「社会学講座」アーカイブ(競馬学関連・4)

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講義一覧

9/28 競馬学特論 「G1予想・スプリンターズS編」
9/21 競馬学概論「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”」(19)
9/14 競馬学概論 「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”」(18)
9/7  競馬学概論 「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”」(17)
8/31 競馬学概論「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”」(16)
8/24 競馬学特別講義「目指せ回収率アップ! 馬券学基本講座(4・最終回)」
8/17 競馬学特別講義「目指せ回収率アップ! 馬券学基本講座(3)」
8/10 競馬学特別講義「目指せ回収率アップ! 馬券学基本講座(2)」
7/27 競馬学特別講義「目指せ回収率アップ! 馬券学基本講座(1)」

 

9月28日(土) 競馬学特論
「G1予想・スプリンターズS編」

珠美:「いよいよ秋のG1シリーズが始まりましたね♪」
駒木:「そうだね。でも、まだ何だか9月からG1レースっていうのは違和感が残って仕方が無いんだけれどさ(苦笑)」
珠美:「そうですねー。どうしてもG1レースは10月後半から始まるものだっていう感覚が抜けきらないですよね。
 でも。予想の方は違和感が無いようによろしくお願いしますね(笑)」

駒木:「はいはい(苦笑)。でもねぇ、馬場状態が違和感ありまくりだから困ったモンだよね。まぁ一応、馬場状態が悪くなる事を考慮して印は打ってあるんだけれどね」
珠美:「新潟競馬場の芝コースは、今日(土曜)の最終レースの時点で稍重でした。ただ、その時も雨が降っていましたし、それからさらに馬場状態が悪化した事も考えられます
 また、明日(日曜日)のお天気ですが、新潟競馬場近辺のお天気は曇り一時小雨ということになっています。まとまった雨は降らないでしょうが、晴れ間が覗く事も考え難いようです」

駒木:「微妙だなぁ……(苦笑)。今回のレースは、良馬場だったら、とても予想が簡単なんだけれど、このままいくと、そう簡単には行かないだろうねぇ。馬場が勝負の綾になる可能性もあるしね」
珠美:「馬場が悪い時は、どのような点に気をつけて予想をすれば良いでしょうか? やっぱり展開面にも影響が出て来るものなんですか?」
駒木:「芝コースの場合なら、余程悪くならない限りは展開に与える影響は少ないんじゃないのかな。一応、馬場が渋ると逃げが有利になっては来るんだけどね。
 それよりも、個々の馬の道悪に対する適性を考慮した方が良いね。馬の中には、良馬場でも馬場が荒れ気味だと全然走らない馬だっているくらいだから」
珠美:「なるほど、分かりました。では、出走表に従って、博士に1頭ずつ解説をして頂きますね」

スプリンターズS 新潟・1200・芝

馬  名 騎 手
×   サニングデール 福永
    ディヴァインライト 田中勝
    ゴールデンロドリゴ 岡部
ビリーヴ 武豊
    サイキョウサンデー 四位
トロットスター 蛯名
    サーガノヴェル 吉田
    リキアイタイカン 武幸
アドマイヤコジーン 後藤
    10 シベリアンメドウ 柴田善
11 ショウナンカンプ 藤田

駒木:「頭数自体は寂しいけれど、上位どころの馬は粒が揃ったね。またここに来て生粋のスプリンターの数が増えてきたし、面白いレースが期待できそうだね」
珠美:「それでは、枠番ごとに解説していただきますね。まずは1枠1番のサニングデールからお願いします。前売りでは単勝3番人気に支持されています」
駒木:「あれ? この馬3番人気なんだ。随分と競馬新聞で厚い印が打たれているなぁ…とは思っていたんだけど、そこまで人気するのかぁ。
 …う〜ん、確かに現在絶好調で、道悪実績もあって(オープン特別1着)、前走の函館スプリントSでショウナンカンプを負かして…って感じで、勢いは感じられるんだけどね。でも函館のレースはショウナンカンプがマトモに走ってないレースだからねぇ。他の負かした馬は二線級ばっかりだし、持ち時計も1分8秒9じゃあね。いくら3歳馬だとしても、G1を勝とうって馬にしては実績が乏し過ぎる感じがするなぁ。今回は斤量が3キロ増えるってハンデもあるし。
 道悪が残って他の有力馬が1〜2頭凡走したら出番が回ってくるかもしれないけれど、普通に考えたら3連複の3着要員ってところかな」
珠美:「意外と厳し目な博士のジャッジでした。…次は2枠2番のディヴァインライトをお願いします」
駒木:「一応、高松宮記念2着の実績がある馬だし、今年もそれほど大負けしてるわけじゃないんだけれども、『やっぱ、でもなぁ…』って言いたくなっちゃうね(苦笑)。
 まずこの馬、本質的には1200mは向かないんだよ。器用な馬なんで、ソコソコはこなしているけど、ベスト距離はマイルから中距離のはず。で、高松宮記念2着の時は、人気薄に乗じてインを掬った形だった。実力勝負だと今一歩足りないんだよね。
 あと、更に言えば今回休養明けで、ちょっと急仕上げ気味かなって印象があるね。大穴開ける可能性も無いわけじゃないけど、劣勢は否めないってところかな」
珠美:「3枠3番のゴールデンロドリゴはどうでしょう?」
駒木:「2連勝で勢いには乗っているんだけどねぇ……。でも、今回は相手がこれまでとは違いすぎるよね」
珠美:「ちょっと厳しいですか……。では、次に4枠4番のビリーヴを。この馬が単勝1番人気です」
駒木:「この夏一番の昇り馬だね。しかも勢いだけじゃなくて、実力の高さが伝わって来るレースをしているのが強みと言えそうだ。
 今回もデビュー以来絶好調と言えるデキで、しかも展開も絶好。鞍上も帰国以来絶好調の武豊騎手とくれば、1番人気もうなずけるところじゃないのかな。
 ただこの馬、条件馬時代に不良馬場で4着に負けてるんだよね。その時は走り辛そうだったっていうから、今回みたいな、荒れてる上に道悪の馬場は大きくマイナスだ。地力で圧勝する可能性も十分なんだけど、道悪のせいで馬群に沈む可能性もある。この馬から馬券を買うのは、まさにギャンブルって言えそうだね(苦笑)」
珠美:「なるほど……。ちょっと不安が残る感じですねー。私の◎なんですけど、また嫌な予感が…(苦笑)。
 …さて、次は5枠5番のサイキョウサンデーですが、いかがでしょう?」

駒木:「う〜ん、叩き2走目で上向いてはいるみたいだけど、この馬は実力の最大値が割れてしまっているからねぇ。このメンバーじゃ、恵まれても掲示板かな」
珠美:「…それでは、次は6枠。ここから1枠につき2頭になります。6番のトロットスター、7番のサーガノヴェルの解説をお願いします」
駒木:「トロットスターは今年絶不調なんだけど、どうしちゃったんだろうねぇ。まぁ1200m専門の馬ってことで京王杯SCと安田記念は度外視できるんだけど、それでもキャリアを考えたら寂しい成績だよね。
 でも調教の様子を見る限り、年齢的な衰えとかそういう感じも見えないし、結局は展開と馬の気合一つだと思うんだよ。休養明けの絶不調でアッサリ勝ってしまった一昨年のこのレースの例もあるし、全く無視は出来ないと思うよ。
 サーガノヴェルは、この春の2戦が圧巻だったんだけど、ちょっと夏から調子を崩してしまったみたいだね。しかもその不調がまだ尾を引いてる感じで、どうにも旗色が良くないね。個人的にはジックリと立て直してから再チャレンジして欲しいって感じ」
珠美:「さぁ、時間もありませんし、どんどん行きましょう。7枠の2頭、8番のリキアイタイカン9番のアドマイヤコジーンをお願いします。アドマイヤコジーンは単勝2番人気ですね」
駒木:「リキアイタイカンは追い込み一辺倒の馬。足を貯めて末脚に賭ければ、高松宮記念4着みたいに健闘するケースもあるかもしれない。ただ、今回は体調が万全じゃないみたいだね。
 アドマイヤコジーンは今年絶好調だね。6歳になってようやく本来の力が発揮できるようになったって感じかな。休み明けに走る馬でもあるし、道悪も不良馬場でも気にしない。セールスポイントは一杯あるよね。
 ただ、今回気になるのは、調教を見たトラックマンが、『走るフォームが縮こまって見える』って言うんだよね。走り方が本物じゃないらしいんだよ。これが果たしてレースになってどう出るかがカギになるんじゃないのかな。この馬もビリーヴと同じように好走するか凡走するか極端に分かれそうだ」
珠美:「あのー、そんな両極端な馬2頭に◎と○を打ってる私はどうすれば良いんでしょう?(苦笑)」
駒木:「ご愁傷様(苦笑)。」
珠美:「わ、もう外れる事前提で話してませんか、それ?(苦笑)……もういいです。私は武豊騎手を信じますから(笑)。
 では、最後に8枠の2頭をお願いします。10番シベリアンメドウと、11番3番人気・ショウナンカンプです」

駒木:「シベリアンメドウ陣営が『道悪だったらウチの馬でも勝負になるよ』って言ってるみたいだね。でも、道悪になったら道悪になったで、この馬より強い馬がゴマンといるはずなんだけどなぁ。どう考えても実力が足りないよ
 ショウナンカンプはどうやら復調ムードに入ったみたいだね。そうなると、またスピードの絶対値にモノを言わせて逃げ切りを図る事になるんだろう。展開も随分楽そうだし、春の再現も十分だよ。
 ただこの馬の場合、やっぱり気になるのは道悪だろうなぁ。確かにスピードタイプって気はするし。けど、まだ判断材料が少ないし、余り悲観しすぎるのも問題と思うんだよね。
 ……まぁ今回のレースはこの馬に限らず、とにかくどの有力馬にも全幅の信頼が置けないのが問題だよね。これはもう走ってみないと分からない。ただ1つ言える事は、あまり大金賭けちゃいけないよって事かな(笑)」
珠美:「なるほど(笑)。…では、最後に馬券の買い目の方をよろしくお願いします」
駒木:「印は5頭に打ったけど、馬券は11、4、6の馬連3頭BOXと3連複1点。ただ、状況によっては6と9を入れ替える事があるかもしれないけどね」
珠美:「私は4-9、4-11、9-11、4-6の馬連4点ですね。夏の馬券学講座を踏まえて、私も買い目を絞ることにしました」
駒木:「それじゃ、講義を終わろうか。良いレースを期待したいね」
珠美:「そうですね。では、お疲れさまでした」


スプリンターズS 結果(5着まで)
1着 ビリーヴ
2着 アドマイヤコジーン
3着 11 ショウナンカンプ
4着 ディヴァインライト
5着 ゴールデンロドリゴ

 ※駒木博士の“敗戦の弁”
 結果的には惜しい1着−3着なんだけれど、反省点だらけの予想になってしまったなぁ…。もしも駒木の予想を参考にしていらっしゃった方がいたなら、心からお詫びを申し上げます。
 まず、馬場状態の読み違え。新潟競馬場って、乾きと水はけが良いんだなあ…。まるで甲子園球場みたいだ(苦笑)。
 次にアドマイヤコジーンの取捨選択と展開の読み違え。まさかあそこまで積極的に行った上で2着に粘りきるとは思ってなかった。それにアドマイヤを差す予定だったトロットスターが凡走したのも痛かった。まぁ、何にしろチグハグな予想をやっちゃいました。せっかく良いレースだったのに勿体無い事しました。本当に反省です。出直してきます。

