか。思い込みに近い薄弱な根拠と推測を元にして、それでもロンされる可能性の低い牌から順番に勝負していくしかないんだ。
 こういう時の競馬も、まさにそんな感じ。目をつぶって、有力馬を1頭、1頭と叩き切って行く。これしかないね」
珠美:「はぁ……。いつも馬券を買い過ぎて痛い目に遭っている私には耳の痛いお話です(苦笑)」
駒木:「まぁでも、競馬は結局当たった者勝ちだからね。偉そうな事言ってても、当たらなきゃ、それはもう価値が無いのと一緒だから、何とかして当てに行くというのも正しい姿ではあるんだよ。
 ……さぁ、もう時間が無い。出馬表を見ながらの解説に移ろうか」
珠美:「ハイ。皐月賞は中山競馬場の芝コース内回りの2000mで争われます。それでは、出馬表をご覧下さい」

皐月賞 中山・2000・芝内

馬  名 騎 手
× バランスオブゲーム 田中勝
    ノーリーズン ドイル
    サスガ 安藤勝
    メガスターダム 松永
    メジロマイヤー 中館
    シゲルゴッドハンド 柴田善
    ダイタクフラッグ 江田照
× アドマイヤドン 藤田
  タイガーカフェ デムーロ
10 ローマンエンパイア 武幸
11 タニノギムレット 四位
12 モノポライザー 後藤
    13 ゼンノカルナック 福永
    14 ホーマンウイナー
× 15 ヤマノブリザード 岡部
    16 ファストタテヤマ 安田
    17 マイネルリバティー
× 18 チアズシュタルク 蛯名

駒木:「さっき言ったように、もう目をつぶって叩き切ったような有力馬には『注』を付けておいたよ。馬券は買わないけど、勝ってもおかしくないと思う馬」
珠美:「でも、今週は博士と私で随分と印が変わっちゃいましたね」
駒木:「う〜ん、でもこういう時は珠美ちゃんの正統派予想の方がアテになったりするからね(苦笑)。まぁ、予想の当たらない分、緻密な解説でフォローさせてもらうよ(笑)」
珠美:「(微笑)……ハイ、では1枠から順番に、有力馬を中心に解説して頂きます。では、まず1枠の2頭からお願いします」
駒木:「1番のバランスオブゲーム。いきなり有力馬だね。前哨戦の中で一番メンバーが揃った弥生賞を逃げ切り勝ち。スローペースに他の馬をハメたとは言え、見事な勝ち方だったよね。その実力はここでも通用しそうだよ。でも今回は逃げられないし、道中で良い位置をキープするのにも苦労しそうだ。その辺の不利をどう克服するかがカギなんじゃないかな?
 2番のノーリーズンは、前走で化けの皮が剥がれた感じがするね。今回は見送りかな」
珠美:「ハイ。次は人気薄の2枠ですが、何か特におっしゃりたいことは有りますか?」
駒木:「……そうだねえ。3番のサスガは決め手不足、4番のメガスターダムは、本質的に2000mは長そうだね。年末に重賞勝った時とメンバーの質も違うし。共に見送りが妥当だね」
珠美:「3枠も人気薄ですけど、2頭とも前走は大き目のレースを勝ってますよね。これは?」
駒木:「あー、そうだね。ただ、メジロマイヤーの勝ったきさらぎ賞は、そんなに強調できるようなハイレベルじゃなかったし、シゲルゴッドハンドの勝った若葉Sも、人気馬の凡走に助けられた感も強かった。それに今回は逃げ馬に優しい流れじゃ無さそうだしね。大穴開けるとすればこんな馬たちなんだろうけど、果たしてどうだろうか?」
珠美「……なるほど、分かりました。さぁ、いよいよ有力馬が顔を出し始めます。4枠の2頭はいかがでしょうか?」
駒木7番のダイタクフラッグ、これも先行馬だよね。うーん、ちょっと回りで同タイプの馬に囲まれるから、レースはし難いだろうなあ。実績も強調できるものが無いし、こりゃあ苦戦だね。
 で、2歳王者の8番・アドマイヤドン。前走の凡走は、何かと理由があるから度外視はしていいと思うんだ。でも、どうも追い切りの動きは完調には戻って来ていないらしい。普通のレヴェルならば、それでも黙って推すんだけど……。うーん、2着以内ってのは、ちょっと難しいかな。ワイド馬券なら(可能性が)あるかもしれないけど」
珠美:「次は5枠ですね。博士は2頭ともに印を打っておられますが…?」
駒木:「9番タイガーカフェね、好走と凡走を繰り返すようなこんなタイプ、怖いんだよねえ(苦笑)。感じとしては、5年前のサニーブライアンに近いものがあるね。前走で瞬発力を見せつけているし、他の有力馬に比べて前々でケイバが出来るのも強み。地力勝負では辛いけど、レースの流れ如何では、ひょっとしたら…の思いはある。
 10番のローマンエンパイア。やっぱり凄いよ、この馬。前走は騎手のエラーで2着になっちゃったけど、これまで対戦してきた相手とか考えると、4戦3勝2着1回ってのは凄すぎるくらいの成績だよ。問題は鞍上がまたポカをしないかどうかというのと、馬場の荒れた部分を通らされるとヤバいって事くらいかな。実力的には間違いなく最右翼だよ」
珠美:「……次も有力馬が2頭。6枠です。ここには前日時点での1番人気・タニノギムレットがいますね」
駒木:「うん。最後まで◎にしようかどうか迷ったんだけど……。タニノギムレットの持ち味は安定感だね。どこからでもどんな時でも34秒台の末脚を炸裂させて来る。これまでのレースを観る限りで死角は少ないように思えるんだけど、ただ、これまで対戦してきた相手が今ひとつインパクトに欠けるのが気になった。弥生賞組より積極的に上に評価できる材料が見当たらなかったんだよ。だから敢えて2番手評価。……でも、こういう時にアッサリ勝っちゃうんだよな(苦笑)。
 12番のモノポライザー。この馬がカギだね。さっきの喩えで言うと、危険牌中の危険牌。麻雀知ってる人向けに言うと、場に1枚切れているドラのダブ東ってとこ。もうアッサリ勝たれても仕方が無いんだけど、僕は事実上無印の『注』にした。休み明けはやっぱり不利だし、これまでの3戦が、いかにも対戦相手に恵まれた緩いレースだったからね。こういう時にいきなり厳しいレースに混じると、リズムが狂って惨敗するケースが多いんだ」
珠美:「今日の博士の予想は、ちょっと大胆ですね…。さて、次は7枠の3頭なんですけど……」
駒木:「ゼンノカルナックホーマンウイナーは多くを語らなくていいよね。ちょっと力不足だと思う。
 15番のヤマノブリザードだけど、この馬の前走は他の馬にブロックされて行き場所を無くしてしまったがための5着。実力負けじゃないから、人気の落ちた今回は逆に不気味だよね。実力の裏付けもあるし、これは軽視できないよ」
珠美:「最後に8枠ですね」
駒木:「この枠もファストタテヤママイネルリバティーに関しては力不足だと思う。
 で、大外のチアズシュタルク。この馬は、いわゆる“裏街道の王者”だよね。メンバーの比較的軽い重賞を渡り歩いてここまで来たって感じ。タニノギムレット相手に1/2馬身差っていうのは評価できるし、展開も割と向くんだけど……。うーん、この馬の取捨選択は最後まで迷ったんだけどね。まぁ、皆さんは買ってやってください(笑)」
珠美:「……ハイ、以上で解説は全て終わりました。最後は馬券の買い目を紹介ですね。まず、博士からお願いします」
駒木:「10、11、15のBOXに、9-10、1-10。本線以外は中穴ばかりになっちゃったね」
珠美:「私は……1、10、11、12のBOXに、10と11から8、15、18に流します。ええと、12点ですね(苦笑)」
駒木:「まぁ、こんな難しいレース、皆さんはくれぐれも無理しないように。それでは、今日の講義を終わります」
珠美:「ありがとうございました♪」