 ※栗藤珠美の“喜びの声”
 本命サイドの決着でしたけど、3連単でも的中していたかと思うと、本当に嬉しいです! やっぱり駒木博士より武豊騎手を信じてて良かったと思います(笑)。
 ……あ、でも「ビリーヴが3着の方が配当金が高いから、それでお願い!」って一瞬考えちゃったのは内緒ですよ(笑)

 


 

9月21日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”」(19)
1994年クリスタルC/1着馬:ヒシアマゾン

駒木:「さて、今週は時間も詰まってるのでショートバージョン。何頭もの一流馬同士が凌ぎを削った名勝負じゃなくて、1頭の馬の強さが際立っていたレースを1つ紹介しようと思うんだ。詳しく語る馬の数が減る分だけ、時間も節約できるというわけ(笑)」
珠美:「それでヒシアマゾンが勝ったクリスタルCというわけなんですね。確かに博士のおっしゃる通りのレースですよね」
駒木:「コアな競馬ファンの間では、未だに語り草になっているレースみたいだね。まぁメンバー全体のレヴェルはさておいて、見応えという面では確かに群を抜いていると思うよ。
 …まぁ詳しい話はこれからやっていくとして、とりあえず出走メンバーの紹介をよろしく」
珠美:「ハイ。それではさっそく出馬表をご覧いただきましょう」

第8回クリスタルC 中山・1200・芝

馬  名 騎 手
フジミケアンズ 的場
ミスターヘルプ 清山
インターイメージ 谷中
バンブーユージン 植野
ユーワマーブル 藤原
ヒシアマゾン 中館
フィールドボンバー 柴田善
タイキウルフ 岡部
ファイブナカヤマ 吉永
10 ガイドブック 田中勝
11 アイランドブルース 柴田政
12 トウショウルーイ 江田
13 ボディガード 松永幹
14 ミツルマサル 蛯名

駒木:「当時のクリスタルCは、G1に直結しないG3レースということでメンバーも地味になるケースが多かったんだけど、この年は比較的メンバーが揃っていた方なんじゃないかな。酷い年になると、後から見たらとても重賞レースとは思えないような時もあるし。
 …それじゃ、珠美ちゃんにレースと人気馬の紹介をしてもらおうかな」
珠美:「ハイ。最近はずっと言い忘れていたんですけど、このレースが行われた日も紹介しておきますね。1994年の4月16日です。……あら、当時は皐月賞ウィークの土曜日に施行されていたんですね。それじゃ、メンバーが揃わないのも仕方ありませんよね(苦笑)。
 ……さて、このクリスタルCは1987年に創設された、3歳限定の短距離G3レースです。今も昔も春の3歳短距離重賞戦線のトップを飾るレースということは変わり有りませんが、現在はニュージーランドトロフィーからNHKマイルCに繋がるG1戦線のステップレースとしての意味合いが強いようです。
 施行条件は、原則的に中山競馬場の1200m。ただし第2回の88年は、中山競馬場が改装中のために東京の1400mで争われました。施行時期に関しては、先に述べましたように、以前は皐月賞ウィークに行われていましたが、現在では4週間繰り上げられ、3月第2週に実施されています。これは、ニュージーランドトロフィーとのローテーションを意識してのものだと思われます。
 ……では、このレースの人気上位馬を紹介してゆきましょう。まずは1番人気にしてこのレースの主役となりますのがヒシアマゾン。ここまでG1・阪神3歳牝馬S(現:阪神ジュベナイルフィリーズ)勝ちを含む、6戦3勝2着3回という好成績。前走のクイーンCで重賞2勝目を挙げての参戦です。このレースはあくまで通過点といったところでしょうか。
 2番人気はフィールドボンバー。前年の朝日杯3歳S(現:朝日杯フューチュリティS)をナリタブライアンの2着するなど、ここまで7戦3勝2着2回の成績。前走でクリスタルCと同一条件のオープン特別・菜の花Sを完勝しての参戦です。
 3番人気はトウショウルーイ。この年の1月にデビューしたばかりの馬で、ここまで3戦2勝。前走に中山1200mの500万下特別を0.7秒差で完勝したことが人気に繋がったようです。
 4番人気はタイキウルフ。前年の秋に福島でデビューして、新馬とオープン特別を連勝。しかし、その後の朝日杯と菜の花Sでは、人気を背負いつつも連続して2ケタ着順の大敗。そのためか、今回はやや人気を下げた形になりました。
 5番人気はボディーガード。前年夏の函館でデビュー(新馬戦1着)し、その後もデイリー杯3歳S(当時)で後の3冠馬・ナリタブライアンを破る殊勲を挙げる活躍を見せたのですが、極度の気性難を抱えていて成績が伸び悩んでいました。ここまでで8戦して2勝。負けたレースは全て4着以下というあたりに、この馬の個性が出ていたのかも知れません。
 ……私からは以上です、博士」

駒木:「昇り馬のトウショウルーイはともかくとして、他の4頭は、この時点では一流馬か準一流馬の成績なんだよねぇ。まぁ1年経ったら、ヒシアマゾン以外はみんな並の馬になっちゃうんだけど(苦笑)。
 ……そうだなぁ、この中で僕から付け加えるとすれば、タイキウルフかな。とにかく潰れるか逃げ切るかの、破滅的な逃げを打つ馬だった。でも、それでいてツインターボみたいな悲壮感は無かったんだよな。何て言うか馬鹿っぽい感じ(笑)。これはレース振りもあるんだけど、それ以上にパドックで毎回のように見せる馬っ気の印象が強いせいもあった(苦笑)」
珠美:「(苦笑)」
駒木:「あ、馬っ気ってのは、牡馬が発情してナニをデッカくしちゃう事ね。本当にデカいんだよなぁ、馬っ気の出たナニってのは(笑)。“馬並み”って言葉があるけど、馬のアレを見たらとてもじゃないけど敵わないって思うよなぁ(笑)。ねぇ? 珠美ちゃん」
珠美:「(顔を真っ赤にして)私に振らないで下さい!」
駒木:「おっと、失礼(笑)。…まぁ、素っ裸のメスが前にいて馬っ気出すってのは、同じ男として分からないでもないんだけど、コイツは牡馬に囲まれても馬っ気なんだよ(笑)。もう年がら年中、場所分別わきまえずに発情しっ放し。それでレースになったら性欲を発散するかのようにメチャクチャな逃げを打つもんだからさぁ。もうバカというかアホというか…(笑)。
 ……まぁそんなわけで、この時点では結構面白いメンバーのレースだったわけだね。で、そんなレースを独壇場にしちゃうんだから、やっぱりヒシアマゾンって凄い。そういうレースだね、これは。
 じゃあ、レース回顧に移ろうか。珠美ちゃん、いつものようによろしく」
珠美:「ハイ、分かりました。1200mのレースなので、回顧も随分とシンプルなものになりそうですけど(苦笑)。
 ……まずはスタートですが、10番のガイドブックが立ち遅れた他は揃っていました。その中からダッシュを利かせてバンブーユージンがハナに立とうとしますが、2番手で抑え切れないタイキウルフがスピードをグングン上げて先頭に立ちます。やっぱりこの馬が単騎逃げを打つ形になりましたね。
 その後ろは2馬身の圏内で7〜8頭が団子状態。ここにバンブーユージンとボディーガードがいました。ヒシアマゾンはそこからさらに2馬身後方で、中位からやや後方を追走。フィールドボンバーは更にその後ろで、やや折り合いを欠くバタバタした走り方になってしまっていました」
駒木:「追走振りにも、ナニゲにそれぞれの馬の個性が出てる感じがするね。中でも目立つのはやっぱり、騎手の制止を振り切ってハナに立っちゃったタイキウルフかな。岡部騎手に真っ向から歯向かうなんて、恐れ多い奴だよなぁ(笑)。
 この辺では、ヒシアマゾンがちょっと追走が辛そうにしているんだけど、これはやっぱり距離適性なんだろうね。前にも話した事あるけど、長距離馬が1200mとか走った場合、道中は追走に苦しむ替わりに直線の伸びが物凄くなる。それを考えると、この辺りも最後の見せ場の伏線になっているんだよね。改めて観てみると、やっぱり奥が深いなぁ」
珠美:「…3〜4コーナーで後方グループも前の馬群に接近して、さらに団子になった状態で、レースは早くも最後の直線の攻防へ向かいます
 直線入口から、タイキウルフがコーナーワークを利してリードを広げます。2番手以下との差は3馬身から4馬身。一見すると完全にセーフティリードを持って抜け出した格好ですね。一方のヒシアマゾンは、大外に持ち出して、そこから鋭い差し脚で追い込みを開始します。初め、6〜7馬身あったリードは、残り200mの時点で4馬身ほどに。そして順位もここで2番手まで浮上していました」
駒木:「先行グループは完璧にバテちゃってるよね。完全に追走一杯。だから余計にヒシアマゾンの追い込み脚が目立つんだよ。誇張でも何てもなくて、まるで巨大なチーターかなんかが馬に混じって走ってるような感じ
珠美:「残り200mを切った時点で、1着争いは完全にタイキウルフとヒシアマゾンに絞られました
 追い詰められた格好のタイキウルフですが、ここから粘りを見せ、ヒシアマゾンになかなか差を詰めさせません。残り100mの時点で、リードはまだ3馬身ほど残っていました
 しかし、ここからのヒシアマゾンが凄いんです。更に加速が掛かった感じで猛烈に追い込んで来ました。一完歩ごとに差を詰めて、残り30mくらいでやっと追いついたかと思ったら、ゴール前では逆に1馬身以上の差をつけてしまいました。あっという間の逆転劇ですね。
 …というわけで、1着ヒシアマゾン、2着タイキウルフ、そして3着は大きく離れてフィールドボンバーという結果になりました。フィールドボンバーもよく追い込んでいるんですが、ヒシアマゾンの前には形無しといったところでしょうか」
駒木:「最後の100mで、3馬身差を詰めて逆に1馬身以上の勝ち。6馬身でおよそ1秒差だから、約0.7秒ってとこか。距離にしたら6mくらいになるのかな。馬なら100mを6秒前後で走るんだけど、その6秒間でそれだけ違うんだから凄いよね。たとえタイキウルフがバテていて、ヒシアマゾンのスタミナがあり余っていたと考えても強烈だ。
 こういう抜け出した馬を追い込み馬が捕まえる形の大逆転劇っていうのは、古くはハイセイコーVSタケホープの菊花賞、新しくはステイゴールドの香港国際ヴァーズとかが挙げられるんだけど、このレースもG3レースとは言え、末席に名を連ねても良いんじゃないかと思うね。ファンを感動させるドラマは無いけれども、心地良い爽快感が感じられる名レースだね」
珠美:「それでは、最後にこのレースに出た馬のその後について、博士に話していただきましょう」
駒木:「まずヒシアマゾンだけれど、この馬はその後、90年代を代表する名牝にまで成長する。それも牝馬相手だけの名牝じゃなくて、歴戦の強豪牡馬に対しても一歩も引かなかったのは特筆に価するね。ナリタブライアンには完敗しちゃったけれど、古馬たちを翻弄した有馬記念(2着)は特に印象深いなぁ。
 …他の馬に関しては、あんまり良い話が出来ないのが残念なんだよね。
 まず2着のタイキウルフは、これからしばらくして屈腱炎を発症してしまい、早くしてターフを去る。最後は荒尾競馬にまで行って復帰を目指したんだけど、気持ちが途切れちゃったのか、酷い成績しか残せなかった。
 3着のフィールドボンバーは、その後ノド鳴りっていう気管の病気を患ってしまい、成績が安定しなくなる。ノド鳴りって病気は、特に乾燥した気候の時、馬の呼吸が不安定になって走りに影響するっていう厄介な疾病でね。雨の日にしか好走できなくなるから、もうそれだけで一流馬としての前途は断たれてしまったようなもんだった。
 第一、この後、重賞勝ったのはヒシアマゾン以外にはボディーガードしかいないからなぁ。そのボディーガードにしたって、極度の気性難で10回に1度くらいしかマトモに走れないんだから。
 …まぁそういうわけで、このレースはヒシアマゾンのために存在したレースと言っていいんじゃないかな。たとえそれが少し残酷な意味を含んでいるとしても…ね」
珠美:「……ハイ、ありがとうございました。えーと、来週の競馬学講義はG1予想ですよね?」
駒木:「そうだね。いよいよ秋シーズン到来。気を引き締めて頑張らないとね」
珠美:「ハイ。私も頑張りたいと思います。では、また来週よろしくお願いしますね♪」

 


 

9月14日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”」(18)
1990年有馬記念/1着馬:オグリキャップ

駒木:「今日でこの講義も18回目なんだけど、『90年代名勝負プレイバック』と謳っておきながら、今まで肝心なレースを採り上げてなかったね(苦笑)。いつかやろうとは思っていたんだけど、延び延びになってしまってた」
珠美:「オグリキャップが奇跡の復活を果たした引退レースですね。1990年の12月23日ということは……わー、もう今から12年前になるんですか。私が小学4年生の時です(苦笑)」
駒木:「今となっては伝説のようなレースだよね。『キャリアの浅い競馬ファンの方にレースがあった当時の雰囲気を伝える』…というこの講義の趣旨には、まさにピッタリだ。何で今まで採り上げなかったんだろう?(苦笑)
 …ちなみにこの時、オグリキャップに乗って優勝した武豊騎手当時21歳今の珠美ちゃんより年下だよ(笑)。もうその時には、既に若手を通り越してJRAを代表する騎手になってたけどね。
 そして、このレースで更に武豊騎手の地位と名誉に箔がつく事になる。何しろ、このレースはあらゆるメディアで採り上げられたからね。武騎手はオグリキャップには2回しか乗ってないのに、このレースのせいで、まるで主戦騎手みたいになってしまった(笑)」
珠美:「当時10歳の私でも、何となくオグリキャップに跨っている武豊騎手の記憶が残ってますからね。このレースのインパクトは絶大だったと思います」
駒木:「そうだよね。まさに『事実は小説より奇なり』を地で行くようなレースだった。競馬マンガや競馬小説で、こんなレースの結末を描いたら、『いくらなんでも出来過ぎ』とか、『先が簡単に読めてつまらなかった』とか散々な評価をされるはずだよ(苦笑)」
珠美:「言ってしまえば、魔王にさらわれたお姫様を、白馬に乗った王子様が助けに来るようなお話ですものね(苦笑)」
駒木:「まったく。でも、実際に起こってしまうと全く陳腐じゃないんだよなぁ。これが虚構と現実の差なんだろうね。
 ……さぁ、それじゃこのレースの出馬表を紹介しようか。色んな意味で歴史を感じさせる出馬表だよ」

第35回有馬記念 中山・2500・芝

馬  名 騎 手
オースミシャダイ 松永昌
ヤエノムテキ 岡部
オサイチジョージ 丸山
ランニングフリー 菅原
メジロライアン 横山典
サンドピアリス
メジロアルダン 河内
オグリキャップ 武豊
キョウエイタップ 柴田善
10 ミスターシクレノン 松永幹
11 リアルバースデー 大崎
12 エイシンサニー 田島良
13 ホワイトストーン 佐藤哲
14 ゴーサイン 南井
15 カチウマホーク 的場
16 ラケットボール 坂井

珠美:「確かに、今となっては種牡馬とか繁殖牝馬としての方が馴染みのある馬ばかりですね」
駒木:「騎手の方もそうだよね。今日現在で、16人中7人が現役を退いてる。敢えて詳しくは述べないけれど、この後に競馬界から追われる形で姿を消した騎手もいて、何だか哀愁の漂うメンバーになってるんだよね」
珠美:「……それでは、有馬記念の概要と、このレースの有力馬の紹介をしていきたいと思います。
 有馬記念は1956年に創設されたんですが、その時のレース名は『中山グランプリ』でした。
 1956年当時、秋・冬の中山開催では大きな目玉となるレースが少なく、ダービーのある春の東京開催と比べると華やかさに欠けるのは否めないところでした」

駒木:「当時の目玉は中山大障害だったんだよね。確かに面白いレースではあるんだけど、やっぱり障害じゃ、盛り上がりにも限界があるよね。少なくとも、障害レースにボーナス全額勝負なんて出来ないし(笑)」
珠美:「…そんな現状を憂いていた当時の中央競馬界理事長・有馬頼寧氏は、この年に中山競馬場の新スタンドが竣工したのを記念して、ダービーに匹敵するようなグレードの高いレース──ファン投票で出走馬を決定するオールスター戦──を創設する事に決めました。これが『中山グランプリ』でした。そして翌1957年1月、このレースの創設者である有馬理事長が亡くなったことを受け、その年の第2回から有馬氏の功績を称える意味で『有馬記念』と改称され、現在に至っています
 出走に関する条件は、3歳(旧4歳)以上のオープン馬で、ファン投票による選出馬10頭及び、内規による優先順位上位の馬6頭以内ということになっています。以前は内規ではなくて、会議による推薦制度を採用していましたが、現在は廃止されています。
 また、1995年からは“特に優秀な成績を挙げた”地方競馬所属馬が、2000年からは当該年度のジャパンカップで優勝した外国調教馬にも出走権が与えられるようになりました。ただし、この規定による有資格馬は今のところ出ていません。
 距離は第10回までは芝の2600m、それ以降は2500mで施行されています。コースは第1回からずっと中山競馬場が使用されていますね」

駒木:「中山競馬場以外で有馬記念はありえないって事だろうね。改修工事なんかも有馬記念の時期を避けて行われているわけだし。けど、京都とか阪神の大レースは結構無頓着なんだよな。なんか、扱いが違うぞ(苦笑)」
珠美:「…それでは人気馬を紹介しますね。でもこのレース、主役となるオグリキャップは4番人気だったんですね」
駒木:「メンバーが比較的小粒だった割には、確かに人気が低い気がするよね。
 でも、後でも説明するけれど、この時のオグリキャップは、ハッキリ言って4番人気でも人気し過ぎなくらいだったからね」
珠美:「そういうわけで、このレースの1番人気は(旧)4歳のホワイトストーンでした。ここまでG1レースは未勝利ながら、G2のセントライト記念を1着し、ダービー3着、菊花賞2着とクラシック戦線でも活躍していました。前走のジャパンカップでは、日本馬最先着の4着。これが人気の決め手になったようでした」
駒木:「この馬は(旧)8歳まで現役を続けたんだけど、最後までG1には縁が無いままだったね。そして引退するまで人気先行型の馬でもあった。そのくせ、人気が下がった時に爆走する穴馬タイプでもあったんだけど。本当、馬券を買う立場からしたらたまったもんじゃない馬だったよなぁ(苦笑)。
 ちなみに、この頃は『いつかG1を勝つだろう』って感じで人気してて、晩年は『何とか勝ってほしい』って人気していた感じだったかな」
珠美:「2番人気はメジロアルダン。この時(旧)6歳で、故障がちな脚を抱えつつも、ダービー2着、G2の高松宮杯1着などの良績を挙げて来ました。前走は天皇賞(秋)をヤエノムテキの2着。古馬の大将格という存在でした」
駒木:「ごめん。この馬に関しては僕もほとんどリアルタイムの知識が無い。ただ、成績表を見てみると、このレースまでは9戦4勝2着2回3着2回と、本当に堅実。そりゃあ人気するよなぁって感じだね」
珠美:「3番人気はメジロライアンです。クラシック戦線では、前哨戦の弥生賞と京都新聞杯では1着したものの、本番では皐月賞3着、ダービー2着、菊花賞3着と涙を呑んでいます。前走はその3着になった菊花賞でした」
駒木:「杉本清アナウンサーの名文句・『メジロはメジロでもマックイーンの方だー!』の、マックイーンじゃない方だね(苦笑)。ダービーと菊花賞では1番人気。人気を背負ってG1を勝てないもどかしさならホワイトストーン以上の存在だよね。後方待機から良い脚で差してくるんだけど届かず惜敗…っていうのが“お得意”のパターンだった。で、このレースでもそうなる(苦笑)」
珠美:「そして4番人気にオグリキャップです。公営の笠松競馬場でデビューして、(旧)4歳1月まで8連勝を含む12戦10勝2着2回という成績を挙げてJRAへ移籍。
 JRAでは、クラシックレースへの登録が無かったために、いわゆる“裏街道”を歩むことになりますが、天皇賞・秋でタマモクロスに敗れるまで重賞を6連勝。その後は有馬記念、マイルチャンピオンシップ、安田記念を制してG1を3勝(2着4回)しています
 また、成績だけではなく、スーパークリークとイナリワンとの“3強”ストーリーや、89年秋には“天皇賞・秋→マイルCS→ジャパンC→有馬記念”という強行軍スケジュールを歩んだことなど、話題に事欠かない馬でした。
 しかし、公営競馬出身のスーパーホースとして、絶大な人気と好パフォーマンスを維持してきたこの馬も、この90年の秋シーズンでは天皇賞・秋6着、ジャパンカップ11着と大不振。『オグリキャップ限界説』が囁かれる中、この有馬記念を引退レースとして選んで来ました」

駒木:「JRAに移籍してから2回しか連を外していなかった馬が、突然6着と11着だからねぇ。しかも前走のジャパンカップは“後方まま”で、レース振りも酷すぎた。有馬記念までの調教でも変わり身は見えて来ないし、『もうダメだろうなぁ』っていうのが、大多数の意見だったんじゃないかな。競馬新聞の印も、◎や○じゃなくて、×印くらいがせいぜいだった。若手記者が◎なんて付けようものなら、『お前、プロが情にほだされてどうすんだ』って、デスクのカミナリを喰らったくらいの惨状だったんだよ。
 でも、単勝オッズは5倍台の4番人気なんだよね。これは、オグリキャップファンによる願掛けと『これまでありがとう』の気持ちだったと思う。いわゆる心情馬券って奴。
 競馬に詳しい人ほど、『とてもオグリキャップは勝てる状態じゃない』って言ってた。もし僕が10年早く生まれてても同じ事を言ってたと思う。比較的メンバーが軽い事を計算に入れても、ギリギリの押さえが精一杯だったね」
珠美:「だからこその“奇跡の復活”なんですよね。本当に、ドラマティックなお話ですね。
 最後に5番人気の馬を紹介しておきますね。オサイチジョージです。(旧)4歳時からG3を中心に重賞戦線で活躍してきましたが、本格化したのは(旧)5歳となった90年の春シーズンでした。G3を2連勝、産経大阪杯2着、安田記念3着と着実にステップアップを遂げてゆき、遂に宝塚記念でオグリキャップを破ってG1ホースの仲間入りを果たしました。
 秋シーズンは天皇賞4着、ジャパンカップ13着と今ひとつの成績でしたが、先行した時の粘り強さなどを買われたのでしょうか、5番人気となりました」