皐月賞 結果(5着まで)
1着 ノーリーズン
2着 タイガーカフェ
3着 11 タニノギムレット
4着 ダイタクフラッグ
5着 メガスターダム

 ※駒木博士の“敗戦の弁”
 コーシロー、お前ってヤツは……(絶句)。弥生賞の時にヤマノブリザード相手にやった事を逆にヤラれてどうすんだ。マンガのチンケな悪役か、キミは。
 まぁ、こんな結果となってはどうしようもないんだが。安全牌だと思って切ったら国士無双に当たった気分だよ(苦笑)。◎をタニノギムレットにしたところで2着3着だしね。タイガーカフェに印打って、モノポライザーを叩き切ったのがせめてもの抵抗ってとこか。
 2週続けて、伏兵が展開に恵まれて抜け出すレースが続いてるなあ。勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなしってこの事だね。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 私の推した馬、タニノギムレット以外ボロボロじゃないですか……。いつも競馬学のお仕事をしているのに…。もう、ただただショックです。
 もう、自信喪失気味です。次はどうにか当たりますように……。 

 


 

4月6日(土) 競馬学特論
「G1予想・桜花賞編」

駒木:「さて、今週は正式なスタイルで競馬学特論だ。珠美ちゃんと一緒に、明日の桜花賞の予想をしていこう」
珠美:「ハイ。いよいよ本格的なG1シーズンに突入ですね。でも、今年の桜花賞は難しいですよね……」
駒木:「まったくだね。ただでさえ例年難しいレースなのに、たまったもんじゃないよね(苦笑)。おまけに明日は馬場状態が微妙と来た。不確定要素だらけで、今でも逃げ出したい気分だよ(苦笑)」
珠美:「私もです(苦笑)」
駒木:「…まぁ、これも仕事だから頑張ろうか(笑)。じゃあ、出馬表と僕らの予想を皆さんに見てもらうとするか。とりあえずこの表ではやや重以上に悪化した馬場であることを前提に予想させてもらったよ。良馬場の時の予想は、また最後に紹介すると言う事で…」

桜花賞 阪神・1600・芝

馬  名 騎 手
× スマイルトゥモロー 吉田
× キョウワノコイビト 松永
シャイニンルビー 岡部
タムロチェリー 蛯名
    カネトシディザイア 河内
    ブルーリッジリバー 四位
    オースミバーディ 坂井
オースミコスモ 後藤
    アイノブリーズ 岩田
    10 マチカネテマリウタ
    11 ミスイロンデル 小牧太
    12 サンターナズソング 柴田善
    13 シェーンクライト 福永
    14 ツルマルグラマー 川原
    15 アローキャリー 池添
  × 16 チャペルコンサート 熊沢
  × 17 ヘルスウォール デムーロ
  × 18 サクセスビューティ 藤田

珠美:「今年の桜花賞は、主役不在・フルゲート18頭の激戦になりました。それでは博士には、1枠から順番に有力馬を中心に解説して頂きます。それでは、まず1枠の2頭から…」
駒木:「今週から仮柵を取り外したんで、内ラチから2頭分くらいは、とても走りやすいはずなんだ。その上、内枠有利の阪神1600mでしょ。否応なしに注目は集まるよね。
 で、まずスマイルトゥモロー。500万下、G3と2連勝しているんだけど、これまでは色々な面で恵まれていたかなって気はする。実績を額面通り受け取り難いんだよね。でも、瞬発力がありそうだし内枠だしね。『ひょっとしたら……?』という未知の魅力はあるよ。
 キョウワノコイビトは末脚の鋭さに欠ける分、今ひとつパッとしない戦歴になってしまってる。安定感は抜群なんだけどねえ。今回は、激しい先行争いを内ラチ沿いに追走して直線半ばで先頭。んで、そのまま粘り込みと行きたいところだろうね。僕の読みでは、必ず一度は見せ場を作れるチャンスが来ると思ってるんだけど、さてどうだろうか?」
珠美:「…ハイ、では続く2枠の馬2頭をお願いします。博士も私も、2頭とも重い印を打っていますけど」
駒木:「3番のシャイニンルビー、この馬の評価が難しくて……あ、この馬というより、この馬が勝ったクイーンCの評価が難しいんだけどね。タイムの面ではハイレヴェルだし、メンバー構成を振り返るとそんなに高い水準でもない。ソツの無いレースをしたとも言えるけど、理想的過ぎる流れに恵まれたレースだったとも言える。プラス・マイナス両方の材料があるんだよ。結局は18頭中随一の末脚を評価して、対抗の評価にさせてもらったんだけど。……あ、それとこの馬には、岡部騎手の桜花賞初制覇が懸かってる事にも注目だね。
 タムロチェリーは、とにかく気難しい馬だから。ツボにハマったらとんでもない力を出すんだけど、それには道中揉まれない事が必須条件なんだ。今回、4番枠を引いて、馬場の良い所は通れそうなんだけど、思いっきり内ラチ沿いでいじめられそうだからねぇ。外を回ったら回ったで、荒れた馬場が応えそうだし…。少なくとも連複の軸には出来ない馬って事になるかな。敢えて単勝で勝負に出るのも面白いかもしれないけど」
珠美:「博士の話で思い出しましたけど、岡部騎手って、まだ桜花賞を勝っていないんですよね。毎年この話を聞くたび、不思議に思えて仕方が無いんですけど…」
駒木:「柴田政人さん(現・調教師)が引退間際までダービーだけ勝てなかったりとか、騎手には何故か勝てない大レースっていうのがあるよね。岡部騎手も、もうあと現役生活は1年、2年だろうから、出来たら勝つところを見てみたいんだけどねぇ。…でも、こればかりは勝負事だからね」
珠美:「…そうですね。武豊騎手も、ダービーだけ勝てない年月が続いたと思ったら、アッサリ2連覇しちゃったりとか、ありましたものね。何だか複雑です……。
 あ、では次に3枠の2頭をお願いします。博士も私も無印なんですけど、私は×印をつけるかどうか、最後まで悩みました。博士はいかがでしたか?」