駒木:「何度も言ってるように、比較的小粒なメンバー構成だったからね。G1ホースが、オグリキャップの他にはこの馬と、6番人気のヤエノムテキ(90年天皇賞・秋)しかいなかった。ヤエノムテキは2500mという距離に不安を抱えていたし、この馬が5番人気に推されるのは当たり前と言えば当たり前だったんじゃないかな(注:このセリフは大間違いでした。詳しくは講義最後の『追記』を)
珠美:「……なるほど、分かりました。それでは実際に映像を観ながら、このレースを振り返ってみましょう。
 …スタートは各馬まずまず揃っていたんですが、徹底的な逃げ馬が不在のメンバー構成ということで、各馬牽制気味の序盤戦。その中で、徐々にオサイチジョージが押し出されて先頭に立ちました。2番手にヤエノムテキ、そのすぐ後ろにメジロアルダン、さらにはホワイトストーンです。オグリキャップは、中団からやや後方で一旦メジロライアンと併走する形になりましたが、1周目のホームストレッチで先行集団に取り付いて行きます」

駒木:「逃げ馬不在ってことで、当時としては珍しい超スローペースの展開だね。前半の1000mで63秒程度だから、馬場が荒れがちな冬の中山という事を考えても遅すぎる。
 だから、武豊騎手が思い切って前に出て行ったのも、それを見越しての作戦だろうね。馬(オグリ)の状態が瞬発力勝負が出来るレヴェルじゃないし、当時の武騎手は今みたいに追い込みが得意な騎手でもなかったから、少しスタミナを浪費してでも、最後を泥仕合に持ち込んで勝ちを拾おうとしたんじゃないのかな。しかし、さりげなくゾッとするような事をするね、この人。とても当時21歳とは思えないよ」
珠美:「バックストレッチに入ってからもしばらくはスローペースだったのですが、残り1200mを切ってから急にペースが上がり始めます。まず中団にいたミスターシクレノンが仕掛けて先頭に並びかけていって、次いでメジロアルダン、オグリキャップ、リアルバースデーも上がって行きます。メジロライアンも徐々に差を詰めました。
 2周目の3〜4コーナーで、早くもヤエノムテキが失速。ミスターシクレノンも脚色が悪くなって、先頭にオサイチ、アルダン、バースデー、オグリと4頭雁行状態のまま直線を迎えます。メジロライアンとホワイトストーンはそのすぐ後ろから追撃体制です。
 最後の直線に入って、まずメジロアルダンとリアルバースデーが失速。代わって最内を突いてホワイトストーンが差を詰めて来て、オグリキャップ、オサイチジョージとの3頭での競り合いに。そこへ外からメジロライアンが差を詰めて来て激しい競り合いになります」

駒木:「超スローペースとはいえ、直線勝負じゃなくて残り1200mからのロングスパート合戦。これで、オグリキャップにとって唯一の活路だった、馬のスタミナと気力の勝負になった。本当に全ての条件が奇跡に向けて動き始めていたんだよねぇ。
 気の遠くなるような競り合いに、超満員の中山競馬場のボルテージは最高潮だったね。テレビ桟敷にも、故・大川慶次郎さんの『ライアン! ライアン!』の絶叫が実況マイクにまで届いて、現場の興奮が嫌が応にも伝わって来たりもした(笑)」
珠美:「前3頭の競り合いからは、残り50mでオグリキャップが抜け出します。外からメジロライアンが懸命に脚を伸ばしますが、3/4馬身届かず2着まで。遂にオグリキャップ、奇跡の復活、そして現役生活を最高のハッピーエンドで全うすることになりました!
 以下、3着ホワイトストーン、4着オサイチジョージ、5着には後方から追い込んだオースミシャダイが健闘してします。」

駒木:「途中から急に上がったペースが、最後の200mだけガクンと落ちてるんだよね。ロングスパートの影響で、もう全部の馬がバテてるんだ。メジロライアンの伸び脚が今ひとつだったのもそのせいだね、きっと。
 勝ち時計は2分34秒2と、同日同条件の900万下(現1000万下)条件の特別レースより遅かったんだけど、急激なペースアップから始まったロングスパート合戦の過酷さを考えると、そんなに楽なレースだったとは思えない。確かに“速さ”は感じられないレースだったかも知れないけど、“強さ”は充分に伝わってくるレースだったよ」
珠美:「『勝てるはずが無い』と思われていたオグリキャップの勝因を挙げるとすると、どうなりますか?
駒木:「まず、メンバーに恵まれた事メジロアルダンが凡走した事。これが大きいね。ここに1頭でも勢いのあるG1ホースがいたら、まず無理だった。
 あとは、やっぱり展開が向いた事と、武豊騎手の好判断。そして競り合いになって、オグリキャップ自身の闘争心が土壇場で蘇った事なんだろうね。いわゆる“火事場のクソ力”状態だったんだと思う。
 …でも、このレースに関しては、あんまり野暮な事は言いたくないよね。『オグリが勝った!』…それだけでいいじゃないかって、思うんだよね」
珠美:「同感です(微笑)。では最後に、このレースの後の各馬の行く末について、博士にお話して頂きましょう」
駒木:「オグリキャップはこのレースを最後に種牡馬入り。非常に期待はされたんだけど、初年度にオグリワンがクラシックに出走したのがやっとで、あとは急速に尻すぼみ。一説によると、劣性遺伝の影響か、脚が曲がって生まれる仔馬が多かったらしいんだ。今ではもう、オグリキャップ産駒の姿を見る事すら珍しくなってしまった。
 対照的なのがメジロライアンだね。この翌年に宝塚記念を制して念願のG1ホースの仲間入りを果たすけれども、これが現役生活唯一の勲章になってしまった。最後は屈腱炎に悩まされつつ引退してしまう。ただ、この馬の真価が発揮されたのは種牡馬入りしてからだったね。メジロブライト、メジロドーベルといった、一流のG1ホースを立て続けに輩出して、未だに内国産種牡馬のエース級として活躍中だよ。
 3着のホワイトストーンは結局G1ホースになれず引退。でも、人気もあったし馬主さんの理解もあって、この馬も種牡馬になっている。産駒の方はあまり期待できないけどね。でも、これは仕方が無い。
 4着のオサイチジョージ、そして10着に惨敗したメジロアルダンも種牡馬入りしている。特にメジロアルダンは中国に輸出された事で有名だね。残念ながら、今年に亡くなったとのニュースが日本に届いたけれど。
 ……まぁ、幸福になったと言えるのはメジロライアンくらいだろうけど、その他の馬も不幸にはなっていないってところかな」
珠美:「……ハイ、ありがとうございました」
駒木:「それでは、また来週だね。皆さんも珠美ちゃんもご苦労様」
珠美:「ハイ、お疲れ様でしたー♪」

 追記:このレースの中のG1ウイナーに、牝馬G1ウイナーが3頭いた事を瞬間的に失念しておりました。エイシンサニー、サンドピアリス、キョウエイタップのファンの方及び関係者の皆さんに御迷惑をおかけしました事をお詫び申し上げます。

 


 

9月7日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”」(17)
1993年阪神大賞典/1着馬:メジロパーマー

珠美:「この講座でG1レースではないレースを扱うのは珍しいですね」
駒木:「最初の2回と園田のアラブ優駿は違うけどね。あ、ドバイワールドCもその時はノン・グレードか。
……まぁ、どうしても知名度の高い馬とレースを探したりしてると、どうしてもこういう事になっちゃうよね。でも、今日はハッキリ言って趣味に走らせてもらったよ(笑)」
珠美:「今から9年前の阪神大賞典ですね。私は例によって中学生の頃ですからリアルタイムで観てませんし、あまり一般的にも有名なレースじゃありませんよね」
駒木:「そうなんだよなぁ…。確かに、阪神大賞典にしてはメンバーは地味だったんだけれどもね。でも、レースそのものとしてはメチャクチャ迫力があって面白いレース。なんて言ったって、フジキセキの弥生賞に並ぶ、“90年代二大差し返し”の1つなんだからね」
珠美:「“二大差し返し”って、そんな言葉ありましたっけ?」
駒木:「僕が作った(笑)」
珠美:「ぷっ、なんですか、それー(爆笑)」
駒木:「しかしだね、普通、競走馬っていうのは一度交わされると闘争心が萎えてズルズル下がってしまうものなんだよ。ダビスタ(特に初期の)じゃ差し返しが必殺技みたいなもんだけれど、本物の競馬じゃあ、なかなか観られるものじゃないんだよ、差し返しって
珠美:「あー…、そういえばそうですねー」
駒木:「差し返しのレースが実現するためには2つ条件がある。1つは実力の有る逃げ・先行馬で、もう1つは究極のジリ脚を持った差し馬
珠美:「究極のジリ脚(笑)。今日の博士、面白いです(笑)」
駒木:「いつもは面白くない、みたいな事を言わないでくれ(笑)。
 …で、さっき挙げた弥生賞の時には、果てしなく強い先行馬のフジキセキと、果てしないジリ脚を持ったホッカイルソーがいたんだよね」
珠美:「今度は果てしないジリ脚ですか(笑)」
駒木:「そう。ネバーエンディング・ジリ脚。アイツが菊花賞でトウカイパレス交わしていたら……と、そんな事をいってる場合じゃない(笑)」
珠美:「駒木博士の伝説的な“1着−3着4着5着6着7着8着”馬券でしたっけ、その菊花賞(笑)」
駒木:「そうそう。今なら絶対にしないような買い方だけれども(苦笑)。あの時、残り1ハロンで急にヘタれたホッカイルソーの姿が未だに忘れられない(苦笑)
 …でだ。今回採り上げる阪神大賞典には、芸術的な大逃げを打つグランプリ2冠馬・メジロパーマーと、芸術的なジリ脚で日本中の競馬ファンを魅了したナイスネイチャがいた。個性的な2頭が繰り広げた名勝負ってわけだね、うん。
 このメジロパーマーって馬は、実績の割にはそれほど評価されていないんだけど、この93年春シーズンのメジロパーマーは本当に強かった。4年半の現役生活の中で特に光り輝いていた3ヶ月間だったんだ。
 …だから、このレースは本当に奇跡的なタイミングの良さで実現した名レースなんだ。そういう意味でも貴重なレースと言えるよね」
珠美:「…なるほど。そこまで熱く語られると、何だか楽しみになって来ました(笑)。…では、出馬表をご覧頂きましょうか」
駒木:「このレースはメンバー構成も味があるんだ。是非注目してもらいたいね」

第41回阪神大賞典 阪神・3000・芝

馬  名 騎 手
マミーグレイス 内田浩
タケノベルベット 武豊
カゲマル 田面木
ダッシュフドー 谷中
メジロパーマー 山田泰
エイシンカーリッジ 村本
ナイスネイチャ 南井
スバルボーイ 小島貞
エリモパサー 猿橋
10 マンジュデンカブト 山田広
11 レッツゴーターキン 大崎