駒木:「僕も似たようなもんかな。一応、馬券対象の最終候補には挙げていたよ。
 …じゃあ、まずカネトシディザイアからね。前走のフィリーズレビューで人気を背負ったりして評論家筋の評価は高い馬ではある。けど僕からすると、どうも地力そのものが一線級に足りない気がしてならない。この馬、阪神ジュベナイズフィリーズで10番人気7着か。大体、ポジション的にはこんなところなんだと思うよ。あくまで入着候補。
 で、ブルーリッジリバー。前走フィリーズレビュー4着だね。ただでさえ差し馬不利の阪神1400m、しかも先行馬が残るレースだったことを考えると、この馬は着順以上の評価をしていいと思う。でもね、この馬はヒヅメが平らなんで、道悪になると二束三文なんだよ。あくまで良馬場が前提になってくるね」
珠美:「当日の馬場状態が気になりますよね…。明日の天気は、朝の9時ごろまで雨、そして昼過ぎから晴れという予想です。本当に微妙ですよね(苦笑)。
 では、次に4枠をお願いします」

駒木:「まずオースミバーディーね。前走は全く精彩を欠いた走りだったから、これは度外視していいと思う。でもこの馬って、好走してる時って人気薄の時ばかりなんだよね。これって、確固たる実力の裏づけが無いって事でもあるんだよ。『二度ある事は三度ある』とも言えるんだけど、世の中そんなに甘くないよって言いたくもなる。
 そして同一馬主・染め分け帽のオースミコスモ。この馬のセールスポイントは安定感と道悪上手。展開的には決して恵まれているわけではないんだけど、道悪だったら、他の馬が末脚を殺されてもがく中をただ一騎、スルスルと抜け出してしまいそうな気がする。だから、道悪前提ならこの馬が本命って事になるね」
珠美:「今回は、私も博士も本命が同じ馬なんですよね。これって、有馬記念以来ですよね。縁起悪……いや、なんでもありません(苦笑)」
駒木:「…まあいいけどさ(苦笑)。
 で、次は5枠、6枠なんだけど、ちょっとこの枠の4頭は力不足って気がするね。だからここは割愛させてもらおう。
 …というわけで7枠。ただここも、シェーンクライトツルマルグラマーの2頭は格下感が拭えないね。で、残るはアローキャリー。スンナリ逃げたら渋太い馬なんだけどねえ。でも、今回は逃げ馬に同厩舎のサクセスビューティがいるんだよ。で、池添騎手には悪いんだけど、どう考えても彼は“勝負ジョッキー”じゃないんだよね。穿った見方をすると、いかにも因果を含めやすい騎手を選んだかなって気がするんだ。だから、今回に関してはハナに立てずに失速してしまう可能性が極めて高いと思う」
珠美:「……というわけで、博士は5、6、7枠の馬は全馬無印ということになりました。では、いよいよ最後、大外の8枠3頭なんですけど……」 
駒木:「前にも話したと思うけど、とにかく阪神1600m芝コースは外枠が絶対に不利。余程図抜けた力が無い限り、『外枠だから』という理由だけで消せるくらい不利なんだよ。
 で、今回8枠に入った3頭は、一応どれも有力馬ではあるんだけど、とてもじゃないけど、以前8枠から連対したキョウエイマーチやフサイチエアデールほどの力があるとは思えないんだよね。逃げる最外枠18番のサクセスビューティは、当然ハナを切るまでに随分距離損を被るだろうし、チャペルコンサートヘルスウォールに至っては、ずっと馬場の荒れた外を追走させられる羽目になる。これではちょっとねぇ」
珠美:「一応、どの陣営もそんなに大外枠を気にはしていないみたいですけど……?」
駒木:「そりゃ、走らせる立場にしてみたら、枠順だけで勝負を投げるわけにはいかないしさ。それに、管理馬ゆえの贔屓目ってヤツもある。とにかく、この大外枠3頭に関しては、もし2着までに残ったら『敵ながら天晴れ』とカブトを脱ぐしかないだろうね」
珠美:「以上で一応は全有力馬を紹介したことになりますね。…あ、忘れないうちに良馬場の時の印をお願いします」
駒木:「そうだね。じゃあ、下に表を出すよ」

3番 シャイニンルビー
8番 オースミコスモ
2番 キョウワノコイビト
4番 タムロチェリー
× 6番 ブルーリッジリバー
× 1番 スマイルトゥモロー

珠美:「本命と対抗が入れ替わって、ブルーリッジリバーが2着候補に追加されてますね。なるほど……」
駒木:「馬券の方は、いつも通り◎○▲の3点ボックスが本線で、あとは◎から印の付いた馬へ流すパターンだね」
珠美:「私は、また手を広げすぎだと叱られちゃいそうですけど、1、3、4、8番の6点BOXと馬連2-8。押さえに枠連で4-8ですね」
駒木:「これで当たったら大きいね(笑)。まぁ、期待しないで待っていようか(笑)」
珠美:「皆さんも頑張ってくださいね〜♪」


桜花賞 結果(5着まで)
1着 15 アローキャリー
2着 ブルーリッジリバー
3着 シャイニンルビー
4着 カネトシディザイア
5着 17 ヘルスウォール

 ※駒木博士の“敗戦の弁”
 まぁ、アレだね。山内調教師が「まさか」って言ったくらいだから、こっちが当たるはずないよね、アローキャリー。それに馬体重発表の時点で僕の予想は終わってたから、むしろよく2着3着まで格好がついたな、と。
 今回に関しては、良馬場のブルーリッジリバーについて言及した事と、8枠の3頭を完全に見切った事で勘弁してくださいな。また、皐月賞で頑張るんで、よろしく。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 私の◎と○はどこへ行っちゃったんでしょうか……(苦笑)。またボロボロに外れちゃいました。
 オースミコスモ、散々でしたね。途中で不利を受けた上、一番馬場の荒れた所走らされてましたものね…。タムロチェリーはずうっと後ろのままでしたし……。
 何だか自信喪失しちゃいそうです。これからまだG1レース続くのに、不安です……。

 


 

3月30日(土) 競馬学基礎論
「緊急企画〜検証・新賭式(馬単・三連複)馬券」

 こんばんは。講師の駒木ハヤトです。
 当大学キャンパス中に数多く潜んでいると思われる珠美ちゃんファンには悪いのですが、今日も駒木1人で講義を行う事になりました。来週の桜花賞予想では、ちゃんと2人で講義をやりますのでね。