珠美:「G1ホースが3頭いるんですね」
駒木:「そう。しかも3頭とも10番人気以下でG1を勝って、万馬券の立役者になった事のある馬ばかりなんだよね(笑)。だから、このレースでも1番人気はナイスネイチャに譲ってるんだよね。
 まぁ、そのへんも含めて珠美ちゃんに紹介してもらおうかな」
珠美:「…ハイ、分かりました。阪神大賞典の概要については、このシリーズの第1回・1月5日付レジュメを参照して下さい。ナリタブライアンとマヤノトップガンのマッチレースについて扱った講義です。
 …それでは次に人気上位馬の紹介をさせてもらいますね。まずは単勝1.9倍と、ダントツの1番人気だったのはナイスネイチャでした。
 ナイスネイチャは、(旧)3歳〜4歳初頭こそ1勝のみと伸び悩みますが、5ヵ月半の休養を挟んで夏に復帰してからは一気に本格化。500万特別、900万(現1000万)特別、小倉記念、京都新聞杯と、重賞2勝を含む4連勝をマークします。2番人気で臨んだ菊花賞は4着に終わりますが、その後も鳴尾記念1着、有馬記念3着と古馬に混じってもその存在感をアピールしました。
 しかし、その後9ヵ月半の休養を挟んで(旧)5歳秋に復帰してから2着1回、3着3回、4着1回と急に勝ち鞍に恵まれなくなってしまいます。この阪神大賞典の前走は日経新春杯2着。(旧)5歳牝馬のエルカーサリバーにクビ差惜敗という成績でした」

駒木:「(旧)4歳の時に、一度天下を獲ろうかという位強かった…というのが、普通のジリ脚馬と違うところだね。一見似たようなタイプにホワイトストーンがいるんだけど、これはジリ脚というよりムラ脚…つまり、好不調の差が激しい馬だったからねぇ。
 この時期も、勝ち星から遠のいていたとは言え、まだ強かった時期の威光が少しくらいは残っていた時期なんだ。その前の年の有馬記念も一応は3着だったしね。更に、このレースの相手だったG1馬3頭にしても、タケノベルベットには日経新春杯で先着してるし、他の2頭は有馬記念からブランクがあった。だから過去の実績+叩いた強みで競馬新聞で◎に推されて、その結果1番人気になったんじゃないかな、と思う。今から考えたら、ナイスネイチャで単勝1倍台なんて信じられないんだけれどね(笑)」
珠美:「ナイスネイチャの1番人気にはそういう理由があったんですねー。
 …では次に2番人気。こちらは(旧)5歳牝馬のタケノベルベットです。
 タケノベルベットは準オープン・17番人気の身で参戦した、(旧)4歳秋のエリザベス女王杯(当時は現在の秋華賞に相当)でアッと驚く大駆けを見せてG1ホースの仲間入りを果たした、シンデレラ・ガールです。
 その後も鳴尾記念1着、日経新春杯3着と、古馬・牡馬に混じって遜色の無い成績を挙げて、堂々の古馬長距離G1戦線に参戦してきました」

駒木:「この馬が勝った時のエリザベス女王杯は、確かに傑出馬不在の混戦模様だったんだけど、まさか休養明けの条件馬が激走するとは、ほとんどの人は考えもしなかった。もっと昔で言えばサンドピアレス、最近で言えばブゼンキャンドルってところだね。
 そして驚かされるのが、古馬に混じっての健闘振りだよね。今から考えたら、楽なメンバー相手に挙げた実績と言えなくも無いけど、それでも大したもんだ。2番人気に推されてもおかしくないのは確かだったね」
珠美:「そして3番人気には、このレースの主役となるメジロパーマー。下級条件クラスでの低迷、500万特別を勝った直後に重賞(ハンデ戦)制覇、障害戦への転向など、非常に珍しいキャリアを経ていますね。
 そして(旧)6歳で宝塚記念を制覇してG1ホースになるも、その年の秋は大不振に。ところが、シーズン最終戦の有馬記念で16頭中15番人気という低い評価にも関わらず、鮮やかな逃げ切りを見せてグランプリ春秋連覇を達成した…という、本当に個性的な成績の馬ですね」

駒木:「強いのか、弱いのかサッパリ解らない馬だったねぇ、このレースまでは。勝った2つのG1にしても、正直言って展開に恵まれたからこそだったし、当時現役最強馬のメジロマックイーンが休養中という事もあったからねぇ……。
 だから3番人気という評価も、困惑の現れといった感じじゃなかったかな(苦笑)。G1を2勝した馬で3番人気ってのは過小評価なんだけど、惨敗したレースを思い出すともっと下でも良い位だしね。まぁ、一言で言うと“どう扱って良いのか分からない馬”ってところだね」
珠美:「そんな馬がこのレースで大化けするんですから、競馬は本当、分からないですねー。
 最後に4番人気のレッツゴーターキンを紹介しておきましょう。この馬も条件クラスでの停滞があったり、オープン入り後もG3で頭打ちだったりしたんですが、(旧)6歳秋の天皇賞で、トウカイテイオーらを相手に大波乱を巻き起こしました。その後も有馬記念で4着と健闘し、年明け緒戦にこのレースを選択してきました」

駒木:「この馬が勝った天皇賞は変なレースでねぇ。ダイタクヘリオスとメジロパーマーに引っ張られる形でトウカイテイオーが暴走しちゃったんだよね。前半1000mのラップタイムが57秒5。これじゃあどんな馬でも保たない。
 そんな中、展開がズッポリとハマったのがレッツゴーターキンだったわけ。この年12戦目、前走は福島のオープン特別だからね。どれだけ期待されていなかったかが良く分かる(苦笑)。失礼ながら、こういう馬でもG1獲れたりしてしまうから、競馬は因果だよね
 ……まぁ、有馬記念4着を見ても分かるように、この時期には一応G1入着級の実力があったのは確か。単勝14.3倍の4番人気は妥当だったんじゃないかと思うよ。他の馬は明らかに格下だったし」
珠美:「…なるほど、分かりました。それではいよいよレースを振り返ってみましょう。博士、解説よろしくお願いしますね」
駒木:「了解」
珠美:「ゲートが開いて早々、メジロパーマーがハナに立ちます。手綱をしごいて、あっという間に2馬身くらいのリードを取るんですが、実況の杉本清アナウンサーは『抑え気味かな?』なんて言ってますね(笑)」
駒木:「この馬にしてみたら、5馬身10馬身は当たり前だからね。普通の逃げだったら『あれ? 今日は調子悪いのかな?』って感じだった。普通は大逃げで『おいおい、そんなに飛ばして保つのか?』みたいな感じだけれど」
珠美:「2番手がエリモパサーがいて、そこからさらに数馬身後ろにレッツゴーターキンのいる3、4番手グループ。ナイスネイチャはそこからさらに5馬身くらい離された中位グループの先頭を走っていて、これの2馬身後方でタケノベルベットです。
 …タケノベルベットはナイスネイチャを徹底マーク、ということですか?」

駒木:「そうだろうね。タケノベルベットの武豊騎手にしてみれば、『道中脚を溜めて、ナイスネイチャさえ最後に競り落とせれば何とかなる』だったんじゃないかな。まぁ、常識的な作戦だと思うよ。まさかメジロパーマーが粘りこむとは思ってなかったんじゃないのかな」
珠美:「なるほど…。結果だけ先に見ると分からないことですね。
 …レースに話を戻しましょう。メジロパーマーの逃げは1周目のホームストレッチで10馬身弱ほどのリードに。やっとここで“大逃げ”という感じになりましたね。
 バックストレッチに入りますと、メジロパーマーのリードは再び5馬身ほどに。その後ろでは、徐々に2〜5番手までの馬が固まって好位グループを形成。タケノベルベットのいる中位〜後方集団とはさらに5馬身ほどの差が開きました。
 私なんかが見たら、『これで届くのかなー』って感じなんですけれど…」

駒木:「微妙なペースの関係で差が開いちゃったんだけど、差し馬がここからロングスパートかけるわけにはいかないからね。とりあえずここは我慢のしどころだよ」
珠美:「レースが動き始めたのは3コーナーからでした。まず、中位・後方グループのタケノベルベットがスパートを開始して、それに押し出されるようにして好位グループも追い上げを開始します。それでも4コーナーでメジロパーマーのリードは2馬身ほど残っています。
 直線入口、ついにナイスネイチャがメジロパーマーに並びかけます。その後ろではタケノベルベットも馬場の外目を通って追撃開始。他の馬は後ろに置かれて、完全に三つ巴の戦いになりました。
 ここからナイスネイチャがメジロパーマーを追い詰めて、一旦はわずかに先頭に立ったかという感じなんですが、メジロパーマーが猛烈に抵抗します」

駒木:「ここが見せ場! この2頭が100m以上ビッシリ馬体を併せて叩き合うんだけど、ここからメジロパーマーがもう一度伸びるんだよ。粘るというより伸びてる。その伸び脚に、ジリ脚の上に勝負所で脚を使わされたナイスネイチャが対抗できない。残り100mを切ったところで遂に力尽きちゃった」
珠美:「……というわけで、メジロパーマーが本当に強いレースで1着。タケノベルベットは、最後の最後に目標だったナイスネイチャを交わして2着に飛び込みます。ナイスネイチャは結局、2着からクビ差の3着に敗れました」
駒木:「ナイスネイチャの負けっぷりも鮮やかだよね(笑)。今風に言えば鮮烈のジャスト・ブロンズ(笑)。こんな芸術的な3着はこれ以後見た事がないもの(笑)。馬券買ってた人にしてみれば『コノヤロー!』だろうけどね(苦笑)」
珠美:「杉本アナウンサーの実況も熱いですものね、このレース。メジロパーマーが再び先頭に立ったところでの『もう一度出た、出た、出た、また出たぞー!』という絶叫が印象的でした。
 ……では最後に、上位3頭の馬のその後について簡単に触れて頂けますか?」

駒木:「メジロパーマーについては以前の講義でも触れてるけれども、改めてお話しようか。
 この次に出走した天皇賞・春では、ライスシャワー・メジロマックイーンのマッチレースに最後まで食い込んでいって大健闘の3着。先に言ったように、阪神大賞典とその天皇賞がメジロパーマーの全盛期だったね。その後は再びスランプに陥ってしまうんだけど、翌年の日経新春杯で60.5kgを背負ってムッシュシェクル(後の阪神大賞典勝ち馬&天皇賞・春3着馬)の2着に逃げ粘って、往年の力の片鱗を見せつけた。ただ、このレースで脚を痛めてしまって、結果的にこれが引退レースになってしまった。現在は種牡馬として活動中だね。
 2着のタケノベルベットも、この後に天皇賞に挑戦して5番人気に推されるんだけど、残念ながら一流牡馬の壁は高くて、10着に惨敗してるよ。その天皇賞を最後に引退して、現在は繁殖牝馬だね。
 3着のナイスネイチャは、この後も芸術的なジリ脚でファンに複勝の的中馬券を供給し続けた(笑)。ワイドとか3連複がある今なら、もっと良かったんだけどね(笑)。
 この翌年の高松宮杯(当時)で1着になった時は、表彰式でG1並の騒ぎだったというから、人気の程が窺えるね。
 結局、(旧)9歳まで現役を続行した後、種牡馬入り。マイナーな存在だけど、地方競馬を中心に産駒を輩出していると聞いている。幸せな馬生を送っていると言えそうだね」
珠美:「……ハイ、ありがとうございました。来週もこの競馬学概論ですか?」
駒木:「うん、そのつもりでいるけどね。まぁ、それはまた追ってお知らせするということで。それでは講義を終わります。皆さん、珠美ちゃんご苦労様でした」
珠美:「ハイ、お疲れさまでした♪」