 さて今日の講義は、当講座では初めてとなる「競馬学基礎論」。一部公営競馬では今春から、JRAでも今年6月の福島開催で試験導入され、翌7月から本格導入される“新賭式”馬券──馬番連勝単式、馬番三連勝複式馬券──についての検証を行おうというものです。
 要は「競馬学概論」の資料整理が全く間に合わなかっただけなのですが、それでも何とか受講生の皆さんの期待に応えられるよう、多少なりとも実用的な講義にしたいと思います。

 ……では、改めて“新賭式”馬券発売に至る経緯の解説から講義を進めていきたいと思います。

 “新賭式”馬券は、文字通り、日本の競馬ではこれまでに無かった新しい種類の馬券で、昨年2月の競馬法施行規則改正により実現するところとなりました。
 この新しい馬券の導入に関する動きは、昨今の長期化した不景気による馬券売上額減少に歯止めをかけたいとするJRA・国側の意向が反映された形となっており、その分、今回導入される新種の馬券は高配当が望める刺激的なものとなっています。よって、馬券を購入する競馬ファンにとっては非常に興味をそそられるものとなっていると言えるでしょう。

 ところで、新しい種類の馬券で思い出されるといえば、1999年末に導入された“ワイド(拡大連複)”です。
 これはフランスで発売されている“ジュムレ=プラッセ”をモデルにした馬券で、1〜3着馬のうち2頭をピックアップできれば的中となる、比較的的中しやすい上にソコソコの配当も望めるという馬券でした。
 この“ワイド”馬券は、以前から評論家筋で導入を期待する声もあり、導入を決めたJRAと南関東公営競馬も大規模なキャンペーン活動を行ったのですが、フタを開けてみると肝心の馬券売上の方はイマイチ。発売当初こそ物珍しさもあって売上は若干伸びたのですが、一月もしない内に、“意外と当たり難い割には配当が低い”という構造的な欠陥が露呈されてしまい、たちまち伸び悩んでしまいました。
 つまりは儲からない馬券的中よりも、滅多に当たらなくてもいいから高額配当を、というのが競馬ファンの願いだったというわけです。

 そんな“ワイド”馬券の失敗に追い撃ちをかけるように、深刻化した大不況が競馬ファン、特に高額購入者の懐を直撃。馬券売上高は減少の一途を辿り、さしものJRAも事業縮小の憂き目に遭ってしまいます。競馬ファンの方なら、ここしばらくの間にJRAのファンサービスが微妙に悪くなっている事にお気づきではないかと思います。

 と、そうしたジリ貧傾向に歯止めをかけるべく、満を持して登場したのが、今回の“新賭式”馬券なのです

 これまで、特に昭和時代の日本の公営ギャンブルでは、“いかに高額配当が出ないようにするか”というのが運営側のテーマになっていました。
 これは、「高額配当を求めてギャンブル熱が高まるのを阻止しよう」という、バクチの胴元としては本末転倒な発想によるもの
です。
 そもそも日本は先進国でも稀に見るギャンブル文化後進国であり、国ならびに国民全般のギャンブルに対する蔑視と誤った認識は目を覆うばかりの惨状であります。
 最近でこそ多少は緩和されましたが、わが国では「ギャンブル=悪」であるとか、「ギャンブルをする人間は人格破綻者である」とか、とかくギャンブルとその愛好者に対する姿勢は悪意に満ちています。そのくせジャンボ宝くじなどといった、世界で稀に見る危険極まりないギャンブルを「ギャンブルでなくてクジである」などとのたまわって放置しているのですから、処置無しです。
 旧来の馬券に関する発想もそうでした。「高額配当の出る馬券は国民の射幸心を煽るので良くない」などとされ、6枠式連勝単式や8枠式連勝複式などといった奇妙キテレツな馬券が発売されてきました。
 で、その結果はと言えば、馬券購入者は低い倍率で多額の儲けを出すために多額の賭けに走るようになり、生活破綻者が続出。それによって更にギャンブルに対する認識は悪化の一途を辿ってしまったのでした。悲劇としか言いようがありません。

 ちょっと話が逸れましたか。
 まぁそういう経緯もあり、日本で今回のように配当倍率100倍以上の、いわゆる“万馬券”の続出が見込まれる“新賭式”馬券が発売されるという事は、極めてエポックメイキングな出来事なのです。逆に言えば、それだけJRA側も、そのJRAの収入をアテにせざるを得ない日本政府が追い詰められているという事にもなるのですが。

 まぁしかし、何はともあれ事態が好転するのは喜ばしい事です。過程はどうであれ、こうして我々が利益を享受できるのは幸せな事なのですから。

 それでは、いよいよこの“新賭式”馬券についての検証を行ってゆきましょう。新しく発売される種類の馬券のメリットとデメリット、そして正しい活用法を講義していきたいと思います。

 ◆馬番連勝単式馬券(略称:馬単・二連単)

 この馬券は、従来までの“馬番連勝(複式)馬券”のマイナーチェンジ型で、レースの上位2頭を着順通りに当てなければ的中にならない方式のものです。この馬券の発売に従い、これまで「馬連」という略称で呼ばれて来た“馬番連勝複式馬券”は、「馬複」と呼ばれるようになります。
 これまでの“馬連”では、例えば“1−2”という馬券を買った場合、上位2頭のの馬番号が1番と2番なら、どちらが1着でどちらが2着だろうが関係なく的中になっていました。着順の前後を問わない連勝複式ゆえの話でした。
 しかし、この“馬単”では“1−2”の馬券なら、1着が1番の馬で2着が2番の馬でなければならず、1着馬が2番で2着が1番の場合は“2−1”の馬券でなければ的中になりません。いわゆる連勝単式の“裏目”というヤツです。
 1、2着を順番通りに当てる、この“連勝単式”は、既に競輪、競艇、オートレース、そして一部の公営競馬で導入されており、公営ギャンブル愛好家の中では比較的馴染みの深い形式と言えます。
 よって、この講義を受講されている方の中にも、既にこの馬単馬券を体験済みの方がいらっしゃるかと思われますが、この場を通じて、改めてこの形式の馬券について深く知識を得てもらいたいと思います。

 まず、この馬券の最大のメリットは、やはり配当が“馬複”に比べて高くなるという事でしょう。単純に考えても、馬券の組み合わせが“馬複”の2倍なのですから、配当もざっと2倍になるというわけです。さらに、上位2頭の組み合わせの内、人気が低い方が1着になった場合は“裏目”で、配当はさらに高くなります。
 例えば、一昨年の宝塚記念から昨年の宝塚記念に至るまで続いた「テイエムオペラオー=メイショウドトウ」馬券は、馬連(“馬複”)でもそのほとんどが2倍程度の低配当になりましたが、今回導入される“馬単”なら、人気の低かった方のメイショウドトウが1着になった昨年の宝塚記念ではある程度高い配当が期待できたというわけです。

 反対にデメリットはと言うと、当たり前の事ですが的中する確率がガクっと下がります。特に、これまでは意識しないでも済んだ“裏目”での不的中が増え、ストレスが溜まる事請け合いであります。競馬なんてモノは、もともとが動物相手のファジーな競技。これの正確な着順を当てようと言う方がおかしいわけで、“馬単”なんて難しい馬券の的中がそうそうある方が不自然なのです。
 さらに、購入する馬券の組み合わせ数(点数)が増えるため、投資金額もそれに比例して増えてしまったりします。つまり、的中が難しい上に投資金額が増えていくという悲惨な状態に陥りやすくなる諸刃の剣が、この“馬単”馬券といえるでしょう。
 また、これは当大学の本拠地である兵庫県の公営競馬(園田・姫路)における“馬単”の傾向なのですが、“馬単”は、人気サイドの組み合わせの配当が極めて低い傾向にあります。特に1番人気→2番人気の組み合わせなど、“馬複”の配当とほぼ同じ、なんてこともあります。要は、本命党に向かない馬券なんですね。

 というわけで結論です。
 この“馬単”は、穴党のための勝負馬券という認識でいれば良いと思います。本命党の方は“馬複”を購入した方が期待値は高いですので、そちらをお薦めします。“馬単”は、配当の高い“裏目”を狙ってこそ華と言えるでしょう。“馬複”を基本に、穴馬から1着流しで数点勝負馬券を狙うのが賢い買い方です。

◆馬番三連勝複式馬券(略称:三連複)

 さて、こちらは日本の競馬では初めての試み、そして公営ギャンブル全体でも、競艇と、一部の競輪場でのみ(しかもそちらには、もっと刺激的な“三連単”があるので人気が無いまま)発売されているレアな形式、それが“三連複”であります。

 この“三連複”は、レースの上位3着までの馬を順位に関係なく的中すればO.K.となります。馬券に少し詳しい方に分かり易くなるように言えば、従来の馬連3頭ボックスでワン・ツー・スリーを決めれば的中というわけです。
 ただし、この三連複は、とりあえず16頭立て以内のレースに限られます。これ以上の頭数で三連複をやると、馬券の組み合わせが増えすぎて射幸心を煽りすぎるからだそうです。売上増を狙ったゆえの三連複導入なのに、肝心のG1レースでは18頭立てが多くて、“三連複”を発売できない。アホですな。

 この馬券のメリットは、なんといってもやはり高配当でしょう。多頭数になった時の馬券の組み合わせの数がハンパではありません。それに、馬券の対象になる上位3頭のうち、1頭だけでも人気薄が飛び込んだ場合は高配当の可能性があります。
 また、全部の組み合わせの数が膨大になる割には、こちらが買う馬券の組み合わせの点数は、さほど多くならないのも特徴です。例えば、A、B、C、D、Eという5頭の絡む全ての組み合わせの馬券を購入する場合は、
 「ABC」「ABD」「ABE」「ACD」「ACE」「ADE」の6種類となります。これは従来の馬連で5頭全ての絡む馬券を買った場合の10点よりも、まだ少ないのです。
(訂正:5頭の場合は10通りで、“馬複”ボックスと同数でした。三連複の組み合わせが少ないのは4頭ボックスまでです)
 よって、三連複のメリットは、少ない投資で莫大な利益。これであります。

 ただし、デメリットも当然あります。
 中でも最大のデメリットは「とにかく当たらない」という事になるでしょう。
 これまでの、上位2着を当てる形式でもかなり難しかったと言うのに、そこへもう1頭増えるわけですから……。
 また、少頭数のレースの場合は、意外と配当が伸び悩む事が予想されます。出走頭数が10頭を割るレースの場合など、1番人気の組み合わせで、配当が10倍を割るケースが十分考えられます。これだけ難しいのに配当の面で報われないなど、ハッキリ言って拷問に近いものがあります。

 ですから結局、この三連複馬券もまた、従来の“馬複”馬券などと併用しつつ、いわゆる“ボーナス狙い”で一穫千金を狙うのが得策と言えるでしょう。ナメてかかって、いたずらに購入点数・金額を増やすとドツボにハマる可能性が大です。絶対に“大怪我”する事の無いように自らを戒めたいものですね。

 
……と、こうして、今日は“新賭式”馬券の分析をしてみました。やはり的中の難度が高い分だけ、より長期的かつ理性的な馬券戦術を立てる必要があるでしょう。JRAに儲けてもらいたいのはヤマヤマですが、かといって当講座の受講生がJRAの策略に呑まれて大金を失う事の無いように気をつけてもらいたいものです。
 では、今日はこの辺で講義を終わります。また来週からは通常の競馬学講義のスケジュールに戻りますので、どうかよろしく。 

 


 

3月23日(土) 競馬学特論
「G1予想。高松宮記念編」

 こんばんは。講師の駒木ハヤトです。
 通常、この競馬学特論の講義は、助手の珠美ちゃんと対談形式で行うのですが、今回は諸事情により、余りにも時間がありません。(実は、現在翌24日の朝5時半を回っています)。
 ですので、今回は予想の発表と、有力馬の簡単な解説に絞って、“時間短縮バージョン”として講義を進めていきたいと思います。ご了承ください。
 それでは、早速予想の発表です。

12番 トロットスター
9番 アドマイヤコジーン
5番 ショウナンカンブ
14番 ディヴァインライト
× 10番 エアトゥーレ
× 16番 スティンガー

 本命はトロットスターに打ちました。
 実は、今回の高松宮記念、スプリント戦としてはかなりメンバーの層が薄いです。生粋のスプリントタイプで目ぼしい実績を挙げている馬は、この馬くらいしか見当たりません。ハイペースで一応は展開も向きますし、体調も戻って来たとあっては、主力の座は揺らぎません。

 対抗はアドマイヤコジーン。
 G1レース・朝日杯3歳S(当時)の覇者であるこの馬、G1制覇直後に故障に見舞われて長期の休養を強いられました。復帰後もメンタル面での問題が発生し、途中でレースを止めてしまうケースが多々見られました。
 しかしここに来て、明らかな復調気配。前哨戦・阪急杯(G3)を3馬身1/2差で圧勝し、たちまち最有力候補の1頭に名を連ねています。
 純粋なスプリンターでないこの馬が、果たしてスプリントG1戦の流れに対応できるかという点や、ハイペースの中を先行グループで追走して余力が残るかどうかなどの懸念材料はありますが、地力の面で話をすると、出走馬の中では明らかに上位です。

 単穴・▲印はショウナンカンブ。ダートから芝に転向して1200mレースを2戦し、いずれも抜群のスタートダッシュからの粘りこみで逃げ切り勝利を飾っています。まだ実績は足りませんが、生粋のスプリンターである事は強調材料と言えます。
 ポイントは、ハイペースでレースを引っ張り、なおかつ他の馬に絡まれた場合、いかに凌ぐかでしょう。が、ハイペースで飛ばす事により他の馬のスタミナを浪費させ、巧みに粘りこみを果たす事も十分考えられます。メンバーが比較的手薄なここは、大出世のチャンスです。