 


 

8月31日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”(16)」
1992年菊花賞/1着馬:ライスシャワー

珠美:「丸2ヶ月ぶりの競馬学概論ということになりますね、博士」
駒木:「あれ? そんなに間隔が開いてたんだ」。確かに、ここ最近はご無沙汰だったような気がしてたけど……」
珠美:「今月はずっと馬券学のお話でしたし、先月は特編カリキュラムで競馬学自体を実施してませんでしたし。
 ……えーと、6月29日の、宝塚記念に出走した3歳馬の特集以来になりますね」

駒木:「あー、思い出した! …そうそう、宝塚記念の予想をした時に、随分とトンチンカンな内容を喋っちゃったんだった。それで、懺悔企画ということで、宝塚記念に出走した3歳馬についての特集をやったんだよね。そうか、それ以来になるのかぁ」
珠美:「今日採り上げるレースは、博士には大変思い出深いレースとお聴きしていますけれども……?」
駒木:「そうなんだ。僕が一番好きだった馬がミホノブルボンでね。そのブルボンが唯一の敗戦を喫して、しかもシンボリルドルフ以来の3冠を阻止されたという、何とも辛いレースになるんだよね」
珠美:「…分かりました。その辺りも博士に後でお話していただきますね。
 それでは受講生の皆さんにはまず、このレースの出走表をご覧いただきましょう」

第53回菊花賞 京都・3000・芝

馬  名 騎 手
ヤマニンミラクル 河内
メイキングテシオ 大崎
サンキンタツマー 石橋
メイショウセントロ 上籠
ワカサファイヤー 小屋敷
グラールストーン 松永昌
ミホノブルボン 小島貞
ライスシャワー 的場
ランディーバーン 菅谷
10 マチカネタンホイザ 岡部
11 ヘヴンリーヴォイス 田面木
12 キョウエイボーガン 松永幹
13 ヤングライジン 佐藤哲
14 バンブーゲネシス 武豊
15 セキテイリュウオー 田中勝
16 スーパーソブリン 横山典
17 セントライトシチー 南井
18 ダイイチジョイフル 千田

駒木:「菊花賞っていうのは、上位陣以外の出走馬レヴェルは下がりがちなんだけど、この年は特にさびしいねぇ。G1常連と言えるのは、このレースの上位3頭ライスシャワー、ミホノブルボン、マチカネタンホイザ)と、後の天皇賞2着馬・セキテイリュウオーくらいだね。敢えて付け加えるなら、ダート路線で重賞を勝ったバンブーゲネシスは、今ならダートグレード競走でG1常連になっていたかも知れない。
 まぁ、言ってしまえばこのレースはミホノブルボンとライスシャワーのためだけにあったようなレースだね。それ以外の何物でも無い」
珠美:「……と、博士に決め打たれてしまいましたけど(苦笑)、一応ここで人気上位馬について、実績等を紹介させていただきます。菊花賞のレース概要については、3月2日付レジュメ(1994年菊花賞)をご覧下さいませ。
 まず、ダントツの1番人気に推されていたのがミホノブルボン。博士のフェイバリット・ホースですね(笑)。
 ミホノブルボンはここまでデビュー以来7戦7勝。その内5勝が重賞で、朝日杯3歳S(当時)、皐月賞、ダービーと3つのG1レースを制しています
 持ち味は卓越したスピードと、過酷な坂路調教に培われたスタミナを生かしたレースが持ち味で、ここまでのクラシック2冠は2レースとも見事な逃げ切り勝ちでした」

駒木:「ブルボンは逃げ馬なんだけど、決して『逃げないとお話にならない』ってタイプの馬じゃなかった。とにかくスピードの絶対値が違うんだよね。実際、デビュー戦は出遅れてからの追い込み勝ちだし。中京の1000m芝で、上がり3ハロン33秒0だったって言うんだから凄いよね」
珠美:「今で言う2歳馬が上がり33秒0ですか(苦笑)」 駒木:「上がりタイムのレコードだったらしいよ。だからこの馬の場合は、馬ナリで走らせてたらいつの間にかハナに立って逃げ切ってるって感じ。後でも話すけど、この馬の場合は下手にペース配分とか考えるよりも、好き勝手に走らせておいた方が良かったかも知れないね。
 それから、この馬を語る時に欠かせないのが、故・戸山為夫調教師のスパルタ式坂路調教。他の厩舎なら絶対にやらないし、他の馬なら間違いなく潰れていたような激しい調教を施されて、大分後天的な筋肉やスタミナを身につけたみたいだね。当時、ブルボンを担当していた調教助手さんが言ってたけど、『ブルボンにしてみたら、調教よりもレースの方が随分楽だったんじゃないか』って(苦笑)。皐月賞とダービーの間にも、危うくリタイア寸前の猛稽古をしていたって言うから徹底してるね」
珠美:「どうして戸山調教師は、ミホノブルボンにそこまでの猛稽古を施したんでしょうか?」
駒木:「ミホノブルボンというのは、血統的に見て、本質的には中距離もこなせる短距離馬って感じだったんだよね。少なくとも戸山調教師はそう考えていたみたい。
 で、そんな馬が2400mのダービーや3000mの菊花賞で勝つためには、とにかく調教でスタミナを養うしかないと考えたんだろう。生半可な調教で負けるよりも、激しい調教で玉砕した方がまだマシだって思っていたんだと思う。勿論、ブルボンが素質があって、尚かつとんでもなくタフな馬だという事を見抜いた上でのチャレンジだろうけどね。
 戸山調教師は、ブルボンが(旧)4歳になって以来、レースのたびに『これで負けたらブルボンは短距離路線へ向かう』と言っていた。チャンピオンでいながら、いつも崖っぷちで戦っていた。色々な意味で特異な馬だよね。ブルボンって」
珠美:「菊花賞ではダントツの1番人気でしたけど、この時は距離不安云々と騒がれたりはしなかったんですか?
駒木:「距離に関しては2000m皐月賞から『距離が保たない』って言われ続けてたからねぇ(苦笑)。菊花賞の時も一応、言われてはいたけど、散々言われてたダービーを4馬身千切って勝った時点で、“ブルボン距離不安説”のピークは過ぎていたと思う。そうじゃなきゃ、単勝1.5倍のオッズは出てこないよ。ナリタブライアンの時ほどじゃないけど、3冠馬達成濃厚…という感じだったんじゃないかな
珠美:「なるほど、分かりました。それでは次に行きます。2番人気のライスシャワーですね。
 ライスシャワーはこの年のダービー2着馬。秋シーズンには、セントライト記念と京都新聞杯に出走し、共に2着に終わっています。

駒木:「後のG1レース3勝馬も、この時はまだ一介の挑戦者に過ぎないポジションだったかな。
 まぁ、この馬が生粋のステイヤータイプだったと分かっている今なら『無理ないなぁ』と思えるんだけど、とにかくデビュー以来の成績が地味だったんだよね。
 新馬とオープン特別を僅差で押し切った他は、とにかく勝ち味が遅くてねぇ。スプリングSは4着、皐月賞とNHK杯は8着。だからダービーで16番人気だったのもうなずけるってもんだ。
 そのダービーで、熾烈な2着争いを制して、馬連導入後初のダービーで万馬券の立役者になったのが、この馬の出世のきっかけかな。
 それでも秋には当時はまだ条件馬に過ぎなかったレガシーワールドに競り負けたり、京都新聞杯でもブルボンに相手にされなかったりと、どうしてもブルボンとの格の差は否めなかった。菊花賞でも2番人気には推されていたけど、これは他の有力馬がリタイアした影響も強かったね。父リアルシャダイの血でどこまで立ち向かえるか…といったところだったんじゃないかな」
珠美:「3番人気がマチカネタンホイザです。朝日杯4着、ダービー4着という戦歴を経て、秋緒戦には古馬との混合オープン戦・カシオペアSを選択し、そこで2着しての菊花賞挑戦でした」
駒木:「後にナイスネイチャと並び称される“イマイチ君”になるんだけど(苦笑)、もうこの辺りからその片鱗は窺えるよね。この時点までの戦績で、皐月賞の7着を除いた他のレースでは掲示板を外していないんだけど、もうどうにもならないくらい勝ち味が遅かった。
 本来なら3番人気に推されるような戦績じゃないんだけど、ブルボン・ライスシャワー以外の皐月賞・ダービー上位馬が軒並みリタイアか大スランプだったからね。これも致し方なかったんじゃないかな。
 ただ、結果論にはなるけど、この馬は菊花賞の後、3000m以上のG3レースでは無類の強さを発揮したんだ。それを考えると、この3番人気は先物買いだったと言えるかもしれないね」
珠美:「4番人気がスーパーソブリン。主な戦績はセントライト記念の3着くらいしか残っていないんですが……」
駒木:「菊花賞が近付くと出てくる“血統表だけ見たらステイヤー”ってヤツだよ。『スタミナ血統だから3000mの菊花賞では善戦できるはず』とか書かれるタイプの馬。まぁこういうタイプの馬は間違いなくスピード不足でお話にならないんだけど、この時も見事にそうなったね」
珠美:「なるほど…。そして5番人気はヤマニンミラクルです。(旧)3歳時に大活躍した馬で、京成杯3歳S(当時)1着、朝日杯でミホノブルボンとのハナ差2着という成績が残っています。ただ、年が明けてからはスランプ気味で、秋2戦目になった京都新聞杯の3着が最も良い成績ということになります」
駒木:「これほどファンに迷惑かけた馬は無いね(笑)。特にトライアルレースで人気を背負っては惨敗するってパターンは、この頃の競馬を知ってる人間には非常に思い出深いんだよね(苦笑)。まぁ、僕はブルボン派だったから、自然とアンチ・ヤマニンミラクルになったんだけど。
 ……まぁ、私情は抜きにして、結局は早熟って事だったのかなぁ。朝日杯のハナ差も、この馬の善戦というよりは、ブルボンに乗ってた小島貞博騎手の作戦ミスだったというのが定説になっているし」
珠美:「…他に採り上げておかなくてはいけない馬はありますか?」
駒木:「そうだね、挙げるとするなら11番人気になっていたけど、神戸新聞杯を逃げ切りで勝ったキョウエイボーガンかな。京都新聞杯ではブルボンにハナを譲って惨敗してるんだけど、この菊花賞では『一生に一度のクラシックレースで、初めから負けるようなレースをするわけには行かない』ってことで、“逃げ宣言”をしていた。これがレースになって大きく運命を左右する事になる
珠美:「それでは、そのレース映像を観ながら、この菊花賞を振り返ることにしましょう。映像資料をお持ちの方、または入手できる環境にいらっしゃる方は、是非映像と合わせて受講下さいませ。
 ……まずスタートですが、宣言通りキョウエイボーガンが飛び出して、早々と大逃げを打つ格好になりました。ミホノブルボンは無理せず押えて2番手ですが、この時点ではハナを切っているのと同じような感じになっていますね。その後ろも大きく切れて、3番手にメイショウセントロ、さらに差が開いて4番手、5番手にマチカネタンホイザとライスシャワー。非常に縦長の隊列で1周目のホームストレッチを迎えました」

駒木:「キョウエイボーガンは、逃げは打ったけど自分が勝つよりもブルボンに迷惑を掛けない事を最優先にしたような逃げ方だったね(苦笑)。まぁ、この辺りは仕方なかったんじゃないかな。どんなレースをしたって勝ち目が薄かったのは誰の目にも明らかだったから。
 でも結局、いくら気を遣ってもブルボンのレースに綾をつけた事は間違いなかった。まぁそれが競走ってもんだし、仕方ないんだけどね。…珠美ちゃん、話を進めて」
珠美:「……ハイ。ホームストレッチで一旦、キョウエイボーガンとミホノブルボンの差が詰まるんですが、ミホノブルボンもスピードを抑えて2番手のまま。淡々としたペースですが、隊列は縦長で変化の無いまま、2周目3コーナーまで進行します」
駒木:「結果的にはここが勝負の分かれ目だったかな。馬ナリで逃げる事が当たり前だったブルボンが、このスローダウンで引っ掛かってしまったんだ。
 戸山調教師は亡くなるまでずっと、『1周目のホームストレッチでキョウエイボーガンを交わして、ペースを下げずにいれば逃げ切っていたはずだ』って言っていた。
 ただ、これは小島貞博騎手を責める事も出来ないんだよね。当時の長距離戦では、1000m〜2000mまでのラップはペースを下げるのがセオリーだったんだよ。そうしないとスタミナが最後まで保たないと思われていた。だからペースは落ちても、他の馬も差を詰めて来なかったんだ。
 小島貞博騎手もレース後ずっと悩んでた。『あの時、ペースを下げなかったらどうなっていただろうか』ってね。確かにセオリーを曲げるという事は、取り返しのつかない大チョンボに繋がる恐れもあるからねぇ。それをやっと栄冠を掴んだばかりの苦労人ジョッキーに求めるのは酷だったかもしれない。こういう仕事は田原成貴みたいな騎手がやる仕事だろうなぁ。事実、田原はマヤノトップガンに乗った天皇賞・春で、そのセオリーを破って大レコードタイムで優勝してるしね」
珠美:「博士は、もしこの時にミホノブルボンがペースを下げずにレースを進めていたら、勝てたと思われますか?
駒木:「十中八九はイケてたんじゃないかと思うよ。ライスシャワーに勝負所で脚を使わせて、直線前で貯金を貯め込んでいたら、何とか1馬身くらいは残ってたんじゃないかな、と思う。まぁこれはあくまで推論だけどね。
 でも、それも今だから言えることであってね。10年前じゃ無理だったろうなぁ。……じゃあ、話を進めて」
珠美:「ハイ。3コーナーの坂を登って下ったあたりで、後続の集団が一気に差を詰めて来ます。ミホノブルボンもスパートを開始して、直線入口では堂々先頭に立ちました。しかし、その後ろからライスシャワーとマチカネタンホイザも追撃を開始します」
駒木:「この時点でね、『あぁ、もうブルボンは危ない』と観念したよ。
 これまでのレースなら、ブルボンは後続の馬が手綱をしごいてムチが入ってから、悠然と仕掛けに入ってスパートをかけていたんだけど、この時は手応えが悪くなっていたのか、随分と早いスパート開始だった。ライスシャワーとの差も広がらないし、『もうヤバい』な、と」
珠美:「博士の言葉通りにレースはフィニッシュを迎えます。ライスシャワーが残り100mのあたりで単騎先頭に立ち、ミホノブルボンとマチカネタンホイザを振り払います。そしてそのまま、当時のレコードタイムとなる3分5秒0でゴール。第53代菊花賞馬となりました。
 ミホノブルボンは、一時は2着も危ないといった感じでしたが、何とかこれを死守。“準3冠馬”となって菊花賞を終えました」

駒木:「う〜ん、何度見ても悔しいなぁ、このゴールシーンは。
 悔しかったのはJRA関係者もそうだったみたいでね、レース後、誤って『ミホノブルボン3冠達成おめでとう!』っていうバルーンが揚がってしまったりしたらしい(笑)。色々考えてたんだろうなぁ……」
珠美:「なるほど…(苦笑)。それでは時間もありませんし、上位馬のその後について簡単に解説をお願いします」
駒木:「ミホノブルボンは、この後ジャパンカップに向けて調整をされていたんだけど、レース直前になって故障を発症してリタイア。この故障自体は大したものではなかったんだけど、この後に連鎖的に色々な故障が出て来てね。結局は1回も走れないまま引退、種牡馬入りになった。
 種牡馬になってからの活躍があまり聞かれないのは残念だね。多分、これはブルボンが後天的に鍛えられた馬だから遺伝だけで伝える能力には限界があるからだと思うんだけど。
 ライスシャワーは、ご存知の通り、この後2回天皇賞・春を勝って名ステイヤーの仲間入りを果たす。ブルボンやメジロマックイーンといった“善玉”キャラの馬の記録を阻止したってことで、随分“悪役”呼ばわりされていたけどね。
 中距離戦での不甲斐なさはアレだったけれども、長距離戦で勝ちパターンにハマった時の強かったこと、強かったこと。
 しかしこの馬、最後は“善玉”キャラになって、その直後に宝塚記念で故障を発症して安楽死処分になる。こう言っちゃナニだけど、最後まで悪役らしい悪役だったよね。いかにも悪役らしい消え方をした馬だった。
 マチカネタンホイザは、その後は一貫として善戦マンとして競走馬生活を送ってゆく。地味ながらもファンを抱えて幸せな競走生活を送ったんじゃないのかな。……まぁ、4着以下は大きく離されちゃったし、以上かな」
珠美:「ありがとうございました」
駒木:「珠美ちゃんもご苦労様。それでは、また来週の競馬学講座をお楽しみに」

 


 

8月24日(土) 競馬学特別講義
「目指せ回収率アップ! 馬券学基本講座(4・最終回)」

駒木:「2回の予定で始めたこのシリーズも、やっと今日で最終回だね」
珠美:「なんだか、夏休みの夏期講習みたいな感じになっちゃいましたね(笑)」
駒木:「まぁ、秋以降の本格的な競馬シーズンで、少しでも役に立ててもらえば……だね」
珠美:「そうですね。……あ、この2週間、この講義の冒頭でお伝えして来たサンデーサイレンスなんですが…。結局、残念なことになってしまいました…
駒木:「最後は安楽死じゃなくて、衰弱死って形だったみたいだね。でも眠るような最期だったとも聞くし、関係者が最後の最後まで諦めずに頑張ってくれたという証拠だと思いたいね。今は、とにかく日本を競馬の一流国に押し上げてくれた名馬の冥福を祈る事にしよう
珠美:「はい。関係者の皆さん、お疲れさまでした。私からもサンデーサイレンス号のご冥福をお祈り申し上げます──
駒木:「……さて、ここから馬券の話に持っていくのは、ちょっとギャップがある気がするけど、とにかく本題に移ろう。今日も話さなくちゃいけない事がたくさんあるしね」
珠美:「ハイ。それでは、今日は“穴党”──馬連で50倍以上の高配当をアグレッシブに狙いに行くような方のための馬券学基礎講座、そして最後に、馬券の買い方による賭け金の回収期待値についてのお話をしてみたいと思います」
駒木:「それじゃあ、“穴党”向け講座から始めようか。採り上げるテーマは、先週の最後に紹介した通りの3つだよ」

実戦編3:“穴党”向け実戦講座

 3−1:少数の勝ち組と多数の負け組──それが“穴党”の真実

珠美:「これなんですけど、ギャンブルにおいては当たり前のような話ではないんですか?」
駒木:「まぁ、そうなんだけどね。でも、それは仲間内の麻雀カジノのギャンブルみたいに、賭け金に対する胴元の取り分が、ゼロだったり極めて少ないギャンブルだけにあてはまるものでね。賭け金の25%以上がザックリと差し引かれる日本の競馬では、普通は勝ち組は出てこないんだよ。出て来るのは小負け組か、大負け組
珠美:「うー…、夢の無いお話ですねー(苦笑)」
駒木:「でも、条件付で例外なのが、この“穴党”と呼ばれる人たち。レースを絞って、明らかに間違った馬券の買い方をしなければ、確率は高くないんだけど、収支をプラスに持っていける可能性があるんだよ。だから、『回収率90%だろうと負けは負け。こちとら、金儲けるためにギャンブルしとんのじゃい!』って人は、“穴党”以外に生きる道は無いんだよね。
 ただし、これだけは忘れて欲しくないのは、“穴党”っていうのは、リスクがメチャクチャ高いという事。確かに勝ち組が存在する一方で、“本命党”や“中穴党”じゃ考えられないような低回収率の大負けをする可能性があるという事なんだ。これは、今日の講義の後半で、具体的な数字を挙げつつ述べていくので、どうか注目して欲しい。
 “穴党”の醍醐味は、あくまで“少ない投資で多くの利益”であって、負けてもシャレで収まる範囲でチャレンジするのが鉄則だからね。絶対に生活を脅かすような賭けをするのだけは止める事。日本の競馬みたいな、呆れるほど賭ける立場の分が悪いギャンブルで無茶して人生破綻なんて、本当に馬鹿馬鹿しいからね」
珠美:「……と、いう事ですので、どうぞよろしくお願いしますね」

 3−2:「○倍の馬券を当てた」事よりも、「賭け金を○倍に増やした」事に注目しよう!