 これ以降はちょっと総合力で差のある“伏兵”たちです。まず、2年前のこのレース2着馬・ディヴァインライト。最近のスランプを考えると、年齢的な事もあり推し辛いのですが、また展開に恵まれて最内コースをすくう事が出来れば、また2着に突っ込み位の可能性はあります。
 不気味な存在がエアトゥーレです。前走の京都牝馬Sに敗れた事で評価が下がっていますが、実力・実績的には他の馬に対して引けをとりません。人気薄だけに一発も十分考えられます。
 1400m左回りに強いスティンガーですが、2000mを超えるレースでも健闘しているところからも1200mは明らかに不向きでしょう。1400mのレースというのは面白いもので、スプリンターでもマイラーでも活躍できるようになっています。ですので、1400mの京王杯スプリングC2連覇という記録も大して強調材料にはなりません。かなり人気になる存在かもしれませんが、これはあくまで押さえとしておきたいです。

 買い目は5、9、12のBOX。それと押さえに12-14、10-12、12-16の以上6点。ただし、オッズ的に妙味が薄いので、押さえの3点のうちいくらか削る事も考えなければならないでしょうね。

 ちなみに、珠美ちゃんの予想印は以下の通りです。

12番 トロットスター
9番 アドマイヤコジーン
16番 スティンガー
14番 ディヴァインライト
× 6番 サイキョウサンデー
× 8番 メジロダーリング
× 5番 ショウナンカンブ

 僕の予想と似ているようで似ていないような感じでしょうか。

 では、今日はこれで終わる事にします。次回以降は、またじっくり時間をかけて予想をお届けしたいと思います。それでは、皆さんも頑張ってください。


高松宮記念 結果(5着まで)
1着 ショウナンカンプ
2着 アドマイヤコジーン
3着 16 スティンガー
4着 15 リキアイタイカン
5着 12 トロットスター

 ※駒木博士の“勝利宣言”
 ○▲的中。辛勝だなあ……。
 トロットスターは、ここまで負ける要素が見当たらないんだけど、やっぱり競馬は波乱のスポーツだよね。
 競馬学的に言えば、スティンガーの走りは“中距離以上に適性のある馬が短距離を走った時の走り”だと覚えておいてください。「距離適性が合わない」とは、ああいう事です。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 ううぅ……(涙)。フェブラリーSの時に「博士に勝ちました!」なんて言ってたら、キッチリお返しされちゃいました……。2着3着って、やっぱりショックですね(苦笑)。
 それにしても、いつもは実績不足の昇り馬を軽視している博士が、ショウナンカンプを▲にしているんですね…。この辺りのカンの働きがキャリアの差なんでしょうか…。

 


 

3月17日(日) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース(10)
1996年高松宮杯/1着:フラワーパーク

駒木:「1日遅れての競馬学概論、今日は予告していた通り、1996年の高松宮杯──今は高松宮記念と呼ばれているけど──を題材にする事にしたよ。ちょうど来週が今年の高松宮記念だし、タイムリーな話題という事で」
珠美:「この1996年の春に、私は仁経大付属高校に入って、それから競馬を観るようになったんです。だからこのレース、この時は5月開催だったんで、ちゃんとTVか競馬場の大画面で観てるはずなんですけど、まだ本当に競馬について何も知らない頃だったんで、全然リアルタイムで観ていた実感が無いんですよね……」
駒木:「競馬をする人なら、皆が体験する道だからね(苦笑)。で、観てたはずなのに観てた感覚が無いから悔しいんだよね。」喩えるなら、まだ小さい頃にオフクロと一緒に入ってた女湯の様子が思い出せない、みたいな…
珠美:「……博士、その喩えは下品です…」
駒木:「そうだ、珠美ちゃんはオヤジさんと男湯に入ったこ……」
珠美:「ありません! それに講義中なのに、研究室でやるような雑談は止めてください!」
駒木:「…おい、ちょっと待て、それじゃ研究室でそんな話してばかりいるように思われるじゃないか!」
珠美:「……レースの紹介に移らせて頂きます」
駒木:「おいおいおいおい(狼狽)」
珠美:「(毅然と無視して)このレースが行われたのは、1996年の5月19日でした。
 高松宮杯は1970年に創設された、中京競馬場で最もグレードの大きなレースです。創設当初は、宝塚記念から約1ヵ月後に行われる芝2000mの中距離戦で、その時その時の超一流馬が出走する、夏競馬の名物レースでした。グレード制導入時はG2の格付けだったんですね」

駒木:「ローカル開催のG2にしては出走馬のレヴェルも高くてね。今の札幌記念みたいな存在だったと言ったら分かりやすいかな? 
 1974年にはハイセイコー、1977年にはトウショウボーイ、そして1988年には当時(旧)4歳で、クラシック登録が無くて裏街道驀進中だったオグリキャップが出走して、みんな勝ってる。特にハイセイコーの時は、もうとんでもない人出で、半ばパニック状態だったとか聞くよ。
 そして1994年と95年は、ナイスネイチャとかマチカネタンホイザとかいった“イマイチ”系名馬が、ここで悲願の勝利を飾って話題になった。特にナイスネイチャの時なんか、ステイゴールドの香港国際ヴァーズの時に匹敵するくらいのインパクトと感動があった」
珠美:「それが、この年から5月の中京開催で実施されるようになって、さらに距離が1200mに短縮された上でG1レースに昇格したんですよね」
駒木:「でも、この条件変更は不評でねえ。
 当時、JRAは短距離レースの地位向上を目指していたんだ。で、それに伴うレースプログラム大幅変更の一貫として、このレースに一種の“白羽の矢が立った”形になったわけだね。スプリンターズSの春版ってわけ。
 でもね、前にも話したかも知れないけれど、当時の短距離レースは中・長距離のレースよりも一段下に見られていたんだ。それを無理矢理、夏の名物レースを春の短距離G1にしてしまったものだから、当時の競馬雑誌には毎週のように『JRAに物申す』投書が掲載されていたよ。
 でも、結果的にこの年の高松宮杯が短距離レースの地位を確立する、文字通り画期的なレースになった。いや、天皇賞の枠を巡ってクロフネとアグネスデジタルのファン同士が揉めた時も思ったけど、やってみないと分からないものだね、競馬ってさ」
珠美:「その辺の話は、また追ってお話して頂きましょう。
 …現在は、2000年のレースプログラム改変に伴って3月の中京開催へと、さらに時期が繰り上げられて実施されています。そして、今では外国の調教馬も出走できる国際競走となっています」

駒木:「先週採り上げたスプリンターズSが9月にズラされたのと対応しているわけだね。何故、そういう事になったのかは、いつも言ってるようにJRAの変な癖としか言いようがないけどさ」
珠美:「この年の高松宮杯の出走馬は13頭でした。
 では、いつものように、単勝人気順に有力馬の紹介をしてゆきます。まず、1番人気がヒシアケボノ。当時活躍されていた横綱・曙を名前の由来にした通り、馬体重550kgを超える巨漢馬で、前年スプリンターズS勝ち馬です。ここまで6勝のうち、1200mのレースが5勝と、この距離を特に得意にしていました。前走はシルクロードSで3着に敗れていますが、馬体の仕上がりが遅い大型馬の休み明けということで、敗戦にも評価は下がったわけではなかったようです。
 そして2番人気は、なんとあのナリタブライアン。この講義の第1回で扱った阪神大賞典の後、天皇賞・春2着を挟んで、スプリントのレースに参戦してきました。このブライアンの挑戦に関しては、後で詳しく博士に解説して頂きます。
 3番人気がフラワーパーク。当時は(旧)5歳馬だったんですが、デビューが(旧)4歳の秋と遅れに遅れました。しかし、その後はトントン拍子に条件戦を勝ちあがり、前走のシルクロードSでヒシアケボノらを好タイムで完封。一気にG1の有力馬に登りつめました。
 4番人気が、スプリンターズSの2年連続2着馬・ビコーペガサス。重賞勝ちはG3が2勝だけと、なかなか勝ち運には恵まれませんが、戦績以上の地力を評価されての4番人気というところでしょうか。
 これから先は単勝オッズ10倍以上になりますね。5番人気がシルクロードSで2着に食い込んだドージマムテキ。重賞勝ち鞍こそG3を1勝しているだけですが、幅広い距離条件で活躍し、当時ではファンの間でお馴染みのバイプレイヤーでした。それから、6番人気のフジノマッケンオーは皐月賞やダービーでも健闘したという実力馬です。しかし、得意なのは1600m以上のレースで、このレースは自身の距離適性との戦いでもあったようです。
 ……私からは以上です、博士」

駒木:「……うん、ありがとう。まず、上位人気馬の層が若干薄いように感じるのは、これはまだ芝スプリント戦線が整備されてなくてレース数が少なかっただけ。今のスケジュールだったら、もうちょっとマシに映ったんじゃないかな、と思う。
 で、やっぱりこのレースのポイントはナリタブライアンだよね。
 今では当然の話だけど、当時も中・長距離馬と短距離馬の“棲み分け”は確立されてて、いくらそのカテゴリのトップクラスと言えども、お互いの縄張りを荒らすことはしなかった。あるとしても、2000m前後が得意な中距離馬が1600mのレースに出てきたり、逆にマイラーが中距離のレースにチャレンジして来るって程度。これは今でも時々見られる話だから、実感できると思うけど。
 だから、長距離のチャンピオンであるナリタブライアンがスプリントのレースに出走するという事が判明した途端、競馬界はそれこそひっくり返るような騒ぎになった。有り体に言うと、賛否両論おしなべて不評ってところでね、『いくらなんでも無謀すぎる』、『時代逆行も甚だしい』と、特に“良識派”と呼ばれてた硬派の競馬評論家の間で評判が悪かった」
珠美:「でも、どうしてナリタブライアンの関係者は、そんな批判を圧してまでこのレースを使おうと考えたんでしょうね?」
駒木:「それは永遠の謎……と言いたいところだけどね。まぁ、レースを使いながら馬を仕上げてゆく大久保正陽厩舎だからね。純粋にここを叩き台にして宝塚記念に臨もうとしたというのが、一番考えられるセンだね。ナリタブライアンは収得賞金を稼ぎ過ぎていて他に出るレースが無かったし。
 それに、やっぱり『1200mから3200m、オールカテゴリのチャンピオン』という肩書きが欲しくないといったら嘘になるだろうね。また、当時は『中長距離>短距離』という認識があったから、『長距離馬が短距離に出るハンデを考えても、地力の差で何とかなるんじゃないか?』という思いもあったんだろうし。第一、長距離のチャンピオンが短距離の大レースに出るなんて事、ここ数十年無かったから、実際にやってみないと本当のところは分からなかったっていうのもあるんだよ。先に挙げた“良識派”の人たちも含めてね。
 『長距離馬が1200mを走るなんて、マラソン選手が100m走に出るようなものだ』『いやいや、距離を考えると、400mの選手が100m走に出るようなものだから、実力がずば抜けていれば充分対応できる』……とか、まぁブライアンが出走を決めてからレースまでの2週間は、激しい論議が絶えなかった。30年ほど昔に活躍して、長距離、短距離、ダートまでまんべんなく走った、競馬史上に残るゼネラリスト・タケシバオーを引き合いに出す人までいた。
 当時は僕もただの競馬ファンだったわけだけど、傍から観てても楽しかったね。競馬ってのは、レースそのものよりも、その手の議論の方が楽しい時も多々あるし
珠美:「博士はどういう立場のお考えだったんですか?」
駒木:「『やってみなくちゃ分からない』(笑)」
珠美:「(笑)。博士らしいですね」
駒木:「そうかい(苦笑)? …まぁそれはさておき、こうして出走についての賛否を議論している内は楽しいだけで済んだんだけど、実際にエントリーして来て、いざ予想をする段になると、これがメチャクチャ難しい事に気が付いた。本命にするのは冒険だけど、無印にするのはもっと冒険だからね。例えば珠美ちゃん、全盛期のテイエムオペラオーがジャパンカップダートに出てきたら、どうする?」
珠美:「うわぁ……それは、ちょっと考えたくないですね(苦笑)」
駒木:「だろ?(苦笑) だからこのレースの予想には、専門紙の評論家はもちろん、どこにいる競馬ファンまでも、ウンウン頭を悩まさせられた。結局ナリタブライアンは、予想紙の印は2番手の“○”から4番手の“△”が中心。単勝オッズの2番人気は期待料込みでってところだろう。
 ……まぁ、というところで、実際にレースを振り返ってみようか」
珠美:「まずはスタートですが、1、2頭出遅れた馬はいましたけど、有力馬はナリタブライアンも含めて五分のスタートでした。そこからまず、当時スタートダッシュ日本一と言われた馬・スリーコースが先頭に立ってハイペースで飛ばしてゆきます。フラワーパークは、それを悠々と追走して2番手。そのすぐ後ろからヒシアケボノとビコーペガサスがペースを上げながら3番手、4番手。ナリタブライアンは五分のスタートから、徐々に他の馬に遅れるような形で、道中は10番手あたりを走っていました。これはどうしたんでしょうか?」
駒木:「VTRを見てみると、鞍上の武豊JKは特に手綱を押している様子は見えない。馬なりなんだね。恐らくブライアンはいつも通り走ってる感覚なんだけど、いつもの中・長距離のレースとはレース全体のペースが違うから、形として遅れてしまったように見えたんだろうね」
珠美:「レースはこのままコーナーを回って最後の直線入口まで流れてゆきます。しかし、いつもは最終コーナーで捲り気味に追い上げていくナリタブライアンが、この日は上がってゆけません。結局、馬群の内側に包まれる形になって、順位はほぼそのままで直線に入ってゆきます」
駒木:「中・長距離のレースなら、3〜4コーナーでバテる馬が多くなって、逆にブライアンはスピードを上げる。だからいつもは大外捲りが利いたんだけど、短距離レースってのは、なかなか馬がバテてくれないからね。簡単に言うと勝負所が違うんだよ。ブライアンはそれに対応できなかったって事だね。中京競馬場の直線は平坦で短い。結果的にこれが致命傷になった」
珠美:「直線に入って先導役を務めていたスリーコースが後退、勝負の行方はフラワーパーク、ヒシアケボノ、ビコーペガサスの3頭に絞られた形になりました。逃げるフラワーパークを後の2頭が追い詰めますが、やがて逆に差が広がってゆきます。2着争いは、ややコーナーで外に膨らんだヒシアケボノの内を掬う形でビコーペガサスが伸びて来て、これを征します。ナリタブライアンは、直線になってようやくグングン差を詰めてきますが、上位3頭の影を踏むのが精一杯でした。
 フラワーパークが1分7秒4という、当時としては好タイムで1着。リニューアル後の初代勝ち馬に輝きました。2着にビコーペガサス、3着ヒシアケボノ、そしてナリタブライアンは4着でした。以下、フジノマッケンオー、ドージマムテキと、大まかには人気順にまとまりましたね」