駒木:「さぁ、ここからは具体的な話に移っていくんだけど、ただ、“穴馬の見つけ方はこうだ!”…みたいな話が出来ないのが辛いよね(苦笑)。…ていうか、それが分かってたら、僕はもっと楽な生活が出来てるはずだからねぇ……」
珠美:「そう言えばそうですよね(笑)。馬券の必勝法の本を書いたと言われる本がたくさんありますけど、よく考えたら本当の必勝法なんてどこにもありませんものね
駒木:「大体、大穴馬券に繋がるような穴馬っていうのは、普通、常識から考えたら実力が明らかに足りないような馬だからね。その実力差を覆す僅かな可能性があるような馬──例えば、ごく限られた条件に限って信じられないような好走をする馬──を見つけて、さらにその僅かな可能性が実現する事に賭ける。これが“穴党”のスタイルなわけだからね。
 そんなモノにマニュアルなんて作りようが無いし、もうこれは、自分なりのオリジナルな穴馬の見つけ方を追求してもらうしかない。僕が出来るのは、ほんの少しのお手伝いに過ぎないんだよねぇ」 
珠美
:「確かに、穴馬券の当て方なんて、説明できませんものね
駒木:「実力馬が凡走するケース…とかなら、いくらかは説明できるんだけどね。でも、その逆は難しいんだな。
 ……と、話が横道に逸れた。“『○倍の馬券を当てた』事よりも、『賭け金を○倍に増やした』事に注目しよう!”…というテーマに話を戻そう。
 これはね、よく“穴党”の人が陥りがちな事なんだけれども、万馬券、つまり100倍以上の配当のある馬券を的中させると、『とんでもない額を儲けた!』って感覚が先走っちゃって、本当はどれくらい儲けたのかって事が頭からすっ飛んじゃうんだよね(苦笑)。
 ほら、万馬券当てた人って、『150倍の馬券当てたぞー!』とは言うけど、『万馬券当てて、賭け金を30倍にしたぞー』とは普通言わないじゃない」
珠美:「あー、そういえば……」
駒木:「よほど腹の据わった“穴党”ギャンブラーじゃない限り、万馬券になる組み合わせを中心に馬券買ったりしないはずなんだよね。大体、30〜50倍くらいの馬券を多目の額で買って、万馬券は100円台の少額馬券で押えるって人が多いと思うんだよ。それか、ボックスや総流し馬券で“引っ掛かる”って感じ。
 …でね、“穴党”の人に多いと思われる買い方で説明すると、中心となる組み合わせを1000円で3点、それからちょっと当たる可能性の低いと思われる組み合わせを500円で2点、そして万馬券狙いで200円を3点。これで買った馬券の合計は…」
珠美:「4600円ですね」
駒木:「で、200円の馬券の内、150倍の馬券が当たったとする。払戻金の総額は?
珠美:「30000円…ですか」
駒木:「馬券自体は150倍だけど、儲けは賭け金総額の何倍になる?
珠美:「えーと、ちょっと待ってくださいね…(電卓を叩いて)、え? 約6.5倍ですか?」
駒木:「そう。大儲けしたようで、実はそれだけしか賭け金は増えてないんだよ。これじゃ、“中穴党”の人が3点均等買いで20倍の中穴馬券を当てるよりも分が悪くなっちゃうんだよね(苦笑)。
 これが例えば、150倍の馬券を500円買っていたとしよう。でも、それでも75000円にしかならない。確かに7万円以上儲けてるし、とんでもない大ホームランに見えるけど、4600円に大しての倍率は?」
珠美:「75000、割る、4600…と。…約16.3倍ですね」
駒木:「つまりは16レース分強の賭け金というわけだね。……こんなの、2〜3日馬券が全く当たらない日があったら、あっという間に溶けちゃうよ。中央競馬のスケジュールで言うと1週間か2週間だ」
珠美:「あらら…それじゃ、せっかく万馬券当てたのに、意味が無くなっちゃいますね」
駒木:「そうなんだ。“得した気分”は味わえるけど、得はしてないんだよね(苦笑)。で、気分だけが先行してて、気が付かないうちに負けが込んでいる。怖いんだ、こういうのが。
 さっき、『8点買いの押さえで150倍の万馬券的中』『3点均等買いで20倍的中』なら後者の方が上だって話したよね。で、この2つのケース、どっちが実現するのが簡単だと思う?
珠美:「えーと、3点で20倍の方がまだ簡単だと……」
駒木:「僕もそう思う。そんなに簡単に万馬券が当たるなら苦労しないよ。
 …つまり、万馬券当てても賭け金が10倍前後になるような買い方をしている人は、“気分だけの穴党”であって、本当の“穴党”じゃないって事なんだ。勝ち組に回れるような“穴党”になりたいのなら、賭け金がせめて30〜40倍になるような買い方をしなくちゃね。」
珠美:「でもそれって、大変そうですね…」
駒木:「大変だね(苦笑)。まぁ、そう簡単にギャンブルでは勝たせてもらえないって事だよね。
 これでもし、『そんなの出来ないよ。俺はチョイ負けで良いや』…って言うんなら、悪い事は言わない。今すぐ“中穴党”に鞍替えするべきだね」


 3−3: 『穴馬券は当てに行くな。儲けにいけ』

駒木:「……と、いうわけで、さっきのテーマからこう繋がって来るわけ。賭け金を何十倍にも増やそうと思ったら、何点も馬券を買ってちゃ間に合わない
珠美:「“穴党”の人も点数を絞っていかなくちゃいけないってことですか…」
駒木:「そういう事。だって、元々当たる方が珍しいから穴馬券になるんだよ。それを毎レース当てようとして、買い目を5点も10点も増やしていくのは、よく考えたら矛盾してるよね。
 だから、60倍位の馬券を2点買いとか、万馬券必至の軸馬から3点買いとか、そういう買い方が必要になって来るよね。1回当たったら、1ヶ月くらい的中が無くても大丈夫…みたいな買い方
珠美:「うわー、大変ですー(苦笑)」
駒木:「こういう時に馬単が役に立つ。『これだ!』っていう穴馬を頭(1着)に指定してしまえば、ヒモ(2着)はある程度上位人気の馬でもノルマは十分達成できるよ。その代わり、“ウラ”(1、2着が逆の馬券)なんか買っちゃいけないよ。そういう当てようってスケベ心が天敵なんだからね(苦笑)。勝ち組を目指す“穴党”の人は、とにかく人気薄を軸にして馬単勝負!
珠美:「それを考えると、馬単の導入というのは有り難いんですね」
駒木:「そうだね。“何週間かに1回、たまたま当たった時に儲かる”って事を前提に考えると、これほど効果的な馬券は無い。的中を第一に考えた時は、これほど厄介な馬券も無いんだけどね(笑)。
 まぁ本当なら、三連複とか、南関東公営で導入されてる三連単が一番お得ではあるんだけどさ。でもそれだと『半年に1度当たれば大儲け』になっちゃうからね(苦笑)。そんなに人間って気長な生き物じゃないと思うから」
珠美:「(苦笑)」
駒木:「まぁ、そういうわけで、“穴党”を選ぼうって人は、そういう覚悟を持って競馬に挑んで欲しい。“気分だけ穴党”っていうのは、儲からない割に賭け金がかさんで行くっていう、ギャンブルでは一番危ないパターンだからね。
 恐らく、『お馬で人生アウト』になる人は、馬券の基礎も知らないのに大金を突っ込む“本命党”か、この“気分だけ穴党”のどちらかだと思うんだ。これらのタイプの人が、お金に行き詰まって、これまで負けた分を取り戻そうとして、間違った賭け方のままで更に大金をぶち込むようになったら、もうオシマイ。後は自殺か犯罪者か……。
 そういう事にならないように、釘をさしておくね」
珠美:「ま、この講座で他人の意見を聴いてみようって思われた受講生の方たちなら安心だと思いますけど♪」
駒木:「ん、そうだね」

 

 実戦編4:確率論から見た多点数買いの危険と“本命党”の限界

駒木:「……というわけで、いよいよこのシリーズも最後の講義になるね。
 ここでは、これまでたびたび述べてきた、馬券の買い目を絞るの大切さや、“本命党”の回収率の限界、それから勝ちに行くためなら穴馬券がいかに大事か…という事について話してみようと思う。」
珠美:「えーと、まず『買い目を絞る』というのは、“本命党”にしろ“穴党”にしろ、2〜3点以内に留めておかないと、高い回収率は期待できないというお話でしたね」
駒木:「そう。馬連の4頭6点ボックスとか、5頭10点ボックスとかよく言われるけれども、回収率の観点から考えると、実はこんなのは問題外に近いんだよ。多くの人間から均等にお金をむしり取ろうとする、JRAの陰謀みたいなもんだよ(笑)」
珠美:「それから『“本命党”の限界』というのは、“本命党”の買い方だと、どうしても回収率は80%程度が限界になってしまうという事、そして『勝つためには穴馬券が大事』というのは、今の競馬のシステムでは極端な穴狙いが、黒字達成のための唯一の道筋、ということでしたね」
駒木:「そういうことだね。本命狙いに徹する限り、かなりレースを厳選して、正しい馬券の買い方を徹底しても、回収率は80%台がやっと。90%に乗るのはかなり難しい。穴馬券については今日の前半で述べた通りだね。
 ……で、これらの事は、ほとんどが確率統計の話で説明できる。数字が全てを物語ってくれるんだね」
珠美:「それでは早速、数字の話をお願いします。私も楽しみです」
駒木:「じゃあ、始めるよ。……まずね、日本の馬券のように、ほぼ一定の期待値──胴元(JRAなど)に収められる額を差し引いて、馬券を買う側に戻ってくる賭け金の割合──が決まっているギャンブルの場合、非常に長い目で見たら、収支は必ずこの期待値に収束されてゆく。日本の競馬で言えば75%弱だね。
 これを『大数の法則』と言って、1回ごと試行の結果を予想するのは困難だけど、充分な回数の試行がなされた場合、その総合的な結果は、完全に確率から予想できる…って事さ。ちょっと難しいかな?」
珠美:「えーと、ちょっと待ってください。それじゃあ、どんな買い方をしても、同じ事になっちゃいませんか? 何回も馬券を買えば、回収率は75%に近付いていくんでしょう?」
駒木:「まぁ、何十年、何百年とやってれば、あるいはそうなるかもしれない。でも、1年単位とか数年単位では、ちょっと話が違ってくるんだ
 難しい話は省略するけど、実はね、馬券の買い方によって、この『大数の法則』に支配されるまでのスピードが随分と違って来るんだよ。つまり誤魔化しが効くって事」
珠美:「誤魔化しですか(笑)」
駒木:「確率は本来、絶対的なものだからね。誤魔化すくらいしか為す術は無いんだよ。
 ……でね、『大数の法則』に一番支配されやすい馬券の買い方というのが、“的中確率を上げる替わりに、儲かる額を減らす買い方”なんだよ。要は、的中率の高い本命狙いに徹したり、的中率を上げるためにバンバン買い目を増やしていくという事
 ……ここで話が繋がったでしょ?」
珠美:「あー、なるほど。つまり、買い目を増やすな、本命ねらいは止めようっていうのは、『大数の法則』から逃れるための努力なんですね」
駒木:「そういうわけ。まぁ、それ以外にも理由はあるんだけど、とりあえずそれは置いておこう。
 ……例えば、珠美ちゃんとかだと、次に挙げるような馬券の買い方をよくしてるんじゃないかな? 本命馬券で賭け金を確保して、中穴馬券で儲けを狙う買い方

 本命〜中穴サイドの4頭の馬連ボックス買い
(100円×6点、計600円)

 6.0倍(100円)→当たれば600円(±0円)
 6.0倍(100円)→当たれば600円(±0円)
 7.4倍(100円)→当たれば740円(+140円)
14.8倍(100円)→当たれば1480円(+880円)
24.7倍(100円)→当たれば2470円(+1870円)
37.0倍(100円)→当たれば3700円(+3100円) 

珠美:「……あ、ありますねー」
駒木:「馬券の成績が酷く悪かった頃の僕の買い方と同じなんだけど(苦笑)。この買い方ってね、とても的中率が高そうに感じるんだよ。本命も中穴も押えているし、万全に思えちゃう。でもね、期待値をセオリー通り約75%と仮定した場合、的中率は45%にしかならない
珠美:「え?」
駒木:「しかも、詳しい計算式は省略するけど、馬券が当たった場合の平均配当は991円にしかならない。つまり、24倍とか37倍とかの馬券で儲けるつもりでいても、実のところは的中率45%で賭け金を約1.65倍にしようとしているに過ぎない。これじゃ、馬連じゃなくて複勝だ(苦笑)」
珠美:「えー! そんなに割に合わないんですか?」
駒木:「合わないねえ。もっとショッキングな数字を教えてあげようか? この“的中率45%