駒木:「ナリタブライアンも、明らかに格下の馬にはキッチリ先着して最低限の面目は保ったね。このレースの結果、1200mのレースでは、
 『短距離のチャンピオン級>長距離のチャンピオン級>短距離の二線級』
 …という力関係なんだ、という確固たる認識が生まれた。そして、『ナリタブライアンでダメだったら、もうダメだな』って感じで、これ以降、中・長距離のチャンピオンが高松宮杯やスプリンターズSに挑戦することは無くなった。このレースをきっかけに、日本の競馬では完全に中・長距離馬と短距離馬の棲み分けが確立されたことになる。まさに画期的なレースだったんだよね」
珠美:「それでは、このレースで活躍した馬のその後について解説をお願いします」
駒木:「まずナリタブライアンは、この直後に屈腱炎を発症してしまって、引退。種牡馬になったけど、2シーズン供用されたところで、残念ながら病死している。
 フラワーパークは、この年が全盛期で、暮れのスプリンターズSも、エイシンワシントン以下を僅か数cm差の写真判定で勝って勲章をもう1つ加えることになる。
 対照的にヒシアケボノはこれ以降大スランプに陥ってしまい、それを脱する糸口も見えないまま、惨めにターフを去る羽目になる。父馬がウッドマンの馬に時々見られるケースらしいんだけど、可哀想な晩年だったね。
 ビコーペガサスは、これ以降も惜しいレースを続けたけど、結局G1は未勝利で引退。あとは、ドージマムテキが(旧)10歳まで走っていたのは印象深い話だよね」
珠美:「…ハイ。博士、ありがとうございました」
駒木:「はい、お疲れ様。次回は競馬学特論の方だよね。例によって直前予想をお送りする予定です。それでは、また来週」

 


 

3月9日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース(9)
1998年スプリンターズS/1着:マイネルラヴ

駒木:「ちくしょー、ネタが無いぞー!
珠美:「は、博士…大きな声でそんな事を…。それに、『ネタ』って言い方は……(汗)」
駒木:「実は、来週にまとめて映像資料を入手することができそうなんだけど、今週はその谷間なんだよね。せっかく映像が観られるのに、それを入手する前に講義するわけにいかないじゃない(苦笑)。
 で、入手できるレース以外で、手元に映像資料が残っていたり、当時の様子を克明に記憶しているレースを探すとなると非常に骨が折れた(苦笑)」
珠美:「そういうわけでしたか(苦笑)。それで、今日扱うレースは……1998年12月のスプリンターズステークス(以下、スプリンターズSと略)ですね。
 ……なるほど、約3年前だったら当時の様子もよく覚えてるわけですか(笑)」

駒木:「おいおい、助手だったら、もう少し聞こえが良いようにフォローしてくれよ(苦笑)。
 まぁ、そう言われると反論できないけど(苦笑)、一応テーマを決めた上で題材にしたんだからね。行き当たりばったりってワケじゃないぞ」
珠美:「テーマですか?」
駒木:「そう。今日観るレースは、有名な競馬格言の1つ『競馬に絶対は無い』っていうのがテーマなんだ」
珠美:「そう言えば、よく聞く言葉ですね。これは勝負事全体に言えることかもしれませんけど……」
駒木:「でも競馬は特にそうだよ。そもそもギャンブルってのは、確率100%という要素があると成立しないものだから、必ず波乱の目はある。それに加えて、競馬は人間じゃなくて別の生き物が絡んでくるわけだからね。同じ人間の考えや行動でも予測不可能なのに、馬のする事が分かりっこない。そうだろ?」
珠美:「ええ、まぁ…確かに」
駒木:「『どうして今更そんな事言うんですか?』って顔してるね(笑)。でもさ、競馬やってる人って、よく言うじゃないか。『このレースは堅い。鉄板だ!』とか『絶対大丈夫! 勝てるって!』とかさ。珠美ちゃんも競馬場とかウインズ行ったら聞く言葉じゃないかな?」
珠美:「そういえば、皆さん言ってますね(笑)。……確かにそうですね」
駒木:「だろ? 気持ちは分かるけど、矛盾してる事この上ない。だから今日の講義は、そんな『絶対だ!』みたいな事を二度と言わないよう戒める意味で、このレースを採り上げたんだ。芝短距離の日本競馬史上最強馬・タイキシャトルが、まさかの3着敗退を喫して馬連の対象から外れてしまったレースをね。
 事実、僕はこのレース以来、競馬の予想をする時に『絶対』と言う言葉を使わないようになったんだ。ちょっとした授業料を払ったおかげでもあるけど(苦笑)」
珠美:「そうだったんですね。分かりました。あ、私は当時、仁経大付属高校の生徒でしたからレースは観てても馬券は買ってませんでした。ちょうど仁経大編入飛び級入試の勉強中でもありましたし。ただ、『馬券買えなくて良かった〜』って思った覚えはありますね(笑)」
駒木:「まぁ、そういうわけで、レースの紹介をしてもらえるかな?」
珠美:「ハイ、分かりました。……このレースが行われたのは、先程も言いましたが1998年12月の20日でした。まだこの頃は冬のレースだったんですよね。
 このスプリンターズSは昭和42年に創設されたレースですなんですが、当時はまだ短距離レースの地位が低く、あまり大きな扱いはされなかったようです。昭和59年のグレード制導入の際も、初めはG3格付けでした。それでも、その後短距離レースの地位向上と共にグレードも上がってゆき、1990年からG1に格上げされました。なお、1994年から海外調教馬にも開放されていますが、これまで上位に入った馬はいません。
 現在は秋シーズンに施行時期がずらされてますけど、レースの条件は